「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。
「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。
2024年09月01日(日)付 朝刊
■NIEアドバイザーのワンポイント講座(83)社会への関心 記事読み高く(伊藤大介教諭/静岡聖光学院中・高)
先日、東京への出張帰りに交通機関の乱れのため、東京駅で足止めされました。駅構内を歩いていると丸の内南口改札の出口の外で人だかりが見え、気になって外に出てみると、今までに見たことがないほどの老若男女が列をなしていました。
この列は東京都知事選挙に立候補した人物の最終演説を聴こうとした人たちで、特に若い学生のような人たちが多いことが印象的でした。
現在担任を務めている高校3年生のクラスでは、社会に対する多角的な視点を養うためにホームルーム(HR)で政治や経済、スポーツなどのさまざまな新聞記事を配布することがあります。この時HRの司会役の生徒が記事の内容に触れて自らの意見を表明することがあり、日常から生徒たちが主体的に社会への関心を高めていることが伝わってきます。若年層の投票率の低さが話題になることが多い昨今、先に述べた東京駅前の光景や身近な生徒たちの様子から、政治への関心が決して低いわけではないことが分かります。
ある生徒が、5月に行われた静岡県知事選挙で初めて選挙権を行使してきたことをうれしそうに語る姿を見た時、NIEの実践の継続がこれからも社会への関心を高めるきっかけになると実感しました。
(伊藤大介教諭・静岡聖光学院中・高)
2024年08月04日(日)付 朝刊
■月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=新規6校 新聞教育に抱負
日本新聞協会はこのほど、2024年度のNIE実践指定校を全国で527校決定した。県内は新規6校と昨年度からの継続8校の計14校が、デジタル化の進む中で新聞を活用した教育活動に取り組む。新規校に抱負を寄せてもらった。
<2024年度NIE実践指定校>
【新規】東伊豆熱川中、静岡清水第六中、御前崎中、浜松浜北北部中、桐陽高、沼津視覚特別支援学校
【継続】熱海泉小、静岡由比小、袋井南小、浜松初生小、静岡サレジオ小・中、浜松開誠館中・高、磐田北高、浜名高
沼津視覚特別支援学校 石川紗恵子先生 <読みやすい新聞考える>
視覚障害のある児童生徒は文字を読む時に、視覚支援機器の拡大機能を利用したり、音声読み上げ機能を利用したり、点訳文を読んだりしています。
NIE活動に取り組む中で、自分に合った方法で新聞に親しみ、身近な出来事に関心を持ち、視野を広げ、児童生徒の国語力が高まることを期待しています。
また、新聞づくりを通して、新聞の良さや、自分たちが読みやすい新聞についても考えたいと思います。
東伊豆熱川中 入江ひとみ先生 <記事活用 場づくり模索>
情報リテラシーを身に付けられるだけでなく、人生を彩る発見もある新聞の数々の魅力を感じながら、本校では新聞を活用した授業づくりや場づくりを模索していきたいです。
全職員で情報を共有しながら活動を展開し、生徒たちが新聞に触れる機会を増やしたり、新聞の良さを感じたりしてほしいです。新聞記事との出合いをきっかけに、「問い」や「願い」を持ち、各教科や学級で目指すべき学びの姿に迫ることを目標に掲げています。
静岡清水第六中 山内俊治先生 <社会のぞく「窓」として>
情報社会を生きる子どもたちにとって、情報を手に入れる手段の中心はインターネットになっているように感じます。特に1人1端末が当たり前になってからは、その傾向が顕著です。
そんな今だからこそ、子どもたちが新聞に触れる機会をつくるところから始め、新聞という「窓」を通して身近な場所で起こっていることから遠い世界のことまで、社会をのぞき、社会に触れる機会をつくることができる実践を進めたいと思っています。
浜松浜北北部中 原田直樹先生 <社会科で探究力を養う>
本校では、社会科の授業で新聞活用を計画しています。1人1台のタブレット端末が導入され、生徒たちは、インターネットで日本や世界中の多くの情報に触れることができます。一方で、地域の身近な情報を知らない生徒も多くいます。
社会科の授業では、日本の各地方における地域の特色や課題について学びます。新聞を活用し、自分たちの住む地域との共通点や関連性を捉えさせることで、多面的・多角的な視点をもって探究する力を育みたいと考えます。
御前崎中 北條賢佑先生 <読み込み考える力育む>
2学期より本格的な取り組みを行い、各教科や日常生活の視点から新聞を活用し、本校の目指す資質・能力の一つである「自律」(自ら気づき、考え、判断・実行し、行動する)の向上につなげていくことを考えています。
近年、インターネットで得られる情報に敏感な生徒は多いものの、生徒が主体的に記事を読み込み、考える時間は少ないと感じています。本実践を通して生徒が社会の一員としての自覚を持ち、行動できるようになることを期待しています。
桐陽高 浅井みゆき先生 <図書館旗振り役で展開>
新聞は社会の入り口。知識の宝庫。新聞により自らの将来選択の視野を広げ、社会と関わる力を持ってほしいと、本校では学校図書館が旗振り役として、「Nタイム」の実施や新聞を題材にした小論文などで思考力、表現力の育成をサポートしてきました。
また、生徒が社会にアンテナを立てるため新聞を手にする機会を図書委員会活動の中で実施してきました。こうした実践をさらに展開し、生徒のキャリア育成に向け、教員同士アイデアを出し合い進めたいと思います。
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■紙面授業 英語 一つの事象 異なる視点 浜松学芸中・高 天野真秀先生
3月に米国映画界の優秀作品に与えられるアカデミー賞を日本の2作品が受賞しました。「ゴジラ-1・0(マイナスワン)」のゴジラは、ゴリラとクジラの造語ですが、英語タイトルのGodzillaは、神のイメージを込めて、God-zillaとしたそうです。また、「君たちはどう生きるか」の英語タイトルは、The Boy and the Heron(少年と青サギ)で、How do you live? ではありません。
同じく3月に世界最多の収録語数を誇る英国のオックスフォード英語辞典(OED)が改訂されました。日本語は外来語の宝庫だと評され、23の日本語由来の単語が追加されました。日本食が身近になったことを反映し、多くはkatsuやonigiriなどの食べ物でしたが、katsuは「通常は鶏肉を揚げたもの」とされ、日本語とは多少のずれが生じていることが分かります。
4月には、岸田文雄首相が米国議会で演説した際、Fumio Kishida(名・姓)ではなくKishida Fumio(姓・名)と紹介されていました。文化庁が2000年に、日本人名のローマ字表記は姓・名の語順が望ましいとの通知を出しましたが、米大リーグでは今でも、Shohei Ohtani(名・姓)と使っており、まだ人口に膾炙[かいしゃ]していないようです。
以上の話題はそれぞれ、映画のマーケティング戦略、外来語の受容と変容、呼称の文化的アイデンティティーの例ですが、英語を通して日本語の姿が浮き彫りにされています。高校の英語の科目名は「英語コミュニケーション」であるように、英語はコミュニケーションツールであるのは言をまちませんが、日英語双方の文化を知り、一つの事象に対して異なる切り口、視点を持つことも英語学習の目的の一つなのです。
<今回で終了します>
2024年07月12日(金)付
日本新聞協会は11日、教育現場で新聞を活用する「NIE(教育に新聞を)」に取り組む学校を対象にした学習効果調査の結果を発表した。NIE実施後に教員の指導力が伸びたと答えた学校が91%に及び、子どもの読む力や書く力など、尋ねた五つの力の全てで、9割前後の学校が伸びたと答えた。
調査は今年1~2月に実施。2023年度のNIE実践校など全国の小中高校計581校からの回答を基に分析した。
協会によると、教員の指導力が「大幅に伸びた」と答えた学校は4%。「伸びた」が39%、「少し伸びた」が48%だった。NIEの実践頻度と指導力との相関も調べたところ、週1回以上など頻度が高い学校ほど「大幅に伸びた」「伸びた」と答えた割合が高かった。
