
(寺田)2020年に新型コロナ禍で中止となった夏の甲子園大会を実現させるプロジェクト「あの夏を取り戻せ〜全国元高校球児野球大会」が11月29日から3日間、兵庫県内で開かれます。
2020年の夏に各都道府県の代替大会で優勝したり、上位進出したりした全国44チームが集まり、初日は阪神甲子園球場が舞台となります。静岡県代表は、20年夏の県高校野球大会を制した聖隷クリストファー高校のOBたちが聖地の土を踏みます。
(山田)2020年にコロナで中止になった夏の甲子園大会を4年越しでやろうということですね。
(寺田)このプロジェクトは東京都の元球児の大学生が発起人となって、SNSを通じて各地の代表チームに呼びかけたんですね。
コロナに翻弄された世代

(山田)振り返ってみると、2020年はいろいろな大会が中止になりました。
(寺田)2019年12月に中国でコロナが始まって、20年3月は一気にコロナが広がった時期でした。高校野球のセンバツ大会が中止になり、東京オリンピックの1年延期が決まり、5月には夏の甲子園大会の中止も決定しました。
ただ、そこで少し感染が落ち着いてきて、夏の甲子園大会はないけれども、地区ごとの代替大会だけはやりましょうという話になったんですね。
今回イベントに出場する聖隷クリストファーは、その代替大会と位置付けられた県高校野球大会で優勝していたんです。
(山田)手元に、2020年の代替大会で優勝したときの聖隷ナインの新聞記事と写真があります。とてもいい笑顔ですが、彼らは甲子園につながらないことは知ってるわけですよね。
(寺田)そうなんですよ。同僚記者のインタビューに答えてくれた聖隷クリストファーの保坂将輝さん(20)がおっしゃっています。「優勝して嬉しかったけれど、草薙から浜松に戻るバスの中では本当に悔しかったのを覚えている」と。
野球だけではなく、例えば昨年夏のインターハイのサッカーでも、磐田東高校が県大会を突破して全国切符を獲得したのに、会場の徳島県まで行って1人の選手が感染してしまい、戦わずして帰ってくるようなことがありました。監督は「ショックで歯を食いしばり、涙を流す選手もいた」と話していました。本当にコロナに翻弄された世代なんですよね。
(山田)あのときはルール上「1人でも感染者が出たら」ってことだったんですよね。
(寺田)今回のイベント「あの夏を取り戻せ」には、その悔しさに終止符を打ちたいんだという思いと、コロナ世代の若者が挑戦できる社会づくりのきっかけになってほしいという思いが込められています。
現在クラウドファンディングを募っていて、目標額は7000万円とのことです。関心がある方はぜひホームページ等で探していただけたらなと思います。
(山田)これ集まると思いますよ。やっぱり甲子園は高校球児にとって特別ですもんね。
「甲子園はゴールの1つだが、唯一の目標ではない」
(寺田)高校球児にとって甲子園とは何か。今日はそれを考えてみたいと思います。実は代替大会をやるときも議論になりました。「甲子園という目標がないのに、大会をやる意味があるのか」「甲子園は唯一無二の目標なのかどうか」みたいな。県大会には100校以上が出場します。「甲子園というモチベーションがなければ、厳しい練習ができない」という強豪校もあるんですが、甲子園に行くチャンスがある学校って決まってますよね。それ以外の大多数の学校、彼らにとって甲子園って何なのか、高校野球って何なのか。
(山田)実に興味深い。
(寺田)昨年12月にイチローさんが富士高校の野球部の練習の指導に訪れました。この富士高校は学業を頑張りながら、好きな野球を続けている。地域の子供たち向けの野球教室を開いたりして、選手が主体になって普及活動に熱心に取り組んでいます。
イチローさんはそうしたことを聞きつけて、サプライズで「ぜひ富士高校の選手たちに会いに行きたい」と言って、来てくれたんですね。
(山田)富士高校は進学校ですもんね。
(寺田)富士高校の稲木恵介監督が雑誌の取材に答えていました。「甲子園はゴールの1つだけれども、唯一の目標じゃない。選手には甲子園を目指そうといったことはない」と。
私は中学時代は野球部でした。当時のチームメートが今、高校野球部の監督をやっています。彼も進学校の監督で、「努力を重ねて甲子園を目指して、行けなかった悔しさを持つ子供の方が人生の糧になるんだ」と話していました。
甲子園に行けば一生の自慢になりますが、そこが人生のピークでは駄目ですよね。真剣に野球と向き合うことはもちろん大事にしつつ、学業にも励み、一生の友を作る。野球から学んでほしいことっていっぱいあるんだと、彼は言うんですよ。
(山田)どうしても甲子園に出た学校や、すごいピッチャーが注目を集めますが、出場していなくても、野球を楽しみ、仲間と努力するってことが一番重要ってことですよね
(寺田)同級生の監督は「野球の本当の楽しさを知って、選手ではなくても審判や指導者、もしくは親として、子供たちに野球って楽しいんだぞと伝えてほしい」と言っていました。彼は「顔を見せにきてくれた卒業生に、困難を乗り越えた経験を生かしていることが見えた時」が一番うれしいそうです。
(山田)そのための学生スポーツなわけですよね。
次の人生へと踏み出すきっかけに

(寺田)今年の夏も7月8日から静岡県大会が始まります。「この経験を生かし、これからの人生を切り開いていってほしい」。そんな願いを込めながら、選手たちのひたむきなプレーを見ていただけたらなと思います。
(山田)甲子園だけがすべてじゃないと、よくわかりました。今回のイベントは、3年前に甲子園に行けなかったメンバーにとって良いお祭りになるといいですね。
(寺田)そうですね。区切りをつけて次の人生を踏み出してほしいと思います。
(山田)キラキラ輝いてる選手を見れば我々も勇気づけられます。今日の勉強はこれでおしまい!