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若い世代にも見てほしい!『アンネの日記』を映像化した名作アニメ


SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は放送日の6月12日が「アンネの日記の日」だったので、過去に何度かアニメ化もされている『アンネの日記』についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

日記文学として高い評価を得ている『アンネの日記』

『アンネの日記』というのは、ユダヤ系ドイツ人の少女アンネ・フランクが、ドイツ占領下のオランダ・アムステルダムの隠れ家で、架空の友だち「キティー」に宛てて2年ほど書き綴っていた日記のことです。隠れ家に入って少し経ってからの1942年の6月12日から書き始められたということで、アンネの日記の日となっているようです。

『アンネの日記』は、その当時迫害されていたユダヤ人の生活がわかるというだけではなく、女の子の多感な心の動きがすごく丁寧に書かれている本なので、一種の思春期文学という読まれ方もされています。

実は僕は長らく敬遠していたんですが、実際に本を手に取ってみたら、世の中の人がすごく刺激を受けるのがわかりました。文章が瑞々しく、観察眼が優れていて、思春期の揺れる気持ちが丁寧に書かれているんです。お母さんに怒るシーンや、同じ隠れ家にいる年上の男の子への恋心など、思春期文学、日記文学として優れた魅力がありますね。

新たな工夫を加えて作られる映像作品

『アンネの日記』は、過去に何回かアニメ化されています。最初は1970年代のテレビ特番。次は1995年、後に『サマーウォーズ』や『DEATH NOTE』などを手掛けるマッドハウス社が、永丘昭典監督でアニメ映画化しています。これもすごく丁寧に作られている作品です。

『アンネの日記』は、8月1日で終わっているんですが、それはその3日後に、隠れ家が見つかってアンネたちが連行されてしまうから。したがって『アンネの日記』を映像化するときには、連れていかれるところで物語を一旦切らざるをえない。その上で、そこから先の収容所での出来事をどう描くかというのがひとつのポイントとなります。

マッドハウスの『アンネの日記』は、映画冒頭で描かれたアムステルダムのなんてことはない綺麗な朝の風景の中に、連行されるアンネたちの姿を重ねることで、いつもと同じ美しい世界と、いまここで起きている非情な出来事をコントラストで見せるという形でラストシーンを作っています。そして最後に、アンネの日記の中の、架空の友だちキティーが現代の観客に呼びかけるモノローグで印象的に締めくくられます。

もうひとつが、2021年にフランスで公開された『アンネ・フランクと旅する日記』という作品。アンネ・フランク基金からアンネの最期までを描いてほしいというオーダーを受けて、『戦場でワルツを』のアリ・フォルマン監督が制作しました。

こちらの映画は『アンネの日記』のキティーが落雷のショックで現代に現れるという独特の設定。現在のアムステルダムで、キティーがアンネがどこにいるかを探し回り、最終的に強制収容所でどのような最期を迎えたかを知ることになります。

そして現代からの視点を設定したことにより、実際にアンネがいた強制収容所から生き延びた人の話を繋ぎ合わせる形で、アンネの最期までを、ギリシア神話のイメージを借りながら描きました。

またこの映画の特徴は、現代を舞台にしたことで、オランダに暮らす難民とキティーが仲良しになるというもうひとつのストーリーも盛り込んだ点にあります。

原題が『Where Is Anne Frank』、「アンネ・フランクはどこにいる」というタイトルなのですが、アンネが死んだのはナチスの政策の結果だけど、その時代、彼らユダヤ人は「見えない存在」として扱われていたわけです。現代社会でも、我々の知らないところで理不尽な目にあっていたり、迫害されている人ーーつまり「見えない存在」として扱われている人ーーがいるのではないかという、もっと広いテーマもそこには込められています。

絵もかわいいですしアニメーション的な面白さもある、現代の人が見ても入っていける切り口でテーマを掘り下げているので『アンネ・フランクと旅する日記』もぜひご覧いただけるといいのではないかと思います。

(2023年6月12日放送)

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