コロナで就労観はどう変わった? ヘッドハンターが能力を見極めるポイントとは

コロナ禍で就労観が変わってきた!?

今回は、「コロナによる日本の就労環境と就労観の変化」についてです。日本テレビの人気アナウンサー桝太一さんが3月末で退社し、大学の研究員に転職するというニュースが話題になりました。このコロナ禍で転職を考えている・考えようとしている人もたくさんいるかと思います。詳しいことを、東京海洋大学教授でAll About転職のノウハウ・外資転職ガイドの小松俊明さんに、SBSアナウンサー牧野克彦がお話をうかがいました。
※2月1日にSBSラジオIPPOで放送したものを編集しています。

牧野:まず小松さんの経歴が非常に興味深いので改めてご紹介します。東京海洋大学教授で、専門はグローバル教育とキャリア教育。サイバー大学の客員教授も兼任されています。著書は『できる上司は定時に帰る』『35歳からの転職成功マニュアル』『人材紹介の仕事がよくわかる本』など。元ヘッドハンターで企業の採用事情に詳しい方なんです。

まずはコロナ禍で、会社で働く就労観に、変化はでてきているのでしょうか?

小松:そうだと思います。やはりコロナ前の日本の職場には、よくも悪くもウェットな人間関係が存在していました。実際に、長い時間を職場で同僚と一緒に過ごしますし、お互い信頼関係を築くために懇親の場を設けたりもする。ある意味、家族のような関係性があったと思います。

コロナ禍で在宅勤務が増え、打ち合わせもオンラインが中心、同僚と会う時間も減ったという人は多いですよね。それによって、自分の自由な時間ができ、ひとりで考える時間も増えたのではないかと思います。その変化は、若い社員にもベテラン社員にも、かなり影響があったのでは?と見ています。

牧野:同期と仲が深まらないなど、孤独感を感じている人も多いですか? 

小松:マスクをしていることでお互い表情が読めなかったり、食事も一緒にできない。歓迎会もしないので新しい仲間が加わっても、なかなか懐に飛び込んでくれないといった、仕事と日常生活のバランスに、みなさん悩みながら順応してきた2年間だったのではないでしょうか。

牧野:そんな中で、離職率が高まっている会社もあると思いますが、魅力的な職場にしようと、副業や兼業もOKにする会社が増えていたり、一度辞めた社員の復職を認めるといった会社も出てきていますよね?

小松:それは最近非常に顕著な動きですね。本来会社としては自分の仕事に集中することを社員に求めるはずなんです。ただ、「なかなか自分の希望するような仕事ができていない」「待遇も改善されていない」ましてや「先輩や上司からの指導も十分に受けていない」となると、社員が不満を感じやすくなってきます。ただでさえ社会が不安定なので、このままこの仕事や会社でいいのかと悩んでいるときに、会社側も給料を上げられなかったり、社員を繋ぎとめられるものは何かと非常に悩んでいるところだと思います。

転職に対する考え方

牧野:桝太一さんの転職もそうですが、転職というものに対する考え方にも変化が出てきていますか?

小松:転職というのは元々自分の待遇や評価を改善していったり、自分が挑戦したい何か新しいチャレンジを見つけて環境をかえることだったと思います。一方で、リスクも当然あり……、例えば、長い住宅ローンを組んでいるとか、会社にこれまでの義理があるなど、変化に不安を感じる人も多く、諦めざるを得なかったという人も多かったと思います。

しかし、今回の桝太一さんの転職というのは、ある意味、みなさんの不安を吹っ飛ばしたような、誰もがやってみたいと思うことに一歩踏み出したものだったと思います。

コロナ禍で就労環境が大きく変わり、給料が上がらなくても副業で埋め合わせをしたり、在宅勤務によって時間や体力的余裕が生まれ、家族と過ごす時間が増えたり、プライベートの時間の過ごし方にも変化が生まれ、もしかしたら自分にも似たようなことができるのではないかと思えた人もいたのではないでしょうか。

桝さんもやりたいことのために、給料やその他の待遇を犠牲にしたのではなく、前の会社の給料や待遇から落ちた分は別の形(副業で得る新たな収入や新しい出会い、そして自由になる時間が増えるなど)で、じゅうぶん補充できるという計算ができたから、やめることができたと思うんです。

