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論説委員しずおか文化談話室

【「2024年しずおか連詩の会」初参加詩人インタビュー② 佐藤文香さん】 「詩人として参加しようと思っているので俳句的なものを作るつもりはありません」

10月31日からの3日間で現代詩全40編を創作し、11月3日に静岡市駿河区のグランシップで発表する「しずおか連詩の会」(県文化財団、県主催、静岡新聞社・静岡放送共催)に参加する詩人5人の中から、初参加の3人に話を聞くインタビューシリーズ。第2回は詩人・俳人の佐藤文香さん。 (聞き手=論説委員・橋爪充)

さとう・あやか 1985年兵庫県生まれ。句集に「海藻標本」「君に目があり見開かれ」「菊は雪」「こゑは消えるのに」。編著に「俳句を遊べ!」「天の川銀河発電所」など。詩集に「渡す手」。

俳句だけの特化型の詩人ではなく

―「渡す手」は第29回中原中也賞に輝きました。現代詩を作るようになったいきさつは。

佐藤:10年前に(ウェブコンテンツの)「マイナビ」から俳句や挑戦的な作品を連載で書いてみないかとお話をいただき、「新しい音楽をおしえて」というタイトルのオンデマンド版の詩集を出したことがあるんです。その時点では「現代詩とは何か」については分からない状態でした。

その後「現代詩手帖」(思潮社)から依頼があって、半年間で6編の作品を載せました。現代詩の雑誌から現代詩の依頼だったので、はじめてそれを意識して書きましたね。それ以降は、書いてみる時期があったり、書かない時期があったり。

―俳句がホームグラウンドですものね。

佐藤:現代詩を一緒にやる仲間がその時の私にはいなかったんです。俳句の同人誌をやっているのでそこに詩を載せたり、友人のミュージシャンの歌詞を書く機会はありましたが。

―現代詩に再接近する契機は。

佐藤:2021年秋から1年間米国に滞在し、その期間中「ライターズカンファレンス」に参加して講義やワークショップを受けたんです。周囲にプロやアマの詩人がいて、俳句も詩の一ジャンルということを強く意識したんですね。自己紹介で「詩人」(poet)と言うならば、俳句だけの特化型の詩人ではなく自由詩も作らなくてはと思いました。

―母国語圏の外で定型詩から自由詩に目覚めたのが興味深いです。

佐藤:もう一つ。作品を翻訳してもらうと読者が広がることにも気が付きました。ただ俳句は歴史的仮名遣い、文語と口語が混ぜてあることなど、日本語独特の表記があって、翻訳するとその辺りが伝わりにくいんです。だから俳句は俳句として書きたいと。ただ今後の読者を考えたり、大きな作品を作っていきたいと思った時に自由詩で書くものもあるんじゃないかと。

―「渡す手」はそうした心境から生まれたのですね。

佐藤:その時点で長短の詩が40編ほどあったのですが、思潮社の藤井さんや詩人の先輩岡本啓さんに見ていただきながら新たに書いて、というのを続け、詩集を出しました。半分ぐらいは去年書いた詩です。だから私の現代詩への踏み込みが始まったのは、2022年の末に帰国してからですね。

日本語で面白いことをしたい

―日本語ではないものに触れ、自分の中に回収して新しい表現に進むという成り行きで現代詩にたどり着いたと。

佐藤:そもそも私にとって「俳句が好き」は「日本語が好き」と表裏一体なんです。日本語で何ができるかを考えた時に、その考えが隅々まで至るように作れるのが俳句だったので。だから詩についても「日本語で面白いことをしたい」という気持ちなんですよね。去年は、自分が書いているものが一体何なのか、どこまでを現代詩と言っていいのかを確認する1年でした。

―中原中也賞に選ばれてどう感じましたか。

佐藤:私は中学生のころから26年間俳句をやっていますが、現在俳句の世界で王道とされている新人賞とは縁がなかったんです。でも、評価されるかどうかとは別のところで、書きたいものを書き続けて来てよかった。中也賞は詩の世界に新しい風を通す作品が評価されることが多いですから、ありがたい機会でした。今後もジャンルにこだわらず新しい言語表現にチャレンジする勇気をいただいたと思っています。

-フォーマットがある俳句と、それがない現代詩。作り方や題材の選び方に違いはありますか。

佐藤:私は自らの中から湧き上がるものを書くタイプではなく、基本的には外的な要因に触発されて俳句も現代詩を書くことが多いんですね。だから、これは俳句では表現できるサイズだ、できないサイズだ、というのが早く判断できる。スマートフォンやパソコンで作っているのですが、思いついたことの質やサイズ感でメモを保存するフォルダを分けています。俳句のフォルダ、趣味でやっている短歌のフォルダ、現代詩のフォルダがあります。分別しておく感じですね。

飛躍がないと先に進まない

-連詩は連句や連歌が原点ですが、これまでにそうしたものに接点はありますか。

佐藤:連句は中学生の時に授業でやったぐらいですね。自分としては面白かった。前の作品に対しては受けるように書かなくてはならず、前の前からはジャンプしていなくてはならない。飛躍がないと先に進まないという考え方が、連句をやる上で一番覚えていることですね。

-「しずおか連詩の会」は5人の詩人が3日間、時間と空間を共有するという特殊なシチュエーションです。周囲に人がいる状態で創作する環境についてはどうお感じですか。

佐藤:句会を毎月のようにやっていますから。その場で作る、というスタイルはそんなに多くありませんが、周囲に人がいる中で創作するのは普通の詩人よりは慣れているんじゃないでしょうか。

-他の詩人がその場にいる、という状態は作品に影響を及ぼすでしょうか。

佐藤:俳句でも座の仲間、場所へのあいさつというのがあります。今回は詩人として参加しようと思っているので俳句的なものを作るつもりはありませんが、環境へのあいさつや、他の方とのインタラクションはぜひやりたいと思っています。

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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