一緒にNIE

「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=読み手に届く新聞を コンクール入賞常連校の富士東高 流行や時事問題 等身大の視点で

2024年03月03日(日)付 朝刊


■読み手に届く新聞を コンクール入賞常連校の富士東高 流行や時事問題 等身大の視点で

 富士東高新聞部(富士市)は県高校新聞コンクールの上位入賞常連校。「読み手に届く新聞」をモットーに、コロナ禍でのマスク事情や「推し活」など、高校生が気になる話題を追いかけて取材に励んでいる。

 
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制作した新聞を並べて企画について話し合う部員たち=富士市の富士東高

 
 部員は2年生と1年生計10人。放課後の部室には、毎日のように多くの部員が集まってくる。新聞づくりの活動時間以外でも情報のアンテナを張り、何げないおしゃべりが取材のネタにつながることもある。部員らは「仲間と一緒に街へ出て取材するのが楽しい」「自分で考えて動けることが新聞部の魅力」と口をそろえる。
 主な活動は年3回発行し全校生徒に配る「富士東高校新聞」の制作だ。企画会議では、1人当たり四つのアイデアを持ち寄り4、5時間かけて紙面の内容を議論する。構成の決め手は、読み手である高校生の興味を引くこと。アイドルやキャラクターを応援する「推し活」に取り組む先生へのインタビュー、コロナ禍でのマスク着用に関する校内アンケートなど、流行や時事問題を高校生の視点で記事にしている。ネタ探しにはインターネットやSNSのチェックも欠かさない。

 

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これまでに発行した新聞

 
 地元を知ってほしい思いから、硬派なネタにも意欲的だ。昨年の県高校新聞コンクールで優秀賞を獲得した第126号では、地元の田子の浦港における環境問題を取り上げた。複数の漁港関係者を取材したほか、問題を身近に感じてもらおうと、生徒によるルポも用意した。部長の福井理央さんは「普段の学校生活やインターネットでは知ることができないことを、自分から調べたり体験できたりするのが新聞づくりの面白さ」と語る。
 富士東高校新聞のほか、各部活動の大会結果を写真とともに伝える「写真版速報」や校内行事の様子を紹介する「東高タイムズ」も制作している。こうした新聞がクラスに掲示される瞬間は部活動の醍醐味[だいごみ]の一つ。福井さんは「クラスメートが自分の撮影した写真を見て喜んでくれると、新聞の力を感じる。形に残るのが紙媒体の良さ。読まれる紙面づくりに挑戦していきたい」と力を込める。
 (富士支局・沢口翔斗)

 
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■紙面授業 地歴公民 小さな善意が動かす力 藤枝明誠中・高 山内正邦先生

 元日に能登半島を襲った最大震度7の地震は、甚大な被害が報道され、南海トラフ地震が懸念される静岡県民にとって人ごとではありません。日本は地震列島とも呼ばれ、最古の歴史書の一つ「日本書紀」にも地震被害が記されています。近年起こった震災では、国内だけでなく海外からも支援の手が差し伸べられていますが、特に忘れてならないのはトルコの存在でしょう。
 トルコとの友好関係は、1890年のトルコ軍艦エルトゥールル号遭難事件から始まったとされます。
 台風のため難破した乗員を救助したのは、漁村の大島村(現在の和歌山県串本町)の村民でした。村民総出で生存者を捜索し、負傷者を看病し、回復すると本国へ送り届け義援金も送りました。この勇気ある村民の行動は、後にトルコで教科書にも掲載されるほど広がりました。
 この出来事を日本人が改めて思い出したのは、1985年イラン・イラク戦争の時でした。開戦でイラン国内に取り残され帰国困難となった日本人を、事件の恩を忘れていなかったトルコが、航空機で自国民より優先して救出してくれたのです。
 さらに2011年の東日本大震災時には救助隊や物資をいち早く届けてくれました。日本も23年のトルコ・シリア地震ではトルコを支援し、両国は互いに支え合う関係になっていきました。
 遭難事件の際、村民はただ目の前の命を救おうとする一心で救助を行ったに違いありません。しかしそれは確かに日本と世界を変えたのです。小さな一人一人の善意が、波状的に大きな力になることは歴史が証明しています。被災地に心を寄せること、そして人々の助け合う心が、能登でもそしてこれからも、復興に向けた力強い歩みにつながると信じています。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(80)被災地の現実 自分ごとに(吉川契子教諭/静岡城北高)

 大災害が発生した際、私は新聞各紙を買い集めて教室に持って行きます。阪神淡路大震災の時から始めて現在まで継続している方法です。生徒にも新聞情報に注目するよう呼びかけます。
 能登半島地震では記事の持参を高校1年の全クラスで呼びかけました。地震動による家屋の倒壊や津波、液状化、地盤の隆起、土砂災害。長引く避難生活と停電・断水。自然が猛威を振るい、被災地の人々が困難な暮らしを強いられている現実を知ります。
 記事を読み、自分ごととして捉え、どのように関わりたいか、考えたことを生徒に発表してもらいました。
 家庭で改めて防災対策を話し合い家具の固定などを行った、発災時は支える立場として災害復興に尽力したい、看護師として治療と心のケアにあたりたい、教員になって子どもたちに地震のことを伝え、共に防災対策を考えたい、と多様でした。皆が力を合わせて困難を乗り切っていくことが大切であると気付いた生徒もいます。
 阪神淡路大震災時の教え子が今回、いち早く被災地支援を行ったことを知りました。学習したことが生徒の心に残り、次なる行動に結びつく。新聞からの学びの意義を確信しています。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=学校行事 紙面化 表現力磨く ワークシートで読解力も向上 浜松 春野中

2024年02月04日(日)付 朝刊


■月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=学校行事 紙面化 表現力磨く ワークシートで読解力も向上 浜松 春野中

 浜松市天竜区春野町の春野中はNIE実践指定校となり2年目の本年度、学校行事を振り返る新聞の作成に取り組んだ。生徒たちは写真と記事で1枚の紙を埋める作業を通じ、体験や感想を生き生きと表現する力の向上につなげている。

 

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新聞作りに取り組む生徒たち。体験内容や感想をつづる=浜松市天竜区春野町の春野中

 

 「見出しは短く、インパクトがあるようにしないと」「写真はここに貼ろうかな」-。2年生が総合学習の時間を活用し、11月に開かれた学習発表会「黎明[れいめい]祭」の様子をつづっていく。2時間ほどすると、一点物の新聞をほぼ完成させる生徒の姿もみられた。
 昨年4月以降、職場体験や陶芸体験などの学校行事を振り返る機会として新聞作りを重ねてきた。「春野の魅力新しく発見」「とても緊張した職場体験」といった見出しからはそれぞれの個性が浮かぶ。2年の山田偉葵[いさき]さん(14)は「新聞には難しいイメージがあったが、意見をまとめたり見出しを考えたりしているうちに面白さを感じるようになった」と話す。

 

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これまでに作成した新聞

 
 新聞記事を使い、放課後の時間に約15分学習する活動も重視する。静岡新聞のNIEウェブサイトからダウンロードした「新聞ワークシート」を活用し、記事から読み取るポイントを考える問題に回答していく。地域の課題への理解を深めるとともに、読解力を養うことに役立てている。
 生徒に行ったアンケートでは、ワークシートに取り組んで以降、読解力が「高まった」「少し高まった」との回答は2~3年生全体の9割に上った。「テストの問題の意味を理解できるようになった」「本の内容を要約することが容易になった」などの感想からは、文章を読み取る力が普段の学習に好影響を与えている状況がうかがえる。
 NIE学習に取り組む全校生徒数は47人。教諭間で試行錯誤を重ねてきたことで、指導ノウハウの向上にもつながっているという。NIE学習を担当する武井千幸教諭は「少人数の学級だからこその丁寧な指導で、伝える相手を意識した言葉の学習に取り組んでいる。全ての教科に必要な表現力や集中力の向上につなげていきたい」と話す。
 (天竜支局・平野慧)

 
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■紙面授業 英語 自然史進展に人間模様 磐田東中・高 内海暁子先生

 英自然科学者チャールズ・ダーウィンの「種の起源」(1859年)の土台となるノートが一昨年春、行方不明から約22年ぶりに所蔵元の英ケンブリッジ大図書館に匿名で返却されたと報道されました。1837年に書かれたノートには、自然選択による進化論の基となる概念や「生命の樹」のスケッチが書き込まれ、ダーウィンが進化論を20年以上温めてきたことをうかがわせる超一級の資料です。
 進化論の発表は、小説「シャーロック・ホームズシリーズ」や「不思議の国のアリス」が誕生したビクトリア朝時代の英国で、科学上の大事件となりましたが、刊行の立役者となったのが年下のライバル、博物学者アルフレッド・ラッセル・ウォレスだったことはあまり知られていません。
 ウォレスはダーウィンとほぼ同じ理論に独自に到達していましたが、ウォレスからの手紙で互いのアイデアの類似に驚いたダーウィンは、この長年温めてきた理論を1年で「種の起源」にまとめ上げます。それを知ったウォレスは、「自然選択の理論はあなただけのもの」であり、自分の功績は「執筆と公表を促したことのみ」と、後にダーウィンに書き送ります。ウォレスはダーウィンの「大ファン」でした。
 昨年はウォレス生誕200周年を祝うイベントが世界各地で開かれました。ダーウィンの名声の影に隠れても、後世に与えた影響の大きかったことの証しでしょう。自然史の進展の裏の人間模様に驚かされます。スペインの国立自然科学博物館では、夏までウォレス展が開催されています。日本でも国立科学博物館が昨夏、運営難の資金協力を呼びかけたところ、初日で目標の1億円を達成して話題になるなど、自然史への関心は世界共通。今は貴重な原典も世界中のウェブサイトで気軽に閲覧できます。ぜひ大科学者たちの足跡を身近にしてみてください。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(79)政治不信から希望 語り合う(伊藤大介教諭/静岡聖光学院中・高)

 勤務校では1月下旬に卒業式を迎えるため、例年この時期、高校3年生は各教科で最後の授業を受けます。筆者が自身の最後の授業で設定した課題は、「魅力的な政治とは何か」。1年間のNIEの取り組みのまとめも関連づけた授業では、選挙での若年層の低投票率も考慮し、現在と高3生が生まれた年の政治の記事(「郵政解散」)を複数用意しました。
 授業の後半で「あなたが考える魅力的な政治や政治家を説明しなさい」という問いに、生徒は積極的に意見表明を行っていました。政治の問題では教員としての中立的な立場を意識しながら、一人の大切な有権者を育てるために政治的な現象の本質に迫る必要があります。能登半島地震を支援する記事の一方で、昨年末からの国会議員による政治資金収支報告書不記載問題の連日の報道記事は、生徒たちの政治への魅力を確実に引き下げています。
 筆者は政党助成法の制定や政治資金規正法改正の経緯を、配布した新聞記事で丁寧に生徒と考察しました。NIEの魅力は、記事から受け取る政治への不信を希望に変え、政治を前向きに語れる授業ができることです。生徒は記事も大人もしっかり見つめています。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=科目に応じ 活用多彩に 藤枝・広幡中 公開授業

