「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。
「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。
2024年12月01日(日)付
■同じ農産品でも記事に地域差 静岡と鹿児島 茶生産の特徴読み比べ 静岡サレジオ小・中 公開授業
NIE実践指定校の静岡サレジオ小・中(沼波岳臣校長)で11月に行われた公開授業。中学1年の社会の授業では、茶生産が盛んな本県と鹿児島県で発行される新聞紙面を比較し、同じ産業でも地域ごと異なる特徴について生徒が理解を深めた。
日本の諸地域を学ぶ単元で、お茶を軸に据えた。温暖な気候や水はけの良い土壌など、茶生産に適した両県の共通点をおさらい。その上で、本県が生産量で鹿児島県に抜かされそうになっている理由を探った。
生徒はグループに分かれて複数の記事を分担して読み、キーワードを押さえて要約。需要が拡大するペットボトル茶向けに注力し、平地で大型機械を使って大規模栽培を行う鹿児島県の現状を捉えた。一方、香りやうまみにこだわり寒暖差のある山あいで生産している▽急斜面の茶園が多く機械化が難しい▽高齢化による離農で栽培面積が減少している-など、本県の特徴や課題も読み解いた。
田辺朱里教諭(23)は静岡新聞や鹿児島県を拠点とする南日本新聞、全国紙を示し、読者の生活圏や関心事によって記事で強調する内容を変えている点を紹介。「どの視点で書かれた記事なのかにも注目して」と指摘した。授業後、近藤吏矩さん(13)は「自分とは違う視点を探すため、情報は複数の資料から探すように心がける」と意欲を述べた。
小学6年の国語の授業では、パリ五輪のメダリストに贈られた賞金への賛否を紹介する記事を読み、児童が自分の考えを発表した。「選手の努力にも経費がかかっているから賛成」「メダルの価値はお金で表せないはず」など、両方の意見が飛び交った。伊藤燦里さん(12)は「いろいろな意見を知ることができて面白い」と新聞の魅力を語った。
同小・中は朝活動で、記事の要約を取り入れる。小学生は辞書で言葉を調べ、テーマに対する自らの意見を書き出す。中学生は新たな問いを立てて情報収集して思考を深め、専用ノート「ソクラテスのノート」にまとめている。
国語の授業を担当した倉橋雅教諭(41)は「さまざまな見方を知って自分の考えを構築し、論理的な文章を書く力をさらに養ってほしい」と話している。
(教育文化部・鈴木美晴)
記事に線を引き、キーワードを探す生徒=静岡市清水区の静岡サレジオ中
パリ五輪メダリストへの賞金について自分の意見を発表する児童=同区の静岡サレジオ小(写真の一部を加工しています)
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(86)共生や多様性 考える糸口(中村都教諭/静岡千代田小)
小学校4年生の総合的な学習で、福祉教育に取り組んでいます。お年寄りや聴覚障害のある方との交流、福祉用具の体験などを通して、子どもたちは福祉を身近に感じ、調べ学習を進めています。さらに福祉の現状を見据えることで、最終的には「自分はどう考えるのか」「自分に何ができるのか」までを見通した学びを目指します。
そのために福祉の授業と並行して、先に行われたパリパラリンピックの記事を使い、競技について調べました。競技そのものを知ることで、共生社会や多様性についても学ぶことができ、子どもの考える力をつけていくのにふさわしいと判断したからです。特にルールを知ることで、障害の程度によって出場人数が決められていたり、選手を補助する人がいたりするなど、誰もがスポーツを楽しむために、たくさんの工夫があることが分かりました。障害者の可能性や社会参加について考える機会も得ることができたのです。
1年後には、デフリンピック(4年に1度開催される聴覚障害者の国際スポーツ大会)が県内などで開催されます。障害や福祉という枠を越え、多様性のある社会で、皆が幸せに暮らしていくにはどのようにしたらいいか、考えられるといいですね。
(中村都教諭・静岡千代田小)
2024年11月03日(日)付 朝刊
■図書室で楽しく新聞クイズ 関連本紹介、社会に関心広く 静岡・由比小
静岡市立由比小(吉川賢校長)は図書室に時事問題を張り出し、解答をその場の応募箱に投函[とうかん]する「新聞クイズ」を実施している。関連書籍を近くに配架するなど、児童の関心を広げ、深める工夫を凝らす。
9月の昼休み。さまざまな学年の児童が図書室で、静岡新聞の週刊子ども新聞「YOMOっと静岡」に掲載中のクイズ「みんなで検定」に挑戦した。今回のテーマは、パリ五輪・パラリンピック。「今夏のパリ五輪で初めて採用された競技は?」「パリで世界遺産に登録されているのは?」など12問に取り組んだ。
学校司書の加藤公子さん(53)が「子どもたちに世界で今何が起きているのか感じてほしい」と本年度から新聞クイズを始めた。図書室の本を通常より多く借りられる「プラス1冊券」や手作りメダルなど、多数正解者への特典の効果もあり、参加人数は着々と増加。3回目の今回は、初回の2倍となる40人に上った。クイズの隣に日本の獲得メダルを一覧にした朝刊紙面を掲示し、五輪の歴史やフランス文化を紹介する書籍も本棚に並べた。
関心を持つポイントは十人十色だ。6年の大瀧悠嘉さんは「バレー選手として出場してみたい」とスポーツへの意欲を高め、福井爽友さんは「パリの有名建築の歴史が知りたくなった」と紙面の写真を見詰めた。
NIE実践指定校2年目の同校は、朝や帰りの時間でも新聞を活用し、低・中学年は知っている言葉探しを通じて活字に親しむ機会を増やしている。高学年では、日直が気になったニュースを発表。記事の要点を押さえ、自分の意見をまとめる力を伸ばす。「世界の軍事費過去最高」という話題から平和に思いをはせたり、愛犬と参加できる県内の交流イベントを紹介したりと、幅広いテーマが取り上げられている。
NIE担当の遠藤直人教諭(45)は児童の変化について「長い文章への苦手意識が徐々に薄れ、語彙[ごい]が増えて世界が広がっていると感じる」と手応えを語る。書いたり話したりする練習を重ね、表現力の一層の向上につなげたい考えだ。
(教育文化部・鈴木美晴)
新聞クイズを企画した加藤公子さん(右)と挑戦する児童
新紙幣をテーマにした「こどもかがく新聞」も紹介。関連する県内外の偉人の伝記がそばに置かれている=静岡市立由比小の図書室
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(85)同世代の投稿も手本に
秋になり、大学入試の学校推薦型選抜に向けた小論文や志望理由書の添削を頼まれます。静岡新聞を使って、しっかり読んできっちり書くことへの指導を考えてみます。
ウオーミングアップとして「清流」「この人」「窓辺」など短めのコラムを読ませたり、NIEワークシートに取り組ませたりします。慣れてきたら、1面コラム「大自在」や「社説」などにチャレンジさせます。
最近は「読者のひろば」の投稿文を参考に人を引きつける文章について考えさせています。特に「ひろば10代の思い」は同世代の文章ですので生徒の興味を引きますし、内容も素晴らしく感心させられます。生徒たちに、どこが優れているか線を引かせながら読ませ、「問いかける書き出しになっている」「批判だけでなく、自分自身を省みている」などの意見が出てくれば、良かった点を参考に文章を書かせます。
結論を最初に書き、それを説明する例や補足する体験、エピソードを加えると分かりやすくなります。
よく書けた文章は投稿をお勧めします。文章が掲載されることで自信がつきます。書くことは難しいですが、何回も書いているうちに上達します。新聞を使って楽しく学んで読解力と表現力を身に付けましょう。
(塚本学教諭・常葉大常葉中・高)
2024年10月06日(日)付 朝刊
■紙面の感想発表し合う 縦割り朝活動 表現力育み「学びと成長」 熱海・泉小「ことばタイム」
熱海市立泉小は昨年度から、全校児童が参加する縦割り学習の一環として、新聞を活用し、表現力を身に付ける朝活動「ことばタイム」を展開している。新聞の記事や写真について感想を発表し合う取り組みで、自己表現力を育む場として徐々に定着しつつある。
