
エヴァのミサトさんが飲んでいる「あのお酒」
まずは『新世紀エヴァンゲリオン』で葛城ミサトが飲んでいるお酒。TVシリーズの第弐話に出てくるときは「ヱビスビール(YEBISU)」なんですが、その後の話数では「エビチュビール(YEBICHU)」になってるんです。この名前の変化には、結構ハイコンテクストなお話があります。まず「ダイレクトに商品名を使うと問題があるのかな、だから変えちゃったのかな」っていうのが、普通の視聴者の考えることだと思います。それもあったかもしれません。ここまでが
第1段階。
もう一段深く考えると出てくるのが、「YEBICHU」っていうのは『おるちゅばんエビちゅ』(伊藤理佐)というハムスターが主人公の漫画からきてるだろう、という予想です。こちらの漫画は1990年連載開始でした。
そして『エヴァ』の後の1999年に、この『おるちゅばんエビちゅ』は、ガイナックスがアニメにしてるんですよ。そしてそのエビちゅの声を、ミサトも演じている三石琴乃さんがあてている。これが第3段階。
なので、今あらためて「YEBICHU」のロゴを見ると、これはめちゃくちゃ必然性があるなっていう感じになるんです。『おるちゅばんエビちゅ』はいい意味で大変品のない、笑えるギャグマンガなのですが、それが密かに引用されてるのが面白いところですね。
ちなみに他にミサトはBOAビールというのも飲んでいるんですが、これは1969年に公開されたアニメ映画『空飛ぶゆうれい船』に出てくるボアジュースが元ネタですね。
あとミサトは獺祭という日本酒も飲んでいます。山口県岩国市の酒ですが、これは庵野監督が山口県宇部市出身なので地元の有名なお酒を使ってるという形です。ちなみに新劇場版になるとちゃんとラガービールとヱビスビールになっているので、エビチュビールが存在しないのはむしろちょっと寂しく感じたりしますね。
あともう一つご紹介したいアニメのお酒が、1974年に放送された『はじめ人間ギャートルズ』。原始時代の家族を題材にしたギャグアニメなんですけど、ここに猿酒というお酒が出てきます。
猿酒は、本来は猿が集めた果物が発酵してできたお酒のことを指すんですが、ギャートルズに出てくる猿酒は猿に作らせた口噛み酒なんですよ。ドングリを猿に食わせてそれを吐き出させて、発酵させたやつをお父ちゃんが飲んでる。これは『君の名は。』に先立つこと42年前ですね。口噛み酒はそこにフィーチャーされているわけです。
現実ともコラボした「あのお酒」も
3つ目は『有頂天家族』と『夜は短し歩けよ乙女』。どちらも森見登美彦さんの小説が原作のアニメですけれど、その中に出てくる「偽電気ブラン」ですね。電気ブランは浅草の神谷バーが開発した独特のカクテルの名前なんですけど、それをいただいた形で偽電気ブランっていうのがあります。無色透明で芳醇な香りがあり何杯でも飲めるという、作中でもすごくおいしいけれどなかなか飲むことのできない幻の酒みたいな感じで登場します。『有頂天家族』は京都に住む狸たちの話なのですが、この偽電気ブランは狸の間でも親しまれていて、狸の中の夷川家というところが、夷川発電所の裏で密かに作ってるという設定になっています。京都や東京では、作品へのオマージュとしてニセ電気ブランを出してくれるバーがあるようですよ。
ということで、アニメには、お酒についてもいろんな細かなネタがあるなというところでお話を締めくくりたいと思います。
(2023年4月10日放送)