静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。「2025年しずおか連詩の会」(11月9日に発表会)の参加詩人の作品を不定期連載で紹介する。第4回は野村喜和夫さんと鈴村和成さんの共著「金子光晴デュオの旅」(未来社)。

かなりユニークなつくりの書物である。2013年12月初版発行。しずおか連詩の会で長年さばき手(まとめ役)を務める野村さん、文芸評論家で詩人の鈴村和成さん(元横浜市立大教授)の往復書簡が本になった。ように見えるが、ちょっと違う。
二人は戦前から戦後にかけて活躍した詩人金子光晴の、日本国外の旅の軌跡をたどる。インドシナ半島、中国、パリ、ベルギー…。二人の間に1冊のノートが介在する。
旅先で一人が書く。次にもう一人が書く。鈴村さんはS、野村さんはNの署名。旅先のドキュメンタリー、光晴の作品と目の前に広がる風景を重ねての考察が主体だが、光晴の詩も引用する。自作の詩に発展することもある。往復書簡の形式を使って、光晴の作品にまつわる全てを詰め込もうとする試みである。
光晴の「マレー蘭印紀行」をベースに、シンガポールを起点に旅立つ二人。すぐ隣にいる人と「往復書簡」を交わすのは、どんな気分だったろう。マレーシアのバトゥ・パハで光晴の常宿を探り当てた時の、詩人二人の静かな興奮がほほ笑ましい。
午後四時過ぎ、バトゥ・パハ着。(中略)まったく、なんの変哲もない田舎町だ。だが私たちにとっては、特別な場所、今回の旅の最終にして最大の目的地、いわばほとんど聖地にもひとしい街なのだ。この落差にわれながら驚く。(N=野村さんの記述から)
旅日記であり、金子光晴に関する批評集であり、優れた詩人の研ぎ澄まされた言葉が味わえる詩集であり。一冊の中に世界が幾重にも折りたたまれている。
(は)
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■「2025年しずおか連詩の会」発表会
出演:野村喜和夫(詩人)、川口晴美(詩人)、水沢なお(詩人)、星野智幸(小説家)、環ROY(ラッパー)
会場: グランシップ 11階会議ホール・風
住所:静岡市駿河区東静岡2-3-1
入場料:一般1500円、子ども・学生1000円(28歳以下の学生)※未就学児入場不可
日時:11月9日(日)午後2時開演
問い合わせ:054-289-9000(グランシップチケットセンター)




































