9月中旬のある朝、登校してきた児童が一つの教室に集まり、一斉に新聞各紙を広げた。各自が持ち寄った新聞ネタは、パリ五輪で活躍した日本勢の話題や、花の見頃を伝える写真などさまざま。「気になる新聞ニュースを発表してみよう」。教諭の呼びかけに応じ、児童はグループごとに発表を始めた。
活動を好意的に受け止める児童は多い。小惑星りゅうぐうの記事を取り上げた6年の上野葵さんは「新聞で面白いことを見つけるのが楽しみ。みんなといろんな話をして、つながれる」と笑顔を見せる。台風10号の被害状況を伝える記事を選んだ6年の盛井祐宇さんは「自然の恐ろしさを学んだ。新聞を読むと、自分が知らないことを深く知ることができる」と話す。
自分や相手の発表を踏まえ、終了後に気が付いた点を語り合う時間を設けるのも、ことばタイムの大きな特徴だ。「自分の意見と記事の説明をうまくまとめていた」「大切な部分が詳しくて聞きやすかった」。児童の口からは、自身の発表の仕方を改善しようとする前向きな意見が相次いだ。
泉小は全校児童25人で、中学校が併設された小規模校。同校によると、ほとんどの児童同士が顔見知りの関係で、言葉を多く交わさなくても意思疎通を図れるという小規模校ならではの良さがある。一方で、中学卒業後に待ち受ける大人数の高校生活を見据えた時、自分の意見を人前で表現する力が課題になっていた。
同校児童は気になる新聞記事の切り抜きを紹介する掲示板を設けたり、見出しと記事の新聞形式で学習成果をまとめたりと、精力的なNIE(教育に新聞を)活動を実践する。岡部靖子教諭は「苦手とする自己表現を磨く良い機会。新聞の活用を通じた学びと成長を感じる」と手応えを語る。
(熱海兼伊東支局・鈴木文之)
新聞の切り抜きを紹介するコーナー
新聞を読んだ感想を発表し合い、表現力を身に付ける「ことばタイム」=9月中旬、熱海市立泉小
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(84)災害学習と温暖化問題
理科をはじめ多くの教科科目で、地球温暖化が取り上げられています。ただ教科書は事態の深刻さを知るには限定的な内容です。できるだけ新しい情報で、生徒が短時間で理解できる新聞記事は、自然災害と地球温暖化を関連させる学習に威力を発揮します。
7月7日に静岡市の最高気温が40度に達し、生徒も地球温暖化の現実を実感する中、7月の地学授業で地球温暖化の影響や対策など20種類の新聞記事を学んでもらいました。
8月、連日猛暑が続き、月末に台風10号が襲来。速度が遅く、遠方にあるのに本県も大雨による浸水被害や土砂災害を被りました。9月、台風報道の記事を読み、地球温暖化学習を踏まえた台風対策を書いてもらいました。
多くの生徒が、ハザードマップや避難経路の確認、非常持ち出し品の事前準備の重要性を挙げました。地球温暖化により同様の台風が増えることを懸念し、温暖化対策も重要と指摘した生徒もいました。単なる災害対策に止まらず、地球温暖化との関連に気付いたのは、7月と9月の学習の成果でしょう。地球温暖化学習は、このように気象災害学習とセットで学ばせると良く、その際、新聞は最適な資料になるのです。
(吉川契子教諭・静岡城北高)
2024年09月01日(日)付 朝刊
■NIEアドバイザーのワンポイント講座(83)社会への関心 記事読み高く(伊藤大介教諭/静岡聖光学院中・高)
先日、東京への出張帰りに交通機関の乱れのため、東京駅で足止めされました。駅構内を歩いていると丸の内南口改札の出口の外で人だかりが見え、気になって外に出てみると、今までに見たことがないほどの老若男女が列をなしていました。
この列は東京都知事選挙に立候補した人物の最終演説を聴こうとした人たちで、特に若い学生のような人たちが多いことが印象的でした。
現在担任を務めている高校3年生のクラスでは、社会に対する多角的な視点を養うためにホームルーム(HR)で政治や経済、スポーツなどのさまざまな新聞記事を配布することがあります。この時HRの司会役の生徒が記事の内容に触れて自らの意見を表明することがあり、日常から生徒たちが主体的に社会への関心を高めていることが伝わってきます。若年層の投票率の低さが話題になることが多い昨今、先に述べた東京駅前の光景や身近な生徒たちの様子から、政治への関心が決して低いわけではないことが分かります。
ある生徒が、5月に行われた静岡県知事選挙で初めて選挙権を行使してきたことをうれしそうに語る姿を見た時、NIEの実践の継続がこれからも社会への関心を高めるきっかけになると実感しました。
(伊藤大介教諭・静岡聖光学院中・高)
2024年08月04日(日)付 朝刊
■月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=新規6校 新聞教育に抱負
日本新聞協会はこのほど、2024年度のNIE実践指定校を全国で527校決定した。県内は新規6校と昨年度からの継続8校の計14校が、デジタル化の進む中で新聞を活用した教育活動に取り組む。新規校に抱負を寄せてもらった。
<2024年度NIE実践指定校>
【新規】東伊豆熱川中、静岡清水第六中、御前崎中、浜松浜北北部中、桐陽高、沼津視覚特別支援学校
【継続】熱海泉小、静岡由比小、袋井南小、浜松初生小、静岡サレジオ小・中、浜松開誠館中・高、磐田北高、浜名高
沼津視覚特別支援学校 石川紗恵子先生 <読みやすい新聞考える>
視覚障害のある児童生徒は文字を読む時に、視覚支援機器の拡大機能を利用したり、音声読み上げ機能を利用したり、点訳文を読んだりしています。
NIE活動に取り組む中で、自分に合った方法で新聞に親しみ、身近な出来事に関心を持ち、視野を広げ、児童生徒の国語力が高まることを期待しています。
また、新聞づくりを通して、新聞の良さや、自分たちが読みやすい新聞についても考えたいと思います。
東伊豆熱川中 入江ひとみ先生 <記事活用 場づくり模索>
情報リテラシーを身に付けられるだけでなく、人生を彩る発見もある新聞の数々の魅力を感じながら、本校では新聞を活用した授業づくりや場づくりを模索していきたいです。
全職員で情報を共有しながら活動を展開し、生徒たちが新聞に触れる機会を増やしたり、新聞の良さを感じたりしてほしいです。新聞記事との出合いをきっかけに、「問い」や「願い」を持ち、各教科や学級で目指すべき学びの姿に迫ることを目標に掲げています。
静岡清水第六中 山内俊治先生 <社会のぞく「窓」として>
情報社会を生きる子どもたちにとって、情報を手に入れる手段の中心はインターネットになっているように感じます。特に1人1端末が当たり前になってからは、その傾向が顕著です。
そんな今だからこそ、子どもたちが新聞に触れる機会をつくるところから始め、新聞という「窓」を通して身近な場所で起こっていることから遠い世界のことまで、社会をのぞき、社会に触れる機会をつくることができる実践を進めたいと思っています。
浜松浜北北部中 原田直樹先生 <社会科で探究力を養う>
本校では、社会科の授業で新聞活用を計画しています。1人1台のタブレット端末が導入され、生徒たちは、インターネットで日本や世界中の多くの情報に触れることができます。一方で、地域の身近な情報を知らない生徒も多くいます。
社会科の授業では、日本の各地方における地域の特色や課題について学びます。新聞を活用し、自分たちの住む地域との共通点や関連性を捉えさせることで、多面的・多角的な視点をもって探究する力を育みたいと考えます。
御前崎中 北條賢佑先生 <読み込み考える力育む>
2学期より本格的な取り組みを行い、各教科や日常生活の視点から新聞を活用し、本校の目指す資質・能力の一つである「自律」(自ら気づき、考え、判断・実行し、行動する)の向上につなげていくことを考えています。
近年、インターネットで得られる情報に敏感な生徒は多いものの、生徒が主体的に記事を読み込み、考える時間は少ないと感じています。本実践を通して生徒が社会の一員としての自覚を持ち、行動できるようになることを期待しています。
桐陽高 浅井みゆき先生 <図書館旗振り役で展開>
