【現代詩の魅力】静岡県出身の若手詩人2人が第1詩集を発刊。現代詩の自由さと心地よさがそこに!
(橋爪)今日は現代詩の話題です。月刊誌「現代詩手帖」を発刊する思潮社が、若手の詩人による新シリーズ「Lux poetica(ルクス・ポエティカ)」を立ち上げ、その第1弾に県内出身の詩人2人の第1詩集が顔をそろえました。
(山田)若手詩人による新シリーズですか。
(橋爪)例えばレコードのレーベルのようなイメージです。「Lux poetica」はラテン語で「詩の光」という意味です。第1弾として詩人4人の詩集が発行されたんですが、そのうち2人が静岡県出身です。
(山田)なるほど。というわけで今日は現代詩。
(橋爪)このコーナーでも何度かお話をさせていただいていますが、静岡県は現代詩に縁があります。まず言っておきたいのは、大岡信さんが三島市出身ということです。大岡さんが1999年に始めた「しずおか連詩の会」は毎年の恒例イベントとして、県民に定着していると思います。
また、芥川賞作家で昨年亡くなった静岡市出身の三木卓さんも詩人として高く評価されていますし、最近ではともに熱海市にお住まいの音楽家巻上公一さんと小説家の町田康さんが詩集がを出していて、広く読まれています。
(山田)三木さんは中学校の先輩です。だいぶ先輩ですけど。
(橋爪)そうでしたね。ただ、現代詩は小説ほど多くの人に届いているわけではないのも事実なんですね。純文学で一番有名なのは多分「芥川賞」だと思いますが、「現代詩の芥川賞」というのもあるんですよ。
(山田)現代詩の芥川賞?
(橋爪)通称ですけどね。その賞というのが、1951年から続く「H氏賞」です。
(山田)初めて聞きました。
(橋爪)3月12日の静岡新聞に第74回H氏賞は、東京都の尾久守侑さんの詩集「Uncovered Therapy」(思潮社)が選ばれたというニュースが載っていますが、なかなか世間には届きにくいということを正直感じています。
そんな時代ですが、ここ数カ月の間に静岡県ゆかりの詩人にいろいろと動きがあるので、今日は現代詩への応援の意味を込めて、特に若い世代の詩人の活動を紹介しようと思います。
(山田)お願いします。
(橋爪)先ほど名前が出た「Lux poetica」シリーズの現物を2冊持ってきました。詩集って、わりと装丁が凝っていて、ともするとごっつい感じがするものが多いと思うんですが、これをご覧になってどうですか?
(山田)手のひらサイズですね。あと、意外とポップな感じでペラペラとめくっても読みやすそう。
(橋爪)そうですね。ペーパーバック的な手触りの、手軽に手にできそうな本に仕上げています。持ってきた2冊が静岡県出身の2人の詩集です。1人ずつ紹介しますね。
ページをキャンパスに!?三島市出身の芦川和樹さん
(橋爪)まず、三島市出身の芦川和樹さん。詩集のタイトルは「犬、犬状のヨーグルトか机」。2023年に、現代詩手帖に投稿した「結合は夢差し色コンデンスミルク」が現代詩手帖賞に選ばれています。それが今回の第1詩集発刊につながったということですね。
(山田)もうこの時点で自分がついていけているか心配(笑)
(橋爪)大丈夫ですよ。ゆっくり説明していきますので。芦川さんの詩は、言葉から言葉への飛躍みたいなものがすごいんです。ある言葉から、できるだけ遠い言葉を瞬間的に選び取っているように感じられます。
(山田)ちょっと朗読してもいいですか。
(橋爪)全然つながらないですよね。私がインタビューした際に、ご本人は「一緒にいて楽しい言葉を置いている」という説明の仕方をされました。
読んでいくと、言葉と言葉の意味はかなり離れているんですが、そのつながりがある種の相乗効果を生んでがーっとイメージが広がります。瞬間的に頭の中にイメージが膨らんでいく感じで、そのスピード感がものすごいんです。
(山田)今ちょっとペラペラめくっただけですけど、面白い気がしてきました。
(橋爪)話法が一定でなくて、予測不能なタイミングで句読点が入るんです。なので、音読するとつっかえつっかえになります。まるで音楽の変拍子のような感じです。
(山田)ほう。
(橋爪)いつも読んでる言葉と違うようなリズムが、詩の朗読から生まれてくるんですよ。これはご本人がずっとバンドをやっていて、ドラマーなんですね。それが影響しているのかもしれません。
