語り:春風亭昇太

大井川の上流、静岡市の最北部にある井川地区。オクシズでも最も山の奥深いこの地区では、林業を中心に、椎茸、ワサビ、お茶などの栽培が主な産業となっています。
井川では、山の恵みと人々の知恵から伝統工芸品「井川メンパ」が生まれました。ヒノキの薄い板を丸く曲げて、継ぎ目のない桜の皮で縫い合わせた後、漆を塗って仕上げる「井川メンパ」。曲物(まげもの)といわれる柄杓や桶などの生活用品がその原型で、鎌倉時代から井川で作られていたと言われています。江戸時代末期以降、曲物の技術を使って、お弁当箱や、お櫃などを作り、近隣の村々へ売りに行っていました。この時期に、漆塗りの技術が加わり、現在の井川メンパの形が出来上がったといわれています。
もともと、林業や農作業をする村人の弁当をつめるために作られた「井川メンパ」には、吸湿性の良いヒノキや抗菌作用のある漆が使われています。食材をおいしく長持ちさせることができ、つめたご飯は、いつまでもふっくら。おいしいお弁当を食べるための知恵から井川メンパは生まれました。
形は丸型と小判型があり、大きさは様々。幅の広い桜の皮で縫い止めて、さらに漆で塗り固めているため、軽いのにとても丈夫で、漆を塗り直せば、何年も使い続けることができます。時代とともに作る職人の数は減ってしまいましたが、その歴史と伝統は今も守り続けられています。
静岡市歴史めぐり まち噺し 今日のお噺しはこれにて。