新聞は社会の入り口。知識の宝庫。新聞により自らの将来選択の視野を広げ、社会と関わる力を持ってほしいと、本校では学校図書館が旗振り役として、「Nタイム」の実施や新聞を題材にした小論文などで思考力、表現力の育成をサポートしてきました。
また、生徒が社会にアンテナを立てるため新聞を手にする機会を図書委員会活動の中で実施してきました。こうした実践をさらに展開し、生徒のキャリア育成に向け、教員同士アイデアを出し合い進めたいと思います。
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■紙面授業 英語 一つの事象 異なる視点 浜松学芸中・高 天野真秀先生
3月に米国映画界の優秀作品に与えられるアカデミー賞を日本の2作品が受賞しました。「ゴジラ-1・0(マイナスワン)」のゴジラは、ゴリラとクジラの造語ですが、英語タイトルのGodzillaは、神のイメージを込めて、God-zillaとしたそうです。また、「君たちはどう生きるか」の英語タイトルは、The Boy and the Heron(少年と青サギ)で、How do you live? ではありません。
同じく3月に世界最多の収録語数を誇る英国のオックスフォード英語辞典(OED)が改訂されました。日本語は外来語の宝庫だと評され、23の日本語由来の単語が追加されました。日本食が身近になったことを反映し、多くはkatsuやonigiriなどの食べ物でしたが、katsuは「通常は鶏肉を揚げたもの」とされ、日本語とは多少のずれが生じていることが分かります。
4月には、岸田文雄首相が米国議会で演説した際、Fumio Kishida(名・姓)ではなくKishida Fumio(姓・名)と紹介されていました。文化庁が2000年に、日本人名のローマ字表記は姓・名の語順が望ましいとの通知を出しましたが、米大リーグでは今でも、Shohei Ohtani(名・姓)と使っており、まだ人口に膾炙[かいしゃ]していないようです。
以上の話題はそれぞれ、映画のマーケティング戦略、外来語の受容と変容、呼称の文化的アイデンティティーの例ですが、英語を通して日本語の姿が浮き彫りにされています。高校の英語の科目名は「英語コミュニケーション」であるように、英語はコミュニケーションツールであるのは言をまちませんが、日英語双方の文化を知り、一つの事象に対して異なる切り口、視点を持つことも英語学習の目的の一つなのです。
<今回で終了します>
2024年07月12日(金)付
日本新聞協会は11日、教育現場で新聞を活用する「NIE(教育に新聞を)」に取り組む学校を対象にした学習効果調査の結果を発表した。NIE実施後に教員の指導力が伸びたと答えた学校が91%に及び、子どもの読む力や書く力など、尋ねた五つの力の全てで、9割前後の学校が伸びたと答えた。
調査は今年1~2月に実施。2023年度のNIE実践校など全国の小中高校計581校からの回答を基に分析した。
協会によると、教員の指導力が「大幅に伸びた」と答えた学校は4%。「伸びた」が39%、「少し伸びた」が48%だった。NIEの実践頻度と指導力との相関も調べたところ、週1回以上など頻度が高い学校ほど「大幅に伸びた」「伸びた」と答えた割合が高かった。
子どもの能力への影響も調査。「聞く力・話す力」「読む力」「書く力」「理解力・考えを深める力」「主体性」の5項目がNIE実践後に伸びたかどうかを尋ねると、全項目で「大幅に伸びた」「伸びた」「少し伸びた」の合計が87~94%と9割前後を占めた。
具体的にどのような変化があったかを自由記述で答えてもらったところ「語彙(ごい)が増えた」「長文への抵抗感が薄くなった」「書くスピードが上がった」「分かりやすく書けるようになった」などの回答が寄せられた。
2024年07月07日(日)付
■ 気になった記事 全校に紹介 浜名高・放送委員会 「社会に関心高めて」 新聞身近に
2023年度にNIE実践指定校となった浜名高(浜松市浜名区)は同年9月から、放送委員会が昼休みの放送で新聞記事を紹介している。自由なテーマで、目に留まったニュースを選ぶ。生徒に社会の動きへの関心を高めてもらおうと始めた試みで、委員の間で新聞を読む習慣が定着しつつあるという。
昼食時間の終了を告げる放送。担当の生徒が記事の切り抜きやメモを手に、気になったニュースを紹介する。掲載された新聞や見出し、感想などを1分程度にまとめる。放送委員会ではクラスごとに2人一組となり、日替わりで放送を行う。扱う記事はスポーツから政治、防災、地域のイベントまでさまざま。5月に行われた知事選に関する記事を複数回紹介するなど、県内の関心事を取り上げる。
生徒は事前に新聞やウェブページを確認して題材を探す。1年の野末創也さん(15)は「極力明るい話題を選ぶ。話し方も興味を持ってもらえるように心がけている」と話す。
取り組みは生徒たちが新聞に触れる機会になっている。放送委員になるまで日常的に新聞を読むことがなかったという鎌江未空さん(16)は「普段から新聞に目を通すようになり、ニュースを考えるきっかけになった」と効果を口にする。
同校は現在7紙を購読。渡り廊下に開架し、いつでも手に取れる環境を整えている。図書委員会では新聞への投書も行っていて、「委員としての活動」や「季節感のある内容」をテーマに執筆する。
こうした取り組みの数々は、生徒に普段から新聞に触れてほしいとの思いがある。NIE担当の岩本直子教諭(55)は「紙から触れる情報を大事にしたい。生徒がいろんな新聞を手に取ることが日常化してくれたら」と願う。
校内に開架されている新聞各紙
昼休みの放送で新聞記事を紹介する放送委員会の生徒=浜松市浜名区の浜名高
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■ 紙面授業 地学 月の起源解明に注目を 静岡北中・高 内野靖之先生
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型探査機「SLIM[スリム]」が1月20日、日本で初めて月面に着陸し、世界初のピンポイント着陸に成功したことが、大々的に報じられました。着陸の挙動解析などで静岡大工学部の能見公博教授の研究室が協力してきたことも報道され、月探査がより身近に感じられました。
月の夜は14日続き、表面温度は氷点下170度前後にもなります。機体はこの過酷な環境に、耐えられる設計ではありませんでしたが、予想に反して幾度かの夜を越え、貴重な観測データを地球に届けてくれました。ところで、月はどのようにしてつくられたのか知っていますか。
月の起源にはいくつかの説があります。地球の一部が引きちぎられてできたとする「親子分裂説」、地球とは別の場所で誕生した月が地球の引力によって捉えられたとする「捕獲説」、地球と同時につくられたとする「兄弟説」、火星クラスの天体が地球に衝突して天体と地球のマントル物質が飛び散った後にそれらが集まってできたとする「ジャイアント・インパクト説」などです。
このうち最も有力なのが、ジャイアント・インパクト説です。地球のマントル上部は主に「かんらん石」からできていて、月の内部から地球のかんらん石と類似したものが見つかれば、この説を裏付けることになります。そして5月27日、立命館大や会津大などの研究グループは、SLIM搭載カメラで撮影した月面の岩石の画像分析で、かんらん石の存在を示すデータが確認されたと発表しました。この岩石は月のクレーター周辺で見つかっており、隕石[いんせき]が月に衝突した際、月から掘り起こされて出てきたマントル物質と考えられています。
今後も月ではさまざまなミッションが控えています。調査によってさらに月の起源に迫ることができるかもしれませんね。
県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■ NIEアドバイザーのワンポイント講座(82)記事以上に"語る"写真 静岡千代田小 中村都教諭
小学校4年生の国語の教科書(光村図書)に「アップとルーズで伝える」という教材があります。動画や写真は情報の内容をより分かりやすく伝える上で大変重要で、伝える際は、アップとルーズの良さを生かし、選んだり組み合わせたりすることが大切、と書いてあります。
