
(市川)JR東静岡駅南口の県有地に県立中央図書館を移転新築させるっていう話、聞いたことあります?
(山田)聞いたことがあります。でもだいぶ前ですよね?
(市川)そうなんですよ。川勝平太前知事時代に、既に計画としては立ち上がっていて、1回入札に失敗していますが、改めて今年の夏に入札を行って、2028年の完成を目指して着々と進めていこうという段階だったんです。これは総事業費298億円で、その約半分にあたる136億円を国の交付金で賄う、つまり国に補助してもらうという話でした。
ところが今年の4月になって、「136億円がどうやら34億円にとどまる」という連絡が国から来たんですよ。そうすると、100億円足りないという話になり、5月19日に県が県議会にこのことを説明しました。それをマスコミ各社が一斉に報じたため、大騒ぎになっているという状況です。
鈴木康友知事は取材に対し「このままというわけにはいかない」ことを明言していて、計画の見直しは避けられないという情勢になっています。
(山田)なるほど。半分は賄えるから、あと100億円だけで大丈夫だなと思っていたんですよね。
(市川)この交付金というのは、国土交通省が創設している社会資本整備総合交付金というもので、2010年に創設された交付金です。
補助金と交付金には、実は違いがあります。補助金というのは、例えば図書館を作るときに、「図書館の建設費用が100億円だとしたらそのうち30億円を補助しますよ」というような国などの制度です。交付金制度に関しては、図書館単体に対する交付ではなく、図書館を中心にしたまちづくりに対する交付金ということです。「図書館を核にして東静岡地区を賑わいをつくります」「通行量も増やします」というような計画に対して、国土交通省が支援するというもので、結構自治体側に自由度を与えたような制度です。そのため、比較的人気のある交付金です。
(山田)そうなんですね。
(市川)国の交付金はもちろん税金が原資となっているので、大枠が決まっています。その交付金に対して全国から申請が殺到したこともあり、今回34億円の算定になったということを県の教育委員会の担当が話しています。
国と県は当時、リニア問題の渦中だった!

情報というのは人と人との間で扱うので、国土交通省の担当者と県の担当者が綿密に連絡を取り合っていれば、いきなりガクンと金額が落ちて驚くことはなく、そもそも計上する前に、「これは136億円は無理だな」と分かったら計上しなかったりすることはあります。そのあたりの情報交換があまり密じゃなかったのかなということを、今になって思います。
国土交通省というと、静岡県とちょっといろいろあった官庁です。当時、川勝平太知事と国土交通省でリニアを題材に結構やり合っていて、まさにその渦中にこの交付金の申請をしているんです。もちろん「リニアでやり合っていたので、交付金を減額した」というような見方もできなくはないんですが、それは穿った見方です。ただ、国交省の担当者と静岡県の担当者による綿密な打ち合わせや連絡は、「そうした事情があったのでできていなかったのではないか」という推測はできるし、実際そう言っている関係者もいるんですよね。
(山田)あとは、「くれるだろう」っていう感覚でいてしまったってところがやっぱり良くなかったんでしょうね。
東静岡に図書館、必要?不要?
(山田)リスナーの方からは、「県立図書館が東静岡にできたら利用しやすくなるので嬉しい」という意見もあれば、「静岡市あたりに住んでる方々にはとても便利かもしれないが、遠く離れて住んでいる人間にとっては、そこまでお金かけなくてもと思ってしまう。もっと違うところに税金をかけてほしい」という意見も来ています。(市川)ここは結構意見がわかれると思います。今回交付金を申請するときに、「賑わい」ということを題目にしているんですが、実際これ、基本設計も終わっていてこんな感じになるっていう姿が見えていて、これがすごくいいんですよ。
(山田)めちゃくちゃいいですよね。
(市川)9階建てで、2階から9階までが書庫になっていて遠くからも本がずらっと見えるような作りになっています。県産木材をふんだんに使うということで、緑もあって、できたらすごくいいだろうなと思います。一方で、図書館って、静かにしていなきゃいけない場ですよね。
(山田)そうか、賑わいとは逆に。
(市川)だからもちろん、それ自体、できたらいいかなと思うんですが、親子連れやインバウンドの人たちが「ここの建物はすごいな」って見に来るような施設とは、やっぱり図書館は違うんですよね。
(山田)確かに。
(市川)そういう意味で、300億円かけて、そういうものを作るのはどうかなという意見はもちろんあるんですよね。
前知事の「文化力の拠点」構想の中にあった

