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【第47回静岡県高校演劇研究大会】関東大会進出の2校はいずれも創作脚本!会場は笑いあり、涙あり。実力派がそろった大会の模様をレポートします!

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「静岡県高校演劇研究大会」。先生役は静岡新聞教育文化部長の橋爪充が務めます。 (SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」2023年11月29日放送)

(橋爪)今日は第47回県高校演劇研究大会についてお話します。11月25、26の両日、静岡市葵区の市民文化会館で開かれ、県内各地区から推薦された12校が上演しました。審査の結果、来年1月20日、21日の両日に甲府市で行われる第59回関東高校演劇研究大会への出場は、最優秀賞の富士、優秀賞の韮山に決まりました。

(山田)大会前にコーナーで注目の高校や演目について聞きましたが、その結果が出たということですね。

(橋爪)はい。2日間取材に行って、全ての演目を見てきました。とても楽しくて、最優秀を決めかねただろうなというぐらいどれもクオリティーの高い公演でした。結果から先におさらいしておきますと、最優秀は「Goodbye,the earth」を上演した富士高校。3年ぶりの関東大会進出です。おめでとうございます。

(山田)おめでとうございます

(橋爪)優秀賞は毎年4校です。その中の1校が関東大会に推薦されますが、今年は「逢課後。~ほうかご~」を上演した韮山高校が選ばれました。こちらは2009年度以来、14年ぶり。

(山田)久しぶりの関東大会出場ですね。

(橋爪)10回目の出場で、これは県内最多だそうです。

(山田)そんなに強いんですね。

(橋爪)初出場は1978年度ですからね。静岡県がこの関東大会に参加したのは1976年度が最初なので、韮山高校は県内の演劇の世界では「古豪」と言ってもいいでしょうね。その古豪が14年ぶり、ということで、これは一つのドラマですよね。

(山田)大会のレポートをお願いします。

(橋爪)今年の審査は劇団昴所属の染谷麻衣さん、SPAC所属の演出家、劇作家、批評家の大岡淳さん、長野県の松本県ケ丘高校演劇部の顧問を務める日下部英司さんが担当しました。すべての演目について講評も行いました。

(山田)へぇー。

(橋爪)講評も「目の付け所がさすがだな」と思わせるコメントが満載で面白かったです。まず富士高と韮山高の共通点があるんですが、分かりますか?

(山田)以前取り上げたときは、オリジナルの脚本が多いという話があったような。

(橋爪)鋭い。当たりです。この2校はどちらも「創作脚本」つまり、生徒の作品で県大会を勝ち上がったんです。静岡県から関東大会に2校出るようになった1992年度以降、もしかしたらはじめてかもしれません。自分が調べた限り、もしかしたら過去に1度、2校とも創作かなと思われる年がありましたが、いずれにしても相当珍しい。同じ生徒創作、といっても、この2校の演目は世界観、制作の過程が全然違っています。

最優秀は富士高 作者が違う“短編集”の構成に審査員も驚き


(橋爪)まず富士高校の「Goodbye,the earth」。「あした、地球が滅びる」という設定のもと、世界のどこかで繰り広げられる九つの世界を描くんです。いわば短編集みたいな感じです。

(山田)そういうの好きですね。面白そう。

(橋爪)雨が降る中、バスを待つ初対面の女性2人がぽつぽつとしゃべる話だったり、トムという男の子が地球最後の日に過ごす恋人を紹介してもらう話だったり。SDGsというヒーロー3人組が出てきて、「海洋汚染」と名付けられたダークヒーローと戦うという話もありました。社会派ギャグを交えたアクションものもあり、決めのポーズもばっちりで素晴らしかったです。

この演劇がすごいのは、どの話もほかの話とつながっていないのに、「明日地球が滅びる」という設定、そして登場人物が誰1人「恐怖」や「怯え」を抱えていない、という点だけが共通していること。そういう世界観をみんなで共有して演じるのは難しいだろうなと思いました。オープニングとエンディングの、シルエットを上手に活用したダンスのシーンが、とても美しかったのも印象的でした。

(山田)演出も良かったということですね。

(橋爪)この作品の特異なところは、それぞれのお話を部員それぞれが作っていること。一つ一つ、違う作者の作品を数珠繋ぎしています。作者は誰か個人名じゃなくて、「富士高校演劇部」になっています。つまり誰か1人ということではなく、全員で演出をしているということ。普通の作り方じゃありません。

(山田)テーマだけ決めて、九つの物語をみんなで作るというのは確かに普通じゃないですよね。

(橋爪)審査員の方々も驚いていました。「だれか、相当分かっている人がいて、その人が作っている感じがした」って。確かに、それぞれのお話にへこみがないというか「これはちょっとつまんないな」という話が一つもないんです。平均的に部員の皆さんのレベルが高いのかなと思いました。

