アニメに描かれた「月のリアルとSF」がスゴい!『∀ガンダム』『プラネテス』… 低重力と大気の“難題”に挑んだアニメ3選

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は放送日(10月6日)が中秋の名月だったことを受け、「月の特徴」をキーワードにお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

低重力の世界をどう描く?アニメに見る月の表現

まず、月といえば重力が小さいですよね。地球の6分の1しかありません。ただ、この「低重力」をちゃんと描写しているアニメが、実は意外と少ないんです。重力が違うと物の動き方が変わってしまうので、アニメでそこを描くと訳がわからなくなるんですよ。

ちなみに火星も地球の半分しか重力がないのですが、火星を舞台にした作品でもほとんどが、重力は1Gで描写しています。ハリウッド映画『オデッセイ』でも監督のリドリー・スコットがが「半分の重力を再現すると違和感が出るからやめた」と話していました。それほど、低重力の描写というのは難しいんです。

宇宙のリアリティを描いた『プラネテス』

そんな中で思い出すのが『プラネテス』(2003年)という作品です。宇宙空間のゴミ(デブリ)を回収する仕事をしている人たちが主人公ですが、アニメオリジナルのエピソードに第6話「月のムササビ」があります。

主人公・ハチマキたちは月のビジネス用アパートに泊まるのですが、その一角には怪しい人々が住んでいるんです。彼らは、いかにも外国人が誤解した忍者のような格好をしていて、低重力を応用した忍法というか軽業を楽しんでいるんです。

重力が低い月だからそういう変わったアクションができるのでは?というアイデアが脚本に取り入れられているんですね。そしてお話の中では、火事を消すときにその軽業が役に立つという展開になっていました。ただ、アニメだと大ジャンプをしても意外と普通に見えてしまうんですよね。そのあたりの再現は本当に難しいなと感じます。

ちなみに『プラネテス』の世界では、宇宙船の技術も今と同じくらいなので、主人公がいる地球近くの宇宙ステーションから月までは1週間ほどかかります。そのため、月へ行く途中のシャトルで起きた事件をちゃんと1話分使って描かれています。こういう宇宙の様々なリアリティをちゃんと描こうとしたのが、この作品の魅力のひとつかなと思います。

大気の代わりに“水の層”『∀ガンダム』

月のもう一つの特徴としては、重力が弱いため大気がないということです。つまり空気がないので、月から地球を見た写真は非常にクリアですよね。空気遠近法(遠くのものが青く霞んで見える現象)が起こらないんです。ですので、宇宙空間では遠近感がバグるとも言われています。さらに大気がないということは、太陽光線や宇宙からの放射線などがそのまま降り注ぐということでもあります。

この事実を上手く活かしていたのが『∀ガンダム』(1999年)です。月に住むというと、一般的にはドーム都市という形で、外側を構造物で覆って中に人が住むというイメージですが、『∀ガンダム』では少し工夫されていて、月に大きなトレンチ(溝)を掘り、その底の地下部分に人が住んでいます。

その上には「運河」と呼ばれる水が通る巨大なパイプがあり、魚も泳いでいます。大気の代わりにこの“水の層”が有害な放射線などを吸収してくれるという設定になっています。この辺りがSFの面白さですね。一般的なイメージのドーム都市とは違う独自のビジュアルを作り出しています。

主人公ロランは、その運河の清掃人であるということが、物語の後半、月が舞台となることで明らかになります。人が大気のない月でどうやって暮らすかというところに、独自のアイデアが凝らしてあるのが面白かったですね。

月の裏側からは地球を見られない…『FREEDOM』

もうひとつ紹介したいのが、2006年からOVAで展開されていた『FREEDOM』という作品です。キャラクターとメカデザインは大友克洋さんですが、若手のメインスタッフが、大友作品をリスペクトしており、随所にオマージュを捧げた作品でした。

監督はYAMATOWORKSの森田修平さん(『機動戦士ガンダム ククルス・ドアンの島』のモビルスーツ戦のCGを担当した方)で、手描き風のキャラクターを動かすのが2000年代初頭から得意とされていた方です。

『FREEDOM』の舞台は23世紀。人類の住処は、月の裏側にある共和国EDENです。月は自転と公転の周期が同じなので、裏側からは地球を見ることができません。EDENの人々は科学技術の研究の自由もなく、地球への渡航の自由もありません。地球は文明が崩壊して汚染され、人の住めない場所だと教えられて育ちます。

ところが主人公タケルは、ある日、月の表側に足を踏み入れてしまい、汚染されているはずの地球が青いことを知ります。さらに地球にいる少女の写真を見つけてしまいます。主人公は地球に人がいるなら会いに行きたいと仲間と共に月を脱出し、地球を目指すのですが、果たして地球でその少女に会えるのか…という話です。月の裏側からは地球を見られないというのが、月ならではのアイデアのひとつとして生かされていますね。

こうして見てみると、月というのは重力・大気・光といった基本的な特徴がよくわかっている衛星なので、アニメのネタとしていろいろなところで使われているのかなと思います。

SBSラジオTOROアニメーション総研(毎週月曜日19:00~20:30 生放送・毎週日曜日15:00~16:30 再放送)全国のアニメ好きが集まるラジオの社交場。ニッポンのアニメ文化・経済をキュレーションするラジオ番組。番組公式X(旧Twitter) もぜひチェックを!

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