2024年01月07日(日)付 朝刊


■科目に応じ 活用多彩に 藤枝・広幡中 公開授業

 国語 キーワード捉え 要約文作成

 保健体育 健康の話題 日常と関連付け

 英語 英字新聞 ニュース動画視聴

 

 NIE実践指定校の藤枝市立広幡中で昨年11月に行われたNIEの研究発表会は、特別支援学級を含む1~3年全10クラスの授業を公開した。国語や数学、英語、保健体育などさまざまな教科における新聞の活用例を紹介した。

 

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タブレット端末を使って新聞記事を要約する生徒=藤枝市立広幡中

 
 同校のNIE実践は2年目。「1年間に本を読むことがない」という生徒が半数を超える実態を踏まえて、記事を読み論理的思考や文章力を養う目的で取り組んでいる。柳本雅弘校長は「生徒がさまざまな事象に触れるためには、教職員一丸で進める必要がある」と強調。自らも新聞に写真を投稿するなど、生徒が新聞を身近に感じられるよう積極姿勢を見せる。
 1年生の国語の授業では、文意を要約する単元で新聞記事を使った。石橋直明教諭(27)がキーワードを抜き出したり熟語を用いたりすることで短く分かりやすい文章で伝えられると指導。ネット上のコミュニケーションも踏まえて「文章を読む時にはその意味を理解するだけでなく発信される意図も考える必要がある」と指摘した。生徒は、イスラエルとイスラム組織ハマスの対立や新型コロナウイルス禍の影響、米大リーグ大谷翔平選手についての記事の要約に挑戦。タブレット端末で要約文を作成した。樋川翔大さん(13)は「要約のポイントが分かった。印象に残った新聞記事や文章のキーワードを抜き出してまとめておけば、後から見返すことができそう」と話した。
 2年生の保健体育は、生徒がそれぞれ選んだ健康に関する記事を基に日常生活で意識すべきことを発表した。県内で危険ドラッグの販売店が再確認されたという記事を選んだ生徒は「手軽に入手できるため依存性が高い」などと自分で調べた内容と合わせて、「(一掃のために)自分たちができることは少ないが、知識を持って生活すべきだと思う」と意見を述べた。がん治療の経済的負担や心臓病の記事から、運動習慣とバランスの取れた食生活の重要性を説く生徒もいた。

 

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健康に関する新聞記事を基に意見交換した2年生の保健体育の授業

 
 3年生の英語の授業は導入として英字新聞のニュース動画を視聴。特別支援学級でも、記事内の単語の意味や漢字を辞書で調べながらワークシートを記入した。
 (教育文化部・鈴木明芽)

 
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■紙面授業 国語 感性育む四季の大切さ 静岡大成中・高 中山龍一先生

 「百人一首」の中に「奥山に紅葉[もみじ]踏みわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋は悲しき」という歌があります。この歌は秋のどことなく悲しさを感じさせる季節感を「紅葉」や「鹿の声」という存在で表現しており、聞いたことのある方も多いかと思います。
 昨年の夏は世界各地で記録的猛暑となり、国連のグテレス事務総長は「地球沸騰化の時代が到来した」と警告しました。静岡県では11月に入り25度以上の夏日を記録し、秋らしい陽気も束の間、冬が到来したはずが、12月にも25度近くを記録しました。気候変動によって日本の「四季」が「二季」になるのではないかというニュースに、秋がなくなってしまったら、四季それぞれの美しい自然の姿に育まれてきた豊かな感性も失われてしまうのかと危機感を覚えてしまいます。
 「枕草子」の「うつくしきもの」の一つに、小さな塵をめざとく見つけた幼子が大人一人一人にそれを見せて回る場面があります。幼子は自分の思った通りに見つけたものを大人に見せて回るわけですが、実は大人にとってそれは大したものではありません。しかし、その愛らしい姿を見て、きっと「よく見つけたね」とか「すごいね」といった声をかけていたと思います。そうすると幼子はまた違うものを見つけては大人に見せ、新たな世界を広げていきます。これこそが感性の原点なのだと思います。
 「感性」は「自分の感情を大切にすること」と「自分の世界を広げること」を日頃から意識することによって、筋力トレーニングのように鍛えられていくものだと思います。だからこそ、さまざまな姿を見せてくれる四季の変化は感性に良い影響を与えるものであると感じています。 
 日本の四季を守るということは、その豊かな感性を守っていくことと同義であるのではないでしょうか。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(78)言葉と出合う クロヌリハイク(中村都教諭/静岡千代田小)

 小学3年生を担任しています。国語で俳句を勉強した後、クロヌリハイクに挑戦しました。これは、昨夏行われたNIE全国大会松山大会で考案者の方が披露したものです。
 俳句は、季語を入れて四季の情景や自分の思いを五七五で詠みます。一方、クロヌリハイクは、一つの新聞記事から季語とそれに結び付けて使えそうな言葉を探し出して五七五にし、使わない部分を黒く塗りつぶすのです。
 俳句と違い、文中から言葉を抜き出して作るという制約があるので、使いたい言葉が使えるとは限りません。しかし語彙[ごい]の少ない子どもたちにとっては、記事を読むことで、今まで知らなかったたくさんの言葉に出合うことができるのです。意味が分からなければ、その都度、国語辞典で調べ、選んだ言葉を再構成し作品を完成させました。
 クロヌリハイクは、記事を読んで感想や意見を言い合うというものではありません。しかし、何度も記事を読み返すことで、言葉にこだわりながら文章を読むことができるようになります。クロヌリタンカとしても応用が利くので、どちらも挑戦してみてはいかがでしょうか。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=新聞活用「学校」全般に 静岡・清水飯田中

2023年12月03日(日)付 朝刊


■新聞活用「学校」全般に 静岡・清水飯田中

 NIE実践指定校の清水飯田中(静岡市清水区)は、国語や社会の授業内にとどまっていた新聞活用を学校生活全般に拡大しようと本年度から取り組みを強化した。読者欄への投稿や複数紙を常備した新聞コーナーの設置、NIE係による推薦記事張り出しを通じて、生徒が新聞に触れるきっかけ作りを図る。

 

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新聞コーナーに張り出すおすすめの記事を選ぶNIE係=11月上旬、静岡市清水区の清水飯田中

 

 対象は主に2年生。生徒は朝のホームルームを利用して静岡新聞読者欄「読者のひろば 10代の思い」への投書を書き、これまでに16人が採用された。高齢者に高圧的な態度で接する医者の姿を目撃した経験から、患者に寄り添う医療者になろうと考えたエピソードが掲載された大石想乃さん(13)は「全く期待していなかったので家族と一緒にびっくりした。採用後、同世代の意見を知ろうと読者投稿欄に目を通すようになった」と話した。
 各クラス1、2人が務めるNIE係は紙面から興味を持った記事を選び、切り抜いて新聞コーナーに張り出す。国際面をよくチェックするという田島叶夢さん(13)はイスラエル軍のパレスチナ自治区ガザ攻撃を伝える記事を選んだ。世界的なニュースだが「ウクライナとは何が違うのか」「戦争やってたんだ」と校内では知られていなかった。「知って得する、知らなきゃ損する情報を紹介する」とNIE係として記事を選ぶポイントを明らかにした。

 

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NIE係が選んだ記事が張り出された新聞コーナー

 
 NIE係として活動するにつれて新聞を読み込み始めたという吉田帆花さん(14)と佐野葵さん(同)は中学生から見た紙面への要望も持つようになった。「卓球部としてTリーグの話題を張り出すのに、地元静岡ジェードをもっと取り上げてほしい」「吹奏楽部として夏のコンクールの結果があるといい」と具体的だ。
 NIE担当の赤星信太朗教諭(39)は、新聞コーナーが3年生のスペースに増設されるなど新聞活用の学校への浸透を実感する。「中学生活は子どもらにとって苦労も多い。NIEを通じて日々新しい情報に接する環境を実現し、学校を生徒がわくわくできる場所に変えていきたい」と意気込んだ。
 (教育文化部・マコーリー碧水)

 
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■紙面授業 福祉 人々救済に平等の教え 静岡女子高 八木恵美先生

 現在、パレスチナ自治区ガザでは、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘により、人々が人道危機にさらされています。この争いの背景にあるのが、アラブ人とユダヤ人の対立である「パレスチナ問題」です。とても根深く複雑で、「宗教の対立」ともいわれますが、宗教は福祉と関わりがあることを考えたいと思います。
 「福祉」という言葉には、どちらの漢字にも「幸福」という意味があり、一言で表すと「ふだんの/くらしを/しあわせに」などと表されます。私は「社会で生活する全ての人々が〝自分らしく〟生きていける社会をつくる取り組み」と説明しています。
 この日本の福祉のルーツが、十七条憲法や仏教を広めたことで名高い聖徳太子が開いたといわれる「四箇院[しかいん]」です。四箇院とは、寺院、薬局、病院、病人などのための福祉施設のことです。また、「社会福祉の父」と言われる糸賀一雄は、キリスト教信者であり、戦後、滋賀県に知的障害児の教育を行う近江学園などを創設しました。「死を待つ人の家」を開いたマザー・テレサは、キリスト教の修道女であり、インドで貧困や病に苦しむ人々の救済に生涯をささげました。
 このような宗教と福祉との関わりの根底には「神の前では皆平等」という教えがあります。この教えに従い、仏教やキリスト教などを信仰する人々は、貧困、病気、障害のある人たちのために尽力したのです。
 「宗教」を別の側面から考えてみました。福祉では、その対象となる人のことを考えるときに、「障害」や「病気」だけを見るのではなく、その人自身を見ることが大切だと学びます。
 皆さんにも周りの人や物事に対して、一つの側面や限られた情報から判断するのではなく、視野を広く持ち、いろいろな面から判断するようになってほしいと思います。
 ※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(77)1面コラムに見出しつける(塚本学教諭/常葉大常葉中・高)

