「大きなボートだと思ってくれたら」“浮く屋根”で津波から命を守れ 住宅に硬質ウレタンを注入 ものづくりの街の町工場が実証実験【わたしの防災】

2025年8月、カムチャツカ半島で起きた大地震では、津波によって建物が流されるなど多くの被害が出ました。もし、避難が間に合わず自宅で津波に襲われたら、自らの命を守る方法はあるのか、浜松の町工場がある実証実験を行いました。

仮設のプールに注がれる大量の水。中にあるのは、住宅の屋根の部分です。今回のために、建築会社に頼んで実寸大で作りました。

<浜口ウレタン 浜口弘睦社長>
Q(屋根の)重さはどのぐらいあるか
「1トンと600(キロ)ぐらい」

この屋根に、「あるもの」を加えれば、水の中でも浮くのか、という実験です。それが「硬質ウレタン」です。住宅の断熱材として使われている素材を生かそうというのです。

硬質ウレタンは、「ポリイソシアネート」と「ポリオール」という2つの化合物に薬剤を混ぜることで膨らみます。ウレタンと聞くと軟らかいイメージがありますが…

<浜口ウレタン 山田光一営業部長>
Qあっという間に膨らんで、あっという間固まるんですね
「比較的反応が早いウレタン」

実験では、屋根や屋根裏部分にあわせて250キロの硬質ウレタンを入れました。膨らむと約5トンの浮力が生まれ、1.6トンある屋根も水の中で浮くという計算です。

浜口さんの会社は、この硬質ウレタンを使って自動車部品などをつくる町工場です。

<浜口社長>
「20人ぐらい(屋上に)上がっていた人たちの半分ぐらいの人がいなくなったという写真(を見た)。その時、まず浮けば、何とかなるんじゃないかと思った」

きっかけは東日本大震災。浜口さんは、津波で家が流されるシーンを見て、自分たちの技術で、命を救えないかと考えました。そこで、硬質ウレタンの頑丈な特性を生かして、ボートや救命胴衣などを自社製作。現在は、各地の消防などで採用されています。その技術を応用したのが、今回の実験。浜口さんは住宅の屋根の構造に目を付けました。

<浜口社長>
「屋根は建物部分の上にはまっているだけ。大きなもので止めているわけではないので水に囲まれたら屋根は浮く。(屋根は)大きなボートだと思ってくれたら間違いない」

給水を始めてから約30分、20センチある梁の15センチほどまで水が溜まったところで1.6トンもある屋根は、ものの見事に浮きました。

<屋根部分を作った建築会社社長>
「全然揺れない。水も中に入ってないし、シェルターには最適」

屋根裏部分には、一時避難ができるようスペースを設けました。従業員が次々と乗り込み、10人乗ってもびくともしません。

<浜口ウレタン従業員>
「これでエアコン入れたら住めるじゃん」
「住めちゃうよ」

<屋根部分を作った建築会社社長>
Q建築をやっていてこういう発想は
「なかったですね」

<浜口社長>
「自分の家が避難場所になるといいね」

この「浮く屋根」、浜口さんの会社では7年前に特許を取得しました。お年寄りや体が不自由な人などがどうやって速やかに屋根裏へ避難するのかや瓦礫などの中を流された場合どうなるのかなど、まだまだ課題ややらなければならない実験ははありますが、浜口さんたちはひとつひとつ解決して、なんとか実用化にこぎつけたいとしています。

自宅にいることで命が助かる可能性が少しでも上がるなら、「浮く屋根」は、選択肢のひとつになるかもしれません。

「あしたを“ちょっと”幸せに ヒントはきょうのニュースから」をコンセプトに、静岡県内でその日起きた出来事を詳しく、わかりやすく、そして、丁寧にお伝えするニュース番組です。月〜金18:15OA

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