国際政治の専門家がガンダムを分析!アニメに描かれる「戦争」のリアルとフィクション

SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は防衛省の防衛研究所・防衛政策研究室長を務める高橋杉雄さんの著書『SFアニメと戦争』についてお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん

SFアニメに登場する戦争の描かれ方とは

『SFアニメと戦争』は、ひとことで言うと、国際政治の専門家である高橋さんが「国際政治」の観点を軸にSFアニメに描かれてきた戦争について語る本です。もちろん高橋さん自身がアニメ好きで、特にSF系の作品を多くご覧になっている上での分析、というのがポイントです。

この本の第2章は「国際政治学から見たSFアニメの戦争」という内容になっています。そこでまず書かれているのが、SFアニメに登場する戦争は多くの場合「舞台装置としての戦争」であり、国際政治学の視点から見るとそこにギャップがある、という指摘です。

最も大きな点は「政治的意思決定の希薄化」です。たとえばガンダムでは、地球連邦とジオンが戦争をしていますが、本来なら兵隊を動かす前に政治レベルでの意思決定が必要です。戦争下でも外交交渉はあるはずですから、交渉を重ねつつ、一方で戦闘行動を選択する、という判断が都度あるわけですよね。でもそれは、アニメ作品としては必要なことじゃないから、そういう部分は希薄化しているか、省略されているという指摘なんですね。

最初の『機動戦士ガンダム』ではアムロたちという小さな部隊の個人の視点にフォーカスしていたのでいいのですが、後のシリーズで作品の扱うスケールが大きくなってくると、意思決定プロセスがあまり描かれないことが、表現上の齟齬にもなってきます。

実際、台詞から、地球連邦には首相がいるらしいということはわかっても、その首相は作中に登場しません。『機動戦士ガンダムUC』の第1話冒頭、ユニバーサルセンチュリーを宣言するシーンで例外的に登場した例はありますが、それもごく短い場面です。同書では、これを欠点として指摘するわけではなく、戦争を舞台装置として描いているからそうなる、という解説がされているわけです。現実には国家が行動を起こすには意思決定のプロセスが必須ですね。

その視点からすると、『太陽の牙ダグラム』(1981年)では政治的意思決定がきちんと描かれていると高橋さんは指摘していて、僕もその通りだなと思いました。『ダグラム』は植民惑星デロイアの地球連邦に対する独立戦争を描いた作品です。主人公のクリン・カシムは地球人ですがデロイアの独立運動に参加していて、父親のドナン・カシムは地球連邦評議会の議長。実質的に地球の最高権力者です。周囲には政治を動かす人々が多く登場し、独立派や過激派、穏健派までさまざまな勢力が存在します。

物語の終盤では穏健派が和平を模索するものの、主人公たちは納得しません。なぜなら地球連邦協議会の意向を受けた弁務官が骨抜きの独立プランを作り、穏健派を説得していたからです。このような政治的な駆け引きが描かれる作品はが非常に珍しいんですね。戦闘だけでなく、戦場外で決まることが多いのだときちんと表現されています。

さらに高橋さんは、リチャード・ハースの著書、2009年刊行の『War of Necessity, War of Choice : A Memoir of Two Iraq Wars 湾岸戦争とイラク戦争:回想録』を引用しています。湾岸戦争(1991年)はイラクのクウェート侵攻に対して多国籍軍が動いた「必要による戦争」である一方、イラク戦争(2003年)は大量破壊兵器の開発疑惑に基づく、やらない選択肢もあったのに行った「選択による戦争」と書かれています。

ここで『銀河英雄伝説』の話が出てきます。『銀河英雄伝説』では銀河帝国と自由惑星同盟が戦争をしており、両国間の通路であるイゼルローン回廊には銀河帝国のイゼルローン要塞があります。自由惑星同名は、主人公の一人であるヤンの機転によってこの要塞の奪取に成功します。ここで戦争終結の可能性があったというのに、同盟はさらなる勝利求め帝国内へ進攻してしまいます。

高橋さんは、自由惑星同盟がイゼルローン要塞を取るのは「必要性のあるに戦争」だったけれども、そこから先は「選択による戦争」だった、それがかえって失敗を招く原因になったと指摘しています。このように、アニメに出てくる政治的シーンも、現実世界では力の駆け引きや交渉があるなど、我々が見過ごしているところを指摘してくれて面白いです。

ちなみに『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』に出てくるアデナウアー・パラヤは参謀次官となっていますが、現実にはその役職は存在しないのだそうです。参謀本部についているなら軍人ですが、アデナウアーの描かれ方は完全に政治家。アニメで描かれているのはあくまでも「もっともらしい世界」であって現実ではないので、専門家の目線ではこの人の立場はいったい何? となることもあるわけです。

そんな感じで、高橋さんの『SFアニメと戦争』は国際政治を意識する入口であり、アニメをより解像度高く楽しむための一冊といえると思います。

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