子どもの能力への影響も調査。「聞く力・話す力」「読む力」「書く力」「理解力・考えを深める力」「主体性」の5項目がNIE実践後に伸びたかどうかを尋ねると、全項目で「大幅に伸びた」「伸びた」「少し伸びた」の合計が87~94%と9割前後を占めた。
具体的にどのような変化があったかを自由記述で答えてもらったところ「語彙(ごい)が増えた」「長文への抵抗感が薄くなった」「書くスピードが上がった」「分かりやすく書けるようになった」などの回答が寄せられた。
2024年07月07日(日)付
■ 気になった記事 全校に紹介 浜名高・放送委員会 「社会に関心高めて」 新聞身近に
2023年度にNIE実践指定校となった浜名高(浜松市浜名区)は同年9月から、放送委員会が昼休みの放送で新聞記事を紹介している。自由なテーマで、目に留まったニュースを選ぶ。生徒に社会の動きへの関心を高めてもらおうと始めた試みで、委員の間で新聞を読む習慣が定着しつつあるという。
昼食時間の終了を告げる放送。担当の生徒が記事の切り抜きやメモを手に、気になったニュースを紹介する。掲載された新聞や見出し、感想などを1分程度にまとめる。放送委員会ではクラスごとに2人一組となり、日替わりで放送を行う。扱う記事はスポーツから政治、防災、地域のイベントまでさまざま。5月に行われた知事選に関する記事を複数回紹介するなど、県内の関心事を取り上げる。
生徒は事前に新聞やウェブページを確認して題材を探す。1年の野末創也さん(15)は「極力明るい話題を選ぶ。話し方も興味を持ってもらえるように心がけている」と話す。
取り組みは生徒たちが新聞に触れる機会になっている。放送委員になるまで日常的に新聞を読むことがなかったという鎌江未空さん(16)は「普段から新聞に目を通すようになり、ニュースを考えるきっかけになった」と効果を口にする。
同校は現在7紙を購読。渡り廊下に開架し、いつでも手に取れる環境を整えている。図書委員会では新聞への投書も行っていて、「委員としての活動」や「季節感のある内容」をテーマに執筆する。
こうした取り組みの数々は、生徒に普段から新聞に触れてほしいとの思いがある。NIE担当の岩本直子教諭(55)は「紙から触れる情報を大事にしたい。生徒がいろんな新聞を手に取ることが日常化してくれたら」と願う。
校内に開架されている新聞各紙
昼休みの放送で新聞記事を紹介する放送委員会の生徒=浜松市浜名区の浜名高
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■ 紙面授業 地学 月の起源解明に注目を 静岡北中・高 内野靖之先生
宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小型探査機「SLIM[スリム]」が1月20日、日本で初めて月面に着陸し、世界初のピンポイント着陸に成功したことが、大々的に報じられました。着陸の挙動解析などで静岡大工学部の能見公博教授の研究室が協力してきたことも報道され、月探査がより身近に感じられました。
月の夜は14日続き、表面温度は氷点下170度前後にもなります。機体はこの過酷な環境に、耐えられる設計ではありませんでしたが、予想に反して幾度かの夜を越え、貴重な観測データを地球に届けてくれました。ところで、月はどのようにしてつくられたのか知っていますか。
月の起源にはいくつかの説があります。地球の一部が引きちぎられてできたとする「親子分裂説」、地球とは別の場所で誕生した月が地球の引力によって捉えられたとする「捕獲説」、地球と同時につくられたとする「兄弟説」、火星クラスの天体が地球に衝突して天体と地球のマントル物質が飛び散った後にそれらが集まってできたとする「ジャイアント・インパクト説」などです。
このうち最も有力なのが、ジャイアント・インパクト説です。地球のマントル上部は主に「かんらん石」からできていて、月の内部から地球のかんらん石と類似したものが見つかれば、この説を裏付けることになります。そして5月27日、立命館大や会津大などの研究グループは、SLIM搭載カメラで撮影した月面の岩石の画像分析で、かんらん石の存在を示すデータが確認されたと発表しました。この岩石は月のクレーター周辺で見つかっており、隕石[いんせき]が月に衝突した際、月から掘り起こされて出てきたマントル物質と考えられています。
今後も月ではさまざまなミッションが控えています。調査によってさらに月の起源に迫ることができるかもしれませんね。
県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■ NIEアドバイザーのワンポイント講座(82)記事以上に"語る"写真 静岡千代田小 中村都教諭
小学校4年生の国語の教科書(光村図書)に「アップとルーズで伝える」という教材があります。動画や写真は情報の内容をより分かりやすく伝える上で大変重要で、伝える際は、アップとルーズの良さを生かし、選んだり組み合わせたりすることが大切、と書いてあります。
現在、写真はカラーが主流ですが、数年前、あえて白黒(モノクロ)写真を使ったのだろう、と思われる記事を見つけました。
それは、辺りが暗くなりかけた夕暮れ時、男子ゴルフの全英オープン選手権で共に予選落ちした2人の選手が互いの健闘をたたえ合い、がっちりと握手をしている写真です。写真の中心は2人の手で、左右に分かれて見える2人の横顔は輪郭しか見えていないため、それぞれの表情をうかがい知ることはできません。しかし、記事には書かれていない2人の気持ちを、写真の握手の様子から読み取ってほしいという記者の方の意図を感じました。
情報をより分かりやすく伝えるためにさまざまな手だてを施す写真と、必要最小限の情報量まで減らし、受け手に読み取ってもらう部分を残す写真。正反対のようでいて、どちらも写真が語り、伝えていることに他なりません。
2024年06月02日(日)付 朝刊
■記事読み行動 認知症支援 22、23年度新聞感想文 最優秀 掛川西中2年・礒部葵衣さん
2024年05月06日(月)付 朝刊
■ 実践校 成果と課題(下)
学校教育で新聞を教材として活用する活動(NIE)を進める県NIE推進協議会(安倍徹会長)は2月、2023年度実践報告会を静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開いた。県内の実践指定校として2年間活動した全6校の担当教諭が発表した取り組みや成果を紹介する上下回連載の「下」は、藤枝市立広幡中、浜松市立春野中、県立静岡北特別支援学校南の丘分校(所属校は3月時点)。
(教育文化部・マコーリー碧水)
<新聞作り通じ思考力育む> 藤枝市立広幡中 石橋直明教諭
日常的に文字に触れる習慣がなく、発表で根拠が言えなかったり事実に基づいた考察ができなかったりと論理的思考力が弱い生徒が多いという実態があった。そこで「新聞を学習から日常へ落とし込む」ことを目指し、1年目は「新聞が学習の役に立った」を増やし、2年目は「新聞を読むことが増えた」を増加させるという目標を設定した。
国語では新聞を材料として、見出しや広告などから言葉を引っ張って五七五七七の短歌を作った。総合的な学習の時間では、街歩き学習の成果を新聞形式でまとめた。新聞を読んで紙面構成を学び、自分たちの新聞を作り上げることで論理的思考力を育んだ。
新聞が学習に有効と考え読むことを習慣とした生徒を一定数増やせた。ただ文章の根拠が不明確だったり言葉の選択を間違っていたりする生徒は依然多い。新聞は校正を繰り返し正しい言葉を使うため、読むことで文章力向上にもつながると考えている。継続して活用していきたい。
石橋直明教諭
<「社会で活躍」見据え授業案> 県立静岡北特別支援学校南の丘分校 鈴木雅義教諭
学校全体で組織的に取り組めるよう、学内各所に了解を得ながら準備を進めた。社会で活躍できる人を育てることを目指し、NIEの目的として、新聞を読む習慣を身に付け膨大な記事から必要な情報を選択し活用することと、社会の出来事への関心を高め自分の言葉で話せるようになることの2点を設定した。どの段階で何をすれば良いかのロードマップを作成し、教員間で共通認識を持ち授業実践した。
高校2年の国語では、生徒が興味のある記事に対する自分の考えを作文にまとめた後、その文について家族や知人にインタビューを実施。考えをさらに深め、もう一度文章化した。この授業実践により「いっしょに読もう!新聞コンクール」の学校奨励賞を受賞した。
生徒から「新聞を使った授業が楽しかった」「新聞の見方が分かった」との声があり、ありがたかった。今後は紙媒体の新聞と、情報通信技術(ICT)を組み合わせた授業実践を研究する必要がある。