 新聞の1面にはコラムが掲載されています。静岡新聞なら「大自在」、朝日新聞は「天声人語」、毎日新聞は「余録」、読売新聞は「編集手帳」などです。こうした新聞社の"顔"とも言えるコラムは記事や社説とは異なる視点でニュースと向き合い、世相を切り取っています。何より、各新聞社が誇る文章の達人が担当していますから名文ばかりです。こうしたコラムに見出しをつけるという試みはどうでしょう。
 見出しを考えるには、深く読み取ることが必要ですので、読解力が身に付きます。内容をズバリ表すよう15字以内にすれば、表現力や発想力も付き、まさに一石二鳥です。個人で考えるのもいいですが、グループを作り、話し合ってみんなで考え、発表し合うことも楽しいものです。
 私はこの4月から生徒に見出し作りに取り組ませています。最初は内容をまとめることに四苦八苦で、要点を並べるだけだった生徒たちが、最近は記事の内容から発想を飛ばし、こちらが思いもよらない見出しを考えてきます。そういえば、2020年9月12日の「大自在」には「縦読み」の仕掛けがありました。「大自在書き写しシート」が静岡新聞NIEのサイトにありますので、ぜひ、1面コラムに注目し活用してみてください。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=記事選び発表 スピーチ力磨く 伊豆・土肥小中一貫校 バトル形式、スクラップも活用

2023年11月05日(日)付 朝刊


■記事選び発表 スピーチ力磨く 伊豆・土肥小中一貫校 バトル形式、スクラップも活用

 伊豆市の土肥小中一貫校の児童生徒が、興味を持った新聞の記事を選んで1分間で紹介する「新ブリオバトル」に取り組んでいる。バトルを企画するなどNIE実践指定校として同校の新聞教育を推進する増田弦己教諭(27)によると、「人前でのスピーチが苦手」といった課題解消のために新聞を活用したという。子どもたちがニュースに触れ、意見を持つ契機をつくり出している。

 
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興味を持った新聞の記事を選んで1分間で紹介する「新ブリオバトル」の本戦で発表する生徒=9月下旬、伊豆市の土肥小中一貫校

 

 新ブリオバトルは5~9年生が対象で、地方紙や全国紙から記事を一つ選ぶ。記事について選んだ理由や感想、訴えたいことなどを発表する。発表を聞いた児童生徒は「声の大きさや強弱」「内容の分かりやすさ」「その記事に興味を持ったか」の3項目をそれぞれ5点満点で採点する。
 選んだ記事の内容は「関東大震災から100年」「土肥の花火」「最も危険な生き物」などさまざまだ。2学期になってから学年ごと授業内で予選会を開き、上位2人が5~9年生約60人の前で発表する本戦に臨んだ。
 本戦では体育館に用意された演台から離れて、聞いている児童生徒に近寄って意見を熱く訴える生徒もいた。採点の結果、1位は9年の小林真菜美さん(14)。「人前で発表するのは緊張したけど、記事について楽しく知ってもらえるのがうれしい」と喜んだ。2位だった9年の高石将吾さん(15)は「ほかの人が気になっているニュースや発表の仕方が勉強になった」と振り返った。増田教諭は子どもたちが生き生きと発表する姿を見て「スピーチの能力が上がってきた」と手応えを口にした。

 

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増田弦己教諭が用意したスクラップブックを読む児童=9月中旬

 
 さらに同校では子どもたちに新聞に親しんでもらうため、空き教室にこれまでストックしてきた新聞数カ月分を設置した。増田教諭は記事を切り抜き、「社会」「防災」「伊豆」など8テーマに分けたスクラップブックも用意。子どもたちは新ブリオバトル開催前や休み時間に、それらを読んで好きな記事を見つけては感想を話し合っているという。増田教諭は「同学年や友達が選んだ記事からニュースに興味を持ち、意見を持つ力もつけてほしい」と期待する。
 (大仁支局・小西龍也)

 
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■紙面授業 国語 日本文化にみる多様性 聖隷クリストファー中・高 金原由貴先生

 長引くウクライナ侵攻を受けて、世界各地でウクライナへの「支援疲れ」が叫ばれています。日本でも関心の薄れを感じる人が多いようです。しかし古来、日本はもっと国際色豊かで、世界に目を向け、つながろうとしていたように思います。
 以前、和歌の宗家、冷泉家25代当主・冷泉為人先生の美術史の講義で、「日本で加工貿易が栄えたのは文化史をひも解けば必然である」というお話を伺いました。これは文学でも同じことが言えそうです。
 例えば、「古事記」に登場する国産み神「イザナギ」について、本居宣長の「古事記伝」では、「誘[いざな]う」の語幹に男性を表す「ギ」がついた言葉だ、と説明されています。一方、室町時代の辞典「アイ嚢鈔[あいのうしょう]」では、仏教の天神「伊舎那天[いしゃなてん]」のことだと記されています。
 さらに、イエスの誕生を預言した「イザヤ」に由来するという説もあります。イザヤはヘブライ語で「神の救い」、「ナギ」は「王、司」を意味するのだとか。
 「旧約聖書」の「イザヤ書」の中にこんな一節があります。「あなたたちは東の地でも主を尊び海の島々でも、イスラエルの神、主の御名を尊べ」。イザヤは紀元前700年ごろの人物です。既に各地に青銅が伝わっていることからも、中国大陸や東の海にある島国・日本を認識していたとしても不思議ではありません。
 そして「古事記」の編さんはイザヤから数えて約1400年後。遠い西の国の物語が、多くの人々の口承を経て日本の国産み物語へ変化していたとしたら...。
 真相は分かりません。ただ、国産み神話が独自のものと考えるより、さまざまな文化を受け入れ加工してできたと考える方が自然な気がします。このように多様性を受け入れられる日本だからこそ、不穏な世界に一石を投じることができる。その一助として、文化の比較研究が求められているのではないでしょうか。
※アイ嚢鈔のアイは土ヘンに草カンムリに去その下に皿

 
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(76)災害の影響 学ぶ素材に(吉川契子教諭/静岡城北高)

 授業で自然災害を取り上げる目的は、児童生徒が、災害の原因となる自然現象を科学的に理解し、災害予測の取り組みを知り、防災に役立てることにあります。大災害の度に新聞は、災害の状況を伝えてきました。教科書で基本を学んだら災害の後、暮らしがどのように影響を受けるのかを記事から学びたいものです。
 9月22日の静岡新聞1面に「台風15号 あす1年」の見出しで昨年、本県に甚大な被害をもたらした台風15号の災害復旧についての記事があります。河川護岸崩壊や道路陥没などの被害は県・市町合わせて562カ所に上り、うち、県の管理する56カ所で復旧工事が未着手とあります。
 社会面では、静岡市清水区でワサビ田の復旧が進まず、廃業の危機に直面する農家の状況を伝え、大井川鉄道は運休していた一部区間が10月1日から再開するとあります。
 台風15号の「その後」を伝える記事は継続的に掲載されています。
 一度の災害がその後の生活に長期的に影響を与えます。記事でその現実を知ることは、次の災害に備える心構えをする上で効果があると考えます。「災害後」を伝える記事を続けてスクラップし、児童生徒に紹介したいですね。
 

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=記事や若者投稿活用 独自の「時事」授業 考え、まとめる力に磨き 沼津・飛龍高

2023年10月01日(日)付 朝刊


■記事や若者投稿活用 独自の「時事」授業 考え、まとめる力に磨き 沼津・飛龍高

 沼津市の飛龍高は今年4月から、元県教育長の安倍徹学園長(70)が中心となり、3年生に独自科目「時事」を設けて新聞を活用した教育に取り組んでいる。社会問題を取り上げた記事だけでなく、同世代の新聞投稿も題材にし、生徒たちにも投稿を促して文章力の向上にも役立てている。

 

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ワークシートや生徒の作文を読み、授業の進め方を話し合う(左から)安倍徹学園長、佐藤正和副校長、原千容教諭=6月中旬、沼津市の飛龍高

 

 同校の生徒はおよそ3分の1が卒業後すぐに就職するため、社会人として必要な知識を得るきっかけとして週1回「時事」の授業を設定した。テキストを兼ねたワークシートは、安倍学園長が中心となって作製。教員4人がそれぞれクラスに合った指導法で授業を進めている。

 

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若者に人気のインフルエンサーを取り上げた記事や、高校生の新聞投稿などを盛り込んだワークシート

 
 6月の授業では、新聞記事をまとめた資料集も活用し、日本の低い食料自給率や、就農人口減少について学んだ。生徒たちはロシアのウクライナ侵攻による穀物価格の上昇や、大雨など気候変動による農業への影響についても意見を交わした。
 授業は、生徒が自ら考え、意見をまとめる力を身に付けることを力点に置く。紹介する記事には、高校生ら同世代が活動した話題を選んだり、記事に呼応する高校生の投稿も併せて紹介したりして、共感を促す。佐藤正和副校長(63)の授業では高校生の投稿の見出しを空欄にし、生徒に考えさせた。「投稿は短い文章で伝えたいことをまとめている。さらにその要素を抽出したのが見出し」と、授業の感想を短い文章でまとめる参考にするよう助言した。別のクラスを担当する原千容教諭(23)は「授業を重ねる度に生徒の文章量が増えてきた」と手応えも感じ始めている。

 

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同世代の投稿が載った新聞紙面を使い、授業をする佐藤正和副校長=6月中旬

 
 ワークシートには、SDGs(持続可能な開発目標)や気候変動など、現在進行形で進む社会課題を扱った記事や、生徒の関心を引きやすいSNSで活動するインフルエンサーを紹介した記事、コラムなども盛り込む。安倍学園長は「きっかけを作れば、生徒たちは関心を持つ。新聞を通じて社会を身近に感じてほしい」と期待する。
 (東部総局・尾藤旭)

 
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■紙面授業 理科 ミツバチの働き思う秋 静岡雙葉中・高 木村剛先生

 今年の夏は世界的に記録的猛暑が続き、連日国内外の暑さのニュースが報道されました。米航空宇宙局(NASA)は6~8月の世界の気温は記録が残る1880年以来、最も高かったと発表し、国連のグテレス事務総長は「気候崩壊が始まった」と警告。日本も気象庁が1898年の統計開始以来の暑さだったと発表しています。9月末には、静岡市で最高気温が35度以上の「猛暑日」を観測史上最も遅く記録しました。

 こうなると、待ち遠しいのが秋。秋を実感できることの一つとして「食欲の秋」が挙げられます。さまざまな作物が収穫を迎える実りの秋です。コメを筆頭に、サツマイモやクリなどの木の実、ナシや柿などのフルーツ、そしてキノコに至るまで旬のものが出回ります。
 私たちが口にする作物の「実」は多くの場合、花の雌しべの付け根である子房という部分に当たります。この「実」ができるには受粉が必要ですが、その受粉の役割の中心を担うのは、「とある虫」なのです。国連環境計画(UNEP)の報告によると、「世界の食料の9割を占める100種類の作物種のうち、7割はミツバチによって受粉を媒介している」と言われており、私たちが生きていく上で、ミツバチは非常に重要な役割を果たしています。

 静岡の特産物であるイチゴを育てる農家は、ビニールハウスの中で受粉用のミツバチを飼育しています。私も昨春から学校の屋上でミツバチの飼育を始めました。静岡市の中心部ですが、結構な量のハチミツを採ることができました。ミツバチの見事な働きぶりに驚かされます。
 ハチミツの収穫は、春にピークを迎え、夏に終わります。人にとっては、過ごしやすく楽しみな「実りの秋」ですが、花の少なくなった秋は、ミツバチにとって、仕事の少ない寂しい季節なのかもしれません。

