(文=論説委員・橋爪充、デザイン=グラフィック戦略部・矢部七星)

「しずおか連詩の会」は三島市出身の詩人大岡信さん(1931~2017年)が1999年に創設。毎年、詩人や作家、歌人、俳人ら言葉に関わる表現者が5人集まって、3日間で集中的に創作を行う。
26回目の今年は、さばき手(まとめ役)を務める詩人野村喜和夫さん、詩人の川口晴美さんと水沢なおさん、小説家の星野智幸さん、ラッパーの環ROYさんが参加し、全40編の連詩を巻いた。11月9日の発表会では5人が自作の詩を朗読した。
各参加者のプロフィルの後に、作品を紹介する。写真は発表会で撮影したもの。全40編の合間に適宜解説を挿入する。
詩人 野村喜和夫さん(写真左)
1951年埼玉県生まれ。戦後世代を代表する詩人の一人として、現代詩の先端を走り続ける。詩集「風の配分」(高見順賞)など著訳書多数。英訳選詩集「Spectacle & Pigsty」で「2012 Best Translated Book Award in Poetry」(米国)を受賞するなど、海外での評価も高い。
詩人 水沢なおさん(写真右)
長泉町出身。2020年、第1詩集「美しいからだよ」(思潮社)で第25回中原中也賞。22年に第2詩集「シー」(思潮社)、23年に小説集「うみみたい」(河出書房新社)を刊行。24年に「Forbes JAPAN 30 UNDER 30」の一人に選ばれた。
詩人 川口晴美さん
1962年福井県小浜市生まれ。詩集に「半島の地図」(第10回山本健吉文学賞)「Tiger is here.」(第46回高見順賞)「やがて魔女の森になる」(第30回萩原朔太郎賞)など。社会人向けの詩の講座、アンソロジー詩集の編さんも手がける。
小説家 星野智幸さん
1965年生まれ。2年半の新聞記者勤めの後、メキシコ留学。97年「最後の吐息」でデビュー。「俺俺」(大江健三郎賞)「夜は終わらない」(読売文学賞)「?」(谷崎潤一郎賞)「だまされ屋さん」「植物忌」「ひとでなし」(サッカー本大賞)など。
ラッパー 環ROYさん
1981年、宮城県生まれ。これまでに6枚の音楽アルバムを発表。ミュージックビデオ「ことの次第」が第21回文化庁メディア芸術祭で審査委員会推薦作品入選。11月15日に絵本「ようようしょうてんがい」(福音館書店)を刊行する。



<COLUMN>※1~8
2025年の「しずおか連詩の会」の“発句”を、川口さんは1週間前から仕込んだ。参加者の名前の最初の1文字を五行詩の頭に置いた。ポジティブかつ開けた空間を用意し、皆を呼び込んだ。
グランシップ12階の大窓から5人全員で目撃した山肌の造成地を「最初の共有場面」として第2編でシンボライズした環さんに続き、水沢さんはその造成地に建てた家の窓から駿河湾の水平線に視線を移した。
共同体の閉塞感、恐れを「コクーン」に託したのは第3編の野村さん。さばき手でありながら、早くも「引っかき回し役」を買って出る。星野さんは第4編に出てくる「骨」を時間的にさかのぼらせた。遺体から体のパーツを一つ一つ取り出し、プラモデルの「ランナー」にくくりつける。人工芝、プラモといった人工的な風景への転換も図った。




<COLUMN>※9~18
第8編で二つの卵を提示した水沢さんを受け、野村さんは「穴」を列記して「第3の性愛」を思い描いた。五行詩に1から4までの数字を散らし、連詩の「遊び」的要素も導入した。肛門から出る排泄物を宇宙に放つことで「息の根を止め」、野村さんのエロスを封じるというたくらみを凝らしたのが第10編の星野さん。百戦錬磨の野村さんはこれを受けて宇宙空間に「愛の残余」をふぶかせ、「アマテラス粒子」という高エネルギーの宇宙線で空間を突き破った。
参加者5人の雑談で話題になったホラー映画の影響を受けた水沢さんは、第12編で銀幕に「死霊」ならぬ「オーロラ」のはらわたを映し出した。確かに痛みはないだろう。
ラップ的な抑揚と現代詩的な改行を駆使した環さんの第13編に続き、川口さんは「翻る手のひらのリズム」と環さんのラッパーしぐさを三行詩に取り込んだ。ジャンルの境目を侵食する試みがいよいよ顕著になってきた。




<COLUMN>※19~28
創作2日目に静岡市清水区の商業施設「エスパルスドリームプラザ」を取材した一行。「創作の速さ」を今回のテーマに置いた川口さんは、第19編でさっそく同施設にあった観覧車を詩的世界で回転させた。第20編の星野さんは、道中の風景に自らのイマジネーションを重ねた。石垣イチゴのハウスに明かりをともすという、ファンタジックな世界を現出させた。
第21編で水沢さんが歯の矯正の作業場面を提示すると、星野さんは歯並びがでこぼこである状態を意味する「叢生」から「草」を抜き取った。続く環さんは、遺伝のありようからイメージを膨らませ、アニメ「ポケットモンスター」に出てくるモンスターボールを「玉」に着地させた。
第24編で野村さんのつくった「塊」はやわらかくもあり、硬くもあり。読み手を幻惑する。第25編の川口さんは、徹頭徹尾やわらかくしたようだ。ゼリー状のそれを「銀のスプーン」で掬った。





<COLUMN>※29~40
第27~29編に男性性の強まりを敏感に感じ取った川口さんは第30詩でオルゴール、あるいは人間の頭蓋骨をパカッと開け、回転するバレリーナを飛び出させた。「閉じ込められていたんだからハイキックで攻撃」。アグレッシブに詩的世界を展開した。
第31編の水沢さんは、自らの尽きせぬ「詩への愛」をまっすぐに表明。川口さんは第32編で温かく眼差すが、「連詩の門番」的存在の野村さんは許さない。「明るい詩の流れに暗い現代詩のイメージを」と発憤し、第33編で「煉獄」を持ち出す。詩そのものもそうだが、こうした詩的行動にはある種のユーモアが漂う。
最終盤、参加者はおのおの別れの言葉をしたためる。水沢さんは第36編で、自作に通底する「生む/生まれる」を強烈に感じさせる「臨月の帆」を膨らませ、続く川口さんは脚韻を使って「次の世界」を見通した。
第38編という押し迫ったところで世界の果て、人生の果てに座を運んだ野村さんに続き、環さん、星野さんは示し合わせて「大団円」を拒否する2編を置いた。これまでの「連詩」のお約束を完全に破壊する幕切れ。野村さんは「見たことのないような揚げ句です」と称賛した。




































































