
(橋本)今日は自民党が新設した政治刷新本部について取り上げたいと思います。派閥の政治資金パーティーによる裏金事件を受けて、岸田文雄党総裁の直属機関として設置されました。1月11日に初会合が開かれ、派閥解消の是非を巡り議論しました。
裏金事件については年末年始も東京地検特捜部による捜査が続いていて、国会議員が逮捕されたりもしているので、関心を持っている方も多いのではないかと思います。
(山田)個人的には、年明けから能登半島の地震や芸能界のゴタゴタ話などに目が向いてしまっていたので、裏金事件の動向のチェックがおろそかになってしまっていました。改めて解説をお願いします。まずはおさらいからいきましょうか。
(橋本)政治資金規正法では、政治活動に使われるお金について国民に疑念を抱かせたり、不正が行われたりしないようにいろいろなルールを定めています。
具体的には、政治家個人が企業とか団体から寄附金を受け取ることを禁止していたり、お金の出入りを明確にして公表したりすることを義務付けていたりします。
政治資金パーティーの開催自体は認められています。ただ、総務省や地元の選挙管理委員会に提出する政治資金報告書に収支を明記することが求められています。
自民党は政治家個人のほかにも派閥単位でパーティーを頻繁に開いて政治資金を集めています。できるだけ多くの資金を集めるためには、より多くのパーティー券を売りたいですよね。そのために各派閥は所属している議員にノルマを課しています。
(山田)コンサートや演劇のチケット販売ノルマみたいな感じですね。
(橋本)そうですね。所属議員はノルマを達成するために頑張ってパーティー券を売ります。その結果、ノルマよりも多く売れた場合、安倍派では超過分を売った議員に還元するということが行われていました。
(山田)ノルマが10枚だった場合は、11枚目以降の収入は売った議員のものになるということですね。
(橋本)手法としては2つ明らかになっています。1つは一度派閥にお金を入れた上で、議員に戻す方法。もう1つは議員がノルマの超過分は派閥に入れないで、中抜きするというやり方です。本来なら券の売上も議員に入った分も、すべて政治資金報告書に記載しなければならないのですが、そのルールを守っていなかったということなんです。
(山田)報告書に書いてなかったという点が問題なわけですよね。
(橋本)政治資金規正法違反の不記載、虚偽記載の時効は5年です。安倍派は所属議員が多くて組織が大きいということもあり、過去5年間を調べたところ、裏金が6億円ほどに上ると言われています。二階派でも同じようなキックバックや中抜きが行われていたということも報道されています。
(山田)長年にわたって違反が繰り返されていたんですね。
「不記載」は見過ごせない問題!国民は怒っていい
(橋本)政治資金規正法ではいろいろと規制されていますが、抜け道が多いとも言われていて、「ざる法」だという批判もあります。ですが、その「ざる法」に書かれているルールさえ守られていない状況が浮き彫りになりました。「政治資金収支報告書に記載していなかっただけで大したことではないのでは」と思う方もいるかもしれません。しかし、お金の出入りが隠されて明らかにならないということは、裏金として何に使われるか分からないということにもなります。選挙のときに不正に使っているかもしれないという疑いも出てきてしまいます。
なので、やはりこれは見過ごせない問題です。国民はこの違反に対してもっと怒ってもいいと思います。
(山田)だからこれだけ報道されていると。
(橋本)検察は年明けに5000万円近いキックバックを受けていたとされる安倍派の池田佳隆衆議院議員を逮捕しました。ただ、派閥として組織的に行っていたということが明らかになっていますので、捜査の本当の焦点は派閥幹部の責任が追及されるかどうかです。そうでないとこの犯罪の全容が明らかになったとは言えないと思います。
最近になって、責任追及は会計責任者だけにとどまって派閥幹部の立件は見送る方針になっているという一部報道もありました。それに対してインターネットなどでは批判の声が上がっています。最終的に、本当に不起訴になるかどうかはまだわかりませんが。
