
【萩原朔太郎賞と静岡】静岡は現代詩王国だった!? 受賞者の多くを輩出する「しずおか連詩の会」とは

(山田)今日は文学ですね。萩原朔太郎賞を取り上げます。
(橋爪)萩原朔太郎は昨年が没後80年。昨年秋から今年の年明けにかけて焼津市の小泉八雲記念館など全国52ヵ所の文学館や記念館が企画展を実施しました。朔太郎の故郷・前橋市などが主催する萩原朔太郎賞は現代詩の賞としては屈指の権威を誇ります。これが静岡県と大いに関わりがあるんです。
(山田)どういうことかお話しいただけますか。
(橋爪)萩原朔太郎は教科書に載っている詩人で、明治19年に前橋市で生まれています。口語自由詩、つまり普段使う言葉で現代詩を作るという流れの一番最初になった人だとされ、日本近代詩の父と言われています。
(山田)日本近代詩の父ですか。
(橋爪)「月に吠える」や「青猫」という詩集が有名です。前橋市などは1992年に萩原朔太郎賞を制定し、その年に一番優れた詩集に対して賞を送っています。8月1日が基準日で、翌年の7月31日までに発表された現代詩集の中から選んでいます。
31回目の今年は9月1日に発表になりました。最終審査に6作品が選ばれていましたが、そのうちの5つが静岡と関わりがあったんです。受賞したのは長野県出身の詩人、杉本真維子さんの「皆神山」ですが、この方も実は静岡に関わりがあるんです。
萩原朔太郎賞 直近6回中5回が“静岡県勢”
(山田)どういう関わり方があるんですか。(橋爪)6人中、2人は静岡で生まれたり住んでいたりします。1人は熱海市在住の巻上公一さん。もう1人は長泉町出身の水沢なおさん。残り3人は杉本真維子さん、暁方ミセイさん、文月悠光さん。この3人はいずれも女性なんですが、静岡県内で毎年秋に行われている現代詩のイベント「しずおか連詩の会」に複数回参加されています。
水沢さん、巻上さんもしずおか連詩の会に参加されたことがあります。今年の萩原朔太郎賞の候補者6人のうち、5人が参加しているしずおか連詩の会は、静岡が誇る文芸だと私は思っています。日本の現代詩の世界をこの会がリードしていると言えるのではないでしょうか。
(山田)すごいですね。しずおか連詩の会というものがあることを知りませんでした。萩原朔太郎賞というのは基本的にプロの方が対象になるんですか。
(橋爪)新人の登竜門という位置づけとしては中原中也賞があるんですが、萩原朔太郎賞は詩人としての実績がある方がノミネートされることが多いですね。静岡との関わりで言えば、2017年以降、今回の杉本さんを含めて6回中5回はしずおか連詩の会の参加者が受賞しています。
(山田)へえー。ほぼしずおか連詩の会のメンバーが受賞していると言っても過言ではないですね。
(橋爪)こうなると、しずおか連詩の会について説明しなくてはいけないですね。
(山田)はい、お願いします。
連詩とヒップホップには共通点があった?

(橋爪)2017年に亡くなった大岡信さんという三島市出身の詩人が故郷の静岡県で連詩というものを広めようと始めたイベントです。
日本には古くから伝わる連歌や連句というものがあります。一種の遊びみたいなもので、座を組んで、人が作った歌や句に対して別の人が自分の歌や句をつなげる、それを受けてまた別の人が関連づけて作品を作るという流れをぐるぐると回していきます。連詩も同じような手法で作ります。
(山田)ヒップホップとかでもよくありますよね。ラップでこの韻を踏んでとか、このワード使ってとか。
(橋爪)円になって行うサイファーですね。考えてみたら、連詩はサイファーの古典版という感じかもしれないですね。
しずおか連詩の会は1999年から毎年秋に、詩人5人を静岡に招き、40編からなる連詩を作っています。今年も24回目が11月に行われます。出来上がった40編は静岡新聞にドーンと載ります。毎年楽しみにしてくださる方も多いです。
連詩はヨーロッパでも行われていて世界中で知られている言葉ではあるんですが、これだけ本格的にやっているのはしずおか連詩の会だけと言ってもいいと思います。
しずおか連詩の会 今年は三島で11月に開催
(山田)今日は1冊本を持ってきてくれていますが。(橋爪)今年のしずおか連詩の会は三島市で行われます。11月9、10、11の3日間かけて、5人の詩人が40編作り、12日に発表会があります。発表会ではお客さんを入れて、作者が朗読して披露します。今年は野村喜和夫さん、田原さん、岡野大嗣さん、文月悠光さん、小野絵里華さんの5人が参加しますが、私の注目は文月悠光さん。今日持ってきたのは今年の萩原朔太郎賞の候補になった彼女の詩集「パラレルワールドのようなもの」です。
文月さんは若い頃から活躍されていて、16歳で現代詩手帖賞を受賞しています。高校3年生のときに出した「適切な世界の適切ならざる私」という詩集が中原中也賞を取っています。
10年ほど前にしずおか連詩の会に初めて参加したときは、まだ早稲田大学の学生でした。そのときから年齢も実績も重ねて参加されるので楽しみです。
(山田)文月さんの作品を何か一つ紹介していただけないですか。
(橋爪)第4詩集の「パラレルワールドのようなもの」は、自ら血を流してるというような感じがする一方で、血を流してる様子が言葉を通じてすごく力強く感じるというマジックがあるんです。文月さんがいかに言葉というものに対して信頼を置いてるかということがこの1冊を読むとよくわかるなという印象です。自分とか他人よりも言葉を信じてるんだと感じます。本当に好きな詩が多いんですけれども、今日は最後にある一節を朗読させてもらおうと思います。
「あなたの『つまらないこと』を教えて。/当たり前でつまらないことに気づくまでの/懸命な愚かさを/わたしは決して笑わないから。」 <「パラレルワールドのようなもの」(思潮社)より>
(山田)面白いですね。
(橋爪)言葉に対してのすごい執着を感じるいい詩集だと思います。ぜひ、手に取っていただきたいですね。しずおか連詩の会も11月12日に発表会があるので、足を運んでいただければと思います。
(山田)ありがとうございました。今日の勉強はこれでおしまい!
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