勝負強さが光った常葉菊川高の石岡 静岡高戦で起死回生の同点弾(2007年)

静岡戦で9回に起死回生の同点本塁打を放った常葉菊川の石岡。勝負強さが光った(2007年)
ーこれまでの取材を通して記憶に残っている選手や名場面を聞かせてください。
(名倉)常葉大菊川(常菊)で現在監督をしている石岡諒哉ですね。同校の主力だった2007年の4回戦。静岡(静高)と対戦した9回、相手のエース左腕・大村豊がその試合まで隠し持っていたスクリューボールを狙って同点本塁打を放ち、チームを延長戦での勝利に導きました。それまでの打順は8番とかだったんですが、この日は5番に抜擢され見事に結果を残しました。
(名倉)その試合に関しては実は後日談がありました。静高の大村は打倒・常菊のためにスクリューボールを影で磨いていたそうなんです。ところが、県外のチームとの練習試合で試しに投げたら、その情報が常菊に伝わってしまっていたという逸話です。このため、常菊の当時の森下知幸監督(現・御殿場西)は右バッターの外に落ちるその変化球を徹底して狙うよう指示していたそうです。
ーそんな話があったんですね。
(名倉)石岡は全国制覇したその年の春の甲子園でも、準々決勝の大阪桐蔭戦で9回二死から中田翔投手(現・巨人)を相手に決勝打を放っています。勝負強さが印象的な選手でしたね。捕手としても緻密で、ストライクゾーンを9分割ではなく、十数分割して細かく配球を考えていると当時から話していました。
(山本)当時の常菊は洗練されたイケイケ野球で、打線も走塁も隙がなかったですね。
(名倉)打線はビッグイニングをつくり、1回で10点取ったりして勝ってました。早打ちで毎試合1時間半ぐらいで終わっていました。試合ごとにヒーローもはっきりしていたので記事も書きやすいし、記者陣に好かれていました(笑)
(山本)2018年に決勝で島田商業を破って優勝したときの常菊は高校野球の1つの完成形だと思って見ていました。あのレベルの選手に、ノーサインで、考える野球をやられたらどこも勝てないなと。その年の常菊はプロに進んだ奈良間大己(日本ハム)が県大会で打率8割超の活躍でした。
静岡高黄金時代の始まり 辻本の熱投で乗り越えた引き分け再試合(2014年)

静岡のエースとして活躍した辻本(2014年)
ーそんな山本さんが担当したチームでどのような思い出がありますか。
(山本)2012年夏に運動部に異動して最初に担当した夏の甲子園の開幕戦に登場したのが常葉橘。福井の福井工大福井に惜敗したんですが、その時に2番手で登板したのが後にプロに進んだ高橋遥人でした。2年生ながら4回無失点と好投して注目を集めたことがきっかけとなり、亜細亜大を経て2017年のドラフト会議で阪神から2位指名を受けました。
(結城)担当していた2014年は静高が優勝したよね。
(山本)そうですね。その年の初戦の駿河総合戦は思い出深いですね。エース辻本宙夢が2失点で延長15回を投げ抜き、引き分け再試合になりました。翌日に行われた再試合を10-1の7回コールドで制すると、そのまま勢いに乗って甲子園出場を決めました。
(結城)そこから静高の黄金時代が始まったんだよね。2015年夏まで3季連続で甲子園に出場しました。
(山本)当時の静高のメンバーはいま振り返ってもすごいですね。2014年の夏は3年に辻本投手、2年に堀内謙伍捕手、安本竜二内野手、内山竣外野手、1年に鈴木将平外野手、村木文哉投手がいました。
(結城)2014年秋の東海大会での内山、堀内、安本の三者連続ホームランは衝撃でした。静高は2017年、2018年にも2年連続で春の選抜に出場していて、その時期の主力には2022年のプロ野球ドラフトで中日から2位指名された内野手の村松開人や投手の池谷蒼大らが名を連ねていました。堀内(楽天)、鈴木(西武)、池谷(DeNA)、村松はプロに進んでいて、あの頃の静高には印象深い選手がたくさんいます。
県内高校最速152キロ! 日大三島高の小沢VS静岡高の堀内(2015年)

熱投する日大三島の小沢。3年夏の静岡大会で現在も破られていない県内高校最速152キロをマークした(2015年)
ーほかにも記憶に残るような出来事はありますか。
(結城)組み合わせ抽選会では2015年夏が一番盛り上がりましたね。出場は112校。103校が抽選を終えても第1シードだった静高の隣が埋まらない状況が続いていました。104校目で日大三島の主将が引き当てた番号がアナウンスされた瞬間、会場がどよめきました。優勝候補筆頭だった静高が、初戦で前年秋の東海大会4強の強豪と当たる可能性が出てきたので。
ー日大三島は1回戦を突破し、静高と当たりましたね。
(結城)2回戦屈指の好カードで観客は1万6000人。近年の高校野球では草薙球場が最も埋まったんじゃないかな。
(山本)試合は静高が5−2で勝ったけど、日大三島のエース小沢怜史がその試合で県内高校最速の152キロをマークしたんですよね。初回に先頭打者だった鈴木の安打をきっかけに打者3人で1点を失った直後、主砲堀内との対決の場面でした。ボールだったけど、足元をえぐるようなストレートはすごかった。この記録は今も破られてないですね。
(結城)小沢はその後、プロ野球のドラフト2位指名でソフトバンクに入り、今はヤクルトで頑張ってます。ことしのプロ野球の交流戦では、鈴木と対戦したんだよね。堀内も1軍に上がってもらって、いつかプロの世界で小沢対堀内の再戦を見たいですね。
ー最後に今年の夏の大会について一言。
(結城)ことしはブラスバンドや声出しによる応援がようやく解禁されます。新型コロナ流行以前と変わらない夏の高校野球らしい雰囲気を味わえると思うので、球場に足を運ぶのもおすすめです。多くの人に楽しんでもらいたいですね。
<座談会参加記者の略歴>
▼吉沢光隆 2022年春から高校野球担当。静岡裾野リトルシニア出身。桐蔭学園高(神奈川県)ー法政大で内野手。
▼結城啓子 2004年夏〜2005年夏、2014年秋〜2022年春担当。現在は運動部長としてデスク業務をこなしながら中学野球からプロまで幅広く野球取材に関わる。
▼名倉正和 2006年夏〜2008年春担当。常葉菊川高のセンバツ優勝をキャップとして取材した。現在はサッカーのジュビロ磐田担当。
▼山本一真 2012年夏〜2014年夏担当。浜松西高野球部、千葉大野球部出身。ポジションは外野手。現在はパリ五輪担当。