(山田)あります。
(市川)当時は、もう毎日のようにニュースになっていましたね。文化力の拠点と言って、国際学生寮や大学コンソーシアムなどを全部複合した施設にしたいということを打ち出していて、その時も、図書館の一部移転のような話もありました。その前に、実はホテルなどの民間施設の整備計画も浮上したんですが、そのときはアリーナの計画もなかったので、東静岡にホテルを作っても便が悪いため民間の話はすぐ消えました。それで、県がやる「文化力の拠点」という話になったんです。
この文化力の拠点計画が進む中で大問題が発生していたんです。それが川勝知事と県議会自民党の対立の中で結構有名な「ヤクザゴロツキ発言」なんですよ。
(山田)あーっ。
(市川)「文化力の拠点」づくりについては、自民党は当時から反対していたんですよ。川勝知事がその他の会派との予算折衝の会合の際に、自民党の議員を念頭に「反対する人は県議の資格がない」という強い言葉を言ったり、「ヤクザの集団、ゴロツキ」なんていう発言をしたりしたため、自民党との対立が決定的となって、「文化力の拠点」の予算を白紙化するということがあったんですよ。
(山田)すごいですね。この図書館の話から、前川勝知事の失言問題にまで繋がってるって。
(市川)ちょうどその頃に、今の谷田にある県立図書館の床にひびが入っているという問題も発生したため、一部移転から全面的に移転するという話になりました。だから、今は「文化力の拠点」は消えて、2020年から図書館単独の計画になっています。
(山田)そういうことなんだ。
(市川)でも、そのときはまだ192億と言ってたんですよ。それが物価高による人件費や資材の高騰によって298億円まで増額して、去年11月の入札には1件もこなかったということです。298億に上げたけれど誰も入札しなかったっていう最中に、今度は「100億円足りない」という話が来て、「298億をどうするの?」という話になってるのが、今の状況です。
「作らない」もありなの?

(市川)それも選択肢になるでしょうね。あとは。今の計画だとデザインがすごいので、ちょっとデザインの面は縮小したり。前にも、国立競技場で海外の著名な建築家の案はお金がかかりすぎると言って少しこぢんまりとしたものを作りましたね。ああいう形です。
(山田)縮小して作るんだったら、僕は違うと思うんですよね。
(市川)僕も中途半端なものをつくるのが一番良くないと思う。しかも、200万冊の本がバーっと見れるような、「見せる図書館」みたいな感じだったら東静岡駅前にあってもいいと思うんですが、本がただ置いてあるだけだったら別にそこになくてもいいんですよね。
(山田)その通りだと思います。
(市川)今は、国会図書館なんかもデジタル化しているので、そういった意味だとちょっと選択肢が変わってくるかなって気はするんですよ。
(山田)国からは34億円しか出ないというのは、確定なわけですよね?
(市川)それは確定で、別の補助金や交付金をまた申請するとも言っていますが、それでも100億には絶対足りないと思います。そうすると、50億から70億ぐらいは減らさなきゃいけないという話になるし、入札しても、また誰もやってくれないかもしれない。そうしたときには総事業費を増やさなきゃいけないんです。ちょっと今、出口が見えないような状況になっています。
(山田)鈴木知事はどういうふうに思っているんですか?
(市川)鈴木知事は、財政の健全化というところを打ち出している知事なので、「100億円足りませんよ」ってことになれば、やはり計画の見直しは必ずすると思います。もちろん県議会の最大会派の自民党もそういう方向を打ち出しているので、何とか県の負担を増やして、今の計画のまま進むってことは多分ないだろうと思います。
(山田)そうですか。川勝県政から続いた負の遺産みたいな感じの流れになっちゃうのは一番よくないですけど。
(市川)そうなんですよね。施設は、悪くないんですよね。設計を皆さんに見て欲しいと本当に思うのですが、すごく夢のある施設ですね。
(山田)どうなっていくか、随時ニュースが入り次第、また市川さんに解説していただこうと思います。今日の勉強はこれでおしまい!