家計に影響が!? 値上げがとまらない……
今年に入ってからも毎日のように値上げのニュースが続いています。しかも身近な食品や日用品、ガソリンなど、家計に大きく影響するものが上がっています。今回は、経済ジャーナリストの堀浩司さんに、SBSアナウンサー牧野克彦がお話をうかがいました。
牧野:昨年の秋も値上げに関してお話いただきましたが、ずっと値上げの流れが止まらないですね。
堀:あのときは、生鮮野菜なども値上がりしていましたね。生鮮野菜は上がったり下がったりして、ちゃんと落ち着くところに落ち着いています。ただ、他の食料品や日用品が上がり続けているのは困りますよね。
牧野:この流れはずっと続いていくのでしょうか。
堀:小麦、大豆などの穀物については、もともと世界的な需要の高まりがあって価格上昇傾向だったんです。そのなかで、昨年は異常気象で収穫が減ったことで価格が高騰し、日本でも食料品の値上げが続きました。近年の世界的な需要の高まりに対して、アメリカをはじめとする生産国は好機と捉えて作付面積を増やしていて、世界の供給が需要に追いつくにつれ、2022年の穀物相場の勢いが弱まるとみられていたんです。実際、高騰していた小麦の国際価格が、昨年の12月には1カ月ぶりの安値となっていました。
原油価格は、コロナ禍で一昨年は大きく落ち込んだのですが、昨年後半からは経済回復の兆しの中で価格が高騰していました。こちらも順調に経済回復すると価格高騰も落ち着くと予測され、本来は4月以降値上げの波も落ち着くとみられていたんです。
ロシアのウクライナ侵攻による影響は?
牧野:ところが、そんななかでのロシアによるウクライナ侵攻。その影響がでてきている部分もありますよね?堀:日本の対ロシア、ウクライナ貿易額比率を見てみると、ロシアは日本全体の輸出の0.9%、輸入は1.7%、ウクライナは0.08%ですから、直接的な影響はほとんどないんです。ですが、ロシアは原油や天然ガス、穀物の輸出国ですから、これらの供給がストップすると価格高騰が心配されます。ただロシアは経済制裁を受け経済状況が困難な状態にあるので、お金を儲ける唯一の残された手段、天然ガスや原油の輸出を自ら止めることはありえません。
牧野:この情勢が長引くと、ジリジリと間接的に日本にも影響がでてきたり、小麦の価格もすでに上がり始めているという報道もでていますよね。
堀:天然ガス、石油、穀物などは先物取引金融商品ですから、不安な国際情勢を利用して価格を引上げようとする投機的な動きがすでに始まっていて、値上げが始まっているんです。以前お話させていただいたと思うのですが、原油価格が過去最高値を記録したのが2008年リーマンショックの年。年初1バレル100ドルだったのが、半年後の7月に145ドルまで上がりました。ただ、驚くのはそれから半年後の12月末には7割も急落して40ドルとなったことで、もともと適正な価格などないのではないかと。投機マネーに翻弄されているというところですね。
牧野:1年のうちに1.5倍に上がって、そこから1/3くらいに下がってしまうことが過去にはあったわけですね。ちょっとこの先、まだ読めませんよね。
「悪い物価上昇」と「良い物価上昇」
牧野:「悪い物価上昇」という言葉がありますが、これはまさに今の状況を指しているのでしょうか?堀:「悪い物価上昇」というのは、今回の日本のように、原油や穀物といった国内で十分供給できない輸入品価格上昇による物価上昇です。これに対して「良い物価上昇」というのは、国内需要の拡大によって物価が上昇することを言います。ただ、ここで誤解してはいけないのが、私たち消費者にとっては「良い物価上昇」などないということなんです。
牧野:どちらにしても私たちのお財布が困っちゃうという状況ですからね。
堀:私たちの給料を増やすためには、経済の成長が必要です。つまり各企業の売上が増えることによって、私たちの給料も増えます。その結果として、私たちの懐が潤い消費が増えて、モノの値段も上がる。結果として物価が上がることはあり得ます。
牧野:アメリカはわりと給料も上がっていると聞きますが、そのあたりはいかがでしょうか?
堀:世界のなかで、アメリカの物価上昇が非常に目立つ状況です。アメリカの2021年12月の消費者物価指数は、前年同月比7.0%と39年ぶりの高さです 。大きな要因として、やはりコロナ禍からの経済回復が大きいわけですが、モノの消費水準はすでに新型コロナウイルス感染拡大前を大幅に上回っています。旺盛な需要にすでに供給が追いつかず、人手不足で賃金も上昇。日本と同じ物価上昇なのですが、アメリカの場合は「時間当たり賃金」では、前年同月比5.7%増と賃金引き上げを伴う上昇になっています。
牧野:日本の企業が同じようにしていくことは難しいのでしょうか?
堀:やはり、内部留保がたくさんあるので本当は還元して欲しいのですが、先の見通しがたたない状況なのでお金を貯めこんでいます。ですので、まずは政府が新しい需要を生み出して、先の明るさを示すことが重要。それに伴い、企業もちゃんと還元していってほしいと思います。
今回の値上げを見ていきますと、なかなか私たちの力では対抗できない、受入れざるを得ないのかなぁと弱気になってしまいます。しかし、値上げをしてもそれほど買い控えは生まれないという状態では、値上げは続きます。企業には厳しいでしょうが、私たち消費者としては、「低価格志向」をさらに強め、例えば値上げ商品は買わず、価格を据置いている代替品を探すといった値上げを受け入れない姿勢を示すことが、値上げをストップさせることにつながるんではないかと考えます。
牧野:日用品だけに、消費者もどこまで安いものを探すか難しい部分もあったり、企業側も難しいし、みんなが今苦しんでいる状況ですね。
堀:そうですね。これは志向の問題なので良い悪いではないのですが、安易に高価なブランドの日用品を買い求める動きは、見直す必要もあるかもしれないなと思います。
牧野:わかりました。今回もありがとうございました。
今回お話をうかがったのは……堀浩司さん
経済学は私たちの暮らしが良くなるためにある学問、私たちみんながわかる経済のお話を講演、ラジオ、テレビ、大学教員、執筆で。アルバイトをしていたラジオ局で学生時代に音楽番組のパーソナリティを務めて以来、その出演歴は40年! 大学常任理事として大学経営にも、税理士として企業経営指導にも携わる。