
SBSラジオ「TOROアニメーション総研」のイチオシコーナー、人気アニメ評論家の藤津さんが語る『藤津亮太のアニメラボ』。今回は「びっくりする第1話」をテーマにお話を伺いました。※以下語り、藤津亮太さん
視聴者が度肝を抜かれる「第1話」が流行った
今回は「びっくりする第1話」を3本紹介したいと思います。2006年以降、第1話で視聴者を驚かせるという展開が少し流行ったんですよね。まずは『涼宮ハルヒの憂鬱』。これは最初に2006年に放送されたのですが、かなり変則的な順番で放送されました。原作小説1巻に相当するエピソードが4話分あるのですが、これが全14話のシリーズの最初と最後に置かれています。
そしてその間には原作の短編エピソードがはさまれたり、前後編のエピソードも連続で放送されなかったりと、「次になにが来るかわからない」という大胆な放送でした。
2009年には、未アニメ化エピソードを14話分足すなどして、全28話バージョンが放送されました。これは2006年のときにバラバラだったエピソードを全部、時系列に並べ直したものです。
ハルヒたちの活躍をたっぷり楽しめるのは2009年版ですが、やはりインパクトは2006年版の方が大きかったです。その2006年版の放送第一話が『朝比奈ミクルの冒険 Episode00』です。
これの何がびっくりだったかというと、作中でハルヒが監督した自主映画がそのまま20分間放送されたことです。オープニングやエンディングもなく、キャラの説明も特にないまま、素人が作った実写の自主映画を、アニメとして再現した(ある意味ものすごい)映像が流れる。光線を描いたら線がずれているとか、撮影していたら関係ない人がフレームに入ってきてしまうとか、編集がうまくいっていないとか、そういう自主映画あるあるが繰り広げられるのです。
このアニメがどういうアニメか、原作を知ってる人ならわかるけど、そうでなければ全くわからない。でも、ものすごく力が入った映像であることはわかる。これはすごくインパクトがありました。
次に紹介したいのは、2008年の『喰霊-零-』。これは最初にメインキャラクターとして発表されたキャラクターがいました。キービジュアルもその人たちが描かれているし、公式サイトにも載っている。アニメ誌でもその人たちをフィーチャーして記事が作られている。そんなキャラクターたちが、第1話の最後に「あれ?」ということになります。映像だけじゃなくて、ほかのメディアまで使って、視聴者を「あっ」と言わせた第1話でした。
同じ年に『ドルアーガの塔』という有名なアーケードゲームがアニメ化されたのですが、これも「びっくりする第1話」でした。第1話「ドルアーガの巨塔」ではパーティーがダンジョン攻略をしていくお話なんですが、なぜか第1話は途中から、テンションがギャグっぽくなってくるんです。
女性キャラは触手キャラに襲われるし、主人公はド派手な必殺技を使うし、「あれ『ドルアーガの塔』って、こんな世界観じゃないのにな」と思って見ていくと、終盤で、主人公が気絶していている間の夢だったっていうオチになる。
と、これで終わるとただの夢オチなんですが、このアニメがすごかったのは、じゃあ主人公が気絶してる間に何があったのか、ということを描いた別の第1話――気絶していた方が「表1話」で、実際の出来事を描いたのが「裏1話」と呼ばれています――も制作していたことです。そしてこの裏1話をGYAO!で配信したんです。
同期に強豪作品が並ぶ中、第1話でいかに話題になるかを考えて仕掛けた作品だったそうで
す。
最近はこうした「びっくりさせるために特化した1話」というのは、あまり制作されていませんが、2000年代後半には、そういう作品がちょっと並んだ時期があったのです。(2023年7月3日放送)