(山田)改行もそうですよね。1行にこれだけしか言葉を置かないんだというような。
(橋爪)そうなんです。文字を波打つように横に配置したり、文字で絵を描いたりしています。詩集のページをまるでキャンバスのように使っている感じです。現代詩の自由さはこういうところにあります。芦川さんはそれをめいっぱい楽しんでいる感じが伝わってきます。
(山田)ここまで自由でいいんだという驚きがあります。
「光」の書き分けが巧み!静岡市出身の小川芙由さん
(橋爪)もう一人は静岡市出身の小川芙由さんで、「色えらび」という作品です。芦川さんと同じく、小川さんも30代です。小川さんは、現代詩のファンならよくご存知の月刊誌「ユリイカ」(青土社)が投稿者の中から選ぶ2023年「ユリイカの新人」の栄誉を手にしています。小川さんの詩は、とにかくみずみずしい、光に満ちあふれています。ウェブの記事に書いたんですが、小川さんの詩には「夏の木陰を二人で歩くかのような心地よさ」があります。五感を研ぎ澄ませ、まさに言葉を「紡ぐ」という感じがぴったりきます。いかにも詩人らしい営みだと思います。
(山田)へぇー。
(橋爪)小川さんの作品は、光の強弱が感じられるんですよね。光って、透過するもの、反射するもの、そのまま届くものと、強弱がいろいろあるじゃないですか。天気や時間も大いに関係していて、晴れ、曇り、朝、昼、夜で全然光が違いますよね。その書き分けがとても上手。
(山田)少し朗読してみます。
青が遠くにあったので
どこまでも空を帰路にする
そんな約束で海へ向かう
うみがめを見た瞳があった
だれが覚えているだろう
新鮮さと
懐かしさとは
色ちがいの小説のようで
背表紙をなでる指先を
ひとつひとつ
そろえたくなる
〈「水にかいた約束」から〉
(橋爪)朗読、上手ですね。小川さんの作品は常に他者がいるような感じがします。別の人に語りかけるようなことは特にしていないんですけど、他者とのかすかな関係性を常に感じます。すごく「エモい」瞬間が何度となく訪れるんです。ぜひ、作品を手にとっていただけたらと思います。
(山田)個人的には小川さんの作品の方が入りやすいかもと思いました。
(橋爪)いろんな捉え方があると思います。
「今の詩人」の詩集を読む会が4月から
現代詩について、もう一つ。4月からなかなか画期的な催しが始まります。会場は静岡市葵区鷹匠のHiBARI BOOKS&COFFEで、「ひとりひとりに出会う〜はじめて詩集を読む会」というタイトルです。
詩を読む会となると、大岡さん、谷川俊太郎さん、石垣りんさんといった大御所的な方の作品を取り上げることが多いと思うんです。しかし、この企画は同時代に生きている「今の」詩人の詩集を、集まった人で語り合おうという内容なんです。これはなかなかありそうでない。
(山田)そうなんですね。
(橋爪)ホスト役は静岡市在住の詩人ゆずりはすみれさんです。ゆずりはさんも2020年に「ユリイカの新人」の称号を得ていて、2020年5〜7月には静岡新聞で現代詩と写真の連載「暮らしの音たち」を担当してくれました。
2ヵ月に1回、詩を読んでいくそうで、第1回は4月5日。テキストは海老名絢さんという30代の詩人の「あかるい身体で」です。
(山田)現代詩は人が読むのを聴くと、またイメージが変わるかもしれないですね。
(橋爪)現代詩はハードルが高いと思っている方も多いと思いますが、まったくそんなことはありません。解釈に正解はないので、どんなイメージを受け取ったかをそれぞれ口にすることは、互いに何らかの影響を受けると思います。
個人的には絵を見るのと一緒だと思います。鑑賞後の対話で「あ、この人にはそう見えたんだ!」という新鮮な驚きがあったりしますよね。それに近いことが生じるのが現代詩だと思います。今回のイベントを機に、いろいろと話をするのもいいでしょう。
(山田)確かに。
(橋爪)この催しは6月7日、8月9日にも行われます。時間は午後6時半からで、参加費は800円。現代詩の扉を開けるのにうってつけの機会だと思います。ぜひ、参加してみてください!
(山田)今日は現代詩の魅力を語っていただきました。今日の勉強はこれでおしまい!
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