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「お風呂にタテに入りたい!」身体が不自由な人の夢を叶える、トラベルヘルパーセンター東伊豆

 介護技術と旅の業務知識をそなえた「外出支援」の専門家!?

カメラマンの望月やすこさんに、取材中に出合った身近にあるけど、「へ〜〜」な求人情報を紹介してもらう本企画。今回は、東伊豆町にある「トラベルヘルパーセンター東伊豆」をご紹介いただきました。
※1月21日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。

望月:「トラベルヘルパー(R)」って馴染みがない言葉だと思うんですが、NPO法人日本トラベルヘルパー協会というところがあり、そこの説明によると「介護技術と旅の業務知識をそなえた『外出支援』の専門家」「身体に不自由のある人や健康に不安がある人の希望に応じて、身近なおでかけから介護旅行の相談まで、暮らしの外出に関わるすべての支援サービスを行う」とあります。

要するに、介護が必要だけど旅行を楽しみたい人の、旅の手伝いをしてくれる人! 普段から車椅子での生活など、身体に不自由があり、家族だけで旅行に連れていくのが難しい場合に、一緒に旅行に付き添ってくれる人ですね。

原口:確かに母方の祖父母も、母の手伝いなくしては外にいけないとか、人がいないと心もとないところがあったので、そういう方がいてくれると心強いですね!

望月:身内に介護を分かっている人がいればいいけど、そういう人ばかりではないですからね。今回は、トラベルヘルパーセンター東伊豆の代表社員、吉間厚子さんにお話を聞きました。「トラベルヘルパーセンター東伊豆」は現在スタッフ5名。代表の吉間さんが、旅行業務取扱責任者と旅程管理主任者の資格を持っています。その他4名のスタッフがトラベルヘルパーの資格を持っています。

原口:資格があるのですね。

望月:そもそも、トラベルヘルパーは、2010年秋に経済産業省が、旅行目的地側主導で高齢者の外出支援をしよう! ということで始まった事業なんです。介護が必要だけど旅行を楽しみたい人がいる、その旅行を地元の人が手伝えば、観光人口がもっと増えてその地域も潤うでしょ、ってことなんだけど、行政からの公費補助が終了してね......。今は、吉間さんがやけくそ状態(笑)で継続しているということなんです。ときには私財を投げ売って、ときにはご主人の退職金に手をつけて(ご主人の許可はもらってる!)、必死で継続してる事業なんです。

最初なんでそんなに一生懸命なのかと思ったんだけど、実際にサポートを行うエピソードを聞くうちに、なんとなく気持ちがわかったんです。今までのいろいろなお話を聞いたなかで、私が面白かったのは、スタッフの清水治子さんが担当した家族旅行、「お父さん、タテに入ってる!タテにお風呂に入ってる!」の巻~!

お父さん、タテにお風呂に入ってる!

原口:タテに入ってる!?

望月:タテってわからないでしょ? トラベルヘルパーへの希望で一番多いのは「宿泊先で温泉に入りたい」という、温泉入浴介助の希望なんです。なので「温泉トラベルヘルパー」なんて呼ばれたりもするそうなんですが、「せっかく旅行で来たなら普段入ってる小さなお風呂じゃなくて大浴場で大きなお風呂に入りたい」って人が多いんです。

旅館のお風呂って、身体が不自由な人には入りにくい場合も多いから、トラベルヘルパーがお客さんの身体の状況と浴室の構造を考えて、このお風呂ならこうやって工夫すればいいというのを考えて入れるそうです。

「タテにお風呂」話の主役は、年配の男性。普段から車椅子に乗っていて、「立つ」のは支えがあっても難しい人。入浴介助用に水着に着替えた清水さんが、露天風呂付きの部屋でその男性を湯船で抱えるように膝に乗せてお風呂に入ったら、奥さんがその姿をみて、「お父さん、タテに入ってるわよ!ちゃんとタテに入ってるのよ!夢が叶ったわね!」っていって、涙ぐんだそう。別室にいた息子さんたちも集まってきて「お父さん、タテに入れて良かったね」って、写真撮影の嵐!

清水さんが「えっ?タテってなに?」 って思っていたら、奥さんが話してくれたそうなんです。実はこのご主人、15年前から横になっての機械浴しかできなかったんです。それで、「タテに(湯船に座って)風呂に入りたい。人間らしく、普通に風呂に入りたいなぁ」と15年も言い続けていたのだそう。それで、今回、タテにお風呂に入るために企画された旅だったので、タテに入った瞬間にみんな盛り上がったそうなんです。

原口:タテというのは、我々の普段通りのお風呂の入り方のことで、その夢がかなった瞬間の台詞なんですね!

望月:清水さんはこの人は、人が人として入浴することを15年もガマンしていたと聞き、胸がいっぱいになったんだそう。トラベルヘルパーなら、自分の持ってるノウハウを活かしてちょっと工夫すれば、人間らしい普通の営みが実現できる!って思ったそうなんです。トラベルヘルパーってこういう体験がたくさんあるんです。これを聞いたら、なかなかこの仕事を辞められない、辞めるわけにはいかないという気持ちがわかった気がしました。

原口:それだけ必要とされている職業なんですね。

地元住民ならではの細やかなサービス

望月:さらに清水さんを含め、トラベルヘルパーセンター東伊豆のスタッフは、みんな東伊豆在住の方なんです。だから、「この時間帯にこの宿でこっち向きの部屋なら、温泉に浸かりながら、水平線から昇る真っ赤なお月さまを見てもらえるな」とか「大室山はリフトを一旦止めてもらえるから、動きのゆっくりな人、車椅子の人でもリフトに乗れる」とかの情報に精通!

