昨夏の甲子園で初戦を突破した際は濃紺の帽子を掲げた

左が新しい夏用の帽子。「ツバ」は汚れが目立たないよう紺色とした
対策講じても「危険」
大石監督が強い危機感を感じたのは2年前の夏。初戦でエースが脚にけいれんを起こして途中降板した。県内でいち早く、日本スポーツ協会が推奨する「アイススラリー」と呼ばれるシャーベット状に凍らせたドリンクを試合中に摂取させるなど、熱中症対策を講じてきたつもりだった。「あれだけ対策していても、初戦の緊張や公式戦独特の雰囲気の中だと危険なんだと感じました」「あの広陵が…」
昨夏、出場した全国高校野球選手権(甲子園)では朝夕2部制を導入するなど運営側の配慮を感じた。大石監督は「運営側だけでなく、自チームでも何か選手にプラスになることはできないか」と考えた。1901年に開校、創部した掛川西は長い歴史と伝統を誇る。ユニホームや帽子にも歴代OBの思い入れがある。同校OBでもある大石監督も伝統の重みは十分に承知している。関係者が受け入れてくれるかどうか、不安はあった。「現場サイドが提案したら反対はされないと思うけれど、寂しい思いをする人もいると思う」
一歩を踏み出すきっかけになったのが、昨夏の甲子園で見た広陵(広島)ナインの姿だった。
甲子園で見慣れたチームの帽子、アンダーシャツが黒から白に変わっていたのだ。「あの(伝統校の)広陵さんが、先陣を切るんだ、とびっくりしたんですよ」
OB、保護者も理解
掛川西高野球部OB会の太田修二会長は「(OBの)個人の思いはいろいろあるけれど、子どもが熱中症になってからでは遅い。我々どうこうじゃなく、現場を預かっている人が決めること」と理解を示した。金銭的負担もあることから、保護者にも相談した。白地の帽子の着用は猛暑が続く夏の間のみ。残暑が落ち着く秋には紺地の帽子に戻すという。疲労感、集中力に影響
新しい白の帽子を披露する掛川西の鈴木主将(左)と従来の濃紺の帽子をかぶる西村副将
昨夏もスタメン出場した鈴木主将は、「夏はしっかり栄養と睡眠を取り、水分補給が大事」と日々の体調管理に注意を払っている。新しい帽子も「夏を戦う上で少しでもプレー中の疲労感を減らせるメリットは大きい」と歓迎する。
捕手の佐藤駿斗選手は届いたばかりの白色のヘルメットをかぶり、練習試合に臨んだ。「汗の量が減った気がする。捕手のサイン一つが試合を左右する。汗は集中力が途切れるので、少しでもそれが軽減されるなら」と効果に期待した。

届いたばかりの白のヘルメットをかぶる佐藤捕手
昨夏、26年ぶり6度目の頂点に立った掛川西。6月29日の静岡大会開会式では、新しい、白色の帽子をかぶったナインが前年優勝校として全チームの先陣を切って入場行進する。(編集局ニュースセンター・結城啓子)
【取材後記】
静岡新聞の過去の紙面をさかのぼると、「6月からグラウンドコートを着て走り込むなど暑さ対策に余念はない」などの文言があります。暑熱順化策として、こうした取り組みは珍しくありませんでしたが、ここ数年で状況は一変しました。
暑さは年々厳しくなり、今年は梅雨明け前から連日、猛暑日を記録していて大会、チーム関係者も対応を迫られています。掛川西では試合中だけでなく、練習中もバッティングやランニングメニューの際は、練習着にこだわらず、風通しのいい短パン、Tシャツを採用するなどの工夫を今後も取り入れる予定だそうです。白いスパイクが解禁と同時に全国に浸透していったように、白い帽子、ヘルメットも今後広まっていくかもしれません。