関東大会2枠目は韮山高 創作劇と演技力で観客の涙誘う


(山田)続いて韮山高校ですね。

(橋爪)韮山高校は脚本の作り方が正反対。ここは部員が18人いるんですが、全員から創作脚本を募集したそうです。11作品が集まって、それをみんなで読んで、話し合いと投票で決まったのが齊藤希海さん作「逢課後。~ほうかご~」。

物語は高校の教室が舞台です。何らかの事故で記憶がなくなった女子生徒が転入してきて、クラスの女子生徒4人グループがそのこに話しかけて…という場面から始まります。この会話が実にスムーズ。観客は、高校の教室に入り込んだような気持ちになります。演劇的な間がないけれどテンポよくみんなしゃべる。かなり笑えます。

(山田)笑いなんですか?

(橋爪)ネタばれになっちゃうけれど、ある事故で亡くなった友達の存在、そのかけがえのなさをみんなで再確認する話なんですね。

(山田)すごい!鳥肌立っちゃった。面白い。

(橋爪)最初はコメディーなんだけど、だんだんトーンがウェットになっていく。このグラデーションも見事。

(山田)計算して作っていますね。

(橋爪)女子生徒たち、本当は6人グループなんだけれど、そこに一人いない。この悲しさ、でも残された5人は前を向いて歩んでいく…。

(山田)ちょっと、誰かDVD化してくれないですか。観たい。

(橋爪)幕が降りて、客電が付いたら、わたしの周りに座っていた高校生、みんな泣いていましたね。わたしも泣きました。

(山田)県大会の決勝で泣かせるってすごくないですか。

(橋爪)それだけ演技力があるってことですよね。この2校には静岡県代表として、2019年度以来、実現していない関東大会突破を目指してほしいのですが、大会全体を見渡しても今年はレベルが高くて、本当に素晴らしかった。いくつか、わたしが「いいな」と思った演目を紹介しますね。

(山田)お願いします。

出演者の歌声がしみた浜名高


(橋爪)まず、浜名高の「月夜の海に浮かべれば」。喫茶店に置かれた人型ジュークボックス「カナリヤ」を巡る人間模様を描いています。ジュークボックスなので歌を歌うんですが、このカナリヤを演じた天野真尋さんの歌声が心にしみました。手前の喫茶店セットの後ろに横に長い台を置いて、回想シーンを展開するんですが、背後のスクリーンを使ったシルエットで演じるんです。とても美しかった。

(山田)面白い演出ですね。

浜松開誠館は神話の解釈に新視点


(橋爪)続いて、浜松開誠館高です。「舞台監督」というタイトルで、古事記を下敷きにした創作劇を演じる演劇部、を演じるという多層構造の演目です。

(山田)劇中劇ですか。

(橋爪)その劇中劇がまた創作になっています。通常は絶対的な「善」として捉えられている天照大神が悪役になっていて、神話の解釈の仕方に新しい視点を感じました。客席も使った殺陣もダイナミックでしたね。

1時間があっという間だった三島南高


(橋爪)それから、三島南高校「銀河のかたすみで」。

(山田)事前に注目校に挙げていましたよね。

(橋爪)制限時間の1時間があっという間でしたね。ラジオ局が舞台なんですが、大雪の中、メインパーソナリティーが来られなくなったという設定で、急遽スタッフが代役を務めるんですが、その成り行きが非常に面白く描かれていました。スタッフ、プロデューサー、ピザを届けに来たのになぜかディレクターをやらされる男、ラジオ局専属の女性DJ…、それぞれに物語があって、それが心地よく絡まっていくんですよね。

(山田)どの学校の作品も観たくなりますね。

素晴らしかった浜松聖星高の発声


(橋爪)浜松聖星高の宮沢賢治作「シグナルとシグナレス」は演者の発声が素晴らしかった。相当訓練されているんだと思います。

(山田)舞台演劇は発声がかなり大事ですからね。

重いテーマに挑戦した浜松市立高に拍手


(橋爪)もう一つだけいいですか。浜松市立高が「アダムと死刑囚」という演目を上演しました。収監されている死刑囚と新聞記者の対話というのがメインになっているんですが、これだけ重いテーマを正面切って取り組んだことに拍手を送りたいなと思いました。

全国切符かけた関東大会は来年1月、甲府市で


(山田)どの高校も本当にすごいですね。その中で富士高と韮山高が関東大会に進みます。改めていつ行われるか教えていただけますか。

(橋爪)2024年1月20日、21日に甲府市で開かれます。頑張ってもらいたいです。

(山田)全国に進めるか、本当に楽しみですね。今日の勉強はこれでおしまい!

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