【移住婚支援金の構想撤回】なぜ炎上したの?当初の意図は何だった?女性が地方から東京に出ていってしまう根本原因とは?
(山田)今回は「移住婚」をする女性への支援金の構想撤回という話題です。政府はこんな構想を検討していたんですね。
(橋本)静岡新聞には8月28日付朝刊で「結婚を機に地方移住する女性に対して最大60万円の支援を考えている」という記事が載り、わずか3日後に「撤回する」という話が出ました。
この構想が報道されると、SNSなどでいわゆる「炎上」し、批判の声が巻き起こったために、担当の自見英子地方創生担当相が支援内容の再検討を事務方に指示して事実上、撤回したというのが31日の記事の内容です。
(山田)ちょっと構想を出したけども、思いのほか批判が強かったということですね。
どんな構想だったの?
(山田)この移住婚支援金構想、そもそもどんな内容だったか教えてください。(橋本)地方の人口減少などに伴って、このままだと将来的に全国の自治体の4割が消滅する可能性があるという推計が今年4月に公表されました。その主な要因に、若年女性の流出が著しいということがあります。
全国的に日本の人口が減っている中で、東京都は転入超過、つまり出ていく人より入ってくる人が多いので、徐々に人口が増えていて「一極集中」と言われてます。
男女別で見ると女性の流入の方が多いんですね。さらに東京都を除く全国46都道府県の15歳〜49歳の未婚男性の数が、2020年の統計で1100万人だったのに対し、女性は910万人しかいない。地方では男性の方が未婚男性が多くなっていて、女性は少ないということです。さらに晩婚化なども進んでいます。そこで地方への女性の流れを後押しするために考え出したのが、先ほどの事業ということです。
(山田)「結婚するために東京から地方へ出て行くんだったら、最大60万円あげますよ」という制度ですね。
(橋本)現在も、東京23区あるいは東京圏(埼玉、千葉、東京、神奈川)から地方に移住して就労したり、起業したりした人に対しては、男女問わず単身者の場合で最大60万円支給するという制度があるんですけども。
(山田)もう、あるんですね。
(橋本)その制度を拡充して、まずは地方の婚活イベントに参加する際の交通費などを支援する。実際に移住するとなれば、就職や起業はしなくてもそれに上乗せして支給するという制度にするつもりだったそうです。
「女性だけを対象」で炎上
(山田)この構想、批判された部分をあらためて教えてください。(橋本)一つは、女性だけを対象にしていた点がやり玉に上がりました。制度を作る側としては、子供を産むことができる若い女性に地方へ移住してもらうことを事業の目的にしていたので、女性のみを対象にすることにそんなに違和感がなかったかもしれません。しかし、これだけジェンダー平等が言われていて浸透し始めている世の中ですので、NGということですね。
もう一つは、「60万円もらったからって、本当に地方に行って結婚するのか?」という根本的な疑問があるということですね。「女性を物扱いしている」とか「金で釣る気か」なんて、そういう辛辣な意見もネット上には書かれていましたね。
(山田)「女が金で動くと思ってるのか」みたいな、そういう意味ですね。
(橋本)本来、女性に限らず誰でも、住むところや、誰と結婚するかは、自由に選択できるものじゃないですか。そうしたことの意思決定に、行政が税金を使って介入することへの拒否感というふうにも見ることができるかもしれません。
うまいこと言うなと思ったんですが、江戸時代の水野忠邦の政策になぞらえて「令和の人返し令」という表現をされたりもしていました。天保年間に、飢饉などで農村から江戸に集まって来た人を農村に戻そうとしたけれども、なかなかうまくいかなかったということですけど。
そもそも、この金額で地方に移住する女性がどれだけいるかということもあります。女性が地方から流出する本当の原因に対処しないで、そういう表面的なことで女性を地方に向かわせようとするということで、政府や自民党の中からも批判が上がって、撤回するという結果になりました。
多様な選択ができるようになれば…
(山田)「東京一極集中を解消する」というのは、前回の東京都知事選でも話題になりました。解消するためにはどうしたらいいのかと考えた時に「出て行く人にお金をあげる」という意見が出てくるのは分かるんですが、どうして、それが「女性」でしかも「結婚で」ということになっちゃったのかなと思います。(橋本)やっぱり、なぜ地方から東京に出て行ってしまう女性が多いのかっていうことの根本原因を見ないといけないと思うんです。
大きいのは、進学先や就労先が都会、特に東京の方が多種多様にあって、働く場合は待遇面も良かったりすることです。そこにまずは目を向けて、地方に逆流、あるいは残ってもらいたいのだったら、いろいろな選択ができるようにする必要があります。
就職について言えば、中小企業で頑張ってるところがたくさんあるのに、そういう情報がないということもあるので、知ってもらうことも大事だと思います。
男女格差を埋め、選択肢を増やし、企業誘致するなどして魅力を高め、「地方で暮らすのもいいな」って思ってもらわないと。「60万円あげますから、戻ってください」と言っても、それはちょっと無理なのかなと思います。
(山田)僕も就職活動のイベントで司会をやることがありますが、学生たちは静岡の企業を知らないし、調べているのは東京の、耳にしたことがある企業なんですよ。静岡にも面白い企業や働き甲斐がある企業がたくさんあるのに、やっぱそれを知らないっていう…。
地方にはもっとそれがあるはずですから、それを知ってもらうためにお金を使ったり政策を作ったりする方がいいのかなと思います。
(橋本)その通りですね。
地方と東京の共存共栄のためには?
(山田)東京一極集中、解消するのは本当に難しいことだと思いますが、どうしていくべきですか。
(橋本)答えは一つではないと思うんですよね。
7月の都知事選のときに、小池知事と他の道府県知事が東京一極集中を巡ってギクシャクしてるということを紹介しました。小池さんが都知事選に再選した後も、最初に開かれた全国知事会議で、人口減少に対する緊急宣言というものを決議することになりました。
その緊急宣言の中に「一極集中」という言葉を入れるか入れないかで小池さんとほかの知事の間で対立があり、小池さんは「人口減少と一極集中の関連性の根拠がない」と言って反対したんですが、他の方達は「一極集中の言葉がなくてどうするんだ」と盛り込むように主張したということがあったんです。
それだけその対策が難しいということはあると思うんですが、東京だってもし地方が全部疲弊してしまえば、いずれ東京に入ってくる人がいなくなってしまうわけです。共存共栄ということを考えて、どうしたらいいかお互いに知恵を出し合ってやっていくことが大切だと思います。
国も、的外れの政策を出すのではなくて、地方の声を聞きながら、どういうことをやっていったらいいか真剣に考えていくことが、これから求められることかなと思いますね。
(山田)どうしたらいいのか、みんなでアイデアを出し合いですよね。静岡県としても考えていかなきゃいけない問題ですね。今日の勉強はこれでおしまい!
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