【議員による”パワハラ”問題】政治家、公務員、市民の関係は「じゃんけん」と同じ⁉政治のトライアングル構造を知れば問題の背景が見える!

静岡トピックスを勉強する時間「3時のドリル」。今回のテーマは「議員による“パワハラ”問題」です。先生役は静岡新聞の市川雄一ニュースセンター専任部長です。(SBSラジオ・ゴゴボラケのコーナー「3時のドリル」 2024年5月20日放送)

(山田)今日は議員による自治体職員への言動の問題についてということですが。

(市川)自治体職員たちへの威圧的な言動が問題視されている北海道選出の長谷川岳参院議員が、今後自身の言動を改めると誓って陳謝しました。

これは全国的にも話題になっていて、特に地元・北海道のメディアでは連日報じられている問題なんですが、静岡県の方にはもしかしたら馴染みが薄いニュースかもしれません。

(山田)何か暴言のようなことを吐いたということは何となく知っていますが。

(市川)そうなんです。自治体職員に対して「クビにしてやる」と言ったり、会議の場で「誰だお前は」というようなことを口にしたりして、みんなに恐れられていた存在だったとされています。実はこの問題の発端は昨年5月、演歌歌手の吉幾三さんが横柄な国会議員が飛行機に乗っていたという動画をYoutubeにアップしたことでした。

(山田)えー!

(市川)この動画は現在、200万回ぐらい再生されています。昨年5月の段階では国会議員の名前は公表していなかったんですが、吉幾三さんが3月になって続報という形で、キャビンアテンダントさん(CA)さんから匿名で届いた「あの国会議員は長谷川岳さんじゃないでしょうか」という内容の手紙をYoutube上で公表したんです。それで国会議員が誰だったのかがわかりました。

(山田)吉幾三さんのYouTubeからだったんですか。僕は週刊誌報道なのかと思っていました。

(市川)吉幾三さんのYoutubeを発端にして週刊誌が後追い取材を行い、今度は飛行機での横柄な振る舞いだけではなく自治体職員に対しても威圧的な行為をしていると報じました。そうすると、北海道庁や札幌市の職員らがそういう目に遭っていたということを認めたため、TVや新聞でも大騒ぎになり、長谷川議員が謝罪する事態になったというのが今回の件の流れです。

(山田)なるほど。何か録音も残っていたとか。

(市川)北海道のテレビ局のサイトなどに札幌市との会合での発言の音声と全文が掲載されています。僕も読みましたが、まさに「威圧的」という言葉がふさわしいやりとりでした。全文を読むと、仕事に一生懸命な熱い人、とも取れなくもないのですが、言葉遣いとかは一線を超えているな、という印象です。

(山田)例えばどういうところにそれを感じましたか?

(市川)先ほど言ったように「クビにしてやる」とか「ブチ切れるよ」という言葉ですね。これはやはり一線を超えた言葉遣いだと思います。長谷川議員は元々、北海道大学時代に札幌の一大イベントになっている「YOSAKOIソーラン祭り」を立ち上げた人なんですが。

(山田)すごいですね

(市川)そこから議員にまでなっているので熱い方だとは思うんですが、それがなかなか通用しないというところですね。

議員と公務員の間にパワハラは成立するのか?

(市川)今回パワハラ問題とかモラハラ問題などという言われ方をしているんですが、パワハラの場合は一般的に、職場におけるいじめや嫌がらせで、上司や同僚が権力や地位を利用して他者に身体的、精神的、社会的な苦痛を与える行為を指す、とされています。国会議員と自治体職員の関係は上司と部下ではないので、今回の行為は「パワハラには当たらない」という議論もあります。

(山田)今回の問題の話を聞いたときにそう思ったんですよ。国会議員は自治体職員より偉いのかって。

(市川)そうなんですよ。完全に契約上は上司と部下という関係ではないですよね。

(山田)関係ないですよね。

(市川)ただ、実質的には逆らうことができない関係にはあるのでこれはパワハラと言えるという気がします。

議員と公務員のハラスメントというのは、全国的に根深い問題とされています。千葉県の柏市では、昨年6月に議員によるハラスメント行為を防ぐための条例が制定されました。

(山田)条例まで作られたんですか。

(市川)条例制定の前に柏市議会が柏市役所職員に行ったアンケートでは、1827人中157人が議員からハラスメントを受けた、と回答していました。実はこうした条例は全国のいくつかの自治体でも同様に制定されています。静岡県内の自治体ではまだ制定されていません。

(山田)地方議会の議員さんと自治体職員の関係も同じですよね。

(市川)これも上司と部下の関係ではないですよね。国会議員の場合は、省庁の大臣や副大臣、政務官になるケースがあるので、そうした場合は省庁の職員と上司、部下の関係になります。

(山田)なるほど、そうですよね。

政治家は公務員には強いけど市民には弱い!その心は?