鈴木雅義教諭
<裁判記事で憲法を身近に> 浜松市立春野中 武井千幸教諭
全校47人の小規模校で、「主体的に学び、自分の考えを表現できる生徒の育成」という目標に向けて、NIE教育に取り組んだ。
1年目は準備期間と位置付け、新聞コーナーの設置や読み聞かせの実施など学校の中で生徒が新聞に触れる環境作りを行い、教員がNIEを理解するために研修会も開いた。多くの生徒が知らない言葉を調べる習慣がなく、意見の主張が苦手なことも分かった。
2年目からは日課を大幅に改訂し、放課後の時間を捻出して日常的にNIE教育に充てられるようにした。授業では、3年生の公民で水俣病を巡る行政裁判の記事を取り上げた。日本国憲法の条文が自分たちの生活の向上とより良い社会の形成に必要不可欠なことを体感的に学んだ。
NIE教育により自分の考えを以前よりスムーズに書けたという生徒がいた。新聞を読み込むことが生徒との会話のきっかけにもなり、NIE教育は生徒だけではなく教師の教養を広げる意味でも有意義だった。
武井千幸教諭
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■ 紙面授業 数学 「割合」は基準量を意識 西遠女子学園中・高 杉山智子先生
私たちの暮らしには数字があふれています。4月12日付の静岡新聞を見ると、「防衛費の国内総生産(GDP)比2%への増額」(1面)、「内閣の支持率は...16・6%」(3面)といった記事があります。これらは割合の考え方を使って物事を表していて、割合が身近に用いられていることが分かります。しかし、国の全国学力・学習状況調査など小学生から高校生までの学力調査結果によると、割合についてきちんと理解するのはなかなか難しいとも分析されています。
例えば、次のような状況はどう感じますか。
ある施設の利用者数は、イベントがなかった5月は4月と比べて15%減りました。イベントを行った6月は、5月に比べて15%増加しました。
「15%減って15%増えたから、4月と6月は同じ」と考えたくなりますが、それはどうなのでしょうか。「基にする量(基準量)は?」と思った人は、割合について大切なことが意識できています。
最初の15%は、基準量が4月の利用者数、2回目の15%は、基準量が5月の利用者数です。つまり、二つの「15%」は、基準量が異なっているのです。文字を使って表してみます。
4月の利用者数をa人とすると、5月の利用者数はa×(1-0・15)=0・85a人です。6月の利用者数は、(5月の利用者数)×(1+0・15)=0・9775a人です。4月の利用者数がa人、6月の利用者数が0・9775a人ですから、4月と6月は同じではなく、6月の利用者数の方が0・0225a人少ないと分かります。
今回は割合に割合を掛ける考えを紹介しましたが、割合を割合で割る考えもあります。日常のさまざまな場面で「%」で表された数字を見つけたら、「基準量は何か」を意識してみると、示された値の意味を正確にとらえることができるでしょう。
県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
2024年04月07日(日)付 朝刊
■ 実践校 成果と課題(上)
学校教育で新聞を教材として活用する活動(NIE)を進める県NIE推進協議会(安倍徹会長)は2月、2023年度NIE実践報告会を静岡市駿河区の静岡新聞放送会館で開いた。県内の実践指定校として2年間活動した全6校の担当教諭が発表した取り組みや活動成果を、上下2回にわたり紹介する。初回は伊豆市立土肥小中一貫校、富士見中(富士市)、静岡市立清水飯田中(いずれも所属校は3月時点)。
(教育文化部・マコーリー碧水)
<記事紹介のスピーチバトル> 伊豆市立土肥小中一貫校 増田弦己教諭
文章を正確に理解することや、自分の言葉で説明することが苦手な子が多いことを課題と捉えた。解決に向けて、正しく読み取り、筋道を立てて考える子の育成をテーマとして掲げた。
児童生徒にアンケートを取ると、半数以上の家庭で新聞を購読しておらず、60%の子どもが新聞を読むことに抵抗感があった。そこで校内に新聞や切り抜き記事を集めたスクラップブックを設置し、紙面に親しむ環境を整えた。
記事の中心を捉えられるようになること、多様な言葉に触れることを目指して見出し付けを競う「M1グランプリ」などさまざまな催しを開いた。クラスメートに記事を紹介するスピーチを競う「シンブリオバトル」は特に反応が良かった。食料生産を扱った社会科の授業では、社会の現状を映し出す新聞活用の効果を大きく感じた。
総合学習や道徳、歴史の授業に新聞を使うことで教員側の引き出しも増えた。子どもたちの新聞を読むことへの抵抗感を減らせた。
増田弦己教諭
<架空記者会見で「取材力」も> 富士見中 渡辺貴之教諭
長文を読解し要約する力、根拠を持って意見を表明する力、幅広い情報に関心を持って主体的に学習を発展させる力。この三つを身に付けることを目標とした。
新聞を読む力を付けるだけでなく、記者が取材する際の質問する力とメモを取る力も学ぶ必要があると考えた。新聞社社員の講義で心構えや取材手法を聞き、生徒間で互いの情報を聞き出す実践演習も行った。
実際の記事を使って架空の記者会見を設定し、報道発表する会社、新聞記者、会見の様子を報じるキャスターの三役を3学年全員が経験する授業も実施した。質問する記者と答える会社の立場をそれぞれ経験し、記事を十分理解してからキャスター役として説明する。新聞活用力を育成する上で教師と生徒が目指す姿を共有する機会になった。
「三つの力」を生徒が身に付ける上でNIEが有効な手だてと分かり、教員自身が今後の新聞活用の継続意欲を高めたことが一番の成果と感じている。
渡辺貴之教諭
<授業の枠超え学校全体で> 静岡市立清水飯田中 赤星信太朗教諭 池田勇太教諭
本校は古くからある住宅街と新興住宅地の両方が学区にあることで、生徒ごとに多様な背景がある。学力差が大きい生徒集団であることを踏まえ、その改善が求められている。学校の教育活動のあらゆる場面でNIEを活用し、学校をより良くしたいという思いで実践をスタートした。
担当教諭の専門である国語と社会を中心に新聞を授業に導入し、記事内容の読み取り力や情報収集技能の向上を図った。教室の外に複数紙を比較できる新聞コーナーを設置し、昼の放送では時事関係の記事を紹介することで高校入試の面接対策につなげた。高校に関する記事を集めて3年生の共有スペースに掲示し、進路選択にも役立てた。
紙自体にも着目し、清掃活動やレクリエーションに古新聞を使用した。取り組みを通じ、生徒の新聞への親近感や評価を高めることができた。多忙な学校現場の状況からNIEの実現には学校全体で取り組む必要性を感じた。
赤星信太朗教諭(左) 池田勇太教諭
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■ 紙面授業 地歴・公民、国語 勉強で培う視野視点 焼津高 坂上太喜先生
私は、小学生の頃に学んだ日本史をとても面白く感じたことがきっかけで、教員になりました。教職を選んだ理由を聞かれれば、「好きなことを生かせるから」となりますが、では、勉強が得意ではない人にとって学校の勉強は人生で生かせないのでしょうか。
昨年10月のイスラム組織ハマスによるイスラエルへの奇襲攻撃から、ガザで戦争が始まりました。この事実を見て、どちらが悪いか判定してみてください。戦争は小さな子ども同士のけんかではなく、大人同士、国家同士のけんか、紛争です。ただ気に食わないから攻撃をしたとは考えにくいですね。
例えば、ハマスの人々が元々住んでいたパレスチナにイスラエル人が突然入ってきたら、この戦争の悪者はどちらなのか。そう考えるたびに私は何とも言えない気持ちになってきます。
地理歴史科・公民科(社会科)の大きな目標の一つに「多面的・多角的な視点の育成」が挙げられています。ハマスによる攻撃と、反撃したイスラエルそれぞれの事情、周辺諸国や欧米の利害など多様な要因を踏まえた上で、この問題を理解しようとする姿勢が多面的な視点です。また、ハマス、イスラエルそれぞれの人々になりきるとさまざまな感情が湧き起こります。その人の立場に立って考えようとする姿勢が多角的な視点です。
