
【自民党の派閥解消の裏を読む】背景にあるのは権力闘争!岸田文雄首相の思惑とは?派閥の力を削ぐのが目的か?

(市川)今日は自民党の派閥の話をしたいと思います。自民党派閥の政治資金パーティーを巡る裏金事件を受け、党総裁の岸田文雄首相は出身派閥の岸田派を解散する意向を表明しました。同様に安倍派と二階派も派閥の解散を表明しました。
今後、残る麻生派、茂木派、森山派の対応に注目が集まります。最新のニュースでは、どうやら麻生派については派閥を残すという方向が報じられています。
(山田)解散が決まった派閥の議員の中には泣いている方もいましたね。
(市川)派閥というのは議員にとってそのぐらい思い入れがあるものなのかと思いました。
(山田)素人の質問で申し訳ないですが、派閥というのは同じ政策や理念を持った人たちの集まりという考え方でいいですよね?
(市川)そうですね。政治家は一応政策集団という呼び方をしています。
(山田)それであれば政党にすればいいのではないかと思ってしまうのですが。
(市川)ただ、派閥の力の源泉もそうなのですが、政治というのは数が物を言います。自民党が今すごく強いのは、国会の中で過半数を握っているということが大きいんです。
自民党の中には現在6つの派閥があるんですけど、それぞれに分裂して政党を作ってしまったら、所属議員の数が野党以下になってしまう派閥もあります。やはり党としての基本的な数は保持したまま、その中で権力闘争を繰り広げるというのが派閥なんです。
(山田)そういうことなんですね。さて、派閥の問題はどうなっていくんでしょうか。
(市川)派閥というのは政治だけの言葉ではないですよね。どこの社会や会社にも派閥があります。「人が3人集まれば派閥ができる」というのは有名な言葉です。
(山田)スポーツチームのサポーターの間でも派閥的なものがあったりするようですよね。
議会制民主主義が派閥を生んだ?
(市川)3人集まると1人と2人に分かれる、という話ですね。なぜかというと、やはり世の中は多数決の世界なので、人間の習性として多数派になろうと仲間を作りたがるんです。政治の世界、それも国政では、派閥ができるのは必然とも言えるんです。それには、制度上の理由があります。日本が議会制民主主義を採用していることに影響しています。アメリカのように国のトップを民衆が直接投票によって選ぶのではなく、日本の総理大臣は国会議員の投票によって選ぶ仕組みになっています。議会制民主主義では、「数」の力が権力の源泉なんです。
例えば、マスコミ各社は世論調査で次の首相にふさわしい人を聞きます。ここで1位の常連になっているのが自民党の石破茂元幹事長です。ところが、総理大臣になりそうもないですよね。
なぜかというと、石破さんは一時、石破派という派閥を作っていましたが、今は解散していて無派閥です。自民党の政治家からは人気があまりないと言われています。石破さんの人気は、しがらみにとらわれず、いつも正論を言っているイメージが国民の中にあるからだと思います。
(山田)淡々と発言する感じがありますよね。
(市川)それはそれでいいのですが、自民党の中で人気を得ようと思うと、面倒見がよかったり、一緒にご飯を食べたりお酒を飲んだりすることが大事になります。
人望と言ってしまったらそれまでなんですが、そういう多数派工作をする中でこの親分のために汗を流そうという仲間を作っていくことが総理大臣への道になります。正論よりもそちらが大事というのが政治の世界です。
(山田)自民党内で派閥ができるのは自然の流れということなんですね。
(市川)総理大臣を国会議員の投票で決めるという制度の中では仕方がない部分がありますよね。
僕は政治ノンフィクションの本をよく読むんですが、その傑作とされる「竹下派死闘の七十日」という作品があります。政治ジャーナリストで今でもテレビに毎日のように出演されている田崎史郎さんが書いた本です。竹下派、いまの茂木派に続く系譜の派閥抗争を描いているんですが、この中にかつて自民党で大きな権力を握った小沢一郎衆院議員が登場します。
小沢さんは「政治は武器を使わない合法的な戦争」と述べていたという話が出てきます。どういう意味かといえば、武器や暴力は使わないけれど、権謀術数を尽くして、敵を倒して権力を得ていくということを繰り返してきたのが、政治の歴史だということです。政治の武器は「数」だと言われています。。
(山田)へぇー、なるほど。
権力の源泉は「カネ」と「ポスト」
(市川)派閥は、自分たちの考えに近い人を総理大臣にするために、権力を得るためのものですが、派閥の力の源泉は「カネ」と「ポスト」です。政党に対しては、政党交付金というわれわれ国民1人あたり250円の税金が交付されています。年間の総額は350億円ほどで、それが議員数に応じて各党に分けられる仕組みです。
