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(橋爪)第169回芥川賞、直木賞(日本文学振興会主催)の候補作が6月15日、発表されました。直木賞には今年の山本周五郎賞に選出された島田市出身の永井紗耶子さん(46)の「木挽町のあだ討ち」など5作がノミネートされました。選考会はきょう7月19日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれます。
(山田)楽しみですねえ。
(橋爪)芥川賞は純文学、直木賞はエンタメ系とざっくりと分けられています。今回の直木賞は島田市出身の永井さんの作品がノミネートされ、下馬評では最有力とされています。
いろいろな方に取材したのですが、もし選出されたら、静岡県関係者としては第87回で「時代屋の女房」で受賞した村松友視さん以来。これが1982年だったので、永井さんが選出されれば実に41年ぶりとなります。
村松さんは東京生まれなのですが、小学校から高校までを清水市、静岡市で過ごしたので、新聞社的にいういわゆる「静岡県勢」です。
出生が静岡、となるとさらに2年さかのぼります。伊東市生まれの志茂田景樹さん。1980年の第83回で「黄色い牙」という作品が選ばれています。こちらでカウントするなら、43年ぶり。
直木賞の県勢は私の調べた限り、これ以外にお一人だけ。「赤い雪」で1958年の第39回に選ばれた榛葉英治さんだけですね。作品の良し悪しと、賞レースとは基本的に無関係ですが、昭和10年、1935年から始まっている注目の直木賞で、これまで3人しか受賞者がいないというのはちょっと寂しい気がします。
(山田)たしかにそうですね。
勝手に静岡県勢を増やしてみました…
ほかには、2016年の第156回で受賞した恩田陸さんの「蜜蜂と遠雷」は浜松市で3年ごとに開かれている「浜松国際ピアノコンクール」を舞台としています。この2人は静岡が直木賞を取らせた、と言ってもいいかもしれません(笑)
直木賞と同時に発表される芥川賞では、2021年の第164回で沼津市出身の宇佐見りんさんの「推し、燃ゆ」が選ばれています。この時は静岡県で生まれた作家の芥川賞受賞は1992年の松村栄子さん(湖西市)以来29年ぶりでした。
(山田)もっと出てきてほしいですね。
「木挽町のあだ討ち」を読んで2回泣いた
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(橋爪)今回の永井さんの「木挽町のあだ討ち」はどんな作品なのか。
舞台は東京の芝居小屋の前。若く美しい武士、菊之助が父親を殺した博徒を切って、仇討ちを成し遂げるというシーンから始まります。
物語の本格的なスタートはそれから2年後。ある別の若侍がその時のことを聞きたいと、事件現場の芝居小屋を訪ねます。仇討ちを目撃した関係者5人に次々面会して、現場でみたこと、そもそも仇討ちを成し遂げた菊之助さんとの思い出話を、どんどん聞き出していくんです。
そうすると…。最初の場面の見え方が、どんどん変化していくんです。ミステリー要素が満載。関係者っていうのが、芝居小屋の木戸芸者(呼び込みですね)、殺陣師などなど、一癖も二癖もある人ばかり。
その話の内容が、果たして本当かどうか…というのも疑わしいように思えてくる。みんな口をそろえて「あれは立派な仇討ちでしたよ」というのが、どうも怪しい。本当は何が起こったのか…。とてもよくできたミステリーです。同時によくできた人間ドラマでもあるんです。私2回、涙しました。
ライバルは「香港警察東京分室」か
(橋爪)はい。下馬評を含めていろいろネット上の評価を見ましたが、最有力です。前哨戦とされる山本周五郎賞をとっている。さらに、昨年の第167回直木賞候補作「女人入眼(にょにんじゅげん)」も大きい。2回目の候補入りでなおかつ、作品の質がとても高い。
わたし個人のみるところでは、ライバルは月村了衛(つきむらりょうえ)さんの「香港警察東京分室」ですね。アクションが派手な警察小説です。
香港の2010年代末から現在に至るまでの民主化運動と、それを制圧する北京の思惑が下敷きになっていて、ハラハラドキドキします。静岡新聞で「論壇」を執筆されている作家で外交ジャーナリストの手嶋龍一さんが帯を書いているんですが、インテリジェンス小説が得意な手嶋さんが絶賛しています。
どっちかじゃないかなあ。
(山田)楽しみですねえ。
東京に念を送ってほしい
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(橋爪)最後に、きょう19日のスケジュール。午後4時から東京・築地の料亭「新喜楽」で選考委員会が開かれます。選考委員はすごいビッグネーム。
浅田次郎さん、伊集院静さん、角田光代さん、京極夏彦さん(新任)、桐野夏生さん、高村薫さん、林真理子さん、三浦しをんさん、宮部みゆきさん!
選考の後、日比谷の帝国ホテルで受賞作の張り出しがあります。芥川賞と直木賞に選ばれた作品と作家名が、ボードに張り出されます。
候補作家は、どうしているかというと、いろいろなタイプがあるようですが、たいていの場合、帝国ホテルにすぐ駆け付けられる場所で、編集者とともに吉報を待っているようです。昔は電話がかかってきて初めて知る、というドラマがありましたが、最近は張り出しの様子はライブ配信で見られます。
(山田)静岡県勢、頑張れっていうところですね。
(橋爪)ぜひ、永井さんにとってほしい!ご興味のある方は東京の方に、念を送ってください。いま選考委員のみなさん、築地に向かっている途中でしょうから。