音楽の都・ウィーンで劇場文化を支える!! 富士市出身のバイオリニスト中村真紀子さん(ウィーン・フォルクスオーパーの劇場専属管弦楽団、第1バイオリン副首席奏者)に会ってきました
みなさん、こんにちは!編集局紙面編集部の遠藤竜哉です。
本日は、音楽の都、オーストリア・ウィーンで、現地オーケストラの一員として本場の劇場文化を支えている富士市出身のバイオリニスト中村真紀子さん(45)のインタビューをお届けします。
夏季帰省に合わせて同市内でお目にかかり、ウィーンでの暮らしや演奏活動などについて聞きました。
劇場に専属するオーケストラ団員の生活ぶりや、音楽に対する向き合い方など、滅多に聞けない内容だと思います。
じっくりお楽しみください!
ウィーンを代表する世界屈指の劇場「フォルクスオーパー」
中村さんが所属するのは、世界屈指の劇場とされる「ウィーン・フォルクスオーパー」の専属管弦楽団。「フォルクスオーパー」は「国民劇場」と訳され、代名詞となっているオペレッタ、オペラのほかに、バレエやミュージカルの公演などを行っています。国立歌劇場と並ぶ、ウィーンを代表する劇場なのです!
バイオリニスト中村さんって、どんな方?
中村さんは、静岡県学生音楽コンクール第1位。東京芸術大付属高をへて同大を卒業。ウィーン国立音大留学中だった2005年に同管弦楽団へ入団しました。12年からは、音楽的なリーダーである第1バイオリンの副首席奏者を務めていらっしゃいます。
県外・海外での生活が、地元富士市で過ごした期間よりすでに長くなっていますが、根からの静岡っ子。「オーストリアは海がないので、日本ほど魚介類が身近ではありません。新鮮な魚やシラスが恋しくなります」とのこと。
帰国するたびに楽しみなのが食事だそうで、ウィーンに戻る際は、乾物や調味料をトランクに詰め込むとか!
劇場専属オケの知られざるスケジュール
同管弦楽団は団員約100人。劇場は9月〜翌年6月(10カ月)がシーズンで、ほぼ毎日、違うプログラムで公演を行っているそうです。年間30作品を上演します。指揮者とオーケストラを意思疎通するコンサートマスターを補佐し、さらに団員との橋渡しを担うのが、副首席の中村さんです。
「1カ月のうち、3分の2は本番」というハードスケジュールをこなしつつ、オーストリア人の夫とともに、8歳の娘さんを育てていらっしゃいます。
入団1年目は「冷や汗をかいた」ことも
そんな中村さんも「入団1年目は大変だった」と振り返ります。なにせ、ヨハン・シュトラウスの喜歌劇「こうもり」や、モーツァルトの歌劇「魔笛」などの定番レパートリーは、全団員が熟知していて、いつでも本番を迎えられる前提なんだとか…!!
「プレミエ」と呼ばれる新演出の場合を除き、基本的には特別な練習がなく、ぶっつけ本番。
「冷や汗をかきながら弾いたこともありました」とのこと。
ひえ〜!びっくりです。
恒例の日本ツアーが復活しました
団員で構成するオーケストラによる年末年始の日本ツアーが恒例となっています。ヨハン・シュトラウスなどの本場のウィンナ・ワルツを日本で披露してくれる、大人気のコンサートです。ご存知の方もいらっしゃるでしょう!新型コロナウイルス禍で来日は2年中断したものの、昨年末のジルベスターコンサート、今年のニューイヤーコンサートから再開。今年の年末から来年の年始にかけて、再び東京などで公演を予定しているそうですよ!!
華やかなウィーンの文化を象徴するオペレッタやワルツ、ポルカなどを「本当にワクワクする音楽」と中村さんは表現します。
「クラシック音楽がもっと身近になればいい。劇場が近くにあって、気軽に行けるからこそ文化になっていくのだと思う」と中村さんは言います。
かつて、富士市のアマチュアオーケストラなどとも共演したことがあり、「また地元静岡での演奏機会が増えればうれしい」と期待しているそうです。
中村さんに素朴な疑問をぶつけてみました(Q&A)
さて、もっと突っ込んだ内容を知りたい!という方もいらっしゃると思いますので、ここからは「Q&A」形式でインタビュー内容を補足していきます。Q1:ウィーン・フォルクスオーパー。どんな劇場か、もう少し詳しくお願いします。
フォルクスオーパーというのは「民衆のための劇場」という意味なんです。
ウィーンには、シュターツオーパー(国立歌劇場)とフォルクスオーパーという二つの劇場があります。シュターツオーパーはオペラ(歌劇)が中心。一方で、フォルクスオーパーは、オペラに加え、オペレッタ(喜歌劇)、バレエ、ミュージカルの4本柱で、年間30作品を上演しています。
9月から翌年6月まで10カ月間のシーズン中は、毎晩違うプログラムで、何かしらを上演しています。シーズン中で劇場が閉まるのは12月24日と、イースター期間中の計2日だけです。
Q2:どんなスケジュールで仕事をしていますか。
例えば「きょう弾いた曲が次に来るのは、来週または来月」といった感じでプログラムが組まれています。
劇場の専属管弦楽団の団員は100人ぐらいで、全員が全てのレパートリーを演奏できるように準備しています。演奏する曲の編成に応じてシフトを組んでおり、私の場合、1カ月のうち3分の2ぐらいは夜に本番があります。
Q3:それだけ忙しくて、オケはいつ練習しているのですか?