現在、写真はカラーが主流ですが、数年前、あえて白黒(モノクロ)写真を使ったのだろう、と思われる記事を見つけました。
それは、辺りが暗くなりかけた夕暮れ時、男子ゴルフの全英オープン選手権で共に予選落ちした2人の選手が互いの健闘をたたえ合い、がっちりと握手をしている写真です。写真の中心は2人の手で、左右に分かれて見える2人の横顔は輪郭しか見えていないため、それぞれの表情をうかがい知ることはできません。しかし、記事には書かれていない2人の気持ちを、写真の握手の様子から読み取ってほしいという記者の方の意図を感じました。
情報をより分かりやすく伝えるためにさまざまな手だてを施す写真と、必要最小限の情報量まで減らし、受け手に読み取ってもらう部分を残す写真。正反対のようでいて、どちらも写真が語り、伝えていることに他なりません。
2024年06月02日(日)付 朝刊
■記事読み行動 認知症支援 22、23年度新聞感想文 最優秀 掛川西中2年・礒部葵衣さん
2024年05月06日(月)付 朝刊
■ 実践校 成果と課題(下)
学校教育で新聞を教材として活用する活動(NIE)を進める県NIE推進協議会(安倍徹会長)は2月、2023年度実践報告会を静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開いた。県内の実践指定校として2年間活動した全6校の担当教諭が発表した取り組みや成果を紹介する上下回連載の「下」は、藤枝市立広幡中、浜松市立春野中、県立静岡北特別支援学校南の丘分校(所属校は3月時点)。
(教育文化部・マコーリー碧水)
<新聞作り通じ思考力育む> 藤枝市立広幡中 石橋直明教諭
日常的に文字に触れる習慣がなく、発表で根拠が言えなかったり事実に基づいた考察ができなかったりと論理的思考力が弱い生徒が多いという実態があった。そこで「新聞を学習から日常へ落とし込む」ことを目指し、1年目は「新聞が学習の役に立った」を増やし、2年目は「新聞を読むことが増えた」を増加させるという目標を設定した。
国語では新聞を材料として、見出しや広告などから言葉を引っ張って五七五七七の短歌を作った。総合的な学習の時間では、街歩き学習の成果を新聞形式でまとめた。新聞を読んで紙面構成を学び、自分たちの新聞を作り上げることで論理的思考力を育んだ。
新聞が学習に有効と考え読むことを習慣とした生徒を一定数増やせた。ただ文章の根拠が不明確だったり言葉の選択を間違っていたりする生徒は依然多い。新聞は校正を繰り返し正しい言葉を使うため、読むことで文章力向上にもつながると考えている。継続して活用していきたい。
石橋直明教諭
<「社会で活躍」見据え授業案> 県立静岡北特別支援学校南の丘分校 鈴木雅義教諭
学校全体で組織的に取り組めるよう、学内各所に了解を得ながら準備を進めた。社会で活躍できる人を育てることを目指し、NIEの目的として、新聞を読む習慣を身に付け膨大な記事から必要な情報を選択し活用することと、社会の出来事への関心を高め自分の言葉で話せるようになることの2点を設定した。どの段階で何をすれば良いかのロードマップを作成し、教員間で共通認識を持ち授業実践した。
高校2年の国語では、生徒が興味のある記事に対する自分の考えを作文にまとめた後、その文について家族や知人にインタビューを実施。考えをさらに深め、もう一度文章化した。この授業実践により「いっしょに読もう!新聞コンクール」の学校奨励賞を受賞した。
生徒から「新聞を使った授業が楽しかった」「新聞の見方が分かった」との声があり、ありがたかった。今後は紙媒体の新聞と、情報通信技術(ICT)を組み合わせた授業実践を研究する必要がある。
鈴木雅義教諭
<裁判記事で憲法を身近に> 浜松市立春野中 武井千幸教諭
全校47人の小規模校で、「主体的に学び、自分の考えを表現できる生徒の育成」という目標に向けて、NIE教育に取り組んだ。
1年目は準備期間と位置付け、新聞コーナーの設置や読み聞かせの実施など学校の中で生徒が新聞に触れる環境作りを行い、教員がNIEを理解するために研修会も開いた。多くの生徒が知らない言葉を調べる習慣がなく、意見の主張が苦手なことも分かった。
2年目からは日課を大幅に改訂し、放課後の時間を捻出して日常的にNIE教育に充てられるようにした。授業では、3年生の公民で水俣病を巡る行政裁判の記事を取り上げた。日本国憲法の条文が自分たちの生活の向上とより良い社会の形成に必要不可欠なことを体感的に学んだ。
NIE教育により自分の考えを以前よりスムーズに書けたという生徒がいた。新聞を読み込むことが生徒との会話のきっかけにもなり、NIE教育は生徒だけではなく教師の教養を広げる意味でも有意義だった。
武井千幸教諭
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■ 紙面授業 数学 「割合」は基準量を意識 西遠女子学園中・高 杉山智子先生
私たちの暮らしには数字があふれています。4月12日付の静岡新聞を見ると、「防衛費の国内総生産(GDP)比2%への増額」(1面)、「内閣の支持率は...16・6%」(3面)といった記事があります。これらは割合の考え方を使って物事を表していて、割合が身近に用いられていることが分かります。しかし、国の全国学力・学習状況調査など小学生から高校生までの学力調査結果によると、割合についてきちんと理解するのはなかなか難しいとも分析されています。
例えば、次のような状況はどう感じますか。
ある施設の利用者数は、イベントがなかった5月は4月と比べて15%減りました。イベントを行った6月は、5月に比べて15%増加しました。
「15%減って15%増えたから、4月と6月は同じ」と考えたくなりますが、それはどうなのでしょうか。「基にする量(基準量)は?」と思った人は、割合について大切なことが意識できています。
最初の15%は、基準量が4月の利用者数、2回目の15%は、基準量が5月の利用者数です。つまり、二つの「15%」は、基準量が異なっているのです。文字を使って表してみます。
4月の利用者数をa人とすると、5月の利用者数はa×(1-0・15)=0・85a人です。6月の利用者数は、(5月の利用者数)×(1+0・15)=0・9775a人です。4月の利用者数がa人、6月の利用者数が0・9775a人ですから、4月と6月は同じではなく、6月の利用者数の方が0・0225a人少ないと分かります。
今回は割合に割合を掛ける考えを紹介しましたが、割合を割合で割る考えもあります。日常のさまざまな場面で「%」で表された数字を見つけたら、「基準量は何か」を意識してみると、示された値の意味を正確にとらえることができるでしょう。
県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
2024年04月07日(日)付 朝刊
■ 実践校 成果と課題(上)
学校教育で新聞を教材として活用する活動(NIE)を進める県NIE推進協議会(安倍徹会長)は2月、2023年度NIE実践報告会を静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開いた。県内の実践指定校として2年間活動した全6校の担当教諭が発表した取り組みや活動成果を、上下2回にわたり紹介する。初回は伊豆市立土肥小中一貫校、富士見中(富士市)、静岡市立清水飯田中(いずれも所属校は3月時点)。
(教育文化部・マコーリー碧水)
<記事紹介のスピーチバトル> 伊豆市立土肥小中一貫校 増田弦己教諭
文章を正確に理解することや、自分の言葉で説明することが苦手な子が多いことを課題と捉えた。解決に向けて、正しく読み取り、筋道を立てて考える子の育成をテーマとして掲げた。
児童生徒にアンケートを取ると、半数以上の家庭で新聞を購読しておらず、60%の子どもが新聞を読むことに抵抗感があった。そこで校内に新聞や切り抜き記事を集めたスクラップブックを設置し、紙面に親しむ環境を整えた。
記事の中心を捉えられるようになること、多様な言葉に触れることを目指して見出し付けを競う「M1グランプリ」などさまざまな催しを開いた。クラスメートに記事を紹介するスピーチを競う「シンブリオバトル」は特に反応が良かった。食料生産を扱った社会科の授業では、社会の現状を映し出す新聞活用の効果を大きく感じた。
