EUが原子力・天然ガスをグリーン認定!これって一体どういうこと?
原子力発電が、天然ガス発電とともにグリーンな投資先に
今回は、世界で大きな動きを見せているグリーンエネルギーについてです。EUの欧州委員会は、2022年1月1日、原子力発電を、天然ガス発電とともに地球温暖化対策に役立つグリーンな投資先として認める方針を示しました。一方で、EU内ではドイツやスペインなど脱原発派の加盟国が反発するなど、この方針は支持と不支持で割れています。そこで、EUの原子力・天然ガスのグリーン認定について、日本一元気な経済ジャーナリストの堀浩司さんに、SBSアナウンサー牧野克彦がお話をうかがいました。
グリーン認定とは
牧野:EUの欧州委員会が原子力や天然ガスをグリーンと認定しましたが、改めて、グリーン認定とは、どういったものなのでしょうか?堀:EUは2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロに、そして中間目標として2030年までに1990年比で55%削減することを掲げています。しかし、現在の状況では再生可能エネルギーだけで電気需要を賄うことは困難で、その他のエネルギーに頼らざるを得ません。
そこで登場するのが、CO2排出ゼロといわれる原子力発電と、他の化石燃料よりはCO2排出量が少ないとされる天然ガスなんです。ただ、脱炭素化には巨額の資金が必要となります。EUの行政組織である欧州委員会の試算では、EUのGDPの3%に相当する、およそ40兆円の追加投資が毎年必要になります。この追加投資を欧州委員会が賄うというのも困難で、民間部門からの資金調達が欠かせません。
広く民間からとなると、金融機関などの機関投資家(大量の資金を使って株式や債券で運用を行う大口投資家)は、環境投資を重視する他の投資家や環境保護団体に監視されていることもあり、グリーンではない事業に投資することができないんです。そこでEUは、「脱炭素化に寄与する」持続可能エネルギーとして、天然ガスと原子力をお墨付きにする、グリーン認定をしたというのがこの流れなんですね。
牧野:原子力もグリーンですよということにより、お金が集まりやすくなるということですか。
堀:そうですね。
各国の反応は?
牧野:それに対してドイツやスペインなどは、脱原発派ということで反発していると報じられています。EU以外の国の反応はいかがでしょうか?堀:ドイツを中心とする反原発加盟国は、原子力発電や石炭火力も廃止となれば、必然的に天然ガスに依存せざるを得なくなります。そこで、天然ガスのグリーン認定がされたということです。一方のフランスなどの原発活用推進派、とりわけマクロン仏大統領は、2021年11月に国内における原発建設再開を表明しました。次世代小型原子炉の開発にも力を入れていて、こちらは逆に原子力のグリーン認定が必要だったというのがあります。
つまり、原子力と天然ガスのグリーン認定というのは、EU加盟国それぞれの思惑のなかで決定された。つまりEU内部のことであって、世界のCO2排出の合わせて4割強を占めている中国とアメリカには、直接的な影響はないということで、静観の構えというところです。
牧野:大国2国は、静観なんですね。
堀:要するに、「EUの内部事情で、今回の認定があった」という世界の見方です。
原子力と天然ガスのメリット・デメリット
牧野:改めてになりますが、原子力と天然ガスには、それぞれどのようなメリット・デメリットがありますか?堀:天候に左右される太陽光、風力などの再生可能エネルギーは、現在のところ、常に一定の電力を供給しなければならない、ベースロード電源とはなり得ません。地球温暖化が叫ばれる中、CO2排出がないことがメリットといわれる原子力。それから排出されるCO2が石炭の約半分、原油の約7割とされる天然ガスに次善の電力源として世界の目が向けられています。
原子力も、福島第一原発の事故までは、化石燃料の価格高騰、地球温暖化問題に対する危機感の高まりなどを背景に、原子力発電の再評価が世界的に進んでいたんです。しかも、技術的・経済的理由で再生可能エネルギーの普及が遅れるなかで、原子力は、CO2を排出しない「最強のゼロエミッション電源」とされていました。ところが、福島第一原子力発電所の事故により、国際的潮流は一気に消滅しました。
日本への影響は?
牧野:福島のことがありますから、日本国内はそういう議論を避けているような傾向もある気がします。日本への影響も出てきそうですか?堀:今回のEUのグリーン認定自体はEU内部のことで、日本に影響が及ぶというよりはEUの動きを日本のこととして捉える必要があるという段階です。日本は、2018年の第5次エネルギー基本計画でも、従来通り2050年に再生可能エネルギーを主力電源化するということをいまだに言っているんです。
ただ、もはや再生可能エネルギーだけで、私たちの暮らしや経済を支えるのは困難だというのは、世界の常識となりつつあります。政府はもともと、再生エネルギーの主力電源化を本気で遂行する気がなくて、だらだらと時間だけが過ぎていって、そのツケが我々に回ってくるのではないかという心配があります。
牧野:将来的に原発再稼働の方向へ向かっていくのかなど、気になっている人も多いと思います。
堀:福島第一原発の事故のあと、原発は全廃すべきだという前提の上での議論だったわけですが、10年経って地球温暖化の問題が本当に差し迫って強くなっているということもあります。そして原発自体も福島のような40年という古い原発ではなく、最先端の小型モジュール炉は、原子炉を丸ごと水に沈めるという方式で、全電力が喪失しても暴走しない構造になっていて、以前より安全という指摘もあるんです。
原発推進ということではなく、議論自体を完全にタブー視するのでもなく、ここでもう一度、原発再稼働は是か非かという議論をすべき時期にきていると考えている人が増えてきていると思います。
牧野:目を背けるのではなく、しっかり日本も向き合った方がいい時期なんじゃないかということですね。今後、脱炭素エネルギー問題を見るうえで、注目ポイントはどのあたりになってきますか?
堀:日本は石炭火力発電の熱効率に関しては世界のトップクラスの実績を上げています。中国、アメリカ、インドの3国に、日本の最も効率的な石炭の発電方式を普及させるだけで、年間12億700万トンのCO2を削減できると。これは、日本の温室効果ガス排出量の86%に相当している数字なんです。
ですから、各国それぞれ最高の技術によるオール地球規模での脱炭素の取り組みと、日本そして世界の技術の進歩に目を向ける議論も必要だと思います。
牧野:我々も身近なところで脱炭素の動きが迫ってきているなとひしひしと感じます。ひとりひとりが考えていきたいですね。今回も元気に分かりやすくありがとうございました!
今回お話をうかがったのは……堀浩司さん
経済学は私たちの暮らしが良くなるためにある学問、私たちみんながわかる経済のお話を講演、ラジオ、テレビ、大学教員、執筆で。アルバイトをしていたラジオ局で学生時代に音楽番組のパーソナリティを務めて以来、その出演歴は40年! 大学常任理事として大学経営にも、税理士として企業経営指導にも携わる。
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