【2023年静岡書店大賞の受賞作予想】昨年に続き今年も“静岡シフト”? 静岡新聞の記者イチ推しの3作品とは。注目の発表は12月5日!
書店員と図書館員による投票の一発勝負!
(橋爪)きょうは静岡書店大賞の話題について取り上げます。静岡県内の書店員434人、図書館員171人が決める第11回静岡書店大賞の規定4部門の受賞作が12月5日に発表されます。当日は4年ぶりに静岡市内のホテルで授賞式が行われ、受賞作家が出席、県内の書店関係者らが集まって大商談会も開かれます。(井手)このニュースのポイントはなんですか。
(橋爪)まずは静岡書店大賞の概要を説明しますね。県内の書店員と図書館員が投票で選ぶ賞です。人気作家の新刊を巡っては「図書館が次から次へとベストセラーを貸し出すから書店の売上が落ちる」というような議論があって、書店と図書館は対立する構図だと言われることもあります。
(井手)それは知らなかったです。
(橋爪)その書店と図書館がタッグを組んでるというのがポイントで、全国的にも珍しい座組のイベントなんです。2012年に始まり、今年が11回目。全部で4部門あります。
(井手)どんな部門があるんですか。
(橋爪)小説部門、映像化したい文庫部門、児童書新作部門、児童書名作部門があり、今回は2022年の9月1日から2023年の8月31日までに刊行された日本の小説、文庫、児童書が対象になります。選考委員会が合議で選ぶという形ではなく、書店員と図書館員の投票だけで決めます。一次選考とかもなく、一発勝負です。
(井手)そうなんですね。これが1番だと思った人が多い作品が大賞に選ばれるんですね。
(橋爪)だから、書店員や図書館員といった「本のプロ」が「これぞナンバーワン」と思った作品が選ばれるので、まさにその年の「顔」という感じになります。
(井手)質の高い作品が多そうですね。
(橋爪)書店員や図書館員が読んで面白いと感じた作品が選ばれるので、一般の人が読んでも面白く感じるだろうという信頼があります。受賞作は投票にも参加した県内の130書店、40の図書館でフェアを行うので、一般の方々の目に触れる機会が多くなります。その点でもすごく意義があるイベントです。
2022年は静岡県関係者が3部門で受賞
(橋爪)第10回の記念すべき年だった昨年を振り返ると、小説部門では富士宮市出身の横関大さんの「忍者に結婚は難しい」(講談社)が大賞を受賞しました。この作品はその後、今年1月にテレビドラマ化されています。文庫部門では浜松市在住のいぬじゅんさんの「この恋が、かなうなら」(集英社)、児童書新作部門の1位は浜松市出身の鈴木のりたけさんの「大ピンチずかん」(小学館)でした。
(井手)鈴木のりたけさんは昨年取材しました。「大ピンチずかん」はイラストがすごくかわいくて、大人も共感できるような、子供時代にやったような大ピンチや失敗を面白く書いてますよね。未だに根強い人気があるようで、2作目が出るというニュースも聞きました。
(橋爪)絵本は持続力がありますからね。もう1つの児童書名作部門はウクライナ民話の「てぶくろ」(福音館書店)でした。
これを踏まえて、私が今年の小説部門の受賞作を勝手に予想しようと思います。
(井手)すごい!読書家なんですか。
(橋爪)なかなかそれは答えにくい質問ですね(笑)一通りは読んでいると個人的には思っていますが、上には上がいるので…。
(井手)期待しますよ。ぜひ教えてください。
救済とは何かを描いた歴史もの「パピヨン」
(橋爪)昨年は3部門で静岡県ゆかりの作家がトップを占めました。今年も静岡県に関係する作品が選ばれるのではないかと予測しています。そうした「静岡シフト」という観点で3つほど候補作を挙げてみます。1冊目は川越宗一さんの「パシヨン」。2021年7月から2022年7月まで静岡新聞朝刊で連載した歴史ものです。川越さんは大好きな作家なんですが、「パシヨン」は発刊後、8月に第18回中央公論文芸賞を受賞しています。そういう意味でも高い評価を得ている作品です。
内容は、戦国時代から江戸時代の日本のキリスト教徒の苦難と救済を描いています。キリシタン大名の子孫で、渡欧してキリスト教の司祭となる小西マンショ彦七が主人公です。敵役として描かれるのが、キリスト教徒を徹底的に弾圧する江戸幕府の目付井上政重。井上は本当に極悪非道な人物で、川越さん、よくぞ生み出したなと思います。
