
【静岡県の2023年カルチャーを振り返る】林哲司さんの記念アルバムに中森明菜さんの新録! 音源、文学、美術、演劇…。もう一度観られるチャンスも!

(橋爪)今日は2023年に発売されたり開催されたりした静岡県に関係するさまざまなコンテンツから、心に残った作品をジャンル別に紹介します。
(山田)まずはどこから行きましょうか?
林哲司さん(富士市出身)のトリビュートアルバムは最重要アイテム!
(橋爪)まずは「よかった音源」部門です。林哲司さんのトリビュートアルバム「サウダージ」。SBSラジオの長寿番組「昭和音楽堂」でもお馴染みの作曲家林哲司さん。富士市出身で、今年は活動を始めてから50周年を迎えたそうです。11月5日には東京国際フォーラムで豪華ゲストを迎えたアニバーサリーコンサートも開かれました。その中でも11月に発売されたこのトリビュートアルバムは最重要アイテムですね。稲垣潤一さん、中西圭三さん、杉山清貴さん、中川翔子さん、ヒャダインさんらゆかりのアーティストが多数参加しています。
最大の聴きどころは中森明菜さんの「北ウイング―CLASSIC-」だと思います。これがまさかの新録なんです。
(山田)新録ですか!
(橋爪)そうなんですよ。原曲は1984年に発売されたんですが、中森さんが林さんのデビュー50周年をお祝いしたいという強い気持ちを持って新たに録音したそうです。弦楽器とピアノをバックに、元の音源とはまったく違う雰囲気の曲になっています。儚さと力強さが同居しているような感じで、背筋がゾクゾクするほど素晴らしかったです。
(山田)中森さんはしばらくテレビに出ていないですよね。
(橋爪)現在は療養中と聞いています。ただ、12月24日にYouTubeチャンネルを立ち上げました。その一番最初の映像がこのレコーディング風景なんです。モノクロの世界でしっとりとしていて、それでいて意思の強さを感じる歌声です。この映像を夜に会社で見ていたのですが、彼女の心境を思いながら見ていたら涙ぐんでしまいました。
(山田)そもそも中森明菜さん世代なんですよね?
(橋爪)世代ですね。一番最初に買ったシングルは中森明菜さんでした。
文学に熱中する若者の姿が読み応え満点
(山田)音源部門に続いては?(橋爪)「よかった本」部門です。山本恵一郎さんが書いた「スピリチュアル・ジャンキー 文学に憑かれた日々」。山本さんは静岡市駿河区にお住まいで、この本は奥付が10月31日発行になっています。羽衣出版(静岡市駿河区)から発刊されました。
ジャンキーという言葉を辞書で調べると、「麻薬常用者、麻薬中毒者」と出てきます。ただ、他にも比喩的に使われることがありますよね。
(山田)例えば、ジャンキーな食べ物とか?
(橋爪)ある種の中毒性を帯びた、というような意味合いですよね。この本がなぜタイトルにジャンキーという言葉を使っているのかというと、「文学中毒者」たちの話だからだと思います。ドキュメントでもあり、小説的なテイストでもある作品で、1960年代から2010年代までの静岡県中部エリアの文学シーンを描いています
(山田)われわれが生活している場所も登場する?
(橋爪)静岡市、旧清水市、藤枝市などが舞台。小説や詩を書いたりしている若者たちがいろいろと騒動を起こしたり、結託したり、反目したりする姿を描いています。1960年代は同人誌があちこちで立ち上がっては消え、創刊されてはなくなる、そんな時代でした。その成り行きが、会話を含めて読み応えたっぷりです。
(山田)僕はタイトルに「文学」と付いているだけで難しい本なんだろうなと思ってしまうんですけど…。
(橋爪)全くそんな感じではないです。飲み屋で暴れた話とか、文学論を巡って殴り合いに発展したとか、登場人物がみんなすごく熱いんです。1960年代から1970年代までは、一番最先端のカルチャー表現が「文学」でした。おそらく面白い感性を持った選りすぐりの人たちが「文学」というジャンルに首を突っ込んでいたんだなということがよく分かります。
(山田)へえー。読んでみよう。さあ、続いてのジャンルは?
