【「2025年しずおか連詩の会」参加詩人から(2) 水沢なおさん「うみみたい」】中原中也賞詩人の初小説集。さまざまな角度で「生殖」描く

静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。「2025年しずおか連詩の会」(11月9日に発表会)の参加詩人の作品を不定期連載で紹介する。第2回は詩人水沢なおさん(長泉町出身)の2023年の初小説集「うみみたい」(河出書房新社)。

2020年に第一詩集「美しいからだよ」で中原中也賞を得た気鋭の詩人は、小説でも自分が追求してきたテーマ、モチーフを執拗に扱っている。それは生き物の「生殖」であって、詩も小説もそのことに対しての崇敬や畏怖、葛藤がさまざまな角度から語られる。特に表題作は、研ぎ澄ませてきたこの代名詞的モチーフを、物語の中にざっとぶちまけている。

美術大を卒業し、同居してそれぞれ創作に励む女性二人、うみとみみが主人公。昆虫や両生類の繁殖施設「孵化コーポ」でアルバイトするうみは、生き物の増殖に美を感じるが、自分の恋愛には及び腰。一方のみみは「ひとがひとをうむってことが、人間のすることのなかで一番、悲しいことだと思う」と全否定する。

人が人を生み、増えていく図式に肯定的になれない二人だが、自分たちは人間でないものを生み出している。二人のオリジナルキャラクター「むむ」は、ネットショップで手作りのぬいぐるみが飛ぶように売れ、Twitter(当時)のフォロワーは2000人以上。LINEスタンプやステッカーも販売している。

生まれたものが、そのまま経済的価値を持つ世界。二人の心の奥底には「絵を描き続けたい」という切なる思いがあり、キャラクタービジネスの成功は、新卒で就職せず、アーティストとして生きようとする二人の免罪符として機能しているようだ。

人間でないものを生産し、その利益で再生産する。孵化コーポでは人為的な交尾で卵が「産み落とされる」。

「産む」「生まれる」という極めて普遍的な現象と、生まれてすぐに値付けされる命のありようが、互いにわかり合えているはずの二人の関係に、少しずつ揺さぶりをかける。20代女性の繊細かつパーソナルな感情が丁寧に描かれる。対話を通じて相手の考え方を推し測り、その差異を尊重し合う二人の関係が心地よい。

(は)
 
<DATA>
■2025年しずおか連詩の会
会場: グランシップ 11階会議ホール・風
住所:静岡市駿河区東静岡2-3-1
入場料:一般1500円、子ども・学生1000円(28歳以下の学生)※未就学児入場不可
日時:11月9日(日)午後2時開演
問い合わせ:054-289-9000(グランシップチケットセンター)

■水沢なおさんトークイベント
会場:HiBARI BOOKS & COFFEE ひばりブックス
住所:静岡市葵区鷹匠3丁目5-15 第一ふじのビル1階 
参加費:1000円(1ドリンク付き)
日時:10月25日(土)午後6時~7時半
出演:水沢なお  
聞き手:橋爪充(静岡新聞社論説委員)
共催:静岡新聞社編集局教育文化部
▼参加申し込み
電話 054(295)7330
メール:info@hibari-books.com
インスタグラムメッセージ:@hibari_books

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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