そういえば、井手さんは長崎のご出身でしたよね。
(井手)そうなんです。ちょっと読んでみたいですね。
(橋爪)長崎、島原などがいっぱい出てくるのでぜひ読んでいただきたいですね。
反政府活動と国家権力の対立というのは、小説の中でよくモチーフとして描かれる構図なんですが、この作品は宗教を超えた、生きる上での「救済とは何か」というテーマを乗っけています。全く価値観の違う2人が、クライマックスで対峙するんですが…なんというか、とにかく泣けます。
(井手)なんか今の社会問題にも照らし合わせて深いものを感じそうですね。
(橋爪)どこまで人と人がわかり合えるのかというテーマがうかがえます。さて、次に行きますね。
(井手)お願いします。
主人公が魅力の「成瀬は天下を取りにいく」
(橋爪)2冊目は、宮島未奈さんの「成瀬は天下を取りにいく」です。宮島さんは富士市出身。京都大文学部を経て、現在は滋賀県内にお住まいです。この作品は春に発刊されたデビュー作なんですが、とにかく評判がいい。今年7月に島田市出身の永井紗耶子さんの「木挽町のあだ討ち」が第169回直木賞に選ばれているんですが、「成瀬…」はノミネート5作に入ってくるんじゃないかという予想もあったほどです。
(井手)それぐらいの名作ということなんですね。
(橋爪)実際に作品は売れていて、書籍と電子書籍を合わせて発行部数は10万部を突破しています。先日、来年1月の続編発売も発表されました。
ジャンル的には「青春小説」です。6編の短編小説が収録されています。地方都市の何気ない日常を描いているんですが、とにかく、この小説の魅力は主人公の成瀬あかりのキャラクター造形に尽きます。かなり変わった人なんです。
(井手)主人公のキャラクターに引き込まれていくということですか。
(橋爪)主人公が自由に動き回っているのを読んでいるだけで楽しいです。
(井手)なんか表紙絵ではライオンズのユニフォームを着てますね。
(橋爪)そうなんですよ。第1編の作品から取ったイラストの表紙なんですけど、閉店する西武百貨店の前に夏休み中毎日通い続けるという話なんです。
(井手)ちょっと面白そうな主人公ですね。
(橋爪)この成瀬の「成瀬あかり史」を見届けたいと願って、付いて回るのが幼馴染の島崎みゆき。2人で漫才コンビを組むというのが大きな筋書きです。お互いを勇気づけるというようなことを全くしない。いわば「脱力系」です。
(井手)いいですね。今の時代にフィットするかも。
(橋爪)でも、だんだんお互いの「かけがえのなさ」に気づいていくというストーリーです。最終話、夏祭りで漫才をする場面があるんですが…泣きました。
「町田節」が光る「口訳 古事記」
3冊目は町田康さんの「口訳 古事記」です。町田さんは2006年から熱海市にお住まいです。「古事記」はご存じ日本最古の歴史書ですが、現代語に口語訳されています。古事記は神話集なんです。イザナキノミコトとかスサノオノミコトとかオオクニヌシノミコトとかが出てきて、仁徳天皇の崩御で話が終わります。とにかく、セリフが「町田節」で書かれていて、神様たちのガラが悪いんです(笑)
(井手)独自の解釈になっているんでしょうか。
(橋爪)独自の解釈と言いつつも、実は古事記に出てくる神様もみんな素行が悪いんです。暴れたり、兄弟げんかしたり、人をイジメたり。古事記に書いてあることに忠実なんですが、セリフはチンピラみたいな感じです。「マジすか」「まだ話、終わってへんがな」「さっさと国、譲らんかい」などと喋っています。
古典の古事記を読むのは少し難しいかもしれないですが、町田さんの作品は独特の文体で非常にテンポがいい。470ページほどありますが、ぐいぐい読めてすごく元気になります。
(井手)その表現方法が魅力的なんですね。さて、今ご紹介いただいた3作品が大賞に選ばれるかどうか。
(橋爪)それは誰も分からない(笑)。私は3人ともインタビューしたことがあります。いずれも思い入れのある作品なので、ぜひ、受賞してほしいですね。12月5日の発表を自分も楽しみに待ちたいと思います。
(井手)まもなくですね。とても楽しみです。今日の勉強はこれでおしまい!
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