【「ブルターニュの光と風」展】崖だらけ!?額縁もすごい!?ちょっと変わった切り口で楽しみ方を解説

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「ブルターニュの光と風展」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2023年9月27日放送)
 
 (山田)今日は、静岡市美術館で10月22日まで開催中の「カンペール美術館所蔵 ブルターニュの光と風 フランス神秘と伝統の地へ」という展覧会についてですね。

(橋爪)元々、私はヨーロッパの風景画が好きなんですよ。私だけじゃなくて、静岡の人は割と風景が好きな人が多いんじゃないかなと思っていまして。静岡県立美術館の作品の収集方針の中に、「東西の風景画」っていうのが入っていて、開館時からずっと力を入れて集めてるんですよ。

(山田)自然と、静岡の人は見ているんだ。

(橋爪)だから、風景画が好きなはず。静岡市美術館はまだ開館して10年ちょっとですけども、そんな人に応える展覧会を毎年必ず一つは開いています。去年はスイスのプチパリ美術館展、一昨年はランス美術館コレクションということで、非常に楽しめました。今年、その分野に当たるのがこの「ブルターニュの光と風」展で、印象的な風景画が盛りだくさんです。

ブルターニュはフランスの北西部の割と田舎の地域で、ケルト民族によって培われたエリア。自然景観や人々の服装、文化などがパリの人にとっては一種独特のもので、ずっと画題にされてきました。

(山田)僕、ブルターニュというと焼き菓子くらいしか知らないんですけども、どんな展覧会なんでしょうか?

(橋爪)ブルターニュ地方にあるカンペール美術館の収蔵品を中心に、45作家約70点を展示した展覧会なんですね。その地方の自然景観とか文化とかそういったものをモチーフにして、パリの画家たちが描いているところが面白いんですけども、そうした話はパンフレットなどにいっぱい書いてあるので、それを読めばいいと思います。今回は、別の切り口として、私が面白いと思っている感覚で話をさせていただこうかなと思ってます。

崖の絵だらけ…もはや「崖展」!?

(橋爪)見どころは3つあります。1つは、この展覧会って、あっちもこっちも崖だらけ、「崖展」です。ブルターニュっていう地域は、海に面していて、地形的に複雑で海に突き出した崖っていうのが多いんです。ブルターニュにやってきたパリ周辺の方々は、そこにすごく興味を惹かれたんでしょうね。

(山田)今、図録見てますけども、ほぼ崖ですね。

(橋爪)ゴツゴツした岩に波が打ち寄せるというのは、描いてても動きが出るじゃないですか。だから画家が不自然な作為をしなくても、自然に画面に動きが出るっていう効果はあるのかなと。

(山田)描きがいがあるんでしょうね。

(橋爪)崖を描いているっていう1点で絞ると、作家の個性がそこで結構際立つんですね。

(山田)波を荒々しく描いたり、少し落ち着いたところをメインに書いてたりとかね。

(橋爪)この作家はこういう人だろうなっていうのが、崖の絵1つからも感じることができるということです。

私がノミネートした崖の絵は10個あるんですが、もう「キングオブ崖」、いっちゃいます。テオドール・ギュダンさんの「ベル=イル沿岸の暴風雨」という作品で、これは入ってすぐの、写真OKの非常に目立つところに展示されてます。

20mぐらい崖の高さがあると思うんですけど、そこに激しく波が打ちつけていて、下の方の岩陰にカモメが避難してるようなところも描かれているんですね。上空からは強い光が差し込んでいて、岸壁が日差しを受けて光っているような絵です。荒れた海とその光の強さのコントラストがすごく面白いと思います。

(山田)めちゃくちゃ荒れてますよね、海は。

(橋爪)けど怖い海じゃなくて、何か優しさすら感じる。沖合に小さく見える船は大丈夫かなって思ったりね。この辺は荒れてるんだけど、向こうは穏やかみたいな、ちょっとした安心感もあります。

自然の脅威、例えば「1分後には何が起こるかわからない」というようなことを、19世紀の画家が表現するとしたらこんなふうになったのかなって、ちょっと想像させるんですよ。なので「キングオブ崖」は、ギュダンさん。

(山田)行く方はぜひチェックしてみてください。

天気の悪い風景の絵が魅力的


(山田)2番目の見どころをお願いします。

(橋爪)この展覧会は、風景が結構多いんですが、天気の悪い絵が魅力的。

(山田)確かにこうやってペラペラめくっても、晴天じゃないですね。

(橋爪)晴天の絵も一部あるんですが、雲が多くて、青空にはならない。全体的にそこがいいんですよ。青空だとドラマが起きそうな感じがしないじゃないですか。空が濁ってると、その下で何か起こりそうな気がしません?