※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(75)「出合い」逃さず授業に活用(伊藤大介教諭/静岡聖光学院中・高)

 ある新聞記事に、以前から興味のあった人物のことが書かれていました。こういう時にはいつもより丁寧に時間をかけて記事を読みたくなります。その人物とは1970年の大阪万博で「太陽の塔」を制作した岡本太郎氏のことで、縄文土器に魅せられたことが「太陽の塔」の創造につながったという内容が印象に残りました。
 こういう記事との出合いを筆者は逃したくありません。早速、中学生の歴史の授業で縄文時代を考察する場面で記事を使いました。
 まず黒板に自ら手書きで太陽の塔を描きます。生徒から笑い声が聞こえると、記事を配布するタイミングです。「君たちが今日学習する縄文時代に関心を高めてこの塔を建てた人物が記事に書かれているよ」
 笑い声が消え、生徒は文章へ集中し始めます。2025年に大阪・関西万博が開かれる話題に触れながら、縄文時代という過去と太陽の塔という現代をつなげていく。自らが興味をもった記事だからこそ、その日の授業の目標にどのように生徒を近づけていくか。新聞記事は、日常の授業の中に新たな刺激を与える魅力的な教材の一つになる可能性があります。肩の力を抜いて新聞を授業で使ってみてはいかがでしょうか。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載

■紙面授業 保健体育 夢を持ち続ける意味 日大三島高 高村昭寿先生

 水泳の世界選手権が7月に福岡で開催されました。福岡での開催は2001年以来2回目です。久しぶりの日本開催とあって新聞紙面でも連日、大きく報道され、水泳指導者である私も心が躍りました。この大会で、私はある一人の選手に注目しました。女子平泳ぎの鈴木聡美選手です。
 鈴木選手は、開催地福岡県の出身。2012年のロンドンオリンピックでは一つの銀メダルと、二つの銅メダルを獲得し、32歳の今も現役を続けるベテランスイマーです。水泳の女性トップスイマーの平均年齢からすると、だいぶ年齢を重ねていますが、今大会の100メートル平泳ぎで14年ぶりとなる自己記録更新を果たしました。トップになればなるほど、自己記録更新が難しくなる中、14年という歳月をかけて自分に挑み続けた結果に、心打たれました。
 私は教師であると同時に、一人の大人として生活しています。改めて、大人は皆、「夢」や「目標」を持って生きているのだろうかと考えさせられます。仕事では自分の役割があるにしても、子どもの時に思い描いたような非現実的なことも含めた夢を見ているでしょうか。
 30代前半のころ、ある集まりで、「君の夢は何か」と聞かれ、はっきりと答えることができませんでした。進路指導では生徒に目標を持つようにと言いながら、日々の仕事に追われ、自分に「夢」や「目標」がないことに気付かされた瞬間でした。
 その日以来、夢を探す努力をし、40歳を前にして今は明確な目標を掲げて充実した日々を送っています。鈴木選手は五輪を経てなお、追い求めたい価値あるものを見つけたのではないでしょうか。
 夢があると前向きに、そして楽しく生きる力が湧きます。皆さんに夢はありますか。追い求めたいものは何ですか。

※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(74)五感働かせ思考する重み(中村都教諭/静岡千代田小)

 NIEでは、デジタルとアナログの共存に焦点が当てられています。どちらかというと、「すぐに答えが見つかるから、絶対デジタル」の傾向が強いように感じます。これからの時代、スピードも効率も当たり前ですが、情報イコール答えではありません。
 獲得した情報を活用し、それを知識にしていく活動こそが重要だと考えます。そのためには、両者のいいとこ取りは必至で、教師自身が使い分ける術を身に付けることが急務です。
 小学校では、五感を働かせて獲得した手触りのアナログ情報は欠かせません。図画工作で花を写生するなら、タブレットの写真を使うのではなく、本物を見て触れて香りを楽しみながら描かせるのです。そうすることで、絵に感情を織り込むこともできるでしょう。
 子どもたちに「面倒くさい」と言われても、手間取ったり無駄とも思えたりする中に、自分で思考していく時間が生まれます。デジタルに置き換えられない価値のあるものを意識して探し出していくことや、ゆっくりと熟考する時間は、いつの時代でも誰にとっても大事なことかもしれません。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=「対面」再開 活動充実へ意欲 新規実践校抱負

2023年08月06日(日)付 朝刊


■「対面」再開 活動充実へ意欲 新規実践校抱負

 日本新聞協会はこのほど、2023年度のNIE実践指定校を全国で530校決定した。県内は、新規8校と昨年度からの継続6校の計14校。学校現場では、新型コロナウイルス対策の規制も緩和され、対面で多様なNIE活動が本格化する。ICTと連動した学びも期待される中、新規校に活動への抱負を寄せてもらった。

 2023年度 NIE実践指定校 
 <新規>熱海市立泉小、静岡市立由比小、袋井市立袋井南小、浜松市立初生小、静岡サレジオ中、浜松開誠館中・高、磐田北高、浜名高
 <継続>伊豆市立土肥小中一貫校、富士見中、静岡市立清水飯田中、藤枝市立広幡中、浜松市立春野中、静岡北特別支援学校南の丘分校

 熱海泉小 岡部靖子先生 気付き、考え、表現する
 最近はスマホで情報を得ることが多く、あふれる情報にリアルタイムで触れることができます。その半面、新聞を読んで、幅広い分野の情報にじっくりと向き合い、正しく受け取る機会が減っているように感じます。
 本校では日頃から子ども自らが、気付き、考え、表現する授業を目指しています。NIEの取り組みをきっかけに新聞に興味をもち、身の回りの出来事に関心を高め、視野を広める子どもを育てたいと思っています。

 静岡由比小 中沢丞先生 持続可能な活動を意識
 本校では、高学年が新聞記事を読み、自分の考えを表現したり、設問に答えたりする取り組みをしています。記事の情報から自分の考えをつくることができる児童が増えています。今後、実践指定校として、子どもたちの語彙[ごい]力の向上と読解力・表現力の向上のために、学校全体で楽しさを基にした取り組みを模索し、無理なく持続可能な取り組みを考えていきます。そして、自ら新聞を手にし、楽しく読める子どもの姿を目指していきたいと思います。

 袋井南小 浦中拓也先生 社会の変化を自分事に
 2学期からの始動に向け、各教科の年間指導計画から、どのような新聞が必要か準備をしています。本校では、学びの重点目標として、「自ら課題をつかみ、解決しようとする子」の育成を掲げています。新聞には、社会全体から地域の身近な出来事まで、たくさんの情報が含まれています。
 NIEの活動を通して、社会で今どんなことが起こっているのか、それに対し自分はどんなことができるのか、自分事として考える習慣が身に付くことを期待しています。

 浜松初生小 大木健太郎先生 読む楽しさ 児童と共有
 現代の情報化社会では、インターネットを使えば手軽に情報を得ることができます。では、新聞にはどのような役割があるのでしょう。新聞にしかない魅力は何なのでしょう。今回NIE実践指定校としての機会を存分に生かし、現代社会における新聞の役割や魅力を教育の立場から考え、実践に取り入れたいと思います。子どもたちに新聞の楽しさが伝えられるよう、職員も新聞の楽しさを味わいながら、実践を進めていきたいと思います。

 静岡サレジオ中 林千尋先生 「市民としての力」養う
 「この問題について、あなたの考えは?」と聞かれたとき、私たちは答えなければなりません。世の中や未来に対する責任からは「分からない」という答えで逃げられません。ある社会学者の言葉を借りれば、「沈黙は同意」です。
 新聞は、社会に対して心を開くきっかけになります。世の中を概観し、問い、調べ、自分の意見を見つけ、行動につなげることができます。NIEを通じて、生徒たちに一人の市民としての力をつけていくことを目標としています。

 浜松開誠館中・高 大庭康介先生 読み比べで情報力磨く
 1人一台のiPadを導入して8年。生徒や教員のICT活用技術は年々向上し、本校の教育理念「学校は楽しく学ぶ場」に向けて着実に前進しています。一方で、ネットで得られる情報を安易に活用し、「この情報は確かなものか」の思考がない生徒もいます。情報リテラシーに関する教育が不十分であることは教育課題の一つです。本校では、NIE活動として「新聞の読み比べ」を行い、数社の新聞を比較し情報リテラシーを養おうと考えています。

 磐田北高 宮崎昌子先生 記事に触れる環境拡充
 探究活動の一環としての新聞活用を本校では計画しています。学年が上がるにつれて、個人や社会の課題を考える機会が増えていきます。他のさまざまな情報媒体とともに新聞を利用することで、その学びをいっそう深めていけると考えています。
 生徒も教職員も新聞に触れる機会が減少している現状を踏まえて、まず、新聞に多く触れられる環境作りに取り組んでいます。生徒たちが新聞から多くのことを学び取れるように努めてまいります。

 浜名高 岩本直子先生 未来を創造する一助に
 本校では、新聞閲覧台が2台、人通りの多い場所に設置されています。常時5紙が閲覧でき、生徒や職員が新聞をめくる姿がよく見受けられます。図書委員は毎日当番制で、記事の確認、新聞の保管等の管理をしています。このように本校では新聞に親しむ機会がさまざまな場面であります。
 新聞に触れる機会を13ある全委員会および定時制でさらに拡大し、生徒が主体的に自分の未来を創造していく取り組みに向け動き出しました。

 

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■紙面授業 国語 AI時代に問われる力 オイスカ浜松国際高 後藤カンナ先生
 古典の授業で「春夜」という漢詩に触れる機会がありました。春の夜のひとときは千金に値するほど素晴らしい、と春の夜の美しさや穏やかさを詠った七言絶句です。
 漢詩の内容にちなみ、各自好きな季節の話になりました。そこから、本校は留学生たちも在籍していることから、彼らの母国の話へ。タイ出身の彼女の住む地域は、夏は50度近く、冬でも30度は超えると聞き、ざわつく教室内。「えー! 30度で冬なんだ」「冬なのに暑い...」などなど。私にとっても、「冬」の言葉の持つイメージとは、あまりにかけ離れていました。そもそも「冬」ってなんだろう。
 「世界大百科事典」(平凡社)によると、冬の定義は「中・高緯度地方で、一年の中で最も低温な季節」とあります。冬は相対的なものであることは、頭では理解しているつもりでも、日本で生まれ育つと、「冬=寒い」という感覚は根強く存在します。
 言葉は風土や文化、習慣と密接に関わっていること。それゆえ、同じ言葉であっても、その言葉が指す事象は地域や文化によって変わってくること。当たり前のことですが、異文化との接触がないと、なかなか知ることはできません。そのようなことを考えさせてくれた場面でした。
 先月、文部科学省が、「チャットGPT」などの生成AIの小中高校向けの指針を公表したことが大きく報じられました。指針では、それらを使いこなす力を育てる重要性に触れていました。
 私たちは、AIによって生成された文章が適切であるか、判断していかなくてはなりません。授業のみならず、さまざまなモノ・コトに出合う中で、視点を地球全体に広げたり、20年、30年後の社会を想像したりして、思考力・表現力を発揮し、AIとも共存していくことが求められているのではないでしょうか。