主に午前中です。スタンダードなケースとしては、午前10時〜午後1時に練習して、午後はお休み、夜7時から本番。午前に練習した曲と、夜の本番は別の曲です。
例えば、モーツアルトの歌劇「魔笛」とか、ヨハン・シュトラウスの喜歌劇「こうもり」など、定番のレパートリーは練習なしでも演奏することができます。
Q4:夜に「こうもり」の本番があるとしても、昼間は別の日に上演する他のレパートリーを練習している、というわけですね。
そういうことです。年間のレパートリー30作品のうち、10作品ぐらいが毎年新しくなっていて、20作品は前年から引き続いて演奏しています。シーズンが10カ月あり、新たに加わるレパートリーが10作品ですから、おおむね1カ月に1作品のペースで新しい曲や新演出が加わります。
Q5:第1バイオリン副首席奏者という役割は。
副首席は、コンサートマスター(首席奏者)の近くに座ってサポートしつつ、他のメンバーとの橋渡しのような役割を担います。私のオケではコンマスが3人いるのですが、新型コロナの感染拡大がひどい時期は、いろいろな事情が重なり3人とも練習に出られないというケースがありました。その時は私が代役を務めました。
Q6:フォルクスオーパーといえば、なんといっても楽しいオペレッタですよね。
実は、それだけではなく、いろいろなジャンルの公演を行っています。
オペラ、オペレッタ、バレエ、ミュージカルの4本柱と言いましたが、この前は(長大なオペラで知られる作曲家)ワーグナーの歌劇「さまよえるオランダ人」に取り組みました。子供向けミュージカル「オズの魔法使い」なども上演しました。
ブラームスの大曲「ドイツ・レクイエム」にバレエを付けた公演もありましたね。
バレエ用ではない曲に踊りを付けるケースは時々あるんですよ。
Q7:エネルギッシュな活動ですね。
このほかにも、日曜日の午前11時に開催する、子供のためのミュージカルなどにも力を入れています。ディズニーなどを題材に、映像も交え、休憩なしの1時間。演奏者としては夜にも通常の本番があるので、大変ですが…。園児向け、10歳前後向け、高校生向けなど、年齢層に合わせて別の作品を作っています。それから、学校のクラス単位で見てもらえる平日公演もやっています。
Q8:8歳の娘さんがいらっしゃいますが、やはり音楽教育を?
リコーダーを習っています。リコーダーというと、日本では学校で教わるイメージがありますが、ウィーンでは地区ごとに「ムジーク・シューレ」という公的な音楽教室があって、国や地方から補助が出るのか、割と安く楽器を学べます。
ギター、ピアノ、リコーダーが人気で、一番手軽なのがリコーダーというわけです。
Q9:フォルクスオーパーの劇場専属管弦楽団のメンバーで構成するオーケストラによる、年末年始の来日公演が恒例ですね。
日本公演を行うのは、専属管弦楽団のメンバーが自主的に運営するオーケストラなんです。ウィーン国立歌劇場管弦楽団のメンバーがウィーン・フィルを組織しているのと同じような構図ですね。
日本ツアーは団員に好まれていて、みんな参加したがるんですよ。すごく緻密に計画されているので、ツアー中のトラブルや想定外も少なく、快適なんです。
団員全員が参加できるわけではなくて、私が前回出演したのは4年前。
新型コロナ禍の前で、北海道から九州まで3週間ぐらいの大きなツアーでした。
今年の年末から来年の年始にかけて日本ツアーが予定されています。
私も久々に参加できればと思っています。
本県には、さまざまなキャリアを積んだ音楽家がいらっしゃいますね!
実は、音楽家として豊富に海外経験を積んだ本県出身者や本県関係者は多くいらっしゃいます。これからも、いろいろな方々を紹介していければと思っています。
長くなりましたが、最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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