(山田)このような中で、自民党の政治刷新本部ができたということですが。
(橋本)岸田首相としては元々支持率が低下していた中で、今回の国民の怒りに対してなんとか政治不信を払拭し、支持を取り戻さなければいけない状況になっています。そのために「党を改革する」と宣言して、政治刷新本部という組織を設けました。
ただ、そもそも疑惑があって捜査が行われているのに、自民党側からこの問題に関する説明がほとんどないんです。県内選出で安倍派の宮沢博行衆院議員が「派閥から指示があった」と暴露して話題になりましたが、全容について、本当にどういうことが行われていたのか、どのような不正があったのか、誰が関与したのか、といったことを党の関係者は全く説明していません。政治刷新本部で再発防止策を検討する前に、まずは自ら疑惑解明をすべきだとツッコミを受けています。
政治刷新本部のメンバーにも疑問があります。岸田首相が自ら先頭に立つという意思を示して本部長に就き、麻生派トップの麻生太郎元首相と菅義偉前首相を最高顧問に据えました。今の自民党の役職者もほぼ全員がメンバーに入っています。さらに若手や女性の意見も聞いて改革に繋げたいということで、青年局や女性局の局長経験者も加えました。有名どころでは小泉進次郎元環境相や、昨年「エッフェル姉さん」と揶揄された松川るいさんがいます。
そして、38人のメンバーの中で安倍派が10人を占めているんです。
この人選で果たして改革できるのか?
(山田)首相経験者とかがいる中で、若手の意見は通るんでしょうか。(橋本)重鎮が居並ぶ中で若手が自由に意見を言えるのかという懸念もありますし、何より今回の問題の当事者である安倍派から10人も入っているというのが疑問です。裏金疑惑を受けて安倍派の議員は大臣、副大臣、党の要職から外されています。自民党は幅広く意見を聞くためだと説明していますが、整合性があるのかという点が問題になっています。
(山田)率直にそう思いますよね。
(橋本)最高顧問の菅さんは無派閥で、初会合で派閥は解消すべきだというような意見を述べたとされてます。一方で、派閥の長でもある麻生さんは「派閥は必要だ」という揺るぎない考えを持っているようで、完全に意見が割れている状況です。今回の裏金の問題についても、麻生さんは「安倍派の問題だ」という見方をしていると言われてます。
そういう中で、今回のメンバーで果たして改革案がまとまるのかという懸念があります。
(山田)刷新できるのかということですね。
(橋本)ちょっと望み薄なんじゃないでしょうか。
(山田)この刷新本部はどうなっていくんですか。
(橋本)そもそもこれだけ長い間行われてきたことや党の体質を自分たちだけで変えようというのは無理ではないかと思います。
(山田)そうですよね。
(橋本)本来であれば、第三者委員会を作り、そこで決めたことはきちんと守るというような決意表明をするべきではないかと。外部の目で改革案をまとめてもらい、それを丸呑みするぐらいの覚悟がないと、国民からは「自民党は変わろうとしているんだ」と受け止められないと思います。
そういう意味でこの刷新本部が成果を挙げられるかということには懐疑的です。1月中に中間報告をまとめると言っているので、その中身を見てみたいですが、組織の成り立ちからしてあまり期待できないのではないかと思っています。
名称自体がお門違いでは?

(山田)誰かが「この刷新本部を刷新する本部を作るべきだ」というようなことを言っていたとも聞きます。
(橋本)静岡新聞の論説委員の間でも「政治刷新本部と名付けているけど、政治そのものが悪いのではなくて自民党に問題があるのだから、自民党刷新本部といった名称にするべきでは」という声もありました。自民党、あるいは自民党政治を刷新するべき話なのに、なにか全ての政治が悪いというような印象を与えますよね。
(山田)政治全体を道連れにした感じもありますよね。
(橋本)なので「この名称はお門違いじゃないか」というような辛辣な意見もありました。
(山田)1月中に中間報告が出るということですから、まずはそこに注目ですね。今日の勉強はこれでおしまい!