静岡県の恵まれた音楽環境って、やっぱりすごいかも。相次いで訪れた世界的ピアニスト3人の演奏会に行ってきました!
編集局紙面編集部の遠藤竜哉です。
すっかり年末ムード!いかがお過ごしでしょうか。
クラシック音楽の世界は、秋のハイシーズンがひと段落し、各地で「第九」(ベートーヴェンの交響曲第9番)の演奏会が開催されていますね。
盛り上がりは静岡県内も同様!
私は、11月後半から12月前半にかけて県内を訪れた世界的ピアニスト3人のコンサートに足を運びました。聴いた方も多いと思いますので、少し振り返ってみます。
ウィーンの正統派、ティル・フェルナー
11月26日に静岡音楽館AOIに来演したのは、ウィーンの正統派ピアニスト、ティル・フェルナー。シューベルトの即興曲、ベートーヴェンのソナタ「ワルトシュタイン」に、モーツァルトやシェーンベルクの作品を交えた意欲的なプログラム。
一言で言って、絶品。時代や様式が全く異なる作品を、楽曲ゆかりの「ウィーン」という串でまとめ上げ、エレガントに聴かせた秀演でした。ピアノで母国語を話すような滑らかさは、どこを取っても自然体。まさしく珠玉の域だったと思います。
深く刺さった、アリス=紗良・オットの演奏
翌週には、世界的に大活躍の若手、アリス=紗良・オットがアクトシティ浜松を訪れました。
ショパンの「24の前奏曲 作品28」に、ピアニスト本人が深く影響を受けたという現代曲を織り込み、映像作品とコラボレーションした演奏会。
一般的なコンサートとは一味違い、アリスさんの人生観や価値観を提示し、観客と共有するような趣向。ショパンの楽曲が現代曲とよく馴染み、映像がそれらにさらなる奥行きを与えていました。作品が、聴き手の海馬から太古の記憶を取り出し、時空を繋げていくような不思議な感覚でした。
アリスさんは、約20年前に浜松国際ピアノアカデミーに参加した時の思い出として「あそこのラーメン屋さんに行ったなあ」なんて話も披露していて、親しみを感じた方も多いのではないでしょうか。
神の領域に踏み込んでいた、オラフソンのバッハ
さらに翌週、アクトシティを訪れたのがヴィキングル・オラフソン。アイスランドのピアニストで、彼のバッハは「グレン・グールド以来の衝撃」と評されています。浜松に先立つ、東京・札幌公演での大絶賛がSNSを通じて手元に届いていましたので、期待して演奏会に出かけました。
披露したのは、オラフソンの代名詞となりつつあるバッハの「ゴルトベルク変奏曲」。往年の鬼才グレン・グールドの演奏で親しんだ方も多いだろう、演奏時間80分にもなる大曲ですが、遠方からも詰め掛けた満員に近い聴衆は、微動だにせず固唾(かたず)を飲んで聞きました。
名演という次元を超え、この世の真理に迫るような、神がかっているとしか言いようのない演奏でした。まさしく「神の数式」を見るような感覚であり、その場を共有できたことが一生の宝になりました。
よほど好きな演奏家以外、サイン会に並ぶことはありませんが、今回は並びました。貧弱な英語で「信じられないほど美しいバッハでした」と伝えたら、キラキラした目で「ありがとう、ありがとう」と応じてもらい感動。私は単純なので、すっかりファンになりました。この天才には、凡人には分からない世界が見えているんだろうなと直感した次第です。私は現在、ゴルトベルクを含め彼のCD2点を愛聴していますが、この先別の録音にも幅を広げ、ずっと聴き続けると思います。
静岡の音楽環境、やっぱりすごいかも
このような世界的なピアニストを3週連続で聴ける環境って、すごいですよね。静岡や浜松は地方都市ではありますが、立派なホールと、招聘に尽力してくれるスタッフのお陰で、機会に恵まれていると思います。本当に感謝です。
さて、私の愛聴するオラフソンのCDを紹介します。
今回聴けなかった方も、きっと来年以降チャンスがあると思いますので、ぜひレコーディングで彼の演奏の素晴らしさに触れてみてください。
▼J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲
▼バッハ・ワークス-リワークス
では、また!
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