パイプ椅子を投げる指導者も…。大切なのは「観察と声掛け」

(寺田)
日本スポーツ協会は暴力パワハラ問題で2022年度の窓口への相談件数が過去最多の373件に上ったと発表しました。暴力は少し減っているけれど、暴言の方が増えているとのこと。しかも、被害者の4割が小学生ということです。
山田さんはスポーツをしていましたか。
(山田)
僕は小学校からバスケットボールでした。高校の時に体育大学から新任の先生が来て、大学でやってたことがそのまま持ち込まれたんですね。強くなるには必要かもしれませんが、殴る蹴るに暴言も。正直、僕はそれでバスケットを嫌いになってるんです。大人になるまでバスケットをやりませんでした。
(寺田)
昔と比べて相談件数は増えてるけれども、決して全体の総数が増えてるわけじゃないと思います。今は意識の高まりがあって、そういう声を上げる人が増えているのでは。なぜパワハラや体罰がなくならないか、を今日は考えていきます。
私の娘は中学校でバレーボールをやっていました。5年以上前になりますが、練習試合を見に行ったら、対戦チームの監督が気に入らないプレーがあると、パイプ椅子をコートへ投げ付けていました。
それで試合が止まる。そうすると、パイプ椅子を元の位置に戻す担当の生徒がいて、先生の手の届くところにまた置くわけです。子供を直接殴ることはしないんですが、明らかに威圧的でした。
(山田)
おそらく先生たちは「体罰は駄目だ」ってことは分かっている。「その分」っていうところがあるかもしれませんね。
(寺田)
先日、県サッカー協会の技術担当責任者の古賀琢磨さんに話を聞いてきました。ジュビロ磐田の創成期を支え、清水エスパルスでもプレーした往年の名プレーヤーです。
古賀さんが最初におっしゃったのは「まずサッカーを好きになるように、長所を見つけてほしい」ということ。大事なのは「観察と声掛け」だと。勝利至上主義ではなく、子供の成長を促していくことが大事なんだよと言っています。
(山田)
チームが勝ちたいとか、強くなってほしいというのも分かるんですが、スポーツを楽しんでもらいたいという気持ちが薄れちゃうのかな。
(寺田)
一方、中学校野球部の指導者から聞いた話です。ノックをしていて全くやる気がないプレーをした生徒がいた。その生徒に「やる気がないなら帰れ」と言った。門努さんなら、そう言われてどうしますか。
(山田)
僕は帰れないと思う。
(寺田)
僕らの世代だと、「すいません。もう1本よろしくお願いします」なんですよね。その子は「すいませんでした。帰ります」って帰っちゃったそうです。こういう傾向もあって、指導する側も難しい事情を抱えているのは理解できます。
(山田)
ほとんどの指導者は本当に帰らせるつもりで言ってないですもんね。
大人の価値観をちょっと変えてみてほしい

(寺田)
なぜ体罰や暴言がなくならないのかを考えると、やっぱり大人の価値観に問題があるんだと思うんです。
スポーツで何を学ぶか。体力や技術はもちろんですが、我々の世代はスポーツを通して忍耐や協調性を学ぶんだよ、社会に出て役に立つんだよと言われてきました。
ただ、AI(人工知能)も日進月歩のような今の時代は、自分で考え、新しいものを作り出す力が求められています。スポーツの世界では大人の価値観を変えきれていない。
指導者の思い通りに、正しくやらせる。そうではなくて、自分で考えるように促す。子供は自分で考えて、自己表現する。そういう関係になっていけば、絶対に暴力や暴言はなくなっていくと思うんです。
(山田)
なるほど。僕はバスケが嫌いになったまま大人になりました。たまたま体育館にボールがあって、リングがあって、シュートを打った時に、ものすごい気持ちがよかったんですよ。「あれっ、こんなに楽しいんだ」って。嫌いになったことをすごく後悔しました。
(寺田)
子供の頃に受けた言葉は、やっぱり大人になっても覚えてますもんね。古賀さんが言う「観察と声掛け」。これ、本当に大事ですよね。
(山田)
大人がちょっと価値観を変える、見方を変える。それだけで、暴言暴力相談ってのも減ると思います。子供がスポーツを楽しめるようになります。
今日の勉強はこれでおしまい!