牧野:小松さんも45歳の時に転職されているんですよね? 世の中の基準からしたら遅めだと思うのですが。

小松:私自身、非常に珍しいケースだと自分でも思っていました。産業界から大学の世界へ転身するというのは、事例はなくはないですが、珍しかったと思います。ただその前の10年くらい自分が仕事で関わってきたことが、時代の変化の中で、大学でも必要とされるようになってきていました。

具体的には、リアルな産業界での実務経験が、大学の中でより必要とされるようになってきました。グローバル化の時代、私が注力してきた外資系の企業で起きていることや日本の企業が変化してきていることも、大学で自然と受け入れられるようになってきました。そういった時代の変化があって、大学側も今までにはいなかったタイプの人を受け入れようとなっていったんだと思います。

牧野:受け入れる側の体制も大事だし、その部分も今はだいぶ変わってきているんじゃないかと思います。一昔前まで、転職ってまた辞めてしまうのでは?と思われて、印象がよくなかったですよね。

小松:そうですね。コミュニケーションがあまり上手ではないんじゃないかと対人関係に不安を抱かれたからだと思います。ただ今は、どんな人も社内外の人と連携して働く時代。ひとつの会社の中でも、まるで転職のように環境の違う人とプロジェクトを組むことは普通のことですよね。なので転職したから特別な人という認識もないですし、コロナ禍での働き方の変化、中途採用の人も増えていて普通のことになったんだと思います。

牧野:転職に対する考え方が変わってくると、長年日本で続いていた終身雇用の制度にも影響があるのでしょうか?

小松:転職社会になってずいぶん長いといわれているものの、多くの人が最後までひとつの会社で勤め上げる、特に大企業ほどその傾向は今でもあります。一方で、会社としては定年まですべての社員を抱えていくのは難しいので、解雇規制の緩和に関する議論や早期退職の話もあるということですね。

何を意識して働くか

牧野:今後、私たち働く身としては、どのようなことを意識するのがいいでしょうか?

小松:自分がやりたいことをまずやっていくことですね。自分の自由な裁量をどう増やしていくかが、将来に繋がっていくと思います。それが自分の経験や知識、人脈として蓄積されていくので、それを人生の中盤・後半でどう活かしていくかがポイントになります。桝さんのケースはそのヒントになったと言えそうです。

牧野:桝さんはアナウンサーとしても高い技術があって、さらに研究という専門性の高いところへ行かれますよね。ヘッドハンター時代、小松さんは「評価が高い人」をどういう基準で見ていましたか?

小松:自分ができないことは他の人にしっかりお願いできたり、自分のできることは相手に提供したりと、そのあたりの見極めがはっきりしていることです。これは特別な能力ではないとも思っています。どちらかというと、「いいものを作っていこう!」「お客さんにいいサービスを提供しよう」という思いが強ければ、自然と今お伝えしたような、一番最適な選択をすると思います。

「あまり得意でなくても自分がやった方がいいんじゃないか」「人に頼むと自分のチャンスを逃してしまうのではないか」と、自分を中心に考えてしまうのも人間の自然な姿だとは思いますが、やはり、お客さんが一番喜ぶにはこの部分の仕事は人に頼む、ここは得意なので自分がやるという見極めは重要。トータルで見たとき、最もレベルの高いサービスや商品を相手に提供できれば、お客さんも評価してくれますし、上司も認めてくれることになります。

牧野:やるべきことの見極めですね。

小松:外資系企業って、能力が高いとか、野心のある人が成功しているイメージがありますが、実はそうではなく、非常に人間らしいところで他の人の力を借りられる人はうまくいっていると思いました。

牧野:たくさんのヒントをありがとうございました!
今回お話をうかがったのは……小松俊明さん
東京海洋大学教授、AllAbout転職のノウハウ・外資転職ガイド。総合商社と外資系企業を経て大学教員となる。現代の社会問題やグローバル企業の取り組みなどを若い世代に紹介し、異なる世代が共に未来を作るための議論をする場を増やすことをミッションに、東京周辺や栃木県、岩手県、北海道、そしてタイ、台湾、シンガポール、ベトナム、ノルウェーなどをフィールドに活動している。

 

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