
あの県の旅は何色? 見落としている土地の魅力が「色」からわかる!?
都道府県の旅のイメージが色の組み合わせでわかる!?
SNSに投稿された写真の「⾊」のデータを分析したリポート『あの県の旅は何色? ビッグデータが描き出す「#◯◯旅行」』が2022年3月に発表されました。この分析を担当された、博報堂生活総合研究所 上席研究員の伊藤耕太さんに、SBSアナウンサー牧野克彦がお話をうかがいました。
(データ取得日は2021年12月17日〜2022年1月7日)
牧野:博報堂生活総合研究所は、人間を単なる消費者としてだけではなく「生活する主体」として捉え、その意識や行動を探る研究をしている研究機関なんですね。今回の研究が非常に興味深く、各都道府県の旅のイメージが色の組み合わせでわかるということなのですか?
伊藤:そうですね。研究には、膨大かつ多様なデータ群である「ビッグデータ」というものを使用しています。元々、いろいろな方々が旅行した時にその土地で感じたことを、旅先の土地ごとに視覚的に表現できないかということに興味をもっていました。今回の研究はそれを、生活者の方々が写真共有型のSNSであるInstagramに投稿した膨大な画像データを、人工知能(以下AI)の力も借りながら分析したものになります。データに隠れている人の気持ちを視覚的に表現して理解してみようという試みです。
牧野:やはり、都道府県の旅行イメージは人によって違うので、その色も違ってくるものなのでしょうか?
伊藤:そうですね。例えば、北海道と沖縄県だと色の組み合わせも変わってくるだろうという予想を持ちながら分析してみました。分析を進めていくと、隣り合っている都道府県が全然違ったり、逆に離れている都道府県が似ていたりと、意外な発見がいろいろ出てきて非常に興味深かったです。
牧野:Instagramの投稿画像を使ったそうですが、どのように分析されたのですか?
伊藤:例えば、静岡県に行かれた方々が感動して写真を投稿した場合、シャープ(#)という記号を使って「#静岡観光」や「#静岡旅行」のようなハッシュタグを付けて投稿するケースが多いです。今回は、そのようなハッシュタグをつけて投稿された写真を、AIを使って47都道府県分を集めました。合計3万7000枚分くらいになったのですが、一枚一枚の写真に含まれている色の出現頻度をAIを使って抽出し、私たちが集計・分析したものが今回の結果になります。
牧野:私たちも47都道府県の結果を見ることができるのでしょうか?
伊藤:こちらの分析結果は、47都道府県全部を面積グラフ(以下カラーパレット)として表現していて、博報堂生活総合研究所のホームページで公開しています。これは単なる色の出現頻度を数字で並べているのではなく、直感的に理解していただけるように、何回も出現してくる色は面積を大きくして、ビジュアルで理解できるように表現しています。
静岡県の旅のイメージは何色?

左:静岡県、右:山梨県 (データ取得日は2021年12月17日〜2022年1月7日)
牧野:静岡県はどういう色になりましたか?
伊藤:ぱっと見て、やはり富士山を撮った写真の色が反映されているような、サファイヤのようなブルー系や白が多く出てきて、それらの色の面積が大きくなりました。その一方では、隣り合っている山梨県と比べると全く同じではないということがよくわかりました。
牧野:山梨県も富士山を撮る人が多そうなので青と白になるのかなと思ったのですが、どうでしょうか?
伊藤:まず両県を比べると、全体的な印象は似ていたのですが、静岡県に出現してきた色を集計すると58色。本当はもっとたくさん色があるのですが、AIが分析した際の分類では58色になりました。お隣の山梨県はこの色数が36色でした。
牧野:ということは、静岡県には多様な観光地があると言ってもいいのでしょうか?(笑)
伊藤:いろいろな風景や物が映り込んだ結果、色数が多くなったと言えるかと思います。特に、ポップなパステル調の色が結構入ってきたのが静岡県の特徴ですね。
東京と大阪の違いが面白い

A:東京都、B:大阪府 (データ取得日は2021年12月17日〜2022年1月7日)
牧野:他にも、比べてみて特徴が出たなという都道府県はありますか?
伊藤:東京都と大阪府の違いは非常におもしろかったです。両者とも日本を代表する大都市なので、近い色になるかと思いました。しかし、実際のカラーパレットは、東京都(A)は寒色系の色が多く、大阪府(B)はカラフルだったんです。私が、何年か前、成田から沖縄まで南下しながら旅してきた外国人観光客に「どの街が印象に残っていますか?」と聞いたら、大阪と即答しました。「東京も素晴らしいけど、クールでグレーな建物のイメージが強い。でも大阪は鮮やかで、食べ物や人が世界のどの都市にも似ていないユニークな大都市」という話でした。
今回のAIデータが描き出したカラーパレットもそれに非常に似ています。私たちが普段似ていると思って見落としている各都市や土地の特徴を、AIが顕在化してくれます。忘れている意外な魅力や見落としている違いみたいなものをフラットに描き出してくれるところが非常に面白かったです。
元のInstagramの写真を見ると、東京都の写真を投稿している方々は建築物を撮っている方が非常に多いです。どんどん新しい商業施設が出てくるのが東京都の魅力なので、綺麗、かっこいいクールな建物を撮る。大阪府にも建築物はたくさんあるのですが、やはり、お好み焼き、たこ焼き、焼肉みたいな食の写真を撮っている方が多いです。
今後の展開は
牧野:そういう特徴も出てくるんですね。今後、どういう風にこの分析を活かしていこうと思っていらっしゃいますか?伊藤:データというと一見難しそうとか、統計みたいに読み解くのに時間がかかり専門的な知識が必要そうといった印象を持たれがちだと思うのですが、誰もが直感的にわかり、いろいろな分析対象の面白さに気づくことができる研究をしたいなと思っています。今回発表したものは都道府県という単位でしたが、実は「日本の島」という括りでも分析してみました。例えば、宮古島と石垣島など。静岡県にお住まいの方からすると遠く離れてるし、一見似たようなイメージかと思うのですが、分析してみると意外と違う色のカラーパレットになります。
なので、この都道府県という括り方を変えてみたり、海外の写真と比較してみたり、土地だけではなく島だったり物だったりとまだまだ比較対象物を広げることができると思います。
牧野:なるほど。あとは、今回の場合だと旅行者が撮った写真なので、注目しているものが明確にわかってきます。そして、客観的な目で都道府県を分析できるので、その都道府県にとっては「この部分をもっと売り出していけば良い」など、戦略を立てる際にも参考になりそうですね。
伊藤:今回の研究を公開してから、地域創生やデザイン、アートに関わっている方からの反応があります。例えば、地域創生を担う方や観光の関係者の方とワークショップをやるときに、まず最初にカラーパレットの答えを隠して「自分の県はどれだと思いますか?」と質問します。各自がこれだと思うカラーパレットを答えながら、それぞれが思っている自分の土地の魅力、それを表す色をディスカッションします。
そして「AIが描き出したのはこのカラーパレットです」と答えを発表し、自分が日々思っているイメージと、外から実際に生活者が来て感動して撮っている写真の色の違いのギャップが明らかになるところから、普段見落としてる魅力をみんなで発見していくことにも向いてると思います。
牧野:これはちゃんとまちづくりに活かしてほしいなと思いました。興味を持たれた方は、博報堂生活総合研究所のホームページからご覧いただけますので、チェックしてみてください!
※博報堂生活総合研究所のホームページはこちら
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