【新聞小説】新聞小説は毎日そこにある北極星的存在!ルーティンとして楽しんでみてはいかが?
(山田)今日は新聞小説の話題ですね。
(橋爪)はい。静岡新聞で2月2日に澤田瞳子さん作の連載小説「春かずら」が始まりました。2月1日で終了した門井慶喜さん作「ゆうびんの父」の後継作です。澤田さんは「愛読する武家小説に書き手としてチャレンジしようと決めました」と意気込みを語っています。
(山田)いやー、恥ずかしながら新聞小説って読んだことなかったです。
(橋爪)私は新聞小説は北極星のような存在だと思っています。
(山田)というのは?
(橋爪)新聞は毎日読んでくださる方がいますよね。そうした方々にニュースを伝えるのが大きな使命です。事件、事故、災害、いいこと、悪いことなどいろいろと載っていて、同じ紙面は一度としてありません。現実の世界は動いてますからそうなります。そうした止まらない現実を伝える新聞紙面の中で、漫画とともに別世界なのが、新聞小説です。見上げればいつもそこにある存在。だから北極星です。
映画の世界では「マルチバース」が流行っていますよね。マーベルシリーズとか、昨年の米アカデミー賞を受賞した「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」もマルチバースものです。新聞小説は現実を伝えるほかの紙面とは違う世界がそこに広がっている。まさにマルチバース的存在だと思います。
新聞はエンターテインメントを届けるのも大事な役割なので、その責務を新聞小説が担っていると思っています。
(山田)今日は切り抜きも持ってきてくれましたね。
直木賞作家の新聞小説がスタート
(橋爪)静岡新聞で新しい小説が始まっているので、それを切り口にお話をしたいと思っています。作者の澤田瞳子さんは1977年、京都生まれ。2010年に奈良時代の青春小説「孤鷹の天」でデビューしました。以後、ずっと歴史系の小説で切れ目なくヒット作を生み出してきた方です。2021年には「星落ちて、なお」で直木賞に選ばれています。(山田)直木賞作家なんですね。
(橋爪)新聞小説といえば、挿絵も大事な要素です。「春かずら」担当の村田涼平さんは、静岡市出身なんです。過去の静岡新聞連載でも仕事をされていますが、一番知られているのは、第169回直木賞に選ばれた島田市生まれの永井紗耶子さん作「木挽町のあだ討ち」の装丁、そして挿画を担当しました。
(山田)すごい。静岡で繋がっているじゃないですか。あらすじなどを紹介する前に一つ質問していいですか。これは静岡新聞のための書き下ろしということですか?
(橋爪)全国の地方紙の中で同じものを載せている新聞もあります。いろいろな候補作の中から、出版社と静岡新聞社の間で時期や読者層、前回の小説とのバランスなどさまざま要素を加味して掲載作品を選んでいます。
(山田)本としても出ているんですか?
(橋爪)本はまだ出ていません。新聞でないと読めない状態です。
(山田)なるほど、そうなんですね。
(橋爪)ただ、新聞小説をまとめた小説というのはあります。川越宗一さんの「パシヨン」は2021年に静岡新聞で連載していました。小川糸さんの「椿ノ恋文」も静岡新聞で連載していた作品です。このように新聞での連載が終わった後に単行本化されるケースもあります。それを楽しみにしている方も結構多いです。
舞台は江戸時代。主人公は仇討ちの旅に出るが…
(山田)さあ、そんな中で新しく始まった作品ですけれども。(橋爪)物語の舞台は江戸時代、5万石ほどの架空の小藩「安良(やすら)藩」です。読んでいくと、どうやら西日本であるらしい。作者の澤田さんが静岡新聞への寄稿で静岡に例えてくれていて、「掛川藩や田中藩」と言っています。少し離れたところに山があるけれども海はない。そんなイメージだそうです。
主人公は多賀清史郎という武士です。登場した時点では34歳。ただ、前史があります。清史郎が12年前の22歳の時、お父さんの織部が殺されているんです。殺した相手は分かっています。渡辺幸太夫といって、織部の旧友でした。
(山田)お父さんの友達だった!