※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 

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NIEアドバイザーのワンポイント講座(73)古い新聞を「2次活用」

 本年度のNIE実践指定校の先生方と意見交換した際、児童生徒に新聞に関心を持ってもらう方法や新聞の入手手段について話題があがりました。一人一人が新聞を手に取って自由に読み、興味を持った記事をスクラップし、意見を書く。この活動が難しくなっています。新聞の購読家庭が減り、家から新聞を持ってくることが難しくなったことが背景にあります。
 そこで提案です。学校図書館にある新聞の2次活用です。文部科学省は図書館整備計画で学校図書館に新聞を置くよう通知しています。本校では4紙を購読し、3カ月たつと不要になるので、もらい受けてクラスで配布し、スクラップさせています。
 3カ月もたった古い記事でいいのかと思われるかもしれません。しかし、この時、こんなことが話題になったと振り返ることができますし、特集など色あせることなく読む価値のある記事もたくさんあり、生徒にじっくり読ませたいと思います。私はスクラップした記事もコピーして渡しています。
 古くても活用できるのが新聞。まず、新聞を手に取る機会をつくってみましょう。
 (塚本学教諭・常葉大常葉中・高)

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=身近な記事から読解力養う 週1回 昼休み後にワークシート 焼津・港小

2023年07月02日(日)付 朝刊


■身近な記事から読解力養う 週1回 昼休み後にワークシート 焼津・港小
 焼津市立港小は新聞記事の狙いや記事から読み取れることを問題形式にした「新聞ワークシート」を使った活動を始めた。2年生以上の児童を対象に週1回お昼休み後の10分間を使って、設問に答えていく。身の回りの出来事に興味を持つこととともに、文章を読み解く力を養うことに役立てている。
 
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新聞ワークシートに取り組む児童=6月上旬、焼津市立港小(画像の一部を加工しています)
 
 6月の午後、6年生の教室で担任教諭が児童たちに静岡新聞のホームページから入手したワークシートを配布した。題材は2021年6月のヒツジの毛刈り体験を伝える記事。児童たちは時間内で記事を読み込み、見出しや感想についての設問を解き、鉛筆を走らせた。最後に教諭が「なぜ毛刈りをするのか」といった記事の背景について解説した。
 この日でワークシート授業は3回目。冨田竜誠さん(11)は「文章を読んで、考える力が身に付いた」と感想を述べた。特に自分で見出しを付ける作業が楽しいようだ。
 「最初は難しかったけど、だんだん慣れてきて今は楽しい」と語るのは松井花恋さん(12)。ワークシートに取り組み始めてから、自宅で新聞を読む習慣も付いたという。
 ワークシートを取り入れたのは大型連休明けから。ここ数年の全国学力テストで、出題文そのものの文章量が多いことなどから、同校は本年度から読解力を養うことに力を入れる方針を決定。適している教材として「新聞ワークシート」を選んだ。
 使い方は全問解かせる場合もあれば、一問だけ集中して答えさせるケースもあったりと各クラスに任せている。望月剛主幹教諭(45)は「文章を読んだり、見出しを付けたりする作業を通じて、面白がって参加してほしい。新聞にも興味を持ってくれたら」と狙いを語る。
 (焼津支局・福田雄一)
 
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担任教諭(左)の解説を聞く児童たち

 

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■紙面授業 商業 地域に出て探究学習を 浜松啓陽高 木俣貴仁先生

 浜松にゆかりのある人物が、大河ドラマで描かれたのは、井伊直虎、田畑政治、そして、現在の「どうする家康」の徳川家康です。その経済波及効果は大きく、直虎の放映時は、静岡県で248億円、浜松市では207億円もあったということです。
 今年の「浜松まつり」の騎馬武者行列には、たくさんの人出があり、新聞でも大きく取り上げられました。新型コロナウイルス感染拡大以前のにぎわいが回復していることも感じさせます。長い規制、自粛でたまったエネルギーが、新たなビジネスチャンスの創出を後押しできるかもしれません。ここ浜松近辺には、豊かな自然、文化、歴史、ドラマ関連の名所・旧跡の他、「ものづくりの街」ならではの新技術や新商品など、魅力的な地域資源がたくさんあります。
 その実現に、児童生徒の新しい「学び」の形が一役買いたいものです。今、学校では「探究」を重視した学習活動が進んでいます。解決したい課題を設定し、その答えを出すために情報を集めて整理・分析し、その結果から答えをまとめて表現する活動です。
 これからは積極的に「地域」に出て、活発に体験活動をする中で、その「探究」学習を展開してほしいと思います。そして、地域社会の担い手となって、家康に沸いた後でも、地域を創成して盛り上げる一人となってほしいものです。それができた時には、「経済波及効果」に加え、「学びの波及効果」という表現も生まれるかもしれません。
 毎回、ドラマは「どうする」という言葉で結ばれますが、まさに「探究」は、天下人家康の真骨頂です。ドラマを楽しみにしながら令和の児童生徒の皆さんも、「どうする?」ということを大切にして、それぞれの学びを深めていけたら良いと思っています。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 

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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(72)難解用語 知って親しみ (吉川契子教諭/静岡城北高)

 太陽表面では、突然明るさを増す「フレア」という現象が発生することがあります。この現象がわれわれの日常生活とどのように関係があるのか。4月4日付本紙「太陽フレアが生命の鍵?」は、その疑問に答えてくれます。
 記事では、太陽フレアによる被害の実例が解説されています。
 1989年にはカナダで大規模停電が発生。2000年には日本の人工衛星にも障害が発生しました。17年には衛星利用測位システム(GPS)に誤差が生じました。生活を支える電気が途絶え、GPSの精度が低下する場合があることを知った生徒たちは驚くことでしょう。
 さらに、太陽フレアにより温室効果ガスが生成され、地球生命誕生のきっかけになった可能性があるとする米航空宇宙局(NASA)の研究成果が紹介されています。フレアがなければ、地球上の生命が誕生しなかったとは、何とも興味深いことです。
 授業で扱う言葉は難解で、実生活と関係なく、親しみにくい印象を与えることがあります。しかし、生徒たちに、それらが日常生活と関連があることを理解させると、親しみを感じ、学ぶ意欲を持ちます。新聞には、学びを助ける記事が掲載されます。貴重な記事を見落とさないよう気を付けたいものです。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=就職見据え 職業観養う 記事を読み込み自己表現力強化 静岡北特別支援学校南の丘分校

2023年06月04日(日)付 朝刊


■就職見据え 職業観養う 記事を読み込み自己表現力強化 静岡北特別支援学校南の丘分校

 NIE実践指定校の県立静岡北特別支援学校南の丘分校(静岡市駿河区)は、授業のほか、朝や帰りの時間などさまざまな場面で新聞記事を活用している。大半の生徒が卒業後に地元企業などに就職するため、地域の課題を学んで職業観を養ったり、自己表現の方法を身に付けたりするのに役立てている。

 

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社会人像について話し合う生徒ら=5月中旬、静岡市駿河区の県立静岡北特別支援学校南の丘分校

 
 5月中旬の朝、一つの記事の内容を整理し自分の意見をまとめる「NIEチャレンジ」が3年生の教室で行われた。この日は、バス通学する高校生が、2人のバス運転手の振る舞いの違いについて書いた本紙読者投稿欄「ひろば」の投書が題材。生徒は記事を読んで解答をワークシートに記入した後、目標とする社会人像を話し合った。
 山影凌雅さん(17)は「仕事にやりがいを持っている人とそうでない人がいると分かった。自分はやりがいを感じられる仕事をしたい」と感想を述べ、「世界で起きていることも身近な話題も、他の人の考えも分かるのは面白い」と新聞の魅力を語った。
 同校の生徒は軽度の知的障害を抱える。昨年から新聞活用を進めてきた鈴木雅義教諭は「生徒は自ら情報にアクセスするのが難しいので、新聞を読む場を増やすことは意義がある。新聞を開けば気付きが生まれ、世界が広がる」と期待する。
 扱う記事の内容は、地域で活躍する人や性教育、生活の知恵、スポーツ、株価など幅広い。必ず教員が複数回音読し、キーワードに線を引かせる。ワークシートは本紙のシートを作り替えて、記事中の言葉を抜き出すものから自分の考えをつづる設問へと導き、生徒の理解をサポートする工夫をしている。

 

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キーワードを探し、ワークシートで内容を整理する生徒

 
 定期的に行うアンケートで、最初は日常生活で新聞に親しむ機会が少ないという生徒が目立ったが、最近は廊下に置かれている複数の新聞に目を通す姿も見られるようになったという。鈴木教諭は「情報が生徒自身の助けになることを知ってほしい」と話す。
 (教育文化部・鈴木明芽)

 

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■紙面授業 理科 月面着陸計画を身近に 常葉大常葉中・高 篠﨑絢先生

 アポロ計画から半世紀以上がたち、人類は再び月面着陸を計画しています。アメリカ航空宇宙局(NASA)の国際共同プロジェクト、アルテミス計画です。
 この計画は月と地球を往復し、人や物資を運んで施設を造ることや、月を足がかりとし、さらに遠くの天体探査を行うことを目的としています。そのために、最も強靱[きょうじん]な推進力をもつロケットが開発されました。スペース・ローンチ・システム(SLS)です。過去のロケット開発から改良とテストを繰り返し、10年以上をかけ知恵と技術を結集しました。
 SLSのメインエンジンの燃料は液体酸素と液体水素です。地球上には酸素があるので、車や飛行機は燃料を燃やして推進力を得ますが、宇宙には酸素がないので、持っていく必要があります。酸素はマイナス183度で液体になり、体積は気体の約860分の1になります。水素はマイナス253度で液体になり、体積は気体の約800分の1になります。液体にすることで効率的に運搬と制御ができます。
 大がかりなロケットの仕組みにも、学校の化学で学習する、物質の状態変化や燃焼反応といった化学変化が利用されています。組み立て方の工夫や人が乗ることに配慮した点等、気になった点があれば調べてみるのもよいでしょう。
 アルテミス計画は3段階から成ります。第1段階は昨年成功しており、無人の宇宙船オリオンを月周回軌道上に乗せ、6日間滞在した後、地球に帰還しました。第2段階は来年、宇宙飛行士が搭乗し、さまざまなテストを行う予定です。第3段階は2025年以降、有人月面着陸や月周回軌道上に有人の宇宙ステーションを建設する予定です。
 この歴史的な計画をリアルタイムで見ることができるのですから、ぜひ技術の進歩を知ることで期待感を高め、結果を見守りましょう。