総合学習や道徳、歴史の授業に新聞を使うことで教員側の引き出しも増えた。子どもたちの新聞を読むことへの抵抗感を減らせた。
増田弦己教諭
<架空記者会見で「取材力」も> 富士見中 渡辺貴之教諭
長文を読解し要約する力、根拠を持って意見を表明する力、幅広い情報に関心を持って主体的に学習を発展させる力。この三つを身に付けることを目標とした。
新聞を読む力を付けるだけでなく、記者が取材する際の質問する力とメモを取る力も学ぶ必要があると考えた。新聞社社員の講義で心構えや取材手法を聞き、生徒間で互いの情報を聞き出す実践演習も行った。
実際の記事を使って架空の記者会見を設定し、報道発表する会社、新聞記者、会見の様子を報じるキャスターの三役を3学年全員が経験する授業も実施した。質問する記者と答える会社の立場をそれぞれ経験し、記事を十分理解してからキャスター役として説明する。新聞活用力を育成する上で教師と生徒が目指す姿を共有する機会になった。
「三つの力」を生徒が身に付ける上でNIEが有効な手だてと分かり、教員自身が今後の新聞活用の継続意欲を高めたことが一番の成果と感じている。
渡辺貴之教諭
<授業の枠超え学校全体で> 静岡市立清水飯田中 赤星信太朗教諭 池田勇太教諭
本校は古くからある住宅街と新興住宅地の両方が学区にあることで、生徒ごとに多様な背景がある。学力差が大きい生徒集団であることを踏まえ、その改善が求められている。学校の教育活動のあらゆる場面でNIEを活用し、学校をより良くしたいという思いで実践をスタートした。
担当教諭の専門である国語と社会を中心に新聞を授業に導入し、記事内容の読み取り力や情報収集技能の向上を図った。教室の外に複数紙を比較できる新聞コーナーを設置し、昼の放送では時事関係の記事を紹介することで高校入試の面接対策につなげた。高校に関する記事を集めて3年生の共有スペースに掲示し、進路選択にも役立てた。
紙自体にも着目し、清掃活動やレクリエーションに古新聞を使用した。取り組みを通じ、生徒の新聞への親近感や評価を高めることができた。多忙な学校現場の状況からNIEの実現には学校全体で取り組む必要性を感じた。
赤星信太朗教諭(左) 池田勇太教諭
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■ 紙面授業 地歴・公民、国語 勉強で培う視野視点 焼津高 坂上太喜先生
私は、小学生の頃に学んだ日本史をとても面白く感じたことがきっかけで、教員になりました。教職を選んだ理由を聞かれれば、「好きなことを生かせるから」となりますが、では、勉強が得意ではない人にとって学校の勉強は人生で生かせないのでしょうか。
昨年10月のイスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃から、ガザで戦争が始まりました。この事実を見て、どちらが悪いか判定してみてください。戦争は小さな子ども同士のけんかではなく、大人同士、国家同士のけんか、紛争です。ただ気に食わないから攻撃をしたとは考えにくいですね。
例えば、ハマスの人々が元々住んでいたパレスチナにイスラエル人が突然入ってきたら、この戦争の悪者はどちらなのか。そう考えるたびに私は何とも言えない気持ちになってきます。
地理歴史科・公民科(社会科)の大きな目標の一つに「多面的・多角的な視点の育成」が挙げられています。ハマスによる攻撃と、反撃したイスラエルそれぞれの事情、周辺諸国や欧米の利害など多様な要因を踏まえた上で、この問題を理解しようとする姿勢が多面的な視点です。また、ハマス、イスラエルそれぞれの人々になりきるとさまざまな感情が湧き起こります。その人の立場に立って考えようとする姿勢が多角的な視点です。
どのような状況においても人々は支え合って生きていくものです。その際、「多面的・多角的な視点」を持つことは不可欠です。高校生の必修科目「公共」は「パレスチナ問題」を扱いますが、日常の暮らしから遠い中東問題を材料に、「多面的・多角的な視点」を学び磨きます。つまり学校の勉強は案外、私たちの生活に役立つ、あるいは役立てる場面が多いと言えるでしょう。
勉強が苦手な人たちへ。学校で勉強することは無駄にはならず、生きるものなのです。
県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
2024年03月03日(日)付 朝刊
■読み手に届く新聞を コンクール入賞常連校の富士東高 流行や時事問題 等身大の視点で
富士東高新聞部(富士市)は県高校新聞コンクールの上位入賞常連校。「読み手に届く新聞」をモットーに、コロナ禍でのマスク事情や「推し活」など、高校生が気になる話題を追いかけて取材に励んでいる。
制作した新聞を並べて企画について話し合う部員たち=富士市の富士東高
部員は2年生と1年生計10人。放課後の部室には、毎日のように多くの部員が集まってくる。新聞づくりの活動時間以外でも情報のアンテナを張り、何げないおしゃべりが取材のネタにつながることもある。部員らは「仲間と一緒に街へ出て取材するのが楽しい」「自分で考えて動けることが新聞部の魅力」と口をそろえる。
主な活動は年3回発行し全校生徒に配る「富士東高校新聞」の制作だ。企画会議では、1人当たり四つのアイデアを持ち寄り4、5時間かけて紙面の内容を議論する。構成の決め手は、読み手である高校生の興味を引くこと。アイドルやキャラクターを応援する「推し活」に取り組む先生へのインタビュー、コロナ禍でのマスク着用に関する校内アンケートなど、流行や時事問題を高校生の視点で記事にしている。ネタ探しにはインターネットやSNSのチェックも欠かさない。
これまでに発行した新聞
地元を知ってほしい思いから、硬派なネタにも意欲的だ。昨年の県高校新聞コンクールで優秀賞を獲得した第126号では、地元の田子の浦港における環境問題を取り上げた。複数の漁港関係者を取材したほか、問題を身近に感じてもらおうと、生徒によるルポも用意した。部長の福井理央さんは「普段の学校生活やインターネットでは知ることができないことを、自分から調べたり体験できたりするのが新聞づくりの面白さ」と語る。
富士東高校新聞のほか、各部活動の大会結果を写真とともに伝える「写真版速報」や校内行事の様子を紹介する「東高タイムズ」も制作している。こうした新聞がクラスに掲示される瞬間は部活動の醍醐味[だいごみ]の一つ。福井さんは「クラスメートが自分の撮影した写真を見て喜んでくれると、新聞の力を感じる。形に残るのが紙媒体の良さ。読まれる紙面づくりに挑戦していきたい」と力を込める。
(富士支局・沢口翔斗)
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■紙面授業 地歴公民 小さな善意が動かす力 藤枝明誠中・高 山内正邦先生
元日に能登半島を襲った最大震度7の地震は、甚大な被害が報道され、南海トラフ地震が懸念される静岡県民にとって人ごとではありません。日本は地震列島とも呼ばれ、最古の歴史書の一つ「日本書紀」にも地震被害が記されています。近年起こった震災では、国内だけでなく海外からも支援の手が差し伸べられていますが、特に忘れてならないのはトルコの存在でしょう。
トルコとの友好関係は、1890年のトルコ軍艦エルトゥールル号遭難事件から始まったとされます。
台風のため難破した乗員を救助したのは、漁村の大島村(現在の和歌山県串本町)の村民でした。村民総出で生存者を捜索し、負傷者を看病し、回復すると本国へ送り届け義援金も送りました。この勇気ある村民の行動は、後にトルコで教科書にも掲載されるほど広がりました。
この出来事を日本人が改めて思い出したのは、1985年イラン・イラク戦争の時でした。開戦でイラン国内に取り残され帰国困難となった日本人を、事件の恩を忘れていなかったトルコが、航空機で自国民より優先して救出してくれたのです。
さらに2011年の東日本大震災時には救助隊や物資をいち早く届けてくれました。日本も23年のトルコ・シリア地震ではトルコを支援し、両国は互いに支え合う関係になっていきました。