どのような状況においても人々は支え合って生きていくものです。その際、「多面的・多角的な視点」を持つことは不可欠です。高校生の必修科目「公共」は「パレスチナ問題」を扱いますが、日常の暮らしから遠い中東問題を材料に、「多面的・多角的な視点」を学び磨きます。つまり学校の勉強は案外、私たちの生活に役立つ、あるいは役立てる場面が多いと言えるでしょう。
勉強が苦手な人たちへ。学校で勉強することは無駄にはならず、生きるものなのです。
県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
2024年03月03日(日)付 朝刊
■読み手に届く新聞を コンクール入賞常連校の富士東高 流行や時事問題 等身大の視点で
富士東高新聞部(富士市)は県高校新聞コンクールの上位入賞常連校。「読み手に届く新聞」をモットーに、コロナ禍でのマスク事情や「推し活」など、高校生が気になる話題を追いかけて取材に励んでいる。
制作した新聞を並べて企画について話し合う部員たち=富士市の富士東高
部員は2年生と1年生計10人。放課後の部室には、毎日のように多くの部員が集まってくる。新聞づくりの活動時間以外でも情報のアンテナを張り、何げないおしゃべりが取材のネタにつながることもある。部員らは「仲間と一緒に街へ出て取材するのが楽しい」「自分で考えて動けることが新聞部の魅力」と口をそろえる。
主な活動は年3回発行し全校生徒に配る「富士東高校新聞」の制作だ。企画会議では、1人当たり四つのアイデアを持ち寄り4、5時間かけて紙面の内容を議論する。構成の決め手は、読み手である高校生の興味を引くこと。アイドルやキャラクターを応援する「推し活」に取り組む先生へのインタビュー、コロナ禍でのマスク着用に関する校内アンケートなど、流行や時事問題を高校生の視点で記事にしている。ネタ探しにはインターネットやSNSのチェックも欠かさない。
これまでに発行した新聞
地元を知ってほしい思いから、硬派なネタにも意欲的だ。昨年の県高校新聞コンクールで優秀賞を獲得した第126号では、地元の田子の浦港における環境問題を取り上げた。複数の漁港関係者を取材したほか、問題を身近に感じてもらおうと、生徒によるルポも用意した。部長の福井理央さんは「普段の学校生活やインターネットでは知ることができないことを、自分から調べたり体験できたりするのが新聞づくりの面白さ」と語る。
富士東高校新聞のほか、各部活動の大会結果を写真とともに伝える「写真版速報」や校内行事の様子を紹介する「東高タイムズ」も制作している。こうした新聞がクラスに掲示される瞬間は部活動の醍醐味[だいごみ]の一つ。福井さんは「クラスメートが自分の撮影した写真を見て喜んでくれると、新聞の力を感じる。形に残るのが紙媒体の良さ。読まれる紙面づくりに挑戦していきたい」と力を込める。
(富士支局・沢口翔斗)
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■紙面授業 地歴公民 小さな善意が動かす力 藤枝明誠中・高 山内正邦先生
元日に能登半島を襲った最大震度7の地震は、甚大な被害が報道され、南海トラフ地震が懸念される静岡県民にとって人ごとではありません。日本は地震列島とも呼ばれ、最古の歴史書の一つ「日本書紀」にも地震被害が記されています。近年起こった震災では、国内だけでなく海外からも支援の手が差し伸べられていますが、特に忘れてならないのはトルコの存在でしょう。
トルコとの友好関係は、1890年のトルコ軍艦エルトゥールル号遭難事件から始まったとされます。
台風のため難破した乗員を救助したのは、漁村の大島村(現在の和歌山県串本町)の村民でした。村民総出で生存者を捜索し、負傷者を看病し、回復すると本国へ送り届け義援金も送りました。この勇気ある村民の行動は、後にトルコで教科書にも掲載されるほど広がりました。
この出来事を日本人が改めて思い出したのは、1985年イラン・イラク戦争の時でした。開戦でイラン国内に取り残され帰国困難となった日本人を、事件の恩を忘れていなかったトルコが、航空機で自国民より優先して救出してくれたのです。
さらに2011年の東日本大震災時には救助隊や物資をいち早く届けてくれました。日本も23年のトルコ・シリア地震ではトルコを支援し、両国は互いに支え合う関係になっていきました。
遭難事件の際、村民はただ目の前の命を救おうとする一心で救助を行ったに違いありません。しかしそれは確かに日本と世界を変えたのです。小さな一人一人の善意が、波状的に大きな力になることは歴史が証明しています。被災地に心を寄せること、そして人々の助け合う心が、能登でもそしてこれからも、復興に向けた力強い歩みにつながると信じています。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(80)被災地の現実 自分ごとに(吉川契子教諭/静岡城北高)
大災害が発生した際、私は新聞各紙を買い集めて教室に持って行きます。阪神淡路大震災の時から始めて現在まで継続している方法です。生徒にも新聞情報に注目するよう呼びかけます。
能登半島地震では記事の持参を高校1年の全クラスで呼びかけました。地震動による家屋の倒壊や津波、液状化、地盤の隆起、土砂災害。長引く避難生活と停電・断水。自然が猛威を振るい、被災地の人々が困難な暮らしを強いられている現実を知ります。
記事を読み、自分ごととして捉え、どのように関わりたいか、考えたことを生徒に発表してもらいました。
家庭で改めて防災対策を話し合い家具の固定などを行った、発災時は支える立場として災害復興に尽力したい、看護師として治療と心のケアにあたりたい、教員になって子どもたちに地震のことを伝え、共に防災対策を考えたい、と多様でした。皆が力を合わせて困難を乗り切っていくことが大切であると気付いた生徒もいます。
阪神淡路大震災時の教え子が今回、いち早く被災地支援を行ったことを知りました。学習したことが生徒の心に残り、次なる行動に結びつく。新聞からの学びの意義を確信しています。
2024年02月04日(日)付 朝刊
■月刊一緒にNIE@しずおか・第1日曜掲載=学校行事 紙面化 表現力磨く ワークシートで読解力も向上 浜松 春野中
浜松市天竜区春野町の春野中はNIE実践指定校となり2年目の本年度、学校行事を振り返る新聞の作成に取り組んだ。生徒たちは写真と記事で1枚の紙を埋める作業を通じ、体験や感想を生き生きと表現する力の向上につなげている。
新聞作りに取り組む生徒たち。体験内容や感想をつづる=浜松市天竜区春野町の春野中
「見出しは短く、インパクトがあるようにしないと」「写真はここに貼ろうかな」-。2年生が総合学習の時間を活用し、11月に開かれた学習発表会「黎明[れいめい]祭」の様子をつづっていく。2時間ほどすると、一点物の新聞をほぼ完成させる生徒の姿もみられた。
昨年4月以降、職場体験や陶芸体験などの学校行事を振り返る機会として新聞作りを重ねてきた。「春野の魅力新しく発見」「とても緊張した職場体験」といった見出しからはそれぞれの個性が浮かぶ。2年の山田偉葵[いさき]さん(14)は「新聞には難しいイメージがあったが、意見をまとめたり見出しを考えたりしているうちに面白さを感じるようになった」と話す。
これまでに作成した新聞
新聞記事を使い、放課後の時間に約15分学習する活動も重視する。静岡新聞のNIEウェブサイトからダウンロードした「新聞ワークシート」を活用し、記事から読み取るポイントを考える問題に回答していく。地域の課題への理解を深めるとともに、読解力を養うことに役立てている。
生徒に行ったアンケートでは、ワークシートに取り組んで以降、読解力が「高まった」「少し高まった」との回答は2~3年生全体の9割に上った。「テストの問題の意味を理解できるようになった」「本の内容を要約することが容易になった」などの感想からは、文章を読み取る力が普段の学習に好影響を与えている状況がうかがえる。
NIE学習に取り組む全校生徒数は47人。教諭間で試行錯誤を重ねてきたことで、指導ノウハウの向上にもつながっているという。NIE学習を担当する武井千幸教諭は「少人数の学級だからこその丁寧な指導で、伝える相手を意識した言葉の学習に取り組んでいる。全ての教科に必要な表現力や集中力の向上につなげていきたい」と話す。
(天竜支局・平野慧)
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■紙面授業 英語 自然史進展に人間模様 磐田東中・高 内海暁子先生