※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 

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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(71)社会を自分事で捉える(伊藤大介教諭/静岡聖光学院中・高)

 高校生の担任になると、生徒の進路に関する面談が増えてきます。特に高校3年生の場合、大学受験のために小論文対策や面接対策として新聞記事を活用するように勧めることが多いです。生徒が主体的に新聞記事を活用できるように、筆者は高校2年生のクラスのHRで本紙のワークシートに取り組ませ、一人一人に赤ペンで解答のポイントを書き込み返却する機会を設けました。
 また生徒が高校3年生になった時には、校舎の掲示板に統一地方選挙の記事を貼り付け、社会に目を向けさせる環境整備も進めました。記事を気軽に見て、時には読み込み、自身の言葉で表現する機会を増やしていくこと。生徒が社会の出来事を自分事として捉え、進路選択に生かしていくこと。生徒の目線を忘れずにこれからもそのような新聞の活用事例を増やしてきたいと思います。
 先日本紙の「紙面授業」で、本校の数学科の教員が近年のAIの記事から数学の魅力を伝えていました。新聞記事を自分事として捉えるその文章に多くの教員が感想を述べあっている様子が、新聞の魅力の一端を伝えているように感じました。
 言葉を大切にする新聞が、人の輪も広げていくという「優しい」NIEを実感した出来事でした。

 

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■横浜で「まわしよみ新聞サミット」

 ニュースパーク(日本新聞博物館)は18日午後1時から、「全国まわしよみ新聞サミット」を横浜市の同館で開く。全国の新聞約120紙を使い、関心のある記事を切り取り、グループ内で紹介し合い、その記事を集めて新聞を作るワークショップ。講師は発案者の陸奥賢さん。定員60人。参加無料(要入館料)。希望者は、メールに住所、氏名、年齢、電話番号を明記し<npevent@pressnet.jp>へ。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=実践8校 成果と課題(下)

2023年05月07日(日)付 朝刊


■実践8校 成果と課題(下)

 教育に新聞を活用する「NIE」の県内実践指定校8校による報告会(県NIE推進協議会主催)が2月下旬、静岡市内で開かれた。2回にわたり、各校の2年間の取り組み成果や課題を紹介する後半は、静岡大成中、浜松学芸中・高、御殿場南高、藤枝東高=教員の所属校は3月時点。
 (社会部・大須賀伸江)

 思考、判断、表現力 向上へ 藤枝東高 矢代哲子教諭 深沢拓教諭
 新しい社会を生き抜くためには思考力、判断力、表現力が求められている。入試に関しても同様であり、新聞を活用して力を伸ばそうと計画した。
 クラス日誌に新聞の感想を書く欄を設け、全生徒が記事に触れる機会とした。話題が豊富で進路意識にもつながるが、1面を見る生徒が多く、特集記事をもっと見てほしかった印象だ。医学部や看護学部などの口頭試問対策や、大学の最新の研究を知り、進学後を見据えるツールとしても有用だった。生徒は読み、まとめる作業を繰り返すことで読解力や表現力が高まった。家庭科では平均寿命が縮んだ原因はコロナ禍かという記事で、生徒は共感していた。
 課題は、教員が読む機会をつくらないと自主的に読むことが少ないこと。また、教材に使う場合はデジタルデータを扱える方が勝手が良いと感じた。

 

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藤枝東高 矢代哲子教諭 深沢拓教諭

 

 生徒自ら手に取る環境 御殿場南高 芹沢光教諭
 生徒主体で楽しく手に取る機会を設けた。複数の紙面を比較して掲載面や構成を調べてスクラップを作り、講座も受けた。生徒は記事の内容を理解した上で「自分の地域なら」「自分なら」と自分ごととして分析した。
 生徒自身がクラス対抗の「新聞合戦」を企画した。毎週テーマを決め、該当する記事を多く張り出したクラスが勝つルールで盛り上がった。企画した生徒有志は手応えを得て、学年の新たなレクリエーションに発展した。
 一人一人が好きなテーマの記事を収納する「新聞探究ポケットノート」も作成した。紙を開く仕掛けを楽しんでくれたほか、個々の関心の向きを知る手掛かりになった。最終的な調査では「新聞を全く読まない」と答えた生徒は減った。自ら新聞を手に取った結果であり、伸びしろがある課題とも捉えている。

 
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御殿場南高 芹沢光教諭

 
 批判的思考に踏み込む 浜松学芸中・高 大場裕幸教諭
 教員間で新聞は有用な情報ソースであり、教材に適しているとの共通認識がある一方、生徒はほとんど読んでおらず、いかに生活に結び付ける仕掛けをするかが課題となった。2008年の中学設立以来、社会科で行ってきたスクラップブックリレーを朝の会に変えた。日直が注目した記事を要約して紹介する活動で、各分野の担当教員が助言することで、生徒が多様な視点に触れるきっかけになった。
 キャリア教育では人物インタビューを張り出し「どんな職業に就きたいか」より「どんな人になりたいか」への意識を高めた。生徒が事象を「受け止める」だけでなく「疑問を持つ」ことが重要と考え、日本新聞協会の新聞コンクールで生徒の批判的思考力を高めることを目指した。英字新聞の見出しの翻訳では、想像力を生かして単語を推測する力を向上させた。

 
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浜松学芸中・高 大場裕幸教諭

 
 取り巻く社会に目向け 静岡大成中 片井奈美教頭
 活動目標は「自分を取り巻く社会に目を向け、視野を広げる」。生徒会のアンケートで新聞になじみが薄いことが分かり、1年目は掲示から始めた。関心を集めたSDGs(持続可能な開発目標)を切り口に、2年目は「不平等をなくす」などをテーマに、全クラスの壁新聞作成や、生徒会で静岡大成中の新聞作成に取り組んだ。クラスごとの壁新聞作りでは生徒が記事を持ち寄り、熱中して話し合った。学年やクラスの「らしさ」が表れた良い壁新聞ができた。
 教科指導でも英語と理科で採り入れた。英語で英文記事を選び周囲に紹介したり、理科では天気の単元で、記事や天気図を用いたりした。
 学校でICT(情報通信技術)の活用が進む中で、新聞記事データを生徒の端末に配布した。図書室に新聞各紙を置いているが、生徒からは「データベースの方が触れやすい」という実感があるようだった。

 

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静岡大成中 片井奈美教頭

 

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■紙面授業 数学 「見えない」知識 面白く 静岡聖光学院中・高 佐野弘貴先生

 最近、生成系AI(人工知能)と呼ばれる技術についての記事が新聞によく掲載されています。AIの精度は日に日に上がってきていると聞きますが、まだ完全に正しい内容が答えとして返ってくるわけではないそうです。
 数学はよく「見えない部品」だと言われます。自動車にとってのネジ、AIにとってのキーボードやコードの列が「見える部品」だとしたら、算数・数学の知識や技術は「見えない部品」としてそれらに内蔵されているということです。2進数や微分や積分など、その一部をなんとか見えるようにしようと先人が努力した結果が、文字や記号として教科書に整理されて載っているのです。これらの知恵を学び、文化を継承するということが、算数・数学という教科がある理由の一つです。
 また、算数・数学は、答えまでの道筋を考えたり、書いてある内容が本当かどうかなどを自分で確かめたり説明したりする学問です。たとえ人が書いたものでもAIが出力したものでも、その内容をまずは疑い、自分で判断しなければならないのは今までもこれからも変わりません。
 しかし、ICTが急速に発展してきている今、情報をうのみにせず、その真偽や次の行動を自分で判断しなければならない場面が圧倒的に増えています。書いてあることを自分なりに解釈し、正しいことを積み上げようとする姿勢を作る第一歩として、算数・数学があるのだと思います。もちろん、算数・数学を学ぶ意義は他にもたくさんあります。
 最後に、「見えない部品」の話をしましたが、私自身は「見えないからこそ数学は面白い」と思っています。この「面白い」という気持ちもAIに任せることなく、私たち自身で感じたいものです。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 

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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(70)教科書と今をつなげる(中村都教諭・静岡千代田小)

 新年度に入り、子どもたちは進級した学年で使用する教科書を手にしました。真新しい教科書とはいうものの、制度上、教科書には直近2年間の情報は入りません。来春から小学校で使われる教科書は新型コロナウイルス禍の2022年4月ごろまでに各教科書会社で執筆、編集され、22年5月から検定を受けたものです。しかし、検定に合格した教科書でも、この4月からの、学校での「マスクの着用を求めない」にそぐわないマスク姿の写真掲載については修正・変更を余儀なくされているものがあると聞きました。教科書で「今」を学ぶことは難しいのかもしれません。
 さらに、最新の話題に取り残されたくないという「倍速視聴」の風潮からしてみても、教科書以外で「今」を補う必要性を感じます。教科書で学んだことを知識として深めていくために、「今」が満載の新聞の活用は欠かせません。一つの記事から「今」を知ることで、社会背景やそれに関わった人々の姿が見え、多角的に物事を考える力をつけることができるからです。
 新聞は深い学びに導いてくれる情報の宝庫です。「新聞は難しい」と考えている先生。まずは、ワークシートから始めてみませんか。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=実践8校 成果と課題(上)

2023年04月02日(日)付 朝刊


■実践8校 成果と課題(上)

 教育に新聞を活用する「NIE」の県内の実践指定校8校による報告会(県NIE推進協議会主催)が2月下旬、静岡市内で開かれた。2年間活動した小中学校と高校の担当教員が、学年ごとの学習内容や成長段階をとらえて児童生徒が「社会」に触れるよう試みた事例を報告した。2回にわたりその内容を紹介する。前半は、河津南小、静岡中島小、牧之原萩間小、浜松上島小=教員の所属校は3月時点。
 (社会部・大須賀伸江)

 文章表現力磨くツール 河津町立河津南小 土屋晃子教諭
 「書く」「読む」「他教科」「特別活動」の柱を立て、言語能力を高めるツールに新聞を活用した。
 低学年はカルタ作りで絵札に用いる掲載写真を選び、読み札の文章を表現した。6年生は新聞の投書を基に意見文の構成や展開を分析した。読む活動では新聞の読み比べを通じて伝え方の工夫点を考察した。特別支援学級は新聞のクイズ作りを行い、楽しみながら読むことができた。
 教科での活用では、3年生は算数の時間に漢数字と洋数字の書き分けに気付いたり、記事から事件事故を身近に感じたりと、単元の内容と連動して社会との接点を実感した。
 成果は児童が新聞に親しむきっかけとなり、授業者も活用手法を考えることで教材研究の楽しさを実感できたこと。課題は、漢字の難しさや語彙[ごい]の少なさ。支援を要する学年がある。