遭難事件の際、村民はただ目の前の命を救おうとする一心で救助を行ったに違いありません。しかしそれは確かに日本と世界を変えたのです。小さな一人一人の善意が、波状的に大きな力になることは歴史が証明しています。被災地に心を寄せること、そして人々の助け合う心が、能登でもそしてこれからも、復興に向けた力強い歩みにつながると信じています。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(80)被災地の現実 自分ごとに(吉川契子教諭/静岡城北高)
大災害が発生した際、私は新聞各紙を買い集めて教室に持って行きます。阪神淡路大震災の時から始めて現在まで継続している方法です。生徒にも新聞情報に注目するよう呼びかけます。
能登半島地震では記事の持参を高校1年の全クラスで呼びかけました。地震動による家屋の倒壊や津波、液状化、地盤の隆起、土砂災害。長引く避難生活と停電・断水。自然が猛威を振るい、被災地の人々が困難な暮らしを強いられている現実を知ります。
記事を読み、自分ごととして捉え、どのように関わりたいか、考えたことを生徒に発表してもらいました。
家庭で改めて防災対策を話し合い家具の固定などを行った、発災時は支える立場として災害復興に尽力したい、看護師として治療と心のケアにあたりたい、教員になって子どもたちに地震のことを伝え、共に防災対策を考えたい、と多様でした。皆が力を合わせて困難を乗り切っていくことが大切であると気付いた生徒もいます。
阪神淡路大震災時の教え子が今回、いち早く被災地支援を行ったことを知りました。学習したことが生徒の心に残り、次なる行動に結びつく。新聞からの学びの意義を確信しています。
2024年02月04日(日)付 朝刊
■月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=学校行事 紙面化 表現力磨く ワークシートで読解力も向上 浜松 春野中
浜松市天竜区春野町の春野中はNIE実践指定校となり2年目の本年度、学校行事を振り返る新聞の作成に取り組んだ。生徒たちは写真と記事で1枚の紙を埋める作業を通じ、体験や感想を生き生きと表現する力の向上につなげている。
新聞作りに取り組む生徒たち。体験内容や感想をつづる=浜松市天竜区春野町の春野中
「見出しは短く、インパクトがあるようにしないと」「写真はここに貼ろうかな」-。2年生が総合学習の時間を活用し、11月に開かれた学習発表会「黎明[れいめい]祭」の様子をつづっていく。2時間ほどすると、一点物の新聞をほぼ完成させる生徒の姿もみられた。
昨年4月以降、職場体験や陶芸体験などの学校行事を振り返る機会として新聞作りを重ねてきた。「春野の魅力新しく発見」「とても緊張した職場体験」といった見出しからはそれぞれの個性が浮かぶ。2年の山田偉葵[いさき]さん(14)は「新聞には難しいイメージがあったが、意見をまとめたり見出しを考えたりしているうちに面白さを感じるようになった」と話す。
これまでに作成した新聞
新聞記事を使い、放課後の時間に約15分学習する活動も重視する。静岡新聞のNIEウェブサイトからダウンロードした「新聞ワークシート」を活用し、記事から読み取るポイントを考える問題に回答していく。地域の課題への理解を深めるとともに、読解力を養うことに役立てている。
生徒に行ったアンケートでは、ワークシートに取り組んで以降、読解力が「高まった」「少し高まった」との回答は2~3年生全体の9割に上った。「テストの問題の意味を理解できるようになった」「本の内容を要約することが容易になった」などの感想からは、文章を読み取る力が普段の学習に好影響を与えている状況がうかがえる。
NIE学習に取り組む全校生徒数は47人。教諭間で試行錯誤を重ねてきたことで、指導ノウハウの向上にもつながっているという。NIE学習を担当する武井千幸教諭は「少人数の学級だからこその丁寧な指導で、伝える相手を意識した言葉の学習に取り組んでいる。全ての教科に必要な表現力や集中力の向上につなげていきたい」と話す。
(天竜支局・平野慧)
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■紙面授業 英語 自然史進展に人間模様 磐田東中・高 内海暁子先生
英自然科学者チャールズ・ダーウィンの「種の起源」(1859年)の土台となるノートが一昨年春、行方不明から約22年ぶりに所蔵元の英ケンブリッジ大図書館に匿名で返却されたと報道されました。1837年に書かれたノートには、自然選択による進化論の基となる概念や「生命の樹」のスケッチが書き込まれ、ダーウィンが進化論を20年以上温めてきたことをうかがわせる超一級の資料です。
進化論の発表は、小説「シャーロック・ホームズシリーズ」や「不思議の国のアリス」が誕生したビクトリア朝時代の英国で、科学上の大事件となりましたが、刊行の立役者となったのが年下のライバル、博物学者アルフレッド・ラッセル・ウォレスだったことはあまり知られていません。
ウォレスはダーウィンとほぼ同じ理論に独自に到達していましたが、ウォレスからの手紙で互いのアイデアの類似に驚いたダーウィンは、この長年温めてきた理論を1年で「種の起源」にまとめ上げます。それを知ったウォレスは、「自然選択の理論はあなただけのもの」であり、自分の功績は「執筆と公表を促したことのみ」と、後にダーウィンに書き送ります。ウォレスはダーウィンの「大ファン」でした。
昨年はウォレス生誕200周年を祝うイベントが世界各地で開かれました。ダーウィンの名声の影に隠れても、後世に与えた影響の大きかったことの証しでしょう。自然史の進展の裏の人間模様に驚かされます。スペインの国立自然科学博物館では、夏までウォレス展が開催されています。日本でも国立科学博物館が昨夏、運営難の資金協力を呼びかけたところ、初日で目標の1億円を達成して話題になるなど、自然史への関心は世界共通。今は貴重な原典も世界中のウェブサイトで気軽に閲覧できます。ぜひ大科学者たちの足跡を身近にしてみてください。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(79)政治不信から希望 語り合う(伊藤大介教諭/静岡聖光学院中・高)
勤務校では1月下旬に卒業式を迎えるため、例年この時期、高校3年生は各教科で最後の授業を受けます。筆者が自身の最後の授業で設定した課題は、「魅力的な政治とは何か」。1年間のNIEの取り組みのまとめも関連づけた授業では、選挙での若年層の低投票率も考慮し、現在と高3生が生まれた年の政治の記事(「郵政解散」)を複数用意しました。
授業の後半で「あなたが考える魅力的な政治や政治家を説明しなさい」という問いに、生徒は積極的に意見表明を行っていました。政治の問題では教員としての中立的な立場を意識しながら、一人の大切な有権者を育てるために政治的な現象の本質に迫る必要があります。能登半島地震を支援する記事の一方で、昨年末からの国会議員による政治資金収支報告書不記載問題の連日の報道記事は、生徒たちの政治への魅力を確実に引き下げています。
筆者は政党助成法の制定や政治資金規正法改正の経緯を、配布した新聞記事で丁寧に生徒と考察しました。NIEの魅力は、記事から受け取る政治への不信を希望に変え、政治を前向きに語れる授業ができることです。生徒は記事も大人もしっかり見つめています。
2024年01月07日(日)付 朝刊
■科目に応じ 活用多彩に 藤枝・広幡中 公開授業
国語 キーワード捉え 要約文作成
保健体育 健康の話題 日常と関連付け
英語 英字新聞 ニュース動画視聴
NIE実践指定校の藤枝市立広幡中で昨年11月に行われたNIEの研究発表会は、特別支援学級を含む1~3年全10クラスの授業を公開した。国語や数学、英語、保健体育などさまざまな教科における新聞の活用例を紹介した。
タブレット端末を使って新聞記事を要約する生徒=藤枝市立広幡中
同校のNIE実践は2年目。「1年間に本を読むことがない」という生徒が半数を超える実態を踏まえて、記事を読み論理的思考や文章力を養う目的で取り組んでいる。柳本雅弘校長は「生徒がさまざまな事象に触れるためには、教職員一丸で進める必要がある」と強調。自らも新聞に写真を投稿するなど、生徒が新聞を身近に感じられるよう積極姿勢を見せる。
