【「2024年しずおか連詩の会」発表会】 「女」という言葉を巡るやり取り
三島市出身の詩人大岡信さん(1931~2017年)が1999年に創設した「しずおか連詩の会」。25回目の今年は、さばき手の野村喜和夫さん、音楽家で詩人の巻上公一さん(熱海市)、詩人広瀬大志さん、俳人で詩人の佐藤文香さん、シンガー・ソングライターで詩人の柴田聡子さんが参加し、10月31日~11月2日の3日間を費やして全40編の連詩を巻いた。
グランシップに集まった約150人を前に朗読した今年の連詩「『喉歌の舞の地で』の巻」は、巻上さんの喉歌実演で始まり、野村さんが富士山冠雪を予言する揚げ句で幕を引いた。
佐藤さんの絶妙な仕切りで進んだ作品解説は、限られた時間の中で40編全てに触れた。これまでの発表会では見たことがない現象だった。第39編で佐藤さんが「わたしは四人を愛していた」と述べるなど、いわゆるパンチラインが次々に出てくる。3日間かけて培われた5人の信頼関係がダイレクトに伝わった。
その上で、第10編の野村さん「女の二乗に三倍の私の影を加えたものから」という1行における、「女」という言葉への抵抗感を、佐藤さん、柴田さんが率直に語っていたのが強く印象に残った。
「私だったら日常生活でも、作品でも使わない」と佐藤さん。第11編の担当となっていた柴田さんはその1行目で「いったいいつまで、私をまなざすのだろう、この人は。」と応答した。
柴田さんは発表会の席上で「この言葉(「女」)を拾うか悩んだが、通り過ぎることができなかった」と吐露した。野村さんは「批判的な意味が入った1行だと思った」と振り返った。
言葉を巡る見解の相違を、包み隠さず語る詩人たち。だが、険悪な「論争」に陥ってはいなかった。柴田さんは第11編の1行目について、「女を代表しているのではなく、自分の違和感。シャットダウンするのでなく、この場所だからやってみようと思えた。それを受け止めてくれて嬉しかった」と、野村さんや他の詩人たちに感謝を述べた。表現を巡る、真摯(しんし)な議論に客席で感動を覚えた。(は)
静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。