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【元刑事・渡邉晃人さん】落語の笑いで防げ、特殊詐欺。活動の原動力は「義理と人情」

約14億円以上。静岡県内の2024年1月から12月中旬までの特殊詐欺被害金額だ。特殊詐欺は年々手口が巧妙化。特殊詐欺被害を防止しようと、静岡県警を定年退職した渡邉晃人さん(静岡市清水区)は防犯落語家として活躍している。※被害金額は静岡県警発表の特殊詐欺・投資ロマンス詐欺事件速報の金額を参考。

渡邉さんの警察の経歴は清水駅前交番の勤務から始まった。県警退職後は防犯落語の他、(一社)日本刑事技術協会に所属し講演活動を行っている。学生向けの「薬学講座」にも力を入れ、闇バイト・SNS・薬物乱用の恐ろしさを訴えている
 

防犯落語は振り込め詐欺防止のための創作落語。渡邉晃人さんが活動を始めたのは5年前。在職中、県警OBに防犯落語の依頼を受け、自身が退職後に行うことを約束した。披露する噺は「長屋のオレオレ」。江戸時代の長屋を舞台に、詐欺被害を住人に注意していた大家が孫を語る電話に騙されそうになる物語だ。寄席では観客に「詐欺は朝刊で被害記事を読んだ人が昼に騙されることがある」と注意喚起をする。芸名の「にか奴亭三助」は刑事二課に由来。警察時代は主に暴力団、汚職、薬物、詐欺事件を扱う刑事畑を歩んできた。

高校で出会った落語

渡邉さんは富士市出身。中学生の時は喧嘩早く勉強が嫌いだった。中学2年生の時に父親が経営していた会社が倒産。家計に余裕がなく学費が安い公立高校に進学しなければならなかった。受験勉強に励み、無事に静岡県立富士宮北高校に合格した。

高校ではあり余るパワーをぶつけたいと思い、ボクシング部かラグビー部への入部を希望。だが、どちらの部活も高校にはなかった。

「不貞腐れていたら上級生に『ちょっと面貸しな』って呼び出されてね。ついていった先が落語研究部の部室。そのまま入部が決定しました」。

部活では人前で話すことに慣れるために下校する生徒に向かって童謡を歌った。「人前で話す羞恥心が無くなり、この時の経験が警察での職務質問や取り調べに役立ちました。無駄なことってないんですね」

義理と人情 母親の手作り弁当に感謝

12月2日に妙音寺自治会館(静岡市清水区村松)で防犯落語を披露した時の様子
 

人生で大事にしているのは「義理、人情」と話す渡邉さん。高校生の時に不良に絡まれ喧嘩をしそうになったことがあった。しかし母親の顔が浮かび、ぐっとこらえたという。「母は家計を助けるためにスナックを開き、深夜まで働いていました。毎朝、早く起きて作ってくれた豪華な弁当は自慢でした。母には迷惑をかけたくなかった」。

就職は親に喜ばれる仕事をしようと思い警察官の道に進んだ。「自分は親の愛情のお陰で真っ当な道に行けました」

県警時代も上司の愛情に助けられ、仕事で挑戦できたと振り返る。「無事に定年退職し、現職の人やお世話になった人に恩返しをしたい。これが防犯落語を続ける理由です」

渡邉さんの落語に登場する長屋の住人は優しく、どこか憎めない。渡邉さんの元刑事の貫禄の中に見え隠れする優しさと重なった。

特殊詐欺被害を防ぐために

渡邉さんに詐欺被害に遭わないための対策を聞いた。今回は2つの対策を紹介する。

電話を一度切り、家族や警察に相談!

自分一人で判断せず、一度電話を切ること。詐欺師は「守秘義務がある」など難しい言葉を言って相談を防ごうとしますが、電話を切り家族や警察に相談をしましょう。

警察官を語る電話詐欺の場合

所属、担当部署、氏名、内線番号を聞いて電話を切る。警察署に連絡し事実かどうか問合せをしましょう。

※12月22日発行の紙面を編集して掲載しています。

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