1年生の国語の授業では、文意を要約する単元で新聞記事を使った。石橋直明教諭(27)がキーワードを抜き出したり熟語を用いたりすることで短く分かりやすい文章で伝えられると指導。ネット上のコミュニケーションも踏まえて「文章を読む時にはその意味を理解するだけでなく発信される意図も考える必要がある」と指摘した。生徒は、イスラエルとイスラム組織ハマスの対立や新型コロナウイルス禍の影響、米大リーグ大谷翔平選手についての記事の要約に挑戦。タブレット端末で要約文を作成した。樋川翔大さん(13)は「要約のポイントが分かった。印象に残った新聞記事や文章のキーワードを抜き出してまとめておけば、後から見返すことができそう」と話した。
2年生の保健体育は、生徒がそれぞれ選んだ健康に関する記事を基に日常生活で意識すべきことを発表した。県内で危険ドラッグの販売店が再確認されたという記事を選んだ生徒は「手軽に入手できるため依存性が高い」などと自分で調べた内容と合わせて、「(一掃のために)自分たちができることは少ないが、知識を持って生活すべきだと思う」と意見を述べた。がん治療の経済的負担や心臓病の記事から、運動習慣とバランスの取れた食生活の重要性を説く生徒もいた。
健康に関する新聞記事を基に意見交換した2年生の保健体育の授業
3年生の英語の授業は導入として英字新聞のニュース動画を視聴。特別支援学級でも、記事内の単語の意味や漢字を辞書で調べながらワークシートを記入した。
(教育文化部・鈴木明芽)
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■紙面授業 国語 感性育む四季の大切さ 静岡大成中・高 中山龍一先生
「百人一首」の中に「奥山に紅葉[もみじ]踏みわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋は悲しき」という歌があります。この歌は秋のどことなく悲しさを感じさせる季節感を「紅葉」や「鹿の声」という存在で表現しており、聞いたことのある方も多いかと思います。
昨年の夏は世界各地で記録的猛暑となり、国連のグテレス事務総長は「地球沸騰化の時代が到来した」と警告しました。静岡県では11月に入り25度以上の夏日を記録し、秋らしい陽気も束の間、冬が到来したはずが、12月にも25度近くを記録しました。気候変動によって日本の「四季」が「二季」になるのではないかというニュースに、秋がなくなってしまったら、四季それぞれの美しい自然の姿に育まれてきた豊かな感性も失われてしまうのかと危機感を覚えてしまいます。
「枕草子」の「うつくしきもの」の一つに、小さな塵をめざとく見つけた幼子が大人一人一人にそれを見せて回る場面があります。幼子は自分の思った通りに見つけたものを大人に見せて回るわけですが、実は大人にとってそれは大したものではありません。しかし、その愛らしい姿を見て、きっと「よく見つけたね」とか「すごいね」といった声をかけていたと思います。そうすると幼子はまた違うものを見つけては大人に見せ、新たな世界を広げていきます。これこそが感性の原点なのだと思います。
「感性」は「自分の感情を大切にすること」と「自分の世界を広げること」を日頃から意識することによって、筋力トレーニングのように鍛えられていくものだと思います。だからこそ、さまざまな姿を見せてくれる四季の変化は感性に良い影響を与えるものであると感じています。
日本の四季を守るということは、その豊かな感性を守っていくことと同義であるのではないでしょうか。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(78)言葉と出合う クロヌリハイク(中村都教諭/静岡千代田小)
小学3年生を担任しています。国語で俳句を勉強した後、クロヌリハイクに挑戦しました。これは、昨夏行われたNIE全国大会松山大会で考案者の方が披露したものです。
俳句は、季語を入れて四季の情景や自分の思いを五七五で詠みます。一方、クロヌリハイクは、一つの新聞記事から季語とそれに結び付けて使えそうな言葉を探し出して五七五にし、使わない部分を黒く塗りつぶすのです。
俳句と違い、文中から言葉を抜き出して作るという制約があるので、使いたい言葉が使えるとは限りません。しかし語彙[ごい]の少ない子どもたちにとっては、記事を読むことで、今まで知らなかったたくさんの言葉に出合うことができるのです。意味が分からなければ、その都度、国語辞典で調べ、選んだ言葉を再構成し作品を完成させました。
クロヌリハイクは、記事を読んで感想や意見を言い合うというものではありません。しかし、何度も記事を読み返すことで、言葉にこだわりながら文章を読むことができるようになります。クロヌリタンカとしても応用が利くので、どちらも挑戦してみてはいかがでしょうか。
2023年12月03日(日)付 朝刊
■新聞活用「学校」全般に 静岡・清水飯田中
NIE実践指定校の清水飯田中(静岡市清水区)は、国語や社会の授業内にとどまっていた新聞活用を学校生活全般に拡大しようと本年度から取り組みを強化した。読者欄への投稿や複数紙を常備した新聞コーナーの設置、NIE係による推薦記事張り出しを通じて、生徒が新聞に触れるきっかけ作りを図る。
新聞コーナーに張り出すおすすめの記事を選ぶNIE係=11月上旬、静岡市清水区の清水飯田中
対象は主に2年生。生徒は朝のホームルームを利用して静岡新聞読者欄「読者のひろば 10代の思い」への投書を書き、これまでに16人が採用された。高齢者に高圧的な態度で接する医者の姿を目撃した経験から、患者に寄り添う医療者になろうと考えたエピソードが掲載された大石想乃さん(13)は「全く期待していなかったので家族と一緒にびっくりした。採用後、同世代の意見を知ろうと読者投稿欄に目を通すようになった」と話した。
各クラス1、2人が務めるNIE係は紙面から興味を持った記事を選び、切り抜いて新聞コーナーに張り出す。国際面をよくチェックするという田島叶夢さん(13)はイスラエル軍のパレスチナ自治区ガザ攻撃を伝える記事を選んだ。世界的なニュースだが「ウクライナとは何が違うのか」「戦争やってたんだ」と校内では知られていなかった。「知って得する、知らなきゃ損する情報を紹介する」とNIE係として記事を選ぶポイントを明らかにした。
NIE係が選んだ記事が張り出された新聞コーナー
NIE係として活動するにつれて新聞を読み込み始めたという吉田帆花さん(14)と佐野葵さん(同)は中学生から見た紙面への要望も持つようになった。「卓球部としてTリーグの話題を張り出すのに、地元静岡ジェードをもっと取り上げてほしい」「吹奏楽部として夏のコンクールの結果があるといい」と具体的だ。
NIE担当の赤星信太朗教諭(39)は、新聞コーナーが3年生のスペースに増設されるなど新聞活用の学校への浸透を実感する。「中学生活は子どもらにとって苦労も多い。NIEを通じて日々新しい情報に接する環境を実現し、学校を生徒がわくわくできる場所に変えていきたい」と意気込んだ。
(教育文化部・マコーリー碧水)
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■紙面授業 福祉 人々救済に平等の教え 静岡女子高 八木恵美先生
現在、パレスチナ自治区ガザでは、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘により、人々が人道危機にさらされています。この争いの背景にあるのが、アラブ人とユダヤ人の対立である「パレスチナ問題」です。とても根深く複雑で、「宗教の対立」ともいわれますが、宗教は福祉と関わりがあることを考えたいと思います。
「福祉」という言葉には、どちらの漢字にも「幸福」という意味があり、一言で表すと「ふだんの/くらしを/しあわせに」などと表されます。私は「社会で生活する全ての人々が〝自分らしく〟生きていける社会をつくる取り組み」と説明しています。
