
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回はロボットのサイズについてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
「日本の巨大ロボット群像」が面白い!
福岡市美術館で11月12日まで開かれている「日本の巨大ロボット群像」を見てきました。一般的に、アニメ系の展覧会というと原画や設定、セル画という中間生成物(制作過程でできた絵)を見せることが多く、この展覧会もそういうものも置いてはあるんですが、今回の展示でほかと一番違うのは「我々が好きなアニメの中に出てきた巨大ロボットって何だろう」という形で、巨大ロボットという「概念」そのものがテーマになっていることです。展示は、『鉄人28号』から最近までのいろんなロボットアニメを取り上げて、どういうふうにロボットというモチーフが変化してきたかを表現していました。すごく新鮮な発見のある展示だったのですが、ポイントは大きさへのこだわりがすごいこと。「サイズ感」が大きなテーマになっていて、一番大きい展示室にはガンダムの設定書が18mサイズで床に描かれていました。
この絵で大きさがリアリティをもってわかるようになるんです。例えばその描かれたガンダムの腰のところには、最終回でここの非常スイッチを使ったなど、作中でそのパーツがどう使われたという説明もついていて、作中のシーンと照らし合わせてガンダムの大きさを実感できるようになっていました。ここは特に面白かったですね。
ガンダムのサイズが18m級なのに対し、『装甲騎兵ボトムズ』に出てくるスコープドックや『ルパン三世』に出てきたラムダ、『メガゾーン23』のガーランドなどは、それよりぐっと小さい4m級ですが、こちらも設定通りのサイズのパネルが展示されています。巨大ロボットの中では小型なこれらのロボですが、実際に見ると4mはやはり大きいなと思いましたね。また、ガーランドの方がスコープドックより頭が小さいから、身長的には大きく感じるなど、デザイン的にも非常に面白い発見がありました。
ロボットのサイズの移り変わり
さて、その巨大ロボットのサイズですが、もちろん設定があります。1970年代の作品では、作中で具体的な大きさまで言及することはあまりないのですが、子ども向けのテレビ雑誌にロボットのスペックを載せることがあるので、設定されているんです。例えば、マジンガーZは18mという設定です。ただこういう数字は、児童誌に載せるための数字なので、強さやかっこよさの“表現”として決まっているわけです。だから、数字はどんどんインフレしていきます。マジンガーZの後番組の『グレートマジンガー』は25m、『ゲッターロボ』も最初のゲッター1は32m、続編『ゲッターロボG』のゲッタードラゴンは50mとなります。
大きいことは強いことというわけです。こうして1976年のコン・バトラーVでは57mというサイズになります。ただこうしたサイズ感が、画面の中で意識して描かれているかというとそれは全くないんです。
それが1979年の『機動戦士ガンダム』ぐらいから、ある程度大きさを意識して描いた方がリアルになる、周囲の風景と絡んだときにもっともらしく見えるということが重視されます。
ちなみにガンダムがなぜ18mかというと、体格のいい青年男子の10倍の大きさ、180cmの人の10倍というイメージで決めたんです。
マジンガーZもおそらく似たような発想で18mなんだと思います。18mだとビル街とは絡めるんですが、人間と絡むには少し大きい。なので、『機動戦士ガンダム』の総監督である富野監督は、その後の作品で、ガンダムも含めもうひとまわり小型化したロボットを登場させるようになります。
大きさに設定としての意味がきちんと出てきたのは80年代以降。面白いのは、そこから逆に先祖返りした『エヴァンゲリオン』(1995年)があることです。エヴァンゲリオンには全長の設定がないんです。だから各カットごとに収まりのいいサイズで描いています。サイズ的に、大きいときもあれば、小さいときもあり、一番かっこいい絵で描くというやり方ですね。
こういう発想は別に『エヴァンゲリオン』に限った話ではなく、宮崎駿監督もそんなにサイズは厳密に気にしなくていいんだと言っています。『風の谷のナウシカ』の飛行機の設定を見ると、画面の中での収まりの良さの方を意識してくださいと書いてあります。
こんな風に、大きさを巡る数字のインフレの時代があり、ある程度リアルな時代があり、そして先祖返りする表現の時代があるといった感じでロボットのサイズはいろいろ変化してきたということです。