LIFEライフ

SBSラジオ ゴゴボラケ

【障害者とアートの関わり】アート作品に障害の有無は関係ない! 文化芸術と福祉の垣根は低くなってきている

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「障害者とアートの関わり」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2023年11月1日放送)

(橋爪)今日は静岡市駿河区の県立美術館県民ギャラリーで11月5日まで開かれている障害者アートフェアの招待作家展を糸口に、ここ5年で大きく変わった障害者とアートの関わりについてお話します。

同展覧会は、滋賀県甲賀市の福祉施設「やまなみ工房」の利用者11人をはじめ、障害のあるアーティストの作品を展示しています。「君こそスターだ!時代を彩る表現者たち」という副題が付けられていて、国内外の美術館やアートフェアに出品されるなど高い評価を受けた作品が集まっています。

(山田)この番組のディレクターが鑑賞に行き、興味深かったと写真も見せてくれました。

(橋爪)さきほどディレクターと話したんですが、それぞれに好きな作品が違ったので、それがまた面白いなと思います。

(山田)バラエティーに富んでるというか、いろいろな作品があるんですね。今日は障害者アートという視点について解説をお願いします。

注目される「君こそスターだ!」展

(橋爪)今回の障害者アートフェアは、第25回静岡県障害者芸術祭のコンテンツの一つに
位置づけられています。障害者芸術祭は県が主催し、毎年秋から冬にかけて東部、中部、西部の3会場で行われています。今年の中部会場は東アジア文化都市の記念事業の一つにもなっています。「君こそスターだ!」展は、そのスペシャルプログラムです。

やまなみ工房は、1990年代から知的障害者や精神障害者、身体障害者の方々が施設内で行うアート活動を積極的に後押ししています。国内外で評価が高く、世界中の美術コレクターからも注目を集めているそうです。

(山田)やまなみ工房自体は、障害者の皆さんが通いながらさまざまな生活を送る福祉施設ですよね。

(橋爪)そうです。同展の企画者は「やまなみ工房は今や世界ナンバーワンのアトリエとして、次から次へとスターが出てきている状態だ」とおっしゃっています。展覧会を観ても確かにそう感じられます。

(山田)どのような作品があったんでしょうか?

(橋爪)障害がある方が作ったかどうかということを抜きにしても、観ていて面白い作品が揃っています。

個人的に心に残った作品を3つほど挙げたいと思います。1つ目は田村拓也さんの作品。31歳なんですが、四角形を描いてマーカーでカラフルな色を塗るんですよ。そのカラフルな色の四角形を連ねて、人物を描く。どのマスも違う色なんですけど、全体としては人物の形になっていて、ぱっと観たときに色彩的に非常に美しいです。

(山田)へえー。

(橋爪)マーカーで塗っているので、上から下にこう塗ってるなということも分かります。やってらっしゃることは本当に単純なことなんですけど、色彩の感覚というのが素晴らしいです。

2人目は、61歳になる小林一緒さんの作品です。40代で歩行困難な状態になられたそうですが、自分が食べた料理や弁当をイラスト化してずらりと展示しています。これまでに数千枚描いているんですが、今回の展覧会ではその一部を展示しています。いずれも真上から見下ろした俯瞰図になっています。

統一的な作風や手法が見て取れて、タッチはすごい懐かしい感じがします。ですが、
料理のディテールは非常に細かくて雰囲気が伝わってきます。例えばとんかつや魚の切り身の切り口をあえてこちら側に向けている。自分としてはこういう絵を描きたいんだという気持ちが伝わってきます。

(山田)食事の絵日記みたいな感じですか。

(橋爪)そうですね。感想なども書いてあったりして食事絵日記みたいなところもあります。

約束事から解放されたアートの衝撃

(橋爪)最も目立っていたのが酒井美穂子さんの作品でした。今年で44歳になられるんですけど、17歳から「サッポロ一番しょうゆ味」の袋麺をずっと握っているそうです。朝から寝るまで常に持っていて、親指で感触を楽しんでるとのことで。

(山田)ボコボコした感じですね。

(橋爪)やまなみ工房では、この行為自体を表現として捉えました。触り終わった袋麺を保管しておくことにし、そこに日付を書いた付箋を貼るんですね。8000個ぐらいあるらしいですが、今回はその中の360個を縦15個、横24個にして並べているんですよ。ただの袋麺なんですけど、全体で見るとポップアートみたいです。