この日本の福祉のルーツが、十七条憲法や仏教を広めたことで名高い聖徳太子が開いたといわれる「四箇院[しかいん]」です。四箇院とは、寺院、薬局、病院、病人などのための福祉施設のことです。また、「社会福祉の父」と言われる糸賀一雄は、キリスト教信者であり、戦後、滋賀県に知的障害児の教育を行う近江学園などを創設しました。「死を待つ人の家」を開いたマザー・テレサは、キリスト教の修道女であり、インドで貧困や病に苦しむ人々の救済に生涯をささげました。
このような宗教と福祉との関わりの根底には「神の前では皆平等」という教えがあります。この教えに従い、仏教やキリスト教などを信仰する人々は、貧困、病気、障害のある人たちのために尽力したのです。
「宗教」を別の側面から考えてみました。福祉では、その対象となる人のことを考えるときに、「障害」や「病気」だけを見るのではなく、その人自身を見ることが大切だと学びます。
皆さんにも周りの人や物事に対して、一つの側面や限られた情報から判断するのではなく、視野を広く持ち、いろいろな面から判断するようになってほしいと思います。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(77)1面コラムに見出しつける(塚本学教諭/常葉大常葉中・高)
新聞の1面にはコラムが掲載されています。静岡新聞なら「大自在」、朝日新聞は「天声人語」、毎日新聞は「余録」、読売新聞は「編集手帳」などです。こうした新聞社の"顔"とも言えるコラムは記事や社説とは異なる視点でニュースと向き合い、世相を切り取っています。何より、各新聞社が誇る文章の達人が担当していますから名文ばかりです。こうしたコラムに見出しをつけるという試みはどうでしょう。
見出しを考えるには、深く読み取ることが必要ですので、読解力が身に付きます。内容をズバリ表すよう15字以内にすれば、表現力や発想力も付き、まさに一石二鳥です。個人で考えるのもいいですが、グループを作り、話し合ってみんなで考え、発表し合うことも楽しいものです。
私はこの4月から生徒に見出し作りに取り組ませています。最初は内容をまとめることに四苦八苦で、要点を並べるだけだった生徒たちが、最近は記事の内容から発想を飛ばし、こちらが思いもよらない見出しを考えてきます。そういえば、2020年9月12日の「大自在」には「縦読み」の仕掛けがありました。「大自在書き写しシート」が静岡新聞NIEのサイトにありますので、ぜひ、1面コラムに注目し活用してみてください。
2023年11月05日(日)付 朝刊
■記事選び発表 スピーチ力磨く 伊豆・土肥小中一貫校 バトル形式、スクラップも活用
伊豆市の土肥小中一貫校の児童生徒が、興味を持った新聞の記事を選んで1分間で紹介する「新ブリオバトル」に取り組んでいる。バトルを企画するなどNIE実践指定校として同校の新聞教育を推進する増田弦己教諭(27)によると、「人前でのスピーチが苦手」といった課題解消のために新聞を活用したという。子どもたちがニュースに触れ、意見を持つ契機をつくり出している。
興味を持った新聞の記事を選んで1分間で紹介する「新ブリオバトル」の本戦で発表する生徒=9月下旬、伊豆市の土肥小中一貫校
新ブリオバトルは5~9年生が対象で、地方紙や全国紙から記事を一つ選ぶ。記事について選んだ理由や感想、訴えたいことなどを発表する。発表を聞いた児童生徒は「声の大きさや強弱」「内容の分かりやすさ」「その記事に興味を持ったか」の3項目をそれぞれ5点満点で採点する。
選んだ記事の内容は「関東大震災から100年」「土肥の花火」「最も危険な生き物」などさまざまだ。2学期になってから学年ごと授業内で予選会を開き、上位2人が5~9年生約60人の前で発表する本戦に臨んだ。
本戦では体育館に用意された演台から離れて、聞いている児童生徒に近寄って意見を熱く訴える生徒もいた。採点の結果、1位は9年の小林真菜美さん(14)。「人前で発表するのは緊張したけど、記事について楽しく知ってもらえるのがうれしい」と喜んだ。2位だった9年の高石将吾さん(15)は「ほかの人が気になっているニュースや発表の仕方が勉強になった」と振り返った。増田教諭は子どもたちが生き生きと発表する姿を見て「スピーチの能力が上がってきた」と手応えを口にした。
増田弦己教諭が用意したスクラップブックを読む児童=9月中旬
さらに同校では子どもたちに新聞に親しんでもらうため、空き教室にこれまでストックしてきた新聞数カ月分を設置した。増田教諭は記事を切り抜き、「社会」「防災」「伊豆」など8テーマに分けたスクラップブックも用意。子どもたちは新ブリオバトル開催前や休み時間に、それらを読んで好きな記事を見つけては感想を話し合っているという。増田教諭は「同学年や友達が選んだ記事からニュースに興味を持ち、意見を持つ力もつけてほしい」と期待する。
(大仁支局・小西龍也)
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■紙面授業 国語 日本文化にみる多様性 聖隷クリストファー中・高 金原由貴先生
長引くウクライナ侵攻を受けて、世界各地でウクライナへの「支援疲れ」が叫ばれています。日本でも関心の薄れを感じる人が多いようです。しかし古来、日本はもっと国際色豊かで、世界に目を向け、つながろうとしていたように思います。
以前、和歌の宗家、冷泉家25代当主・冷泉為人先生の美術史の講義で、「日本で加工貿易が栄えたのは文化史をひも解けば必然である」というお話を伺いました。これは文学でも同じことが言えそうです。
例えば、「古事記」に登場する国産み神「イザナギ」について、本居宣長の「古事記伝」では、「誘[いざな]う」の語幹に男性を表す「ギ」がついた言葉だ、と説明されています。一方、室町時代の辞典「アイ嚢鈔[あいのうしょう]」では、仏教の天神「伊舎那天[いしゃなてん]」のことだと記されています。
さらに、イエスの誕生を預言した「イザヤ」に由来するという説もあります。イザヤはヘブライ語で「神の救い」、「ナギ」は「王、司」を意味するのだとか。
「旧約聖書」の「イザヤ書」の中にこんな一節があります。「あなたたちは東の地でも主を尊び海の島々でも、イスラエルの神、主の御名を尊べ」。イザヤは紀元前700年ごろの人物です。既に各地に青銅が伝わっていることからも、中国大陸や東の海にある島国・日本を認識していたとしても不思議ではありません。
そして「古事記」の編さんはイザヤから数えて約1400年後。遠い西の国の物語が、多くの人々の口承を経て日本の国産み物語へ変化していたとしたら...。
真相は分かりません。ただ、国産み神話が独自のものと考えるより、さまざまな文化を受け入れ加工してできたと考える方が自然な気がします。このように多様性を受け入れられる日本だからこそ、不穏な世界に一石を投じることができる。その一助として、文化の比較研究が求められているのではないでしょうか。
※アイ嚢鈔のアイは土ヘンに草カンムリに去その下に皿
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(76)災害の影響 学ぶ素材に(吉川契子教諭/静岡城北高)
授業で自然災害を取り上げる目的は、児童生徒が、災害の原因となる自然現象を科学的に理解し、災害予測の取り組みを知り、防災に役立てることにあります。大災害の度に新聞は、災害の状況を伝えてきました。教科書で基本を学んだら災害の後、暮らしがどのように影響を受けるのかを記事から学びたいものです。
9月22日の静岡新聞1面に「台風15号 あす1年」の見出しで昨年、本県に甚大な被害をもたらした台風15号の災害復旧についての記事があります。河川護岸崩壊や道路陥没などの被害は県・市町合わせて562カ所に上り、うち、県の管理する56カ所で復旧工事が未着手とあります。
社会面では、静岡市清水区でワサビ田の復旧が進まず、廃業の危機に直面する農家の状況を伝え、大井川鉄道は運休していた一部区間が10月1日から再開するとあります。
台風15号の「その後」を伝える記事は継続的に掲載されています。
一度の災害がその後の生活に長期的に影響を与えます。記事でその現実を知ることは、次の災害に備える心構えをする上で効果があると考えます。「災害後」を伝える記事を続けてスクラップし、児童生徒に紹介したいですね。