【「2024年しずおか連詩の会」参加詩人から① 佐藤文香さん「渡す手」】 ずっと眺めている

静岡新聞論説委員がお届けするアート&カルチャーに関するコラム。「2024年しずおか連詩の会」(11月3日に発表会)の参加詩人の作品を紹介する不定期連載を始めます。第1回は詩人佐藤文香さんの第29回中原中也賞受賞作「渡す手」(思潮社)を題材に。
夏の夜の街灯。地下鉄半蔵門線を待つ駅のホーム。マンションのエレベーターホール。世界を大股に駆けるのではなく、近傍をゆっくりと歩き、ある一点に視線を注ぐ。そのまなざしがストンと言葉になっている。
 
岸辺に伏せて置かれたボートの、淡水に褪せた青のペンキは、図鑑の翼竜の色
(「親友」から)
 
何気ない景色の、どうということのないものたちのありようが、佐藤さんの体を通して言語化されると、違ったものに見えてくる。佐藤さんのレンズの「引き」と「寄り」の精度が高いからだと思う。
 
つかまり立ちで見る
景色の小皺に
うっすらと狂う
しじみ蝶と しじみ蝶
公演後の生徒が
化粧を落としながら
声色を 戻す
(「森と酢漿」から)
 
ズームアップ、ズームイン。寄せたり引いたりをシームレスに行う手際の良さ。詩集全体に漂う親密な雰囲気は、場面をパキッと切り取ろうとせず「ずっと眺めている」かのような、作者の態度によるものだろう。(は)
 
<DATA>
■2024年しずおか連詩の会
会場: グランシップ 11階会議ホール・風
住所:静岡市駿河区東静岡2-3-1
入場料:一般1500円、子ども・学生1000円(28歳以下の学生)
日時:11月3日(日・祝)午後2時開演
問い合わせ:054-289-9000(グランシップチケットセンター)

静岡新聞の論説委員が、静岡県に関係する文化芸術、ポップカルチャーをキュレーション。ショートレビュー、表現者へのインタビューを通じて、アートを巡る対話の糸口をつくります。

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