(橋爪)続いては美術展です。
「超老芸術」展がメタバース空間に!
(山田)今年はこのコーナーでたくさん美術展の話をしてくれましたね。(橋爪)これも一度ご紹介したと思うんですが、10月3日〜8日に静岡市駿河区のグランシップで開かれた「超老芸術」展。「遅咲きのトップランナー大暴走!」と副題がついたアーツカウンシルしずおか主催の展覧会です。アートのウェブサイト「Tokyo Art Beat」の「2023年ベスト展覧会」にも選ばれています。
(山田)すごいですね。
(橋爪)この展覧会は、高齢になってから突如アートに目覚めた、「超老芸術家」22人の作品が1500点以上並びました。アートの本流とされてきた場所から離れたところで強烈な自己表現を続けてきた「超老芸術家」は、ほとんどの人が専門的な美術教育を受けていません。だからこそ、自由な発想や技法が躊躇なく作品化されています。
静岡市清水区の小八重政弘さんは自然石にさまざまな顔を彫った作品を展示。沼津市の本田照男さんは極彩色で風景や細かい形の連続を画面にしていました。キュレーターの櫛野展正さんの言葉を借りれば、この展覧会のコンセプトは「無駄とすら思える行為をやり続ける『超絶徒労』」。多くの唯一無二、独創的な表現に出合いました。
(山田)芸術的感性は若い方のほうが爆発し、年老いていくと衰えていくものだとばかり思っていました。
(橋爪)正直、私もそういう先入観を持っていました。
(山田)でもこの展覧会は、むしろその逆だということなんですね。
(橋爪)何かをやり続けることによって、表現の広がりが出てくるということが作品を観ているとよく分かります。そこには「超絶徒労」が必要だということなんです。
この展覧会ですが、12月24日からメタバース空間に登場しています。超老芸術で検索すると入り口が出てきます。
(山田)さあ、まだまだありますよね。ちょっと急ぎ足で行きましょうか。
動悸が止まらない衝撃作「刺青」 2024年3月に藤枝で再演!

(橋爪)次は演劇に行きましょう。6月9〜11日に静岡市葵区の登録有形文化財「鈴木邸」で行われた「刺青」という演目です。
静岡県舞台芸術センター(SPAC)俳優のたきいみきさんと藤枝市の劇団「ユニークポイント」主宰者で劇作家・演出家の山田裕幸のユニット「たきいとやまだの会」の第1回公演でした。この作品は谷崎潤一郎原作で、たきいさんの一人芝居。古民家の奥座敷が会場になっていました。
(山田)観客は何人ぐらい入れたんですか。
(橋爪)30人ぐらいだったかな。たきいさんが刺青の彫師と、その対象となる女性を一人二役で演じました。声だけの演技ならともかく、体を使った演劇でそんなことできるの?と思うでしょうが、それを見事にやってのけるんです。秘儀に参加させられているような非日常、「居心地の悪さ」を感じて、見終わったあとしばらく動悸が収まりませんでした。心のざわつきが止まらない、衝撃的な作品でした。
(山田)これも観たくなりますね。
(橋爪)来年3月2〜3日に藤枝市で開かれる「藤枝ノ演劇祭3」で再演されます。会場は藤枝市藤枝の大慶寺です。
ということで時間切れ。用意したものの半分ほどしか紹介できませんでした(笑)
(山田)濃い1年でしたね。今年は文化、芸術、教育に関する楽しいお話をたくさんしてくださいました。来年もよろしくお願いします。今日の勉強はこれでおしまい!
SBSラジオで月〜木曜日、13:00〜16:00で生放送中。「静岡生まれ・静岡育ち・静岡在住」生粋の静岡人・山田門努があなたに“新しい午後の夜明け=ゴゴボラケ”をお届けします。“今知っておくべき静岡トピックス”を学ぶコーナー「3時のドリル」は毎回午後3時から。番組公式X(旧Twitter)もチェック!