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【ちゃっきり節の誕生秘話】ちゃっきり節は民謡なのか?作詞者の北原白秋はなぜ静岡弁を知っていたのか?静岡新聞の記者が取材ノートを紐解きます!

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「ちゃっきり節の誕生秘話」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2024年5月15日放送)

(山田)今日は民謡の話ということですが。

(橋爪)まず前提として少し静岡新聞の紹介をします。4月に少しだけ紙面の刷新をしました。昨年4月、日曜日に「教育」面を新設しているんですが、今回のリニューアルでは同じ日曜日に「学び」面を設けています。

「教育」面は「小中高校、大学の教室」で何が起こっているのか、を中心に深く掘り下げて取り上げることを旨としていますが、「学び」面は学齢期であるかどうかを問わず、幅広い年代の人をターゲットにして「静岡を学ぶ」「新聞で学ぶ」をコンセプトにした記事作りを考えています。

(山田)なるほど。「教育文化部」ですもんね。

(橋爪)この面の毎月第2週に「地域のうた」と題して、県内各地で歌い継がれる曲の起源と現況をお伝えすることを始めました。ちょうど4、5月の2回分で「ちゃっきり節」を取り上げましたので、取材ノートをめくりながらいろいろと話をしていきたいと思います。ちょうど一番茶の摘み取りのシーズンでもありますので。

(山田)ちゃっきり節!

(橋爪)山田さん、ちゃっきり節は知ってますか。

(山田)当然知ってますよ。多分、僕は人より聴いてる方だと思います。静岡まつりのステージの司会を毎年やっているので、そこでちゃっきり節を歌って踊ってということをやってますから。

(橋爪)生粋の静岡っ子ですね。それでは聞きますね。ちゃっきり節は民謡でしょうか、そうではないでしょうか。

(山田)ちょっと待ってくださいね。比較的新しいと思うんですよね…。民謡じゃない!

(橋爪)こうやって聞くからには民謡じゃないということになりますよね(笑)。私が愛用する三省堂「新明解国語辞典」によると、民謡は「民衆の中から生まれ、民衆の生活・感情をうたって伝えられてきた歌」だそうです。なので、厳密に言うとちゃっきり節は「民謡」ではありません。

(山田)誰かが「作ろう」と言って作った歌ということですか。

ちゃっきり節は静岡電鉄のPRソングだった!

(橋爪)そうですね。ちゃっきり節は1927年、静岡電鉄、今の静岡鉄道が沿線開発の一環として整備した「狐ケ崎遊園」(後の狐ケ崎ヤングランド)の開園を記念して作ったものです。つまり企業のPRソングなんです。

(山田)そうだ!思い出した。

(橋爪)ただ、新明解には「広義では」というただし書きで「大正・昭和初期にかけて大量に作られた、いわゆる『新民謡も含む』」とあるんです。1927年は昭和2年ですから、この頃に作られた企業や自治体の依頼を受けた「ご当地ソング」「PRソング」と言われる新民謡の一群にちゃっきり節も含まれるという考え方もできるんですよ。だから、ちゃっきり節は民謡に位置づけても差し支えないとも言えますね。

(山田)なるほど。

(橋爪)実際、今回の取材で東京にある日本民謡協会に取材したら、全国には「『○○小唄』『○○音頭』などという市町村や観光地の宣伝目的で作られた『民謡』は多数存在している」ということでした。歌謡曲として作られた歌が、地域性や物語性で「民謡」として扱われた例もあるということで、日本民謡協会的にはちゃっきり節もその一類型だとおっしゃってました。 

さて、山田さんに2つ目の問いです。ちゃっきり節、歌えますか。

(山田)歌えまーす。

(橋爪)全部歌えます。

(山田)全部?

(橋爪)つまり、ちゃっきり節は何番まであるでしょうかということなんですが。

(山田)ひとまず歌っていいですか。♪唄はちゃっきりぶーし、男は次郎長、ちゃんちゃちゃんちゃん、ちゃんちゃん、ちゃんちゃ…♪

(橋爪)もういいですか(笑)。

(山田)すいません(笑)。

(橋爪)予想として何番まであると思いますか。

(山田)長めですね…。5番!

「男は次郎長」だけではない!実は30番まで続く

(橋爪)答えは30番。

(山田)うそー。

(橋爪)原本には「全30節」とあります。多くの方は1番しかなじみがないと思いますが。歌詞を見ると、静岡だけじゃなくて、焼津や清水の三保も出てきます。個人的な話で恐縮なんですが、自分が1番好きなのは27番です。ちょっと読み上げますね。

 なにをぼったってる、
 吐月峯か、おぬし、
 とんと煙管で、
 云なにや煙管で、
 はたいたろ。
 ちやっきり ちやっきり ちやっきりよ、
 きやァるがなくんて 雨づらよ

吐月峯って、静岡にお住まいの方はご存じだと思いますが、静岡市の丸子にある山の名前です。この山の竹で灰吹き、今で言う灰皿みたいなものを作ったことから、この灰吹きのことを吐月峯と言うようになったんです。歌詞にはその後に「煙管(キセル)」が出てきます。なので、丸子の風景を唄の中でたばこネタに変化させてるんです。

(山田)へえー。

(橋爪)ちょっと言い忘れましたけど、ちゃっきり節を作詞したのは北原白秋です。

(山田)超大物!