 

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河津町立河津南小 土屋晃子教諭

 
 図書館を情報の拠点に 静岡市立中島小 伊東一磨教諭
 海に近い土地柄、地域では地震や津波への関心が非常に高く、児童も防災教育を受けている。東日本大震災など大きな災害の記事の掲載時期を捉えて大きな掲示物を作り、児童が付箋に感想を書いて寄せた。
 新聞の購読者が少ないため低学年、中学年、高学年で目標を分け、まずは紙面に親しむ環境作りから着手した。新聞に関わる情報を学校図書館に集中し、特設コーナーの展開や関連図書の紹介をした。
 年度当初にあらかじめ新聞を使う単元を決め、教員が見通しを持てるようにした。思いを言語化するきっかけに使ったり、新聞紙を図工の素材にしたり、端末の活用と絡めたりするなど、ほとんどの教科と関連付けて多彩な実践をすることができた。特に高学年で要約する力が伸び、事象を自分と関連付けて語る姿が見られた。

 

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静岡市立中島小 伊東一磨教諭

 
 「情報活用力」の育成へ 牧之原市立萩間小 絹村雅昭教諭
 学習指導要領の「情報活用能力の育成」に着目し、児童の成長段階を捉え、新聞に親しむ、情報を得る、活用するの3段階に分けて授業で活用した。
 東京五輪の閉会式を取り上げた6紙を見比べたところ、発言が苦手な児童からも意見が上がり、写真の訴求力を実感した。算数「大きな数」で1億より大きな数を探した。国語は記事の構成を分析し、自分の新聞作りの参考にした。
 高学年は4コマ漫画の5コマ目を考えたり、新聞記事の情報を基にクイズを出し合ったりした。話し合いを通じて児童は着眼点の違いに気付き、発想を変える楽しさを見いだしていた。
 新聞は何度も読み返せるので既に習ったことやイメージと結び付ける子どもの学びに活用しやすく、じっくり議論する教材としても良い。デジタルの長所も踏まえ、使い分けるヒントにしたい。

 

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牧之原市立萩間小 絹村雅昭教諭

 
 全教員体制で研究組織 浜松市立上島小 笠原吏沙教諭、吉田裕幸教諭
 児童数850人の大規模校。全教員でNIEを進めるために研究組織を設け、各学年で1人担当を決めた。印刷室に新聞を置いて手に取りやすいようにしたり、校内研修だよりを発行したりして、共通理解の醸成に努めた。
 各学年とも多様な教科で実践した。記者になりきって単元内容をまとめたり、新聞作りの観点から運動会の写真の選び方を話し合ったりした。記者の講話も受け、児童自身が読み手を意識した発信方法を考えた。スーパーの広告を集めて産地を調べ、物流がいかにグローバルかを体感的に学んだ学年もある。
 児童アンケートでは、友達とのやりとりで異なる視点に触れる楽しさがつづられ、「知りたい情報が集まるインターネットに比べて新聞は知らなかった情報に触れることができる」など、視野を広げるきっかけになったことが分かった。

 

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浜松市立上島小 笠原吏沙教諭、吉田裕幸教諭

 

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■紙面授業 地歴公民 少子化問題に関心を 常葉大橘中・高 杉山光輝先生

 先月、「出生数 初の80万人割れ」という見出しで、厚生労働省の人口動態統計(速報値)の内容が新聞で大きく報じられました。それによれば、2022年の出生数は前年比5・1%減の79万9728人。統計開始以来、初の80万人割れとなりました。
 政府は出生数減少を危機的な状況と認識し、今年の優先課題の一つに「次元の異なる少子化対策」を挙げました。その中で、①児童手当などの経済的支援の強化②学童保育や病児保育、産後ケアなどの支援拡充③育児休業強化などの働き方改革の推進-の3本柱を掲げ、子ども予算の倍増を表明しました。財源をどう確保するかなど、今後議論をしっかりと見ていきたいと思います。
 少子化問題は容易に解決できる問題ではありません。子育てがしやすい経済的支援強化などが重要であることに間違いありませんが、ただ人口が増加すればよいという問題ではないと思います。子どもが健康で幸せに育つ環境づくりも忘れてはなりません。ヤングケアラーや子どもの貧困、虐待など、子どもを取りまく厳しい状況も報道されています。子どもが安心して幸せに育つような支援も併せて考えていくことが必要です。
 そして、私たちが少子化問題をはじめさまざまな問題に関心を持ち続け、政府の政策や社会の仕組みが親子にとって幸せになるものであるかを考えていくことが欠かせません。
 少子化問題は、生徒の皆さんにとって最も身近な問題です。だからこそ、自分たちが住みやすい社会について積極的に考えてほしいと思います。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 

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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(69)松ぼっくりの見方変えた (小川訓靖教諭・静岡清水三保第二小=3月まで)

 小学生の宝物の、どんぐり、松ぼっくり...。学校から徒歩10分程度の世界遺産三保松原や校内に100本を超える松林がある子どもたちにとって、大量の松ぼっくりが校内に転がっているのは当たり前です。
 ある日、目にとび込んできた静岡新聞の特集記事「松ぼっくりの不思議」。そこには、乾湿で開閉することや、種子を遠くへ運ぶ仕組みが書かれていました。「この記事をきっかけに三保、折戸では当たり前すぎる松ぼっくりの見方を少し変えてみよう」と思い、早速子どもたちと特集記事を読み、松ぼっくりを拾ってきて、記事にあった実験をしました。「湯につけるとどんどん小さくなり、乾燥させると元の形に戻った」「あれが全部種子だったとは...。踏んでごめんねと心から思った」。身近すぎた松ぼっくりへの見方が、特集記事によって変わっていきました。
 さりげなく活用できるすてきなツール、新聞記事。そこには、社会の出来事以外にもさまざまな特集記事があり、幅広いジャンルが一度にとび込んできます。「雨の日は松ぼっくりの形が何かいつもと違うなと思っていたけど、こういう仕組みだったんだ」。生活経験とつなげた子どもたちの感想に学びの広がりを感じました。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載=授業に朝活動 紙面を活用 浜松学芸中 新聞コンクール 学校奨励賞 関心広がり 表現力向上も

2023年03月04日(土)付 朝刊


■授業に朝活動 紙面を活用 浜松学芸中 新聞コンクール 学校奨励賞 関心広がり 表現力向上も

 浜松学芸中・高(浜松市中区)の中学が昨年末、日本新聞協会の「第13回いっしょに読もう!新聞コンクール」で、学校奨励賞に選ばれた。朝活動での発表や新聞作りを通じ、新聞に親しみながら表現力を高める取り組みを強化している。

 

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気になった記事について発表する生徒=浜松市中区の浜松学芸中

 

 1月中旬、3年のクラス。昨年12月29日付の本紙朝刊に掲載された「2022年県内十大ニュース」を教材に、社会科の授業が進められた。黒板には各項目を空欄で表示。生徒は班ごとに「2位は保育園の事件かな?」「観光バスの事故じゃない?」などと記憶を頼りに予想し合った。
 さらに、十大ニュースに取り上げられた事件や事故を振り返り、再発防止策なども探った。5位の裾野市の不適切保育に関しては、「保育士は給料が少なく、人手も足りない。事件はストレスが原因ではないか。給料を上げるべき」といった意見が聞かれた。

 

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2022年県内十大ニュースを使った社会科の授業

 
 スポーツニュースも話題となった。サッカーが好きという磯部翔さん(15)は「エスパルスとジュビロのJ2降格が印象的だった。残念だけど、新聞からは選手の頑張る姿が伝わる」と受け止めた。
 新聞の活用は、会話や文章の表現力向上も重要な目的の一つ。3年生は毎朝、その日の朝刊で気になった記事をクラスで発表する。企業の賃上げについて紹介した鈴木杏望さん(15)は「家族とも賃上げの記事について話した。新聞を通して、今の出来事を学びたい」と意欲的だ。
 長期休みには、学年ごとに都道府県の特徴や歴史などの課題が割り振られ、生徒が調べたことをまとめて「新聞」を作る。社会科の大場裕幸教諭(45)は「自分の意見をきちんと表現できるようになってほしい。いろいろなテーマでNIEに取り組みたい」と話す。
 (浜松総局・日比野都麦)

 
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■紙面授業 地歴公民 生き方考える金融教育 星陵高 間宮健先生

 2022年度、高校公民科はこれまでの「現代社会」が廃止され、「公共」が必履修科目として新設されました。その目的は、「公共的な空間の中で、他者や社会と関わり、課題を発見し議論することで、望ましい社会を創造できる人間を育成すること」とうたわれています。
 本校の1年生の公共の授業は「2分間スピーチ」から始まります。ニュースや、今自分が気になっていることなど、生徒個々が準備をして発表を行います。新聞でも度々取り上げられているSDGs(持続可能な開発目標)などの国際的な問題から、飲食店での迷惑行為などの身近な問題まで、さまざまな内容が取り上げられます。中には、アイシングについて詳細に調べる野球部の生徒、パートナーと長続きするための秘訣[ひけつ]を調べる恋愛真っ最中の生徒もいます。どれも、生徒が主体的に考え、調べ、発表を行っています。
 発表の中で、私の目を引いたのは、「投資」に興味を持っている生徒が多数いたことです。本年度から高校の家庭科で「金融教育」が始まったことが大きな要因と言えます。私が高校生の頃は、「投資」という言葉すら頭になかったことを考えると、時代は変わってきていると感じます。
 生涯賃金を逆算し、お金をどう「投資」し「運用」していくか。それは、人生をどう生きていくのかにもつながっています。「堅実に長期的な投資をして、将来に備える」「若いうちに資産形成し早期にリタイアして自由な生き方を望む」など、考え方は人それぞれです。
 大切なことは、高校生の段階で、「お金」を含めた将来を真剣に考えること。「お金」と「時間」を、自ら考え「投資」することで、物心ともに豊かな生活を送ることができるように、生徒たちと一緒に考えていきたいです。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(68)共通テスト攻略へ「読む」(塚本学/常葉大常葉中・高)

 大学入試共通テストは、質、量ともに増加した複数の資料から必要な情報を適切に読み取る問題が増えました。受験生を取り巻く社会や実生活にかかわる設問もありました。
 読解力、情報処理力や時事問題へ関心を持つことが求められ、新聞を読むことの有効性を改めて感じました。新聞を読んでいれば、真実を知り、知識を増やすことになります。「そういえば、この前読んだ記事にあったな」と思えれば、しめたものです。
 また、知らない言葉を調べる習慣を身に付けておきましょう。読解を支えるものは知識だからです。長文を読んでいると、内容が入り組んで混乱してしまい、分からなくなることがありますが、記事には見出しがあるので、参考になります。一番大切なこと、伝えたいことが見出しになっているので、分からなくなったら見出しを見ればいいのです。
 もう一つは、硬い文章に慣れ親しむことができることです。インターネットの記事は、クリックしてもらうために軟らかい文章にしていることが多いので、やはり新聞がお薦めです。堅苦しくやるのではなく、気楽に新聞を読むことから始めてみましょう。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載=読んだ記事数で「合戦」 テーマ決めクラス対抗 社会知る機会に 御殿場南高