(市川)ただ、県や市の場合は二元代表制なので、議員と職員が上司と部下の関係になることはあり得ません。それでも柏市のように職員が議員からハラスメントを受けたということが起きるのはなぜか。その理由につながる例えとして、僕が県内の支局に勤務していたとき、とある議員に「政治はじゃんけんだ」という話を聞いたことがあります。

(山田)政治はじゃんけん?

(市川)政治家がパーだとしたら、国家公務員や自治体職員はグー。つまり、政治家は公務員より強いと。では、チョキは誰かと言うと国民・市民なんです。国民・市民は政治家には強い。なぜなら、国民・市民は選挙で政治家を選ぶ立場にあるので、政治家は国民・市民に頭が上がらないんです。

一方で、国民・市民は公務員に弱いという側面があります。多くの国民は民間企業に務めていますから、絶大な権限を持ち、税金で公共事業などを行う公務員にはなかなか頭が上がらない。こういうトライアングルが政治のじゃんけんだと言うんです。そして、このトライアングルを理解して政治を前に進めることが政治家にとっては大事なんだということをその議員は言っていました。

(山田)なんか納得できるけど変な話でもあるような気もしますね。

(市川)じゃんけんの話でなぜ政治家が公務員に強いかと言うと、基本的に行政が進めようとする施策は議会が議決しないとできないからです。そうすると、行政職員としては議会に議案を通してほしいので、普段から議員と接して根回しができるように関係性を築かなければならないんです。このため、どうしても上下関係ができてしまうんです。

(山田)なるほど

(市川)行政職員にとって、議員に嫌われて仕事をしないという評判を立てられると、評価が下がります。逆に、政治家と話をできる、交渉が進められる、ということになれば公務員の世界の中では評価が上がっていきます。となると、公務員側からすれば政治家には逆らえないというような状況が生まれてきます。こうした力関係がハラスメントの土壌になっています。

僕は県議会といくつかの市議会を取材したことがありますが、職員の方たちが議員に対して神様のように接しているのを見てきました。特に県議会は市議会よりその傾向が顕著です。そういうことが構造的にはあるのだと思います。

(山田)二元代表制として、それは正しいあり方なんですか。

(市川)公務員は難しい試験を突破していますが、国民の代表ではありません。国会議員や県会議員、市議会議員は選挙という国民の民意で選ばれた国民の代表ですから、公務員の意見と議員の意見のどちらが大事かと言えば、議員の意見の方が尊重されるというのが民主主義の健全な姿なんです。

(山田)そうか。

(市川)議員にしてみれば、選挙を通じて国民、県民、市民の代表になっているのだから自分たちが考える政策を実現したいと当然思います。だけど、公務員がなかなか思うように動いてくれないという状況になったときに、「もっと働いてくれよ」というようなことを言ってしまうことがあるかもしれません。

今回の長谷川議員も、道民から付託を受けて実現したいことがあるのに、札幌市の職員がなかなか動いてくれないのでつい厳しい言い方になってしまったというような釈明をしています。

この部分は難しい問題です。民主主義というのは僕らの代表である政治家が政策をいろいろ立案し、それを進める事務的なところを公務員の方たちが担ってくれています。ただ、どちらが優先的になるかというのは、もちろんハラスメント的な言動はだめですが、やはり政治家の考えが尊重されるのが民主主義社会の基本ではあります。

(山田)難しいですね。

静岡市議は職員と一緒にハラスメント撲滅を宣言!


(市川)議員ハラスメント防止の条例を制定した県内の自治体はない、という話をしましたが、今年4月に静岡市が「ハラスメント撲滅宣言」というものを行いました。パワハラやセクハラ、マタハラなどハラスメントを行わないと全職員が宣言したものですが、実はこの宣言に全静岡市議47人も署名しました。静岡市議がハラスメントを行っていたからというわけではありませんが、こういう宣言を市が行うときに、議員も一緒になって宣言したことは一歩前進したような気がします。

(山田)なるほど。今日のお話のように構造を教えてもらうと、良くないとはわかりつつも、自然発生的にハラスメントが出てきてしまうのかなと感じました。

(市川)そうなんです。今は静岡県知事選が真っ最中ですけど、僕らは「じゃんけん」では政治家に勝てる国民なので、表と裏の顔を見極めるのはなかなか難しいことではありますが、その人の本質のようなものをよく考えて票を投じたいですね。

(山田)確かに。僕らはじゃんけんの「チョキ」を有効に使うべきだということですね。今日の勉強はこれでおしまい!

SBSラジオで月〜木曜日、13:00〜16:00で生放送中。「静岡生まれ・静岡育ち・静岡在住」生粋の静岡人・山田門努があなたに“新しい午後の夜明け=ゴゴボラケ”をお届けします。“今知っておくべき静岡トピックス”を学ぶコーナー「3時のドリル」は毎回午後3時から。番組公式X(旧Twitter)もチェック!

関連タグ

あなたにおすすめの記事

人気記事ランキング

ライターから記事を探す

エリアの記事を探す

stat_1