(橋爪)ですから、非常に大きなテクニックを使っていて、最終的には「煙管」でぼーっと立っている人物を「はたいたろ」と言ってます。

(山田)ぼーっとしてるんじゃないよ、と。

(橋爪)そうです。だからよほどイライラしたのかなということが想像できます。もう一つ疑問があって、東京から来た北原白秋が「ぼったってる」なんて言葉をよく知っていたなと。

(山田)静岡弁ですよね。

作詞のきっかけは芸妓さんのつぶやき

(橋爪)ぼーとして立っているという意味ですが、静岡弁のはずです。白秋は静岡電鉄の招きで1927年に静岡にやってきたんですが、最初のうちは歌詞を作る気配が全然なくて、しばらくは浮月楼などで酒を飲んで踊って遊んでいたんだそうです。ですが、ある日、地元の芸妓さんが2階の障子を開けながら「きやァるがなくんて、雨づらよ」とつぶやいたことを耳にとめ、歌詞を書き出したそうです。

(山田)そこから30番までずっと書いたと。

(橋爪)だから、白秋の作詞は地元の芸妓をはじめ、さまざまな酒の付き合いで話をした人たちの言葉がヒントになって出来上がっているということです。

(山田)「雨づらよ」というのも静岡弁じゃないですか。以前、ラジオパーソナリティーの中村こずえさんが、東京出身なのでこの「づら」がわからなくて、「雨に濡れた顔という意味だと思っていたら静岡弁なんだってね」と話されていたのを覚えてますよ。

(橋爪)なるほど。これは静岡弁ですよね。

(山田)白秋は静岡弁もちゃんと取り入れて作ったわけですね。

(橋爪)そうなんですよ。「ちゃっきりちゃっきりちゃっきり」は何の音かわかりますか。

(山田)リズムだと思ってました。

(橋爪)これは茶ばさみの音だとされています。

(山田)そういうことなんだ。

(橋爪)茶史の研究で知られる中村羊一郎・前静岡市歴史博物館長に取材したんですが、「福岡・柳川出身の白秋は、地元にも茶産地があり、全国の茶摘み歌を耳にしていた。そんな彼にとって、効率を旨として手摘みに変わって普及し始めていた茶ばさみの音は新鮮だったので擬音として使ったんじゃないか」と言っています。

(山田)知らなかった。茶を切るはさみの音。知らないことが多いですね。

(橋爪)ちゃっきり節が歌い継がれているという意味で言うと、「ちゃっきり節日本一全国大会」というものが1988年から毎年行われています。私も取材に行ったことがありますが、ご存知ですよね?

(山田)以前、この大会に出た方が番組に出てくれました。

(橋爪)素晴らしい。この大会は最盛期は全国から150人がエントリーしていたらしいのですが、全員がちゃっきり節だけを歌うコンテストです。

(山田)ちゃっきり節好きからしたらもう堪らない。

チャンピオンが伝授する歌い方のコツとは?


(橋爪)昨年の第33回は、史上2人目の男性チャンピオンが誕生しました。千葉県浦安市の大塚有朗さんという方です。うまく歌う秘訣を聞いたら、「がならず、色気を出しながら高い音を柔らかく歌う」とおっしゃっていました。 

(山田)色気を出しながら?

(橋爪)「夏はたちばな」で裏声に切り替えるところです。そこのひっくり返り方が男性だとちょっとわざとらしく聞こえてしまうので不利だとおっしゃってました。

(山田)♪夏はたーちーばーぁな♪…。駄目ですね。難しいな(笑)。

(橋爪)ちゃっきり節は2027年に、作られてからちょうど100年になります。静岡鉄道は60周年や80周年のときにお祝いの集いのようなことをしているので、今度もきっと何かやるんじゃないでしょうか。

(山田)何かあるかも知れない⁉

(橋爪)こういう100年歌い継がれる曲はそうないと思います。われわれも当事者ですから、山田さんみたいにうまく歌えないかもしれませんけど(笑)、人が歌うのを聞いたり自分なりにつぶやいたりして孫、子の世代に受け継いでいけたらいいなと思います。

(山田)ちょっと気になるのは、浜松や沼津、伊豆の方がちゃっきり節をどれぐらい知っているのかなということなんですよね。

(橋爪)実はちゃっきり節はレコードやラジオを通じて全国に広まったという歴史があります。なので、静岡県外の方にもよく知られています。

(山田)だから千葉の方とかも歌えるのかぁ。

(橋爪)静岡市周辺の歌ではありますが、おそらく浜松の方も、県東部の方も割とよく耳にしていて、どういう歌かということを理解しているのではないかと想像しています。

(山田)いや、知らなかった。30番までって驚きですし、歌詞を読むだけでも面白いですね。

(橋爪)そうですね北原白秋さんの、さすが筆が冴え渡るという感じでした。

(山田)2027年が100周年ということで、静岡人としてはこれからもちゃっきり節を歌い継ぎたいですね。今日の勉強はこれでおしまい!

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