英自然科学者チャールズ・ダーウィンの「種の起源」(1859年)の土台となるノートが一昨年春、行方不明から約22年ぶりに所蔵元の英ケンブリッジ大図書館に匿名で返却されたと報道されました。1837年に書かれたノートには、自然選択による進化論の基となる概念や「生命の樹」のスケッチが書き込まれ、ダーウィンが進化論を20年以上温めてきたことをうかがわせる超一級の資料です。
進化論の発表は、小説「シャーロック・ホームズシリーズ」や「不思議の国のアリス」が誕生したビクトリア朝時代の英国で、科学上の大事件となりましたが、刊行の立役者となったのが年下のライバル、博物学者アルフレッド・ラッセル・ウォレスだったことはあまり知られていません。
ウォレスはダーウィンとほぼ同じ理論に独自に到達していましたが、ウォレスからの手紙で互いのアイデアの類似に驚いたダーウィンは、この長年温めてきた理論を1年で「種の起源」にまとめ上げます。それを知ったウォレスは、「自然選択の理論はあなただけのもの」であり、自分の功績は「執筆と公表を促したことのみ」と、後にダーウィンに書き送ります。ウォレスはダーウィンの「大ファン」でした。
昨年はウォレス生誕200周年を祝うイベントが世界各地で開かれました。ダーウィンの名声の影に隠れても、後世に与えた影響の大きかったことの証しでしょう。自然史の進展の裏の人間模様に驚かされます。スペインの国立自然科学博物館では、夏までウォレス展が開催されています。日本でも国立科学博物館が昨夏、運営難の資金協力を呼びかけたところ、初日で目標の1億円を達成して話題になるなど、自然史への関心は世界共通。今は貴重な原典も世界中のウェブサイトで気軽に閲覧できます。ぜひ大科学者たちの足跡を身近にしてみてください。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(79)政治不信から希望 語り合う(伊藤大介教諭/静岡聖光学院中・高)
勤務校では1月下旬に卒業式を迎えるため、例年この時期、高校3年生は各教科で最後の授業を受けます。筆者が自身の最後の授業で設定した課題は、「魅力的な政治とは何か」。1年間のNIEの取り組みのまとめも関連づけた授業では、選挙での若年層の低投票率も考慮し、現在と高3生が生まれた年の政治の記事(「郵政解散」)を複数用意しました。
授業の後半で「あなたが考える魅力的な政治や政治家を説明しなさい」という問いに、生徒は積極的に意見表明を行っていました。政治の問題では教員としての中立的な立場を意識しながら、一人の大切な有権者を育てるために政治的な現象の本質に迫る必要があります。能登半島地震を支援する記事の一方で、昨年末からの国会議員による政治資金収支報告書不記載問題の連日の報道記事は、生徒たちの政治への魅力を確実に引き下げています。
筆者は政党助成法の制定や政治資金規正法改正の経緯を、配布した新聞記事で丁寧に生徒と考察しました。NIEの魅力は、記事から受け取る政治への不信を希望に変え、政治を前向きに語れる授業ができることです。生徒は記事も大人もしっかり見つめています。
2024年01月07日(日)付 朝刊
■科目に応じ 活用多彩に 藤枝・広幡中 公開授業
国語 キーワード捉え 要約文作成
保健体育 健康の話題 日常と関連付け
英語 英字新聞 ニュース動画視聴
NIE実践指定校の藤枝市立広幡中で昨年11月に行われたNIEの研究発表会は、特別支援学級を含む1~3年全10クラスの授業を公開した。国語や数学、英語、保健体育などさまざまな教科における新聞の活用例を紹介した。
タブレット端末を使って新聞記事を要約する生徒=藤枝市立広幡中
同校のNIE実践は2年目。「1年間に本を読むことがない」という生徒が半数を超える実態を踏まえて、記事を読み論理的思考や文章力を養う目的で取り組んでいる。柳本雅弘校長は「生徒がさまざまな事象に触れるためには、教職員一丸で進める必要がある」と強調。自らも新聞に写真を投稿するなど、生徒が新聞を身近に感じられるよう積極姿勢を見せる。
1年生の国語の授業では、文意を要約する単元で新聞記事を使った。石橋直明教諭(27)がキーワードを抜き出したり熟語を用いたりすることで短く分かりやすい文章で伝えられると指導。ネット上のコミュニケーションも踏まえて「文章を読む時にはその意味を理解するだけでなく発信される意図も考える必要がある」と指摘した。生徒は、イスラエルとイスラム組織ハマスの対立や新型コロナウイルス禍の影響、米大リーグ大谷翔平選手についての記事の要約に挑戦。タブレット端末で要約文を作成した。樋川翔大さん(13)は「要約のポイントが分かった。印象に残った新聞記事や文章のキーワードを抜き出してまとめておけば、後から見返すことができそう」と話した。
2年生の保健体育は、生徒がそれぞれ選んだ健康に関する記事を基に日常生活で意識すべきことを発表した。県内で危険ドラッグの販売店が再確認されたという記事を選んだ生徒は「手軽に入手できるため依存性が高い」などと自分で調べた内容と合わせて、「(一掃のために)自分たちができることは少ないが、知識を持って生活すべきだと思う」と意見を述べた。がん治療の経済的負担や心臓病の記事から、運動習慣とバランスの取れた食生活の重要性を説く生徒もいた。
健康に関する新聞記事を基に意見交換した2年生の保健体育の授業
3年生の英語の授業は導入として英字新聞のニュース動画を視聴。特別支援学級でも、記事内の単語の意味や漢字を辞書で調べながらワークシートを記入した。
(教育文化部・鈴木明芽)
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■紙面授業 国語 感性育む四季の大切さ 静岡大成中・高 中山龍一先生
「百人一首」の中に「奥山に紅葉[もみじ]踏みわけ鳴く鹿の声きく時ぞ秋は悲しき」という歌があります。この歌は秋のどことなく悲しさを感じさせる季節感を「紅葉」や「鹿の声」という存在で表現しており、聞いたことのある方も多いかと思います。
昨年の夏は世界各地で記録的猛暑となり、国連のグテレス事務総長は「地球沸騰化の時代が到来した」と警告しました。静岡県では11月に入り25度以上の夏日を記録し、秋らしい陽気も束の間、冬が到来したはずが、12月にも25度近くを記録しました。気候変動によって日本の「四季」が「二季」になるのではないかというニュースに、秋がなくなってしまったら、四季それぞれの美しい自然の姿に育まれてきた豊かな感性も失われてしまうのかと危機感を覚えてしまいます。
「枕草子」の「うつくしきもの」の一つに、小さな塵をめざとく見つけた幼子が大人一人一人にそれを見せて回る場面があります。幼子は自分の思った通りに見つけたものを大人に見せて回るわけですが、実は大人にとってそれは大したものではありません。しかし、その愛らしい姿を見て、きっと「よく見つけたね」とか「すごいね」といった声をかけていたと思います。そうすると幼子はまた違うものを見つけては大人に見せ、新たな世界を広げていきます。これこそが感性の原点なのだと思います。
「感性」は「自分の感情を大切にすること」と「自分の世界を広げること」を日頃から意識することによって、筋力トレーニングのように鍛えられていくものだと思います。だからこそ、さまざまな姿を見せてくれる四季の変化は感性に良い影響を与えるものであると感じています。
日本の四季を守るということは、その豊かな感性を守っていくことと同義であるのではないでしょうか。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(78)言葉と出合う クロヌリハイク(中村都教諭/静岡千代田小)
小学3年生を担任しています。国語で俳句を勉強した後、クロヌリハイクに挑戦しました。これは、昨夏行われたNIE全国大会松山大会で考案者の方が披露したものです。
俳句は、季語を入れて四季の情景や自分の思いを五七五で詠みます。一方、クロヌリハイクは、一つの新聞記事から季語とそれに結び付けて使えそうな言葉を探し出して五七五にし、使わない部分を黒く塗りつぶすのです。
俳句と違い、文中から言葉を抜き出して作るという制約があるので、使いたい言葉が使えるとは限りません。しかし語彙[ごい]の少ない子どもたちにとっては、記事を読むことで、今まで知らなかったたくさんの言葉に出合うことができるのです。意味が分からなければ、その都度、国語辞典で調べ、選んだ言葉を再構成し作品を完成させました。
クロヌリハイクは、記事を読んで感想や意見を言い合うというものではありません。しかし、何度も記事を読み返すことで、言葉にこだわりながら文章を読むことができるようになります。クロヌリタンカとしても応用が利くので、どちらも挑戦してみてはいかがでしょうか。