(橋爪)その直後、幸太夫は出奔しました。
(山田)出奔ってどういう意味ですか?
(橋爪)どこかにいなくなってしまうということです。そのため、清史郎は仇討ちの旅に出ます。
(山田)仇討物なんですね。
(橋爪)ここで江戸時代のルールとして面白いところがありまして。「木挽町のあだ討ち」でもそんな描かれ方をしているんですが、当時の世の中としては「あだ討ち推奨!」なんです。
清史郎の父の織部が亡くなったとき、多賀家の家禄はそこの殿様に召し上げられました。要するに、当主がいなくなったからいつもあげていた給料はいらないよねと言われていたというわけです。でも、清史郎が渡辺幸太夫を討ち果たしてきたら、戻れるようにしてあげるということになっているんです。
(山田)なるほど。そのためにも仇討ちをしないといけないと。
(橋爪)仇討ちをしようと思って諸国を巡ったのに、それができないまま34歳になってしまって故郷に帰ってきたというところから物語は始まります。ところが、清史郎がその仇の息子に地元で出会ってしまうんです。憎き敵の子どもなんですが、どうも同情に値するぐらい恵まれた境遇ではないらしい…。ここまでが2月6日までの新聞に掲載されたストーリーです。
(山田)今のお話を聞いた上で次を読み進めていけばいいですね。
(橋爪)そうですね。おそらくこの2人の間に心の通った交流が生まれるのだと思います。
(山田)友情とかが見えてくる人情物になるんでしょうかね。
(橋爪)江戸時代の武家の暮らしぶりもすごく丁寧に描いています。どういうところに住んでいて、どういうものを食べたり飲んだりしているかがはっきり出てくるので、そこも読みどころだと思っています。
静岡新聞で連載された小説の作品数は?
(橋爪)ところで、静岡新聞の朝刊小説はこれまで何作ぐらいあったと思いますか?
(山田)当てにいっていいですか?27作品。
(橋爪)いやいや。最初の小説は1941年12月1日に始まっていますから。
(山田)じゃあ、50を超えている?
(橋爪)大きく超えてますよ。
(山田)いくつですか?
(橋爪)今回で104作目です。
(山田)そんなにですか!
(橋爪)夕刊を発行していたときには、夕刊にも小説が載っていました。
(山田)朝刊とは違う作品ですよね?
(橋爪)そうです。記録に残っているものを数えると、夕刊は82作品でした。朝刊と合わせて静岡新聞紙上で連載された小説は、なんと186作に上るんです!
(山田)すごいですね。
(橋爪)本当にいろいろな方が書かれていて、よく知られている作家さんも多いです。その中から私が好きな作家さんの新聞小説を挙げていきたいと思います。
(山田)お願いします。
(橋爪)2012年〜13年に重松清さんの「めだか、太平洋を往け」。2011年に村上龍さんの「55歳からのハローライフ」。これはNHKでドラマ化されました。2007年〜08年には角田光代さんの「紙の月」も掲載されました。
静岡県ゆかりの方も結構書いていて、まずは瀬名秀明さん。それからジャパニーズホラーでおなじみの鈴木光司さん。村松友視さんや、芥川賞を取った吉田知子さんもいます。
新聞小説は毎日必ずそこにあるので、一つのルーティンにしていただくといいのではないかと思います。
(山田)そうですね。毎日これを読むという形で。
(橋爪)新聞を楽しめる一つの要素になるのではないかと思います。澤田さんの「春かずら」も新しく始まったばかりですから、まだ途中からでも入りやすいと思いますし、ぜひ毎日読んでみてください。
(山田)今日教えていただいたあらすじを聞いた上で読むといいですね。今日の勉強はこれでおしまい!
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