熱川バナナワニ園は段差も多いけど「このエリアなら車椅子でも行ける」っていうのもわかるんですって。過去には、熱川バナナワニ園でマナティーを見て、立ち上がれないと思い込んでいた車椅子の人が、立ったことがあるそうです。まるで「アルプスの少女ハイジ」のクララですよ! エリアの観光情報にここまで詳しいというのは、地元スタッフならではじゃないですか。

原口:例えば身内が車椅子を押していったとしても、ここにはどこまで入れるのかとか、車椅子でも観光を満喫できる場所なのかとか、地元の人しかわからないことですよね。

望月:右より左の道の方が段差が少ない、とかね! トラベルヘルパーは、介護と旅行、まったく違う両方の視点と、資格が必要な職業なんです。どう視点が違うかというと、例えば食事の具材が大きすぎたとき、介護だったら、お願いして目の前で小さく切ってもらう。でも観光だと、ホテルのスタッフが「よろしければ、食べやすくしましょうか?」と聞いてくれて、一旦、器が下げられて、板前さんが厨房で小さく切ったものを改めて盛り直して出してくれる。

介護の時に「すみません」と生きるために頼むことが、観光だと「ありがとう」と楽しむものに変っちゃうそうです。それってすごいじゃないですか!

これね、正直そりゃあそうだとも思っちゃったんです。だって、トラベルヘルパーに頼むのは全額自費なんですから! 介護保険はまったく使えません。その代わりトラベルヘルパーが付いていたら、車椅子のままの食事じゃなくて、ホテルの椅子に座って、みんなと一緒に、弱者じゃなくて、普通の人として食事ができる利点があるんです。

肝心の金額はというと、身体の具合や利用時間によっても違いますが、トラベルヘルパーが丸2日付きっきり(1日目の入浴・食事介助、2日目の半日観光同行、宿泊代、介助用品代)でなんだかんだで16万円くらい。

最初はちょっと高いって思ったんです。でもトラベルヘルパーと旅行すると、「次は宿でお酒が飲みたい!」とか「今度は電車に乗りたい!」と生きる目標ができて、すごく楽しく暮らせるようになるんですって。そして、介護施設でみんな嬉しそうに自慢するんだそうです。それなら16万でもいいかなと。

原口:本当に旅行とまったく一緒ですね。施設に戻って、「こういう体験をしてきたんだよ」と旅行の体験の話ができるというのはいいことですよね。

望月:介護が必要な場合は、なかなかできないからね。もっといいのは、トラベルヘルパーからちょっとしたコツを教わることができるから、自分でも両親をお風呂に入れられるようになるかもしれないんだそうです。個人的には、介護保険制度外のサービスじゃなくて、介護保険内の制度であって欲しいなと思いました。

原口:確かにこれだけ生きる目的になっていくのであれば、ひとつの介護として認めてもらってもいいんじゃないかと思いますね。

望月:ちなみに依頼は、意外にも娘じゃなくて息子さんから入ることが多いそうです。男性って妻には冷たいけど、自分の親には優しいんだなと思いましたよ(笑)。

今回、取材でお邪魔したのは、熱川プリンスホテルです。なぜ熱川プリンスに呼ばれるのだろうと思ったら、トラベルヘルパーという仕事に、ホテルとして協力してくれているからなんです。ではなぜ協力しているかというと、代表の吉間さんが、熱川プリンスの社長を小さな頃から知ってるんですって! 小さな頃から知っていると、社長にだって色々頼めちゃうじゃないですか。

吉間さんのリクエストでお風呂の板をスノコに変更。握る部分ができて車椅子から移動が楽に

「椅子の肘掛けがこういうタイプだと介助しやすい」とか、「お風呂の板をスノコに変えてくれると、車椅子の人が握りやすくていい」とか、小さなワガママをいっぱい聞いてくれるそうなんです。社長も「バリアフリーってすごくお金がかかると思っていたけど、ちょっとした工夫で使いやすいようにできることもわかったから、お互いウィンウィンだね」と、話をしていました。こういったところも地元ならではのいいところだなと思いました。

望月:現在トラベルヘルパーセンター東伊豆で求人募集はしていないのですが、NPO法人日本トラベルヘルパー協会でトラベルヘルパーの資格者を募集してるので、ぜひ検索してみていただきたいです。

原口:現在求人はありませんが、旅行に行きたい人は下記に問い合わせてみてください。トラベルヘルパーセンター東伊豆を利用して、普段行けないところを旅行してみてはいかがでしょうか。
 

DATA

■株式会社SPIあ・える倶楽部 トラベルヘルパーセンター東伊豆

住所:賀茂郡東伊豆町片瀬631-1
TEL:0557-22-3455

会社情報
 
今回、お話をうかがったのは……望月やすこさん
静岡県内を中心に子どもの撮影や取材撮影をするフリーカメラマン。撮影歴は25年。著書「子連れのタダビバ」シリーズ(静岡新聞社)や、朝日新聞エムスタ「望月やすこの#撮りテク」連載などの執筆から、テレビ・ラジオの出演など様々なメディアで活躍。

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