2023年02月04日(土)付 朝刊


■読んだ記事数で「合戦」 テーマ決めクラス対抗 社会知る機会に 御殿場南高

 NIE実践指定校の御殿場南高(御殿場市新橋)は昨年、1年生が毎週所定のテーマに関連した新聞記事を読んだ数を競う「新聞合戦」に取り組んだ。教室に配布される新聞を活用しようと生徒が発案し、必ず文章に目を通すルールも設けた。社会の動向や課題を理解するきっかけになっているという。

 

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テーマに関連した新聞記事を探し、見つけた数を競った新聞トーク=2022年11月、御殿場市新橋の御殿場南高

 

 休み時間や放課後、昇降口に掲示された模造紙に生徒が次々と新聞記事を貼り付ける。防災をテーマにした初回は、県内を襲った台風15号の被害を伝える記事や行政対応の検証記事が並んだ。
 新聞合戦は4クラスの対抗戦。毎週各クラス5人が教室にある新聞を切り抜いたり、インターネット上の記事を印刷したりして貼り付け、その数に応じてポイントが付与される。10~12月の7週間の合計ポイントで順位を決めた。

 

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新聞記事が貼られた模造紙

 

 各クラスの代表者が集う会議でシステムを決めた。メンバーの杉山未都さん(16)は「クラス対抗にすれば楽しみながら取り組める」と話す。担当の芹沢光教諭(45)は「毎週びっしり貼ってくれる。予想以上に意欲的」と目を細める。
 記事の要点に線を引いてから貼るのがルール。「しっかり読み、内容を理解してもらう」ためだ。普段はテレビニュースで情報を得ているという池谷桃歌さん(16)は「たくさんの記事からほしい情報を選べる」と多分野の情報を網羅する新聞の利点に気付いた。

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新聞合戦で優勝したクラス

 

 11月には生徒が一堂に会した特別版「新聞トーク」を行った。床に並ぶ新聞から「責任」などのテーマに関連する記事を探した。生徒の一人は政治家の不祥事を伝える記事を見つけ「責任感がない」と鋭く指摘した。
 御殿場南高はキャリア教育「Cプロジェクト」に力を入れる。新聞合戦は1年生の課題「社会を知る」に合致する。芹沢教諭は「社会事象に関心を持ち、読解力を身に付ける機会になっている」と手応えを語る。
 (御殿場支局・矢嶋宏行)

 
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■紙面授業 理科 考えたい原発の安全性 東海大静岡翔洋中 込山典寿先生

 昨年2月に始まったロシア軍によるウクライナ軍事侵攻は、連日大きく報道されてきました。3月5日の新聞は、ロシア軍がウクライナ南部のサポロジエ原発を攻撃しているという見出しであふれていました。
 私は子どもの頃、1986年にチェルノブイリ原発事故のニュースを見て初めて放射線の恐ろしさを学びました。2011年の福島第一原発事故の際は、教員としてニュースを見て、放射線がもれ続けている恐ろしさを再確認しました。

 そして、先日、中学2年生の理科の時間に、誘導コイルの実験で放射線が出る危険性を生徒らに説明する機会がありました。誘導コイルとクルックス管を用いた真空放電での被ばく量は無視できないことを注意喚起しながら実験を進めました。私たちは適切な距離を保ち、注意深く実験を行いましたが、この実験の安全に関するガイドラインはいまだに曖昧です。
 残念ながら、人類は原発を稼働し始めた1954年から2011年の約60年間に2カ所で起きた事故により、現在の技術では返済できない大きな負債を抱えてしまいました。
 放射性物質の中には、半減期が万年~100万年単位のものもあります。日本がユーラシア大陸から離れて1万年くらいしかたっていないことから、もう1万年後の日本が現在と全く違う地図の形になっていることは簡単に想像できます。しかしながら、それでも放射線量にはほとんど変わりはありません。

 科学的に考えて、このまま原発を人類が使用するのなら、2011年から60年後の71年までの追加事故件数は2件と予想されます。
 中学生は比例のグラフを学び、実験していないデータを予測することが得意ですが、原発事故においては、ぜひとも反比例のグラフに事故件数が収束されていくことを願います。

※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(67)大学情報収集のヒント(吉川契子/静岡城北高)

 進学希望の高校生が進学先を選ぶ際、教科の得手不得手や模擬試験の成績を基にするだけでなく、新聞情報の中にヒントを探してみましょう。
 大学で行われている難解な研究が、高校生でも分かる平易な文章で適切な写真や図とともに紹介されています。例えば静岡新聞の記事を読み込むと、熱海土石流災害やリニア中央新幹線、サクラエビ漁の抱える課題等について、さまざまな大学研究者に取材して情報提供しています。これらの課題に限って見ても、大学研究の多様性を発見することができます。
 コラムや、ニュースを深く掘り下げて考察した提言、地域の課題解決に向けての新たな視点など大学教授らの寄稿が掲載されることがあります。それらをヒントに高校生に話し合いをさせると別のユニークな発想が出る場合もあります。
 他に、新大学の開学予定、大学の新学部・学科の増設・学科再編などの情報の他、大学間の協力体制などの情報も提供されています。大学生が、地域に飛び出して、商店街とのコラボレーションによる商品開発などユニークな活動を展開している例もあります。
 新聞記事は大学研究に非常に役立ちます。最初は教師がピックアップして例を示し、生徒にも類似の記事を探すように促してみましょう。

月刊一緒にNIE@しずおか・第1土曜掲載=英字記事 世界を身近に 作文や読解力の向上期待 静岡大成中 公開授業

2022年12月03日(土)付 朝刊


■英字記事 世界を身近に 作文や読解力の向上期待 静岡大成中 公開授業

 NIE実践指定校の静岡大成中(静岡市葵区)で10月に行われた英語と理科の公開授業。このうち英語の授業は、日本語訳が併記された英字記事を使って行われた。同校としては初の取り組み。記事に対する生徒の意見も発表された授業に、参観した教員らは「新聞に親しみを持ってもらうための参考になる」「異文化理解にもつながる」などと熱心にメモを取った。

 
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記事に対する意見を発表する生徒=静岡市葵区の静岡大成中

 
 授業は3年生約20人を対象に行われた。事前の授業で、生徒には「パキスタン豪雨で大洪水」「米大統領、銃規制強化訴え」など、世界のニュースを伝える複数の英字記事が提示され、その中から一つ選択。生徒は二人一組で「パキスタンの国土面積はどのぐらいあるか」「アメリカの銃規制の現状はどうなっているか」など、疑問に浮かんだことをタブレット端末で調べたり、外国語指導助手(ALT)に質問したりした。

 

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タブレット端末で英字記事を読み込む生徒

 
 一通り調べた後は、記事に関心を持った理由や、ニュースに対する意見などをまとめ、英作文に挑戦した。「エリザベス女王国葬」を選択したペアは授業で既に習っていた英単語を用い、「みんなに愛されたエリザベス女王が亡くなってびっくりした」などと発表した。
 公開授業後、意見交換の場が設けられ、参観した教員から「なぜ、日本語訳付きの記事にしたのか」などの質問があった。担当した吉永光希教諭(49)は「英作文を重視した。生徒が興味を持ち、意見を言いやすい記事を選んだ」と意図を説明した。
 同校はほとんどの生徒が卒業時には英検3級を取得しているなど、英語教育に力を入れている。吉永教諭は「時事英語に親しむことで、ニュースに関心を持つきっかけになる」と記事活用の意義を話し、「一生懸命、自分の意見を長い文章で書こうとする姿勢を見て、生徒の成長を実感した。より長文の英字記事にも触れさせ、読解力を伸ばしていきたい」と述べた。
 (社会部・島田莉菜)

 
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■紙面授業 社会 君主制、民主主義の共存 静清高 加藤匠吾先生

 9月8日に英国女王エリザベス2世が崩御なされました。日本時間で言えば9月9日のことですが、私はまずスマートフォンに入るニュースで知り、翌日の静岡新聞に掲載された記事を見て改めて実感しました。

 新聞の紙面を読むと、チャールズ皇太子が王位を継ぎ、新国王となられました。その後、さまざまなメディアを見ると、「チャールズ3世」と呼ばれるようになっていました。
 チャールズ3世ということは、1世、2世の同名の国王がいたことが想像できると思います。改めて山川出版の「詳説世界史」をひもといてみると、チャールズ1世とチャールズ2世の記述があります。チャールズ1世は、父ジェームズ1世と同じく、王権神授説(王の権利は神から授かったもの)を唱え、専制政治を行いました。議会はそれに反発し、1628年に権利の請願を可決しました。チャールズ1世は議会を解散し、以後11年間、議会を閉ざしたのです。やがて議会が再開すると、1649年、ピューリタンのクロムウェルが議会で力をつけて、チャールズ1世は処刑されてしまいました。

 チャールズ2世は、クロムウェルが亡くなるとイングランドに戻ってきて国王に即位しました(王政復古)。当初チャールズ2世は、議会を尊重すると約束しましたが、やがて専制的な姿勢をとってカトリックの擁護を試みて議会と対立しました。
 両チャールズは、議会と対立したことで民主主義の歴史の観点からみると、良い君主とは言えません。現チャールズ3世は、どんな国王になるでしょうか、見守ることにしましょう。また日本も君主制と民主主義が共存する国です。君主制と民主主義の共存ができる理由を歴史から学ぶのもよいかもしれません。

※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。

 

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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(66)紙とデジタルの使い分け(中村都/静岡麻機小)


 小中学校への学習用端末の配備で、インターネットによる調べ学習が簡単にできるようになりました。うまく使えば大きな味方となる半面、安易に検索に走って答えを導き出すことが、考える力を低下させる原因になるのではないかと懸念しています。
 アナログ時代に育った私の調べ学習は、たくさんの蔵書や新聞、資料などの紙媒体に目を通すところから始まりました。当然自分の疑問にズバリ答えてくれるものなどあるわけがなく、「どうやったら答えにたどり着くのだろう」と試行錯誤することこそが、考えることだと捉えていました。
 ウエブサービスやスマートフォンの普及で人が接する情報は膨大な量になりました。その中から自分の必要としているものをストレスなく短時間に入手する必要に迫られる現代人は、考える暇がないのかもしれません。
 紙媒体は線を引いたり書き込みをしたりすることができます。手を使って得た情報は頭の中でしっかりと整理・記憶され、それが考えるための素材になっていきます。デジタル機器と紙媒体との使い分けが、今後の課題ですね。