【小説家・門井慶喜】直木賞作家が歴史小説を書く時に気をつけていることとは…
(橋爪)今回は直木賞作家で、静岡新聞の朝刊小説「ゆうびんの父」を連載中の門井慶喜さんの話を中心にしていきます。
先日、静岡新聞夕刊最後の連載小説「頼朝 陰の如(ごと)く、雷霆(らいてい)の如し」で挿絵を担った画家山田ケンジさんと、門井さんとの対談が行われました。
2人には縁があり、門井さんの小説「地中の星」で扉絵を担当したのが山田さんでした。静岡市の駿府博物館の企画の一環で、私がブッキングしてみました。
(山田)小説家とその挿絵を書く作家の対談。面白いですね。
(橋爪)お互い、表現の領域は違いますが、同じクリエイターという立場で、刺激を受け合っている、という状況が対談ではうかがえました。それぞれの表現活動の原点は何か、みたいな話にまで及びました。
(山田)門井さんの作品の説明をお願いします。
(橋爪)静岡新聞で連載している朝刊小説「ゆうびんの父」は、日本の郵便制度を作り上げた前島密さんという方の一代記です。まだこれからどんどん盛り上がっていくので、ぜひ読んでいただきたい。「銀河鉄道の父」は最近映画化され、役所広司さんや菅田将暉さんらが出演しています。
門井さんは、歴史小説の作家というイメージが強く、これまで伊藤博文や宮沢賢治の父・宮沢政次郎さん、東京地下鉄の創立者・早川徳次さん、板垣退助なども題材にしています。3月に出た最新刊「文豪、社長になる」では、文芸春秋社という出版社の創業者で作家の菊池寛を題材にしています。
門井さんに、歴史小説はどうやって書くんですかと聞いてみました。まずは、やっぱりいろんな資料を読み込んで、年表や年譜を作るらしい。ただ、ここで大切なのは年表を細かく書き過ぎないことのようです。できるだけ大雑把に作ることが大事だとおっしゃっていました。
年表を厳密に書くと、作家としての創作する領域がどんどん狭まり、つまらなくなってしまうと。少しスカスカに作っておいて、作家の創造性が入り込む余地を残しておく必要があると話していました。
(山田)どこで生まれて、どんな事件があって、何をして亡くなったか。そこを細かく書き過ぎちゃうと、ただ単に事実を書いてるだけってなっちゃうのかな。
(橋爪)一方で、作家の創作とはいえ、厳然たる事実と全く違うことを書いてはいけない。そこのせめぎ合いがやっぱり難しいようですね。編集者とのやり取りも結構あるようです。
(山田)間違ってはいけない。でも、ストーリーを盛り上げなきゃいけない。
(橋爪)歴史小説は読み手の目も厳しいので。それと、もう一つ面白かったのが「影響を受けた作家は誰ですか」と聞いたら、泉鏡花さんという答えが返ってきたことです。
「文章で絵を書く」とは…
(橋爪)泉鏡花さんは教科書にも載っている、明治から昭和にかけての小説家です。「高野聖」という作品が一番有名で、静岡県舞台芸術センター(SPAC)が先日上演した「天守物語」も泉鏡花の作品です。
泉鏡花は妖怪が出てくるような怪奇小説とか幻想文学で、門井さんとは全然作風が違うんですよ。「どこが参考になるんですか」と質問したら、「文章で絵を書く」っていうことを学んだとのことでした。彩りの豊かさ、鮮やかさをどう書けばいいのかってことをすごく学んだと。個人的にすごく面白いなと思いました。
作風や描いてるジャンルは違っていても、作家と作家がどういうところで響き合うのか。自分の思い至っていなかった部分に気付かされたなっていう印象がありました。
門井さんは「小説は絵とは違い、『時間』というものから切り離せない」という話をされていました。例えば、山があって、川があって、部屋があって、みたいな情景描写を書いたとしたら、その時点で時間が経過してるんだと言うんですよ。「動画に近い」と。一方、絵はパッと一瞬を切り取っている。「静止画的な美しさをどう文章で出すか」。そんな捉え方をしていらっしゃいました。
(山田)後日、静岡新聞に門井さんのインタビュー記事が出るんですね。
(橋爪)新刊「文豪、社長になる」の話が中心となります。どうして菊池寛という題材を選んだのか。菊池寛という人に、どういう思いがあるのか。そんなことを聞いています。
(山田)皆さん楽しみにしておいてください。今日の勉強はこれでおしまい!
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