事業承継により国内唯一の織物技術を後世へ 株式会社そま工房/袋井
日本で唯一のアバカ布を使ったふすま紙の伝統織物工房
望月:今日は、袋井市にある株式会社そま工房を紹介します。そま工房は、日本国内で唯一、非常に希少な伝統技法を駆使して、アバカ布(芭蕉の糸)を使ったふすま紙の伝統織物を作っている工房です。今回なぜ紹介しようと思ったかというと、そま工房が事業承継をしたからです。
経済産業省のウェブサイトによると、事業承継とは会社の経営権を後継者に引き継ぐこと。近年、中小企業や小規模事業者の経営者の高齢化が進む中で、重要な経営課題になっています。中小企業の事業承継で最も多いのが親族内承継といい、子どもなどの親族が経営を引き継ぐことです。親族ではないが、経営者に近い立場で経営に携わってきた人が引き継ぐことを、従業員承継といいます。跡継ぎがいない場合、第三者承継といって後継者人材バンクなどがマッチングして、第三者に事業を引き継ぐという仕組みもあります。
そま工房の創業は50年以上前。最盛期、国内には同様の加工場が20軒近くありましたが、今では残っていません。そま工房は、今でも残っている貴重な工房です。
原口:なるほど。
望月:ふすま紙の表布となるアバカ布を作るには、芭蕉(バナナの仲間の植物)の木の繊維を、鉄のクシのようなものでほぐして、繊維を細くして糸に近いような状態にしたものを、産地のフィリピンから仕入れます。それをきちんと使える糸にして、横糸にして織ったものがアバカ布です。雲とか松が描いてあるような紙を想像すると思いますが、実際には夏用の着物のような光沢がある美しい布です。また、アバカはとても丈夫なのでお札の原料としても使われています。
布が出来上がると、反物にして京都の工場で加工されます。ほとんどが海外に出荷され、高級ホテルなどで壁紙として使用されるそうです。日本が誇るすばらしい織物だと感じました。原口さんも芭蕉の糸を触ってみてください。
写真提供:望月やすこさん
原口:(触ってみて)糸のようにも見えますが、ピンと貼っているわけでなく、質感が繊維ぽいですね。竹をものすごく割いた感じに似ていますね。
望月:実際に織っているところを見ましたが、機織り機がすごく年代物なんです。織った布に「砧(きぬた)加工」という独自のプレス加工をしますが、これも現在73歳の先代の社長が機械を自ら改造して作ったから国内唯一なんです。工夫してなんでもやってしまう人で、こういう人がいるから今日まで工場が生き残ったんです。伝統的な技工とオリジナルの技工、これは絶対引き継いでいくしかない、なくしたくないと思い、それで事業継承という話になるわけです。
原口:やっと戻ってきた。
希少な技術を継承
写真提供:望月やすこさん望月:そま工房は、無事に事業承継を終え、先代社長の長男のお嫁さんの伊藤和美さんが社長になりました。とっても意外な人選にびっくりでしょう。
私も実際にお会いしましたが、ものすごく温厚な方で、結婚してから20年ほど子育てをしながら、ずっと工房を手伝ってきたベテランです。先代社長の娘さんの乗松浩美さんよりもベテランで、息子さん2人は全く別の職業に就いています。だったらベテランの長男のお嫁さんが、代表取締役になってくれるのが一番いいのではないかと話がまとまったそうです。
ちなみに、家族間の話し合いだとなかなか話が進まないので、第三者の視点で商工会の人に入ってもらい、引き継ぎ方法を半年くらい話して決まったそうです。そしてその際に法人化したのが、一昨年の12月。今まで経理や書類仕事が大変でしたが、税理士が入るようになりました。また跡継ぎが決まったことで、先代社長の奥さんもホッとしています。先代社長も手が空いてのんびりしているのかと思ったら、手が空いた分、「負けてなるものか」とやる気にみなぎって頑張っているそうです。
そんなそま工房では現在求人を募集しています。くだまき(糸まき)から機織りまで布ができるまでの業務一般をやってくれる方を募集中です。初心者の人も大歓迎です。
原口:お問い合わせはそま工房、乗松浩美さんまでお電話ください。電話番号が0538-23-4771です。
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■株式会社 そま工房
住所:静岡県袋井市中新田343
TEL:0538-23-4771
会社情報
今回、お話をうかがったのは……望月やすこさん
静岡県内を中心に個人の撮影や取材撮影をするフリーカメラマン。撮影歴は20年以上。「人を笑顔にする撮影」と「面白いネタ探し」を得意とする。著書「子連れのタダビバ」シリーズ(静岡新聞社)では執筆も担当。ラジオ・テレビの出演など様々なメディアで活躍。公式ホームページ「フォーシーズン 望月やすこ」、インスタグラムもチェック。
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