2023年12月03日(日)付 朝刊
■新聞活用「学校」全般に 静岡・清水飯田中
NIE実践指定校の清水飯田中(静岡市清水区)は、国語や社会の授業内にとどまっていた新聞活用を学校生活全般に拡大しようと本年度から取り組みを強化した。読者欄への投稿や複数紙を常備した新聞コーナーの設置、NIE係による推薦記事張り出しを通じて、生徒が新聞に触れるきっかけ作りを図る。
新聞コーナーに張り出すおすすめの記事を選ぶNIE係=11月上旬、静岡市清水区の清水飯田中
対象は主に2年生。生徒は朝のホームルームを利用して静岡新聞読者欄「読者のひろば 10代の思い」への投書を書き、これまでに16人が採用された。高齢者に高圧的な態度で接する医者の姿を目撃した経験から、患者に寄り添う医療者になろうと考えたエピソードが掲載された大石想乃さん(13)は「全く期待していなかったので家族と一緒にびっくりした。採用後、同世代の意見を知ろうと読者投稿欄に目を通すようになった」と話した。
各クラス1、2人が務めるNIE係は紙面から興味を持った記事を選び、切り抜いて新聞コーナーに張り出す。国際面をよくチェックするという田島叶夢さん(13)はイスラエル軍のパレスチナ自治区ガザ攻撃を伝える記事を選んだ。世界的なニュースだが「ウクライナとは何が違うのか」「戦争やってたんだ」と校内では知られていなかった。「知って得する、知らなきゃ損する情報を紹介する」とNIE係として記事を選ぶポイントを明らかにした。
NIE係が選んだ記事が張り出された新聞コーナー
NIE係として活動するにつれて新聞を読み込み始めたという吉田帆花さん(14)と佐野葵さん(同)は中学生から見た紙面への要望も持つようになった。「卓球部としてTリーグの話題を張り出すのに、地元静岡ジェードをもっと取り上げてほしい」「吹奏楽部として夏のコンクールの結果があるといい」と具体的だ。
NIE担当の赤星信太朗教諭(39)は、新聞コーナーが3年生のスペースに増設されるなど新聞活用の学校への浸透を実感する。「中学生活は子どもらにとって苦労も多い。NIEを通じて日々新しい情報に接する環境を実現し、学校を生徒がわくわくできる場所に変えていきたい」と意気込んだ。
(教育文化部・マコーリー碧水)
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■紙面授業 福祉 人々救済に平等の教え 静岡女子高 八木恵美先生
現在、パレスチナ自治区ガザでは、イスラエル軍とイスラム組織ハマスの戦闘により、人々が人道危機にさらされています。この争いの背景にあるのが、アラブ人とユダヤ人の対立である「パレスチナ問題」です。とても根深く複雑で、「宗教の対立」ともいわれますが、宗教は福祉と関わりがあることを考えたいと思います。
「福祉」という言葉には、どちらの漢字にも「幸福」という意味があり、一言で表すと「ふだんの/くらしを/しあわせに」などと表されます。私は「社会で生活する全ての人々が〝自分らしく〟生きていける社会をつくる取り組み」と説明しています。
この日本の福祉のルーツが、十七条憲法や仏教を広めたことで名高い聖徳太子が開いたといわれる「四箇院[しかいん]」です。四箇院とは、寺院、薬局、病院、病人などのための福祉施設のことです。また、「社会福祉の父」と言われる糸賀一雄は、キリスト教信者であり、戦後、滋賀県に知的障害児の教育を行う近江学園などを創設しました。「死を待つ人の家」を開いたマザー・テレサは、キリスト教の修道女であり、インドで貧困や病に苦しむ人々の救済に生涯をささげました。
このような宗教と福祉との関わりの根底には「神の前では皆平等」という教えがあります。この教えに従い、仏教やキリスト教などを信仰する人々は、貧困、病気、障害のある人たちのために尽力したのです。
「宗教」を別の側面から考えてみました。福祉では、その対象となる人のことを考えるときに、「障害」や「病気」だけを見るのではなく、その人自身を見ることが大切だと学びます。
皆さんにも周りの人や物事に対して、一つの側面や限られた情報から判断するのではなく、視野を広く持ち、いろいろな面から判断するようになってほしいと思います。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(77)1面コラムに見出しつける(塚本学教諭/常葉大常葉中・高)
新聞の1面にはコラムが掲載されています。静岡新聞なら「大自在」、朝日新聞は「天声人語」、毎日新聞は「余録」、読売新聞は「編集手帳」などです。こうした新聞社の"顔"とも言えるコラムは記事や社説とは異なる視点でニュースと向き合い、世相を切り取っています。何より、各新聞社が誇る文章の達人が担当していますから名文ばかりです。こうしたコラムに見出しをつけるという試みはどうでしょう。
見出しを考えるには、深く読み取ることが必要ですので、読解力が身に付きます。内容をズバリ表すよう15字以内にすれば、表現力や発想力も付き、まさに一石二鳥です。個人で考えるのもいいですが、グループを作り、話し合ってみんなで考え、発表し合うことも楽しいものです。
私はこの4月から生徒に見出し作りに取り組ませています。最初は内容をまとめることに四苦八苦で、要点を並べるだけだった生徒たちが、最近は記事の内容から発想を飛ばし、こちらが思いもよらない見出しを考えてきます。そういえば、2020年9月12日の「大自在」には「縦読み」の仕掛けがありました。「大自在書き写しシート」が静岡新聞NIEのサイトにありますので、ぜひ、1面コラムに注目し活用してみてください。
2023年11月05日(日)付 朝刊
■記事選び発表 スピーチ力磨く 伊豆・土肥小中一貫校 バトル形式、スクラップも活用
伊豆市の土肥小中一貫校の児童生徒が、興味を持った新聞の記事を選んで1分間で紹介する「新ブリオバトル」に取り組んでいる。バトルを企画するなどNIE実践指定校として同校の新聞教育を推進する増田弦己教諭(27)によると、「人前でのスピーチが苦手」といった課題解消のために新聞を活用したという。子どもたちがニュースに触れ、意見を持つ契機をつくり出している。
興味を持った新聞の記事を選んで1分間で紹介する「新ブリオバトル」の本戦で発表する生徒=9月下旬、伊豆市の土肥小中一貫校
新ブリオバトルは5~9年生が対象で、地方紙や全国紙から記事を一つ選ぶ。記事について選んだ理由や感想、訴えたいことなどを発表する。発表を聞いた児童生徒は「声の大きさや強弱」「内容の分かりやすさ」「その記事に興味を持ったか」の3項目をそれぞれ5点満点で採点する。
選んだ記事の内容は「関東大震災から100年」「土肥の花火」「最も危険な生き物」などさまざまだ。2学期になってから学年ごと授業内で予選会を開き、上位2人が5~9年生約60人の前で発表する本戦に臨んだ。
本戦では体育館に用意された演台から離れて、聞いている児童生徒に近寄って意見を熱く訴える生徒もいた。採点の結果、1位は9年の小林真菜美さん(14)。「人前で発表するのは緊張したけど、記事について楽しく知ってもらえるのがうれしい」と喜んだ。2位だった9年の高石将吾さん(15)は「ほかの人が気になっているニュースや発表の仕方が勉強になった」と振り返った。増田教諭は子どもたちが生き生きと発表する姿を見て「スピーチの能力が上がってきた」と手応えを口にした。
増田弦己教諭が用意したスクラップブックを読む児童=9月中旬
さらに同校では子どもたちに新聞に親しんでもらうため、空き教室にこれまでストックしてきた新聞数カ月分を設置した。増田教諭は記事を切り抜き、「社会」「防災」「伊豆」など8テーマに分けたスクラップブックも用意。子どもたちは新ブリオバトル開催前や休み時間に、それらを読んで好きな記事を見つけては感想を話し合っているという。増田教諭は「同学年や友達が選んだ記事からニュースに興味を持ち、意見を持つ力もつけてほしい」と期待する。
(大仁支局・小西龍也)
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■紙面授業 国語 日本文化にみる多様性 聖隷クリストファー中・高 金原由貴先生
長引くウクライナ侵攻を受けて、世界各地でウクライナへの「支援疲れ」が叫ばれています。日本でも関心の薄れを感じる人が多いようです。しかし古来、日本はもっと国際色豊かで、世界に目を向け、つながろうとしていたように思います。