自民党には160億円ほど配分されていて、それを幹事長や各派閥のトップに党が支出し、そこから所属議員に配られます。これが「政策活動費」と呼ばれています。
お金以上に重要なのがポストです。政治家の力の源泉は行政への影響力なんです。
(山田)政治家が「自分が道路事業を引っ張ってきた」などと言ったりしますが、それですね。
(市川)そうです。行政は、税金の使い道を決めているので非常に力があります。税金の使い道として大きいのが公共事業ですけど、実際にその公共事業を請け負うのは民間企業です。民間からすると、行政には頭が上がらないんですよ。だからこそ、行政への影響力のある政治家は非常に力を持ち、民間からもチヤホヤされます。
その行政のトップが総理大臣であり、大臣、そして副大臣や政務官。このポストの配分は派閥からの推薦がものを言います。派閥に入っていないと、なかなかポストが巡ってこない。これが派閥の力の源泉です。
(山田)無派閥だとやはりポストに就くのは無理なんですか。
(市川)無理ではないんですが、派閥にいる人よりも壁が高くなります。静岡県選出の宮澤博行衆院議員は安倍派の裏金問題に関連して、就任3カ月で防衛副大臣を辞任することになり、「ようやく副大臣になったばかりだった。とにかく悔しい」と男泣きしていましたよね。議員にとっては、副大臣になるというのは泣くぐらい大きいことだったということのようです。
(山田)みんなそのポストを目指しているんですね。
69年前にもあった派閥解消論
(市川)今回、その派閥を解散しようという話になっているんですが、これは昔から言われてきていることなんです。過去の静岡新聞を調べていたら、自民党結党翌年の1956年にはもう派閥ができていて、派閥間で総裁を選ぶのに揉めていました。石橋湛山という県内選出の総理大臣まで務めた政治家がいるのですが、石橋湛山がこの年に静岡新聞のインタビューに答え、派閥解消を訴えてるんです。今から69年も前のことです。(山田)それでもずっと残っているんですね。
(市川)最近では1989年にリクルート事件が起きたときや、1993年に細川連立政権の誕生で自民党が野党に転落したあとの1994年にも派閥解消を大々的に訴えています。
(山田)長い歴史の中で、何回も派閥解消の話が出ているんですね。
(市川)それでもなかなか解消できなかったんです。派閥を解消すると、今度は総理大臣に権力が集中するんです。これまで大臣、副大臣、政務官などのポストは派閥の推薦に応じて、しかも当選回数を基に割り振っていたような部分があったんですが、自民党の政治刷新会議では、派閥の人事推薦をやめようという話にもなっていると報道されています。
派閥がなくなると、総理大臣や幹事長など一部の人間に人事権が集中することになります。実は、過去にあった派閥解消論なども権力闘争の一環でした。自分の派閥があまり大きくない総理大臣などが、他の派閥の力を削ごうとして派閥の解消を言い出して自身の権力を保持しようとするという側面がありました。
(山田)なるほど。
派閥解消は派閥「改称」?

(市川)今回、派閥解消を切り出した岸田首相が所属する岸田派は自民党の第4派閥です。
(山田)力が弱い方の部類なんですね。
(市川)自民党内では第2派閥の麻生派や第3派閥の茂木派は反発していると伝わってきます。これはある意味で権力闘争が背景にあるんです。
(山田)衆院解散・総選挙のタイミングが難しく、秋には党の総裁選があるという状況で、派閥の力をなくすために派閥解消を進めているということですか。
(市川)岸田首相はいま支持率が低迷しています。ポストやお金の配分をなくそうというのであれば、派閥の意義もなくなる。それであれば派閥をなくすということを公言することで、国民の支持率を上げようという下心があるのかもしれないですが、最も大きな背景としては権力闘争の側面があるのではないかと思っています。
(山田)市川さんの読みとしては、今後本当に派閥はなくなっていくと思いますか。
(市川)表面的には解消するのかもしれませんが、50年以上前の新聞にも「派閥解消は派閥改称だ」という嫌味が載っています。
(山田)結局残っていくわけですか。
(市川)50年以上前から名前を変えるだけじゃないかという皮肉話が出るぐらいですからね。総理大臣になる党の総裁を選ぶときには国会議員の中で投票を行うので、まっさらな中ではできないですよね。当然、グループを作ってこの人を当選させようという動きが出てくるので、なかなか難しいかもしれませんね。
(山田)今、ニュースで話題になっている派閥解散について、この後の動きが気になるような内容を教えていただきました。今日の勉強はこれでおしまい!
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