(山田)いや、すごいですね。

(橋爪)本人は全くアート作品を作ってるという意図はないんですが、この行為を表現として見るというところが、やまなみ工房という施設のスタンスを表してるなと思いました。

(山田)作家のプロフィールも添えられているんですか。

(橋爪)書いてある場合と書いていない場合があります。作家がどういう障害を持っているのかということを頭の中に入れずに鑑賞したほうがいいですね。作品それぞれに独立した驚きや美しさ、喜びのようなものが感じられるので、そこを観た方がいい。

(山田)行ってみたくなりましたね。

(橋爪)皆さん美術教育を受けた方じゃないんので、「アートというのはこうでなければいけない」という約束事から解き放たれてるんですよ。もちろん美術が積み重ねてきた技法や作法は大事なんですけど、いわゆる表現というのはそれだけではないということに気づかされます。観ていてすごく衝撃的でした。

静岡県の施策にも近年変化が


障害者のアートは近年、それを取り巻く法律や制度が変わっています。2018年に障害者文化芸術推進法ができました。障害のある方もアートに触れる機会を増やしていきましょうということが目的です。

これに呼応し、静岡県も2022年3月に制定した第5次県文化振興基本計画に障害者の芸術活動推進というものを新しく盛り込みました。県の組織としても以前はあくまでも福祉という観点から健康福祉部で障害者の芸術活動支援を進めていたんですが、2020年度からは文化政策を担うスポーツ文化観光部に担当を移しています。

(山田)そうなんですか。

(橋爪)なおかつ、これまでは障害者の芸術祭と健常者のふじのくに芸術祭を分けて開催していたんですが、最近は一緒にやるようになるなど、文化芸術と福祉の垣根を低くする政策を進めています。

(山田)行政の障害者アートに対する考え方も変わってきてるわけですね。

(橋爪)県の施策で興味深いものを二つ紹介します。一つは「まちじゅうアート」。2019年度から始まっていて、障害者の絵画作品を有料で貸し出して作家を支援します。作品を飾った企業や事業所からレンタル料金を徴収し、そのうちの30%を作家に回す仕組みです。

貸し出し可能な登録作品は800点以上あって、利用数も伸びています。初年度は9件しか申し込みがなかったんですけど、2022年度は48件に増えていて、今年はさらにそれを上回るペースで推移してるそうです。静鉄ストアの一部店舗に飾ってあったりする絵画もこの事業の一環です。

(山田)そうなんですか。

(橋爪)障害者の社会参画促進という意味以上に、美術作品としてのクオリティーが高いから借りたいと利用されている点が評価できる部分だと思います。

もう一つ、障害者のアート活動を支援しようという拠点を設置しています。「みらーと」という名称です。事業所や学校、個人から「美術的な作品を作りたいんだけどどうすればいいのか」「発表する場所はどこかないか」というような相談を受け付ける場所です。

これも2019年度から設置されていて、静岡市、浜松市、沼津市に電話相談の窓口があります。年間100件ほど相談を受けているそうです。文化芸術と障害者という関わりについても変容が見られる昨今、われわれもアート作品を観るときには障害の有無というのは本当は関係ないんですよね。

(山田)そうですね。

(橋爪)例えばゴッホは精神に病を抱えていたと言われていますし、草間彌生さんも幼い頃から幻聴が聞こえたという話があります。結局、今まで覆い隠されていた才能を世の中に見つけてもらいやすくなったというところがあるのかなと思います。

それから、表現というのは意欲とか切迫感の強さみたいなものが観ている方に伝わってくるんですよね。それは上手い、下手ということとは別の軸だということに気づかされます。

(山田)なるほど。

(橋爪)「君こそスター!」展では、障害者のアートにはそういう面があるということに気づきました。

(山田)観覧無料ということですから、ぜひ皆さんお出かけいただければと思います。今日の勉強はこれでおしまい!

SBSラジオで月〜木曜日、13:00〜16:00で生放送中。「静岡生まれ・静岡育ち・静岡在住」生粋の静岡人・山田門努があなたに“新しい午後の夜明け=ゴゴボラケ”をお届けします。“今知っておくべき静岡トピックス”を学ぶコーナー「3時のドリル」は毎回午後3時から。番組公式X(旧Twitter)もチェック!

あなたにおすすめの記事

RANKING