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全24話で放送された『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の本当の最終回は第22話だった!?


SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回はSeason2のテレビ放送が2023年7月2日に終了した『機動戦士ガンダム 水星の魔女』についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

全24話のうち、真の最終回は……

本日は『機動戦士ガンダム 水星の魔女』の本当の最終回は第22話だった!という話をしようと思います。なぜ第22話だったのかというと、主人公であるスレッタと、友人のミオリネのドラマがそこで実質的に終わるからです。あとの2話では、残った問題を解決するという形でした。Season2に入ってすれ違っていた2人の気持ちが第22話でついに1つになったというわけです。

スレッタは母の教えで「逃げたら1つ、進めば2つ手に入る」を守ってきましたが、Season2では進めば進むほど何もかも失ってしまいます。ミオリネもモビルスーツの“ガンダム・エアリアル”も失って失意の底に落ちてしまい引きこもってしまいますが、やる気を失ったスレッタを地球寮の仲間が救ってくれます。そこで自分の考えが変わって自らの選択で母の呪縛から抜け出すことになります。

実はスレッタが変わるプロセスは、児童文学などで描かれる子どもの発達段階を追いかけています。母との結びつきを象徴するエアリアルが移行対象(乳離れするときに母親代わりとなるアイテム)が離れることによって真の大人になっていくという流れです。

スレッタが変わっていく過程で、地球寮の友人のリリッケがいった何気ない一言が大きな役割を果たします。「何かなるわけじゃないけど進むしかないときがあるんだよ。一番いいやり方でなくてもそうすることしかできないことがある」と言うのですが、これを聞いていたスレッタの気持ちがぐるっと変わります。

一方ミオリネもそのとき、良かれと思ってしてきたことが全て間違っていたと思って落ち込んでいます。それに対して「正しくても間違っても自分がやったことは取り戻せない。でも何も手に入らなくても前に行くしかないんだ」とスレッタがミオリネに伝えると、ミオリネが復活して部屋から出てくる。この部屋から出てくるシーンがいいんですよね。足元をカメラで追いかけていて、歩き出したという感じの画になっています。自分でドアを開けて出てくる。もうここで2人の成長物語は完結しているといっていいでしょう。

キャラクターが教えてくれる“大切なこと”とは

彼女たちが行ったのは、間違ったことをしている(と思われた)親をぶちのめすのではなく、親がやってきたことが本当はどういうことだったかを理解すること。自分がその立場になってみると大変だったと感じること。

ミオリネも、親がしていた会社の社長というポジションに自分がついてみたら、思うようにいかないことがいっぱい出てきて落ち込み、自分でコントロールできないことでも自分の責任と感じてしまうという状態になります。でも、最終的にそれでもやるんだと乗り越えていくのが第22話です。

さっきお話した通り、だからドラマ的にはここが最終回なんですよ。あとはミオリネの父、デリング・レンブランが考えた世界を平和にする仕組み、それからスレッタの母、プロスペラが考えた娘を幸せする仕組み、2人の父性・母性の塊のような巨大システム「クワイエットゼロ」を破壊して、世界のコントロールをそれぞれのもとに戻すこと。なので僕は、第22話が実質的な最終回だと感じたわけです。

ちなみに最終回ミオリネのセリフで「進むだけしかできない。人の数だけ正しいものが、いつか必ず間違うんだ。それでもできることをする」というのがありました。

これはおそらく父・デリングのことも含んでいる内容です。彼は全面戦争を止めるために戦争をコントロールするシステムを作った。

そうしたら、地球よりも宇宙の方が豊かになり、経済格差が生まれてしまった。間違ったらそれは後から来るものが正してくれるんだから、自分は今できること、正しいと思ったことをやるしかないんだというところで着地しているのはすごく「ガンダム」らしいと感じます。

今のような理想の見えづらい世の中で、なお「ガンダム」のような理想を語るには、いい塩梅のラストだなと思いました。

(SBSラジオ 2023年7月24日放送)

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