【静岡大と浜松医科大の再編統合問題】合意方針を静岡大が白紙撤回? 今ごろになってなぜ? こじれた背景を分かりやすく解説します!

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「静岡大と浜松医科大の再編統合問題」です。先生役は静岡新聞ニュースセンター専任部長の市川雄一です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2023年10月30日放送)

大学再編の動きは少子化が要因

(市川)きょうは先行きが不透明になっている静岡大と浜松医科大の運営法人統合・大学再編の問題を取り上げます。なかなか着地点が見えないんですが、なるべくわかりやすく解説したいと思います。

(山田)お願いします。

(市川)まず、なぜ大学を再編しようという動きが出ているのかということです。静大も浜松医大も伝統ある学校ですから、そのままでいいんじゃないかと思う人も多いと思います。なぜ、再編しようとするかというと、一番の要因は少子化なんです。子供が減れば、大学に進学する子も減ってしまいます。

もちろん、大学進学率は昔に比べれば増えているんですが、最近は頭打ちなんですね。ちなみに僕が生まれた1975年の大学進学率は27・2%。僕が大学に入学した1994年は30・1%ですからそんなに増えてないですよね。ただ、1990年代から右肩上がりで増え始めます。初めて50%を超えたのが2009年ですが、50%を超えたあたりから頭打ちになります。2022年度は過去最高の56・6%だったんですが、2023年度は54・5%とやや減っています。

文部科学省の推計では、2022年に63万人だった大学入学者は2040年以降は49万〜51万人に減る、としています。10万人以上減る計算です。

(山田)大学に行く人の割合は増えてるけれども、そもそも母数自体は減ってるんですね。

(市川)一方で、大学は増え続けてきました。1992年は523校だったのが、2022年は807校です。こういう状況なので、国が旗振り役になって、大学再編をして、規模を適正化して魅力のある大学を作っていこうという社会の流れになっています。

静大と浜松医大の再編の話ですが、静岡新聞では過去に2度浮上したタイミングを報じています。最初は2002年。もう21年前になります。

(山田)そんな昔に再編の話があったんですか。

(市川)1月25日の朝刊1面で、「国立大28校が統合合意」の大見出しが出ました。記事中では、静大が「統合について、浜松医大との間で基本合意している。2004年度がめど」とコメントしているんですね。ただ、この統合話は内部からの反対があり、うまくいきませんでした。そして2度目の再編話が今につながる今回の動きなんです。

「1法人2大学案」と「1大学2校案」の違いは?

(市川)静岡新聞が最初に今回の再編話を報じたのは2018年5月です。特ダネとして1面トップで報じています。静大の浜松キャンパスにある工学部と情報学部が浜松医大と一緒になって新しい大学を作り、静大の静岡キャンパスにある人文社会科学部、理学部、農学部、教育学部で新大学を作るという構想でした。

(山田)これはまとめて1つの同じ大学を作るということですか?

(市川)いえ。静大と浜松医大の運営法人は統合して、大学は静岡市と浜松市にそれぞれ1つずつ作るということです。いわゆる「1法人2大学案」というやつです。

(山田)なるほど。

(市川)両大学は2018年6月に連携協議会を立ち上げ、翌年の2019年3月に法人の統合と2大学を作る再編案で合意するんですが、もう最初から絵は描かれていたということですよね。

この統合再編の形というのは、静大と浜松医大という国立大学を再編して、浜松と静岡に新しい大学を作ろうというものです。浜松に作ろうとしている新大学は、浜松医大と静大の浜松キャンパスにある工学部と情報学部が一緒になる構想です。医学と工学、情報学による大学というのは全国的にも珍しいです。大学は教育はもちろん、研究が大事ですから、医学、工学、情報学の連携により、新たな研究領域を開拓できるのではないかとメリットが語られています。夢のある話ですよね。

一方、静岡市に作ろうとしている新しい大学は今の静岡キャンパスにある4学部を中心としたものになるので、静大としては実質、縮小されるんです。浜松は大きな大学ができるけど、静岡に新しくできる大学は総合大学といえるのか怪しいほど小さな大学になってしまう。これって、浜松市にとってはメリットが大きいけど、静岡市にはデメリットしかないのではないか。そのことに最初に気づいたのは静岡市議会です。

(山田)静岡市に作る大学に入りたいという学生が少なくなるのではないかということですか。

(市川)大学再編に反対する声は当初からはありましたが、主に大学内部からでした。特に静岡キャンパスにある学部からは「地域における存在感、影響力が低下する」「ビジョンが見えない」「説明が不十分」「教員アンケートでは反対が多数」などと声が上がっていました。

ただ、2018年当時、僕は静岡市政の担当記者でしたが、静岡市役所の中で静大と浜松医大の再編問題が話題にのぼることはほぼありませんでした。2019年3月に両大学の間で統合再編が合意されてからようやく、「この計画って静岡市にとってやばいのではないか」と市議会で話題にのぼるようになったんです。

(山田)へぇー。

(市川)当時の田辺信宏静岡市長も発言するようになります。最初は2019年6月の市長会見で、静大の経営協議会に自身が統合再編に賛成しているかのような記述があるとして訂正を求めたんですね。田辺市長は2月に当時の静岡大学の石井潔学長から統合再編について説明を受け「これを機会にさまざまな取り組みを進めてください」と言ったと記事録に書かれていたんですが、「今回のことを了承したとか賛成したとか一切言っていない」と会見でわざわざ言ったんです。

(山田)定例会見でわざわざ言うということはよくあることなんですか?

