「桜吹雪、男の一生」駿府城公園の人力車・五條さん 90歳前に引退決断 5~6日静岡まつりラストラン

いなせな法被姿の五條満さん=3日午後、静岡市葵区の駿府城公園 約27年前から静岡市葵区の駿府城公園で人力車を引き続ける五條満さん(89)が今年いっぱいでの引退を決断した。第69回静岡まつり期間中、5~6日に営業を行う。桜との写真映えするコラボが見られるのもこれが最後。五條さんは「桜吹雪、男の一生」と話し、〝相棒〟と駆け抜けた大切な時間と、満開の桜を静かに重ねる。
■旅行先で魅せられ購入
 専門紙記者だった五條さんが人力車に魅せられたのは、今は軽い認知症を患う妻(85)と訪れた旅行先で法被と地下足袋姿のいなせな姿を目撃してから。妻に頭を下げて購入した人力車は6回程度もタイヤを交換した。仲間は一時10人以上いたが、2007年以降は1人。春と秋の時期に限り年間60~70日間稼働する。
 引退は、市民文化会館(1日に全館閉館)が近く大規模改修工事に入ることで、人力車の保管場所としてきた地下駐車場出入り口が使えなくなるため。加えて、地下駐車場につながるスロープ(約20メートル)を人力車を引いて上り下りすることが5年ほど前から体力的にきつくなってきた。
 それでも「自転車で出勤前に法被を着て帯を締めると、気持ちが一気に切り替わる」。妻が作る弁当と水筒に入った熱いお茶が活力源だったが、今は自分で作って出かける。法被を着ると、今でも妻は水筒を用意してくれようとする。
■芸達者だった父の面影
 鍛冶職人だった父は地域の祭りで安来節を披露するなど周囲の誰もが認める芸達者だった。静岡に大道芸が根付く前から人力車を引く五條さんはいま「元祖・大道芸人」と呼ばれることも。「父親の血は争えないな…」。小学校低学年の時に他界した父の面影をぼんやり思い出すこともある。
 約27年間変わらず、10分間で大人700円、子ども300円という料金を守り続ける五條さんは「ラストランまで値段を上げるつもりはない」と話す。人力車は自宅の倉庫で大切に保管する予定。悩みの種は「余生をどう過ごすか」だ。

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