(山田)なんかちょっと気持ちも暗くなって。

(橋爪)展覧会の中に「バンド・ノワール」、つまり黒い一団っていう画家集団の作品があって。これが、暗くて、なかなかいいんですよ。
おそらくマネとかモネとか印象派の画家に対するアンチテーゼ集団なんです。「絶対関わらないぞ」っていう意志が見てとれていいんです。中心人物がシャルル・コッテさんで、この人の「嵐から逃げる漁師たち」と「海」という作品があるんですけれども、どちらもグレーを基調にした雲が空いっぱい広がっててもう禍々しい。最高ですね(笑)。

「キンブオブ曇り空」は、ジャン・ジュリアン・ルモルダンさんの「逆風」っていう作品です。この方は、このカンペール美術館の近所の人なんですよ。

お祭りからの帰り道らしいんですが、ピンクや青のスカート履いた女性、タキシードを着た男性が、波打ち際のところを集団で歩いてこっちに向かってくるっていうような絵です。

(山田)不思議な絵ですね。

(橋爪)みんな顔が暗いでしょ。お祭りっていう話なんだけど、なんだ、この表情のなさは?みたいな。顔と空が暗くて、雲もちょっとピンクがかっててちょっと禍々しいし、もっと言うと左の方から手前にかけて何かシューって吹き出してる感じで、雨みたいな感じもするじゃないですか。

(山田)決して、明るい絵じゃない。

存在感ある額縁にも注目!


(橋爪)最後は、この展覧会は絵がいっぱい飾ってありますけれども、「絵を見てる場合じゃない、額縁を見て」という話です。額縁が凝ってて、ものすごいんですよ。

入ってすぐのところに大きい作品が3つ並んでます。そのうちの1つ、横が2m超ある作品が、アルフレッド・ギユの「さらば!」です。船が難破して海に放り出されて、父と子供が絶望的な感じになっているっていう悲劇的な絵なんですが。この額縁が、すごい存在感です。

(山田)これはブルターニュの方の美術館から持ってきてるんですか。

(橋爪)そうです。これ、金色なんですよね。この先もう絶望的で、荒波に放り出されてしまった親子の絵、だけど額縁がすごい。植物の葉っぱと実が絡まったような装飾の華麗な額縁なんですよ。

月桂樹と思われる葉が柱状のものに巻き付いていて、所々リボンを結んであり、それ自体彫刻作品みたいに見えるんですよね。一定の規則性もあるし、これだけ見てても面白いなっていうのが1つあります。

それからテオフィル ・デロールさんの「鯖漁」って大きめの作品ですが、こちらはちょっと幾何学的なデザインの額縁なんですよ。筆記体のLのような形の間に、イチョウのような葉っぱとツリガネソウのような花が1個おきに入っているんですよ。すごくかわいい感じの仕上がりになっていて、なんでこういうふうになってんのかなってちょっといろいろ考えさせられます。

(山田)そんな変わった額縁があるんですか。

(橋爪)ポール・ゴーギャンの「2人の音楽家」という作品の額縁もまたおしゃれで、おそらく陶器なんですよ。今回特に(すごい額縁が)勢ぞろいしてる感じがする。どうしても目がいってしまうという。

(山田)そこも見て一緒に楽しむのがおすすめということですね。橋爪流のように、ベストオブ曇り空とか、ベストオブ崖とかをご自身で決めて見てもいいかもしれません。今日の勉強はこれでおしまい!

SBSラジオで月〜木曜日、13:00〜16:00で生放送中。「静岡生まれ・静岡育ち・静岡在住」生粋の静岡人・山田門努があなたに“新しい午後の夜明け=ゴゴボラケ”をお届けします。“今知っておくべき静岡トピックス”を学ぶコーナー「3時のドリル」は毎回午後3時から。番組公式X(旧Twitter)もチェック!

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