(市川)本当に異例のことでした。そして、静岡市政に大きな影響力を持つ、静岡市議会の最大会派、自民党市議団も7月に大学の再編に反対を表明します。このあたりから雲行きが怪しくなりました。

「大学の自治」って言葉を聞いたことありませんか。憲法には「学問の自由」というのが規定されていて、学問活動で他者からの干渉や制限を受けない権利が明記されているんですが、「大学の自治」もこの学問の自由の範疇とされています。つまり、大学内の問題について、政治や行政を含め外部から干渉を受けないというのが基本になっています。

ただ、ややこしいことに、文科省は、大学再編に「地域の理解」を求めているんですよ。具体的には大学の再編にあたって「地元自治体などの関係者の理解を十分に得て進めるべき」と明言しているんです。これは文科省が政治の介入を認めたとも取れる発言です。

そこで、静岡市は将来構想協議会という組織を立ち上げて「ゼロベース」で静大の将来を検討する機関を立ち上げました。そこでは統合再編に反対する声が上がりました。大学は特に地方にとっては地域の発展や活性化に多大な影響を与えますから、大学の再編に地域の理解を求めなさいという国の言い分も理解はできます。ただ、大学の自治という観点から見ると、どうなのかとも思います。

(山田)僕は最初、静大と浜松医大が一緒になることはメリットしかないのかなと思っていたんですけど、市議会など周辺も踏まえて話していかないとだめなんですね。

(市川)静大は2020年に大きなターニングポイントを迎えました。学内で大きな権力を持つ学長の選挙があったんです。統合再編を推進してきた現職の石井学長は立候補せず、統合再編に慎重な静岡キャンパスの日詰一幸教授と、統合再編に賛成する浜松キャンパスの川田善正教授の一騎打ちになり、慎重派の日詰教授が選ばれたんです。

この時点で、当初の計画通りの再編統合は難しくなったと言っていいと思います。2021年1月に再編の延期が発表され、2021年4月に正式に学長に就任した日詰学長は大学統合案を口にするようになります。1法人2大学ではなく、静大と浜松医大を1つの大学にしようというアイデアです。

こじれた背景には行政・政治の影響も


これに反応したのが、浜松市です。浜松に今まで以上の規模の新大学ができるはずだったのに、今度は浜松医大が静大に統合されてしまうのではたまらない。当時の鈴木康友浜松市長が音頭をとって、当初の1法人2大学を目指そうと、自治体や経済団体による期成同盟会を立ち上げたんです。

最近、ニュースになっているのは、日詰学長が法人、大学は統合して1法人1大学にするんだけど、静岡と浜松に独立性の高い分校を置くという「1大学2校案」を静大の正式な案にするという意向が明らかになったという話です。もちろん、浜松の市長や経済界は猛反発しています。静岡市側は、田辺市長から難波喬司市長に代わったこともありますが、大学の自治を尊重して静観する構えを見せていますが、最初に火をつけたのは静岡市側ですから、どっちもどっちというのが正直な印象です。

(山田)なるほど。1法人2大学という話だったのが、1大学2校という案が出てきて、ここに浜松は反対しているんですね。

(市川)今後の見通しですが、個人的にはこの統合再編はうまくいかないと思います。落とし所が見つかりません。

浜松に医学と工学、情報学が融合した新大学ができるというのは、とてもワクワクする話だし、新しい産業が生まれるかもしれない。これは地域、社会にとってとてもいいことです。規模が小さくなるからと反対する静岡側の反対は地域エゴにも聞こえてしまいます。ただ、この融合は1つの大学になってもできるんですよね。むしろ静大と浜松医大が1つの大学になれば、さらなる融合が生まれるかもしれない。それに浜松側が反対するのは、ブーメランじゃないですけど、それも地域エゴじゃないの、とつっこみたくなります。

国は大学の統合、再編を推進していますが、かつての市町村合併のように明確なニンジンはぶら下げていないんですよね。大学の自治を尊重している部分もあるかもしれませんが、そういう背景を考えると、ここまでこじれてしまった統合再編は実現が困難になったと言えると思います。

(山田)結構奥深いですね。

(市川)1法人2大学とか1大学2校案という言葉が並んでいても分かりにくいですよね。

(山田)実際に少子化になって大学に行く学生が少なくなってる部分はありますけどね。

(市川)だからこそ、学生にとって魅力のある大学や、地域と国のためになる研究を行う大学を作るためにはどういうような再編統合がいいのかという本分に立ち戻って考えてほしいですよね。

(山田)学生たちはどうなんですかね。

(市川)ちょっと蚊帳の外にされている感じがあるため、学生がインタビューに答えている場面などを見ると、大人の動きを冷ややかに見てる感じですよね。

(山田)この後どうなっていくんでしょうか。でも、今日の解説で何か流れがようやくわかりました。今日の勉強はこれでおしまい!

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