
重大事故時、原発から半径5キロの予防的防護措置区域(PAZ)圏内では、避難が難しい要配慮者を除く住民は即時避難するが、UPZの全住民は原則として自宅などで屋内退避する。東京電力福島第1原発事故で、避難を強いられた高齢者らの災害関連死が多く発生したことを教訓とした。
PAZとUPZを抱える牧之原市。PAZ圏の相良原子力防災センターは放射性物質を除去し、建物内の気圧を高める陽圧化装置や非常用電源を備える。要配慮者らの屋内退避先となる。6億円を投じて2021年に完成。全額を国の補助でまかなった。
一方で、同市のUPZ圏には放射線防護対策をした施設はない。「原発に近いPAZが優先されるのはやむを得ないが、屋内退避が原則のUPZでも線量が高ければ避難が必要になる。その場合でも入院患者や要配慮者はすぐには避難させられず、屋内退避が続くことになる」。市危機管理課の吉添所課長はUPZ圏でも医療機関などの防護化の必要性を強調する。ただ、事業費を踏まえると、市単独では現実的ではない。
静岡新聞社が浜岡原発周辺の首長に実施したアンケートでは、UPZ圏の9市町が複合災害での屋内退避に課題があると回答。「要配慮者のための放射線防護施設が必要」(藤枝、袋井)、「10キロ圏外も防護対策の補助を」(菊川、島田など)との意見が目立つ。掛川市は「家屋倒壊などにより自宅で退避できない人が多くなると、退避先が不足する可能性がある」と指摘した。退避が長期化した場合の備蓄、物資の確保や要配慮者への支援継続を懸念する声もあった。
これまで屋内退避の運用は原子力災害対策指針で明確にされていなかった。規制委は、解除の判断を退避開始から3日後とするなどの整理を行い、今後指針に反映させる。退避を継続する場合も、避難に切り替わったとしても要配慮者対応をはじめとする課題は残る。担当者は「残された課題は関係省庁と連携して検討を続ける」とした。