以前、和歌の宗家、冷泉家25代当主・冷泉為人先生の美術史の講義で、「日本で加工貿易が栄えたのは文化史をひも解けば必然である」というお話を伺いました。これは文学でも同じことが言えそうです。
例えば、「古事記」に登場する国産み神「イザナギ」について、本居宣長の「古事記伝」では、「誘[いざな]う」の語幹に男性を表す「ギ」がついた言葉だ、と説明されています。一方、室町時代の辞典「アイ嚢鈔[あいのうしょう]」では、仏教の天神「伊舎那天[いしゃなてん]」のことだと記されています。
さらに、イエスの誕生を預言した「イザヤ」に由来するという説もあります。イザヤはヘブライ語で「神の救い」、「ナギ」は「王、司」を意味するのだとか。
「旧約聖書」の「イザヤ書」の中にこんな一節があります。「あなたたちは東の地でも主を尊び海の島々でも、イスラエルの神、主の御名を尊べ」。イザヤは紀元前700年ごろの人物です。既に各地に青銅が伝わっていることからも、中国大陸や東の海にある島国・日本を認識していたとしても不思議ではありません。
そして「古事記」の編さんはイザヤから数えて約1400年後。遠い西の国の物語が、多くの人々の口承を経て日本の国産み物語へ変化していたとしたら...。
真相は分かりません。ただ、国産み神話が独自のものと考えるより、さまざまな文化を受け入れ加工してできたと考える方が自然な気がします。このように多様性を受け入れられる日本だからこそ、不穏な世界に一石を投じることができる。その一助として、文化の比較研究が求められているのではないでしょうか。
※アイ嚢鈔のアイは土ヘンに草カンムリに去その下に皿
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(76)災害の影響 学ぶ素材に(吉川契子教諭/静岡城北高)
授業で自然災害を取り上げる目的は、児童生徒が、災害の原因となる自然現象を科学的に理解し、災害予測の取り組みを知り、防災に役立てることにあります。大災害の度に新聞は、災害の状況を伝えてきました。教科書で基本を学んだら災害の後、暮らしがどのように影響を受けるのかを記事から学びたいものです。
9月22日の静岡新聞1面に「台風15号 あす1年」の見出しで昨年、本県に甚大な被害をもたらした台風15号の災害復旧についての記事があります。河川護岸崩壊や道路陥没などの被害は県・市町合わせて562カ所に上り、うち、県の管理する56カ所で復旧工事が未着手とあります。
社会面では、静岡市清水区でワサビ田の復旧が進まず、廃業の危機に直面する農家の状況を伝え、大井川鉄道は運休していた一部区間が10月1日から再開するとあります。
台風15号の「その後」を伝える記事は継続的に掲載されています。
一度の災害がその後の生活に長期的に影響を与えます。記事でその現実を知ることは、次の災害に備える心構えをする上で効果があると考えます。「災害後」を伝える記事を続けてスクラップし、児童生徒に紹介したいですね。
2023年10月01日(日)付 朝刊
■記事や若者投稿活用 独自の「時事」授業 考え、まとめる力に磨き 沼津・飛龍高
沼津市の飛龍高は今年4月から、元県教育長の安倍徹学園長(70)が中心となり、3年生に独自科目「時事」を設けて新聞を活用した教育に取り組んでいる。社会問題を取り上げた記事だけでなく、同世代の新聞投稿も題材にし、生徒たちにも投稿を促して文章力の向上にも役立てている。
ワークシートや生徒の作文を読み、授業の進め方を話し合う(左から)安倍徹学園長、佐藤正和副校長、原千容教諭=6月中旬、沼津市の飛龍高
同校の生徒はおよそ3分の1が卒業後すぐに就職するため、社会人として必要な知識を得るきっかけとして週1回「時事」の授業を設定した。テキストを兼ねたワークシートは、安倍学園長が中心となって作製。教員4人がそれぞれクラスに合った指導法で授業を進めている。
若者に人気のインフルエンサーを取り上げた記事や、高校生の新聞投稿などを盛り込んだワークシート
6月の授業では、新聞記事をまとめた資料集も活用し、日本の低い食料自給率や、就農人口減少について学んだ。生徒たちはロシアのウクライナ侵攻による穀物価格の上昇や、大雨など気候変動による農業への影響についても意見を交わした。
授業は、生徒が自ら考え、意見をまとめる力を身に付けることを力点に置く。紹介する記事には、高校生ら同世代が活動した話題を選んだり、記事に呼応する高校生の投稿も併せて紹介したりして、共感を促す。佐藤正和副校長(63)の授業では高校生の投稿の見出しを空欄にし、生徒に考えさせた。「投稿は短い文章で伝えたいことをまとめている。さらにその要素を抽出したのが見出し」と、授業の感想を短い文章でまとめる参考にするよう助言した。別のクラスを担当する原千容教諭(23)は「授業を重ねる度に生徒の文章量が増えてきた」と手応えも感じ始めている。
同世代の投稿が載った新聞紙面を使い、授業をする佐藤正和副校長=6月中旬
ワークシートには、SDGs(持続可能な開発目標)や気候変動など、現在進行形で進む社会課題を扱った記事や、生徒の関心を引きやすいSNSで活動するインフルエンサーを紹介した記事、コラムなども盛り込む。安倍学園長は「きっかけを作れば、生徒たちは関心を持つ。新聞を通じて社会を身近に感じてほしい」と期待する。
(東部総局・尾藤旭)
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■紙面授業 理科 ミツバチの働き思う秋 静岡雙葉中・高 木村剛先生
今年の夏は世界的に記録的猛暑が続き、連日国内外の暑さのニュースが報道されました。米航空宇宙局(NASA)は6~8月の世界の気温は記録が残る1880年以来、最も高かったと発表し、国連のグテレス事務総長は「気候崩壊が始まった」と警告。日本も気象庁が1898年の統計開始以来の暑さだったと発表しています。9月末には、静岡市で最高気温が35度以上の「猛暑日」を観測史上最も遅く記録しました。
こうなると、待ち遠しいのが秋。秋を実感できることの一つとして「食欲の秋」が挙げられます。さまざまな作物が収穫を迎える実りの秋です。コメを筆頭に、サツマイモやクリなどの木の実、ナシや柿などのフルーツ、そしてキノコに至るまで旬のものが出回ります。
私たちが口にする作物の「実」は多くの場合、花の雌しべの付け根である子房という部分に当たります。この「実」ができるには受粉が必要ですが、その受粉の役割の中心を担うのは、「とある虫」なのです。国連環境計画(UNEP)の報告によると、「世界の食料の9割を占める100種類の作物種のうち、7割はミツバチによって受粉を媒介している」と言われており、私たちが生きていく上で、ミツバチは非常に重要な役割を果たしています。
静岡の特産物であるイチゴを育てる農家は、ビニールハウスの中で受粉用のミツバチを飼育しています。私も昨春から学校の屋上でミツバチの飼育を始めました。静岡市の中心部ですが、結構な量のハチミツを採ることができました。ミツバチの見事な働きぶりに驚かされます。
ハチミツの収穫は、春にピークを迎え、夏に終わります。人にとっては、過ごしやすく楽しみな「実りの秋」ですが、花の少なくなった秋は、ミツバチにとって、仕事の少ない寂しい季節なのかもしれません。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(75)「出合い」逃さず授業に活用(伊藤大介教諭/静岡聖光学院中・高)
ある新聞記事に、以前から興味のあった人物のことが書かれていました。こういう時にはいつもより丁寧に時間をかけて記事を読みたくなります。その人物とは1970年の大阪万博で「太陽の塔」を制作した岡本太郎氏のことで、縄文土器に魅せられたことが「太陽の塔」の創造につながったという内容が印象に残りました。
こういう記事との出合いを筆者は逃したくありません。早速、中学生の歴史の授業で縄文時代を考察する場面で記事を使いました。
まず黒板に自ら手書きで太陽の塔を描きます。生徒から笑い声が聞こえると、記事を配布するタイミングです。「君たちが今日学習する縄文時代に関心を高めてこの塔を建てた人物が記事に書かれているよ」
笑い声が消え、生徒は文章へ集中し始めます。2025年に大阪・関西万博が開かれる話題に触れながら、縄文時代という過去と太陽の塔という現代をつなげていく。自らが興味をもった記事だからこそ、その日の授業の目標にどのように生徒を近づけていくか。新聞記事は、日常の授業の中に新たな刺激を与える魅力的な教材の一つになる可能性があります。肩の力を抜いて新聞を授業で使ってみてはいかがでしょうか。
