【「2024年しずおか連詩の会」初参加詩人インタビュー① 広瀬大志さん】 「自分のやり方と180度違う世界を体験するんだなと」
参加する詩人5人の中から、初参加の3人に話を聞いた。近著について、現代詩との関わり、創作スタイル、「しずおか連詩」への印象-。「未知なるものへの挑戦」を前にした、三者三様の言葉を聞いてほしい。初回は詩人・広瀬大志さん。 (聞き手=論説委員・橋爪充)
ひろせ・たいし 1960年熊本県生まれ。詩集に「喉笛城」「髑髏譜」「魔笛」「現代詩文庫広瀬大志詩集」「毒猫」(第2回西脇順三郎賞)など。新刊に対談集「カッコよくなきゃ、ポエムじゃない」(豊崎由美さんとの共著)。
詩と呼べるものは全て取り込んだ
-「カッコよくなきゃ、ポエムじゃない」(思潮社)は、対話形式の現代詩論とも言うべき、これまでにないスタイルですね。広瀬:現代詩は難解でとっつきにくいと思われていますよね。また「ポエム」というお花畑的なバイアスがかかってもいる。「詩」そのものにたどりつくために、どうすればいいか迷っている人が多いと思うんですよ。それが理由の一つです。
-確かに、ちょっと閉じた世界であるような印象もあります。でも、この本で取り上げる「詩」は多岐にわたっていますね。
広瀬:本屋さんに行っても詩集がほとんどない。また、何から読めばいいのかと思った時に詩の雑誌、評論を見ても、ものすごく分かりにくい。だから新刊ではそこらへんを取っ払って、まずは「詩はカッコいい」「読まなければもったいない」というところから広げようと。(取り上げる作品は)現代詩だけでなく、ポップスの歌詞やアニメのせりふがあってもいいじゃないか、詩と呼べるものは全て取り込もう。そう思ったんです
-世界が拡張された印象がありますね。豊崎さんが現代詩をこんなに愛していらっしゃるのも意外でした。
広瀬:豊崎さんはほぼ同年代で、私と同じように詩を通ってきたという体験があるんです。でも、詩を書く立場、詩のかいわいからすると、(詩の世界の)外の人が詩について話すということは珍しいんです。豊崎さんの話はたいへん面白かったですね。
ゴーギャンの絵画を下敷きに
-第2回西脇順三郎賞に選ばれた第14詩集「毒猫」(2023年)は3章立てになっています。どうしてこうした構成になったのですか。広瀬:ポール・ゴーギャンの絵画「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」をなぞり、応える形で編んでみました。第1章「白い兆し」は、精霊であるとか生き物、父、母といった人間の持つ原初的な愛情、畏怖が主題です。「我々はどこから来たのか」にリンクしています。
-ゴーギャンの代表作が下敷きになっているのですね。
広瀬:第2章「毒猫」は、現在における「我々は何者か」を示すような詩を集めてみました。不安をあおるような書き方をしていて、全てのタイトルに「毒」が付いている。最後の章「聖痕の日」が「我々はどこへ行くのか」で、未知なるものとの出合いがテーマの詩を集めています。ディストピアみたいな詩ばかりなんですが、最終的にはスティグマとして浄化されていく。
-広瀬さんの作品は「詩のモダンホラー」と形容されていますよね。
広瀬:お化けや怪物が出てきたりするのが「ホラー」ですが、モダンホラーは全然違います。(ヒッチコック監督の映画)「サイコ」や(ポランスキー監督)「ローズマリーの赤ちゃん」が元祖と言われています。日常の中に不条理なもの、突発的な不安なものを導いて描いていく。心理的な恐怖がモダンホラーなんです。これって、詩に似ているなと思いました。
-どういうことですか。
広瀬:例えばお花畑。(山村暮鳥の)「いちめんのなのはな」という詩がありますが、一面の菜の花を見ながら、その裏側の美しさを見ているんです。心理的な部分を言葉にするのが詩の建て付けじゃないかと。僕の場合は、その一面の菜の花の間に、包丁を入れてみると。そういう描き方なんですね。そうすると、日常的に使われる言葉を揺るがす力になる。それをいわゆる「恐怖」という感性で表してもいいのではないかと。
-「毒猫」という言葉もそんなニュアンスですね。
広瀬:明るく働いていて、普通の会話をしているが、突発的に物騒な事件や異常気象が起こって「唐突な恐怖」が現れてくる。その不安とバランスを取りながら明るくやっていくのが日常だと仮定したんですよね。その不安の象徴として「毒猫」という言葉を使うことにしました。
音楽の歌詞が出発点
-中学生の頃から詩を作っていらっしゃるとのこと。どういう経過をたどって詩作にたどり着いたのですか。広瀬:音楽が好きで。自分もやっていたので、最初は音楽の歌詞に引かれていました。ビートルズや井上陽水の歌詞を読んで、美しいメロディーなのに厳しい歌詞、あるいはものすごい比喩をつかうことに驚いて。その後にレッド・ツェッペリンが来て、パンク・ニューウェーブが来て。とにかく、音楽の詩に敏感でしたね。
-現代詩との遭遇はその後なんですね。
広瀬:高校時代、自分でも言葉をつづっていたんですが、その時期に本屋さんで出合ったのがフランスの詩人たち。ランボー、ボードレール、ヴェルレーヌ。詩っていうのは叙情や喜怒哀楽を書くだけじゃなくて、意味を超えたところで、言葉の並びとか発声の美しさがあるんだと知りました。驚きでしたね。
-「しずおか連詩の会」に対してはどんな印象をお持ちですか。
広瀬:(連詩は)友達同士で何回かやったことはあります。ただ、「しずおか連詩」のようにフォーマットにのっとってやるのは初めてです。僕はインプロ(即興)はどちらかというと苦手で、作品の完成までにたくさん手を入れる方。だから不安ではあります。自分のやり方と180度違う世界を体験するんだなと。緊張と共に、喜びや期待もありますね。
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■2024年しずおか連詩の会
会場: グランシップ 11階会議ホール・風
住所:静岡市駿河区東静岡2-3-1
入場料:一般1500円、子ども・学生1000円(28歳以下の学生)
日時:11月3日(日・祝)午後2時開演
問い合わせ:054-289-9000(グランシップチケットセンター)
静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。