■紙面授業 保健体育 夢を持ち続ける意味 日大三島高 高村昭寿先生
水泳の世界選手権が7月に福岡で開催されました。福岡での開催は2001年以来2回目です。久しぶりの日本開催とあって新聞紙面でも連日、大きく報道され、水泳指導者である私も心が躍りました。この大会で、私はある一人の選手に注目しました。女子平泳ぎの鈴木聡美選手です。
鈴木選手は、開催地福岡県の出身。2012年のロンドンオリンピックでは一つの銀メダルと、二つの銅メダルを獲得し、32歳の今も現役を続けるベテランスイマーです。水泳の女性トップスイマーの平均年齢からすると、だいぶ年齢を重ねていますが、今大会の100メートル平泳ぎで14年ぶりとなる自己記録更新を果たしました。トップになればなるほど、自己記録更新が難しくなる中、14年という歳月をかけて自分に挑み続けた結果に、心打たれました。
私は教師であると同時に、一人の大人として生活しています。改めて、大人は皆、「夢」や「目標」を持って生きているのだろうかと考えさせられます。仕事では自分の役割があるにしても、子どもの時に思い描いたような非現実的なことも含めた夢を見ているでしょうか。
30代前半のころ、ある集まりで、「君の夢は何か」と聞かれ、はっきりと答えることができませんでした。進路指導では生徒に目標を持つようにと言いながら、日々の仕事に追われ、自分に「夢」や「目標」がないことに気付かされた瞬間でした。
その日以来、夢を探す努力をし、40歳を前にして今は明確な目標を掲げて充実した日々を送っています。鈴木選手は五輪を経てなお、追い求めたい価値あるものを見つけたのではないでしょうか。
夢があると前向きに、そして楽しく生きる力が湧きます。皆さんに夢はありますか。追い求めたいものは何ですか。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(74)五感働かせ思考する重み(中村都教諭/静岡千代田小)
NIEでは、デジタルとアナログの共存に焦点が当てられています。どちらかというと、「すぐに答えが見つかるから、絶対デジタル」の傾向が強いように感じます。これからの時代、スピードも効率も当たり前ですが、情報イコール答えではありません。
獲得した情報を活用し、それを知識にしていく活動こそが重要だと考えます。そのためには、両者のいいとこ取りは必至で、教師自身が使い分ける術を身に付けることが急務です。
小学校では、五感を働かせて獲得した手触りのアナログ情報は欠かせません。図画工作で花を写生するなら、タブレットの写真を使うのではなく、本物を見て触れて香りを楽しみながら描かせるのです。そうすることで、絵に感情を織り込むこともできるでしょう。
子どもたちに「面倒くさい」と言われても、手間取ったり無駄とも思えたりする中に、自分で思考していく時間が生まれます。デジタルに置き換えられない価値のあるものを意識して探し出していくことや、ゆっくりと熟考する時間は、いつの時代でも誰にとっても大事なことかもしれません。
2023年08月06日(日)付 朝刊
■「対面」再開 活動充実へ意欲 新規実践校抱負
日本新聞協会はこのほど、2023年度のNIE実践指定校を全国で530校決定した。県内は、新規8校と昨年度からの継続6校の計14校。学校現場では、新型コロナウイルス対策の規制も緩和され、対面で多様なNIE活動が本格化する。ICTと連動した学びも期待される中、新規校に活動への抱負を寄せてもらった。
2023年度 NIE実践指定校
<新規>熱海市立泉小、静岡市立由比小、袋井市立袋井南小、浜松市立初生小、静岡サレジオ中、浜松開誠館中・高、磐田北高、浜名高
<継続>伊豆市立土肥小中一貫校、富士見中、静岡市立清水飯田中、藤枝市立広幡中、浜松市立春野中、静岡北特別支援学校南の丘分校
熱海泉小 岡部靖子先生 気付き、考え、表現する
最近はスマホで情報を得ることが多く、あふれる情報にリアルタイムで触れることができます。その半面、新聞を読んで、幅広い分野の情報にじっくりと向き合い、正しく受け取る機会が減っているように感じます。
本校では日頃から子ども自らが、気付き、考え、表現する授業を目指しています。NIEの取り組みをきっかけに新聞に興味をもち、身の回りの出来事に関心を高め、視野を広める子どもを育てたいと思っています。
静岡由比小 中沢丞先生 持続可能な活動を意識
本校では、高学年が新聞記事を読み、自分の考えを表現したり、設問に答えたりする取り組みをしています。記事の情報から自分の考えをつくることができる児童が増えています。今後、実践指定校として、子どもたちの語彙[ごい]力の向上と読解力・表現力の向上のために、学校全体で楽しさを基にした取り組みを模索し、無理なく持続可能な取り組みを考えていきます。そして、自ら新聞を手にし、楽しく読める子どもの姿を目指していきたいと思います。
袋井南小 浦中拓也先生 社会の変化を自分事に
2学期からの始動に向け、各教科の年間指導計画から、どのような新聞が必要か準備をしています。本校では、学びの重点目標として、「自ら課題をつかみ、解決しようとする子」の育成を掲げています。新聞には、社会全体から地域の身近な出来事まで、たくさんの情報が含まれています。
NIEの活動を通して、社会で今どんなことが起こっているのか、それに対し自分はどんなことができるのか、自分事として考える習慣が身に付くことを期待しています。
浜松初生小 大木健太郎先生 読む楽しさ 児童と共有
現代の情報化社会では、インターネットを使えば手軽に情報を得ることができます。では、新聞にはどのような役割があるのでしょう。新聞にしかない魅力は何なのでしょう。今回NIE実践指定校としての機会を存分に生かし、現代社会における新聞の役割や魅力を教育の立場から考え、実践に取り入れたいと思います。子どもたちに新聞の楽しさが伝えられるよう、職員も新聞の楽しさを味わいながら、実践を進めていきたいと思います。
静岡サレジオ中 林千尋先生 「市民としての力」養う
「この問題について、あなたの考えは?」と聞かれたとき、私たちは答えなければなりません。世の中や未来に対する責任からは「分からない」という答えで逃げられません。ある社会学者の言葉を借りれば、「沈黙は同意」です。
新聞は、社会に対して心を開くきっかけになります。世の中を概観し、問い、調べ、自分の意見を見つけ、行動につなげることができます。NIEを通じて、生徒たちに一人の市民としての力をつけていくことを目標としています。
浜松開誠館中・高 大庭康介先生 読み比べで情報力磨く
1人一台のiPadを導入して8年。生徒や教員のICT活用技術は年々向上し、本校の教育理念「学校は楽しく学ぶ場」に向けて着実に前進しています。一方で、ネットで得られる情報を安易に活用し、「この情報は確かなものか」の思考がない生徒もいます。情報リテラシーに関する教育が不十分であることは教育課題の一つです。本校では、NIE活動として「新聞の読み比べ」を行い、数社の新聞を比較し情報リテラシーを養おうと考えています。
磐田北高 宮崎昌子先生 記事に触れる環境拡充
探究活動の一環としての新聞活用を本校では計画しています。学年が上がるにつれて、個人や社会の課題を考える機会が増えていきます。他のさまざまな情報媒体とともに新聞を利用することで、その学びをいっそう深めていけると考えています。
生徒も教職員も新聞に触れる機会が減少している現状を踏まえて、まず、新聞に多く触れられる環境作りに取り組んでいます。生徒たちが新聞から多くのことを学び取れるように努めてまいります。
浜名高 岩本直子先生 未来を創造する一助に
本校では、新聞閲覧台が2台、人通りの多い場所に設置されています。常時5紙が閲覧でき、生徒や職員が新聞をめくる姿がよく見受けられます。図書委員は毎日当番制で、記事の確認、新聞の保管等の管理をしています。このように本校では新聞に親しむ機会がさまざまな場面であります。
新聞に触れる機会を13ある全委員会および定時制でさらに拡大し、生徒が主体的に自分の未来を創造していく取り組みに向け動き出しました。
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■紙面授業 国語 AI時代に問われる力 オイスカ浜松国際高 後藤カンナ先生
古典の授業で「春夜」という漢詩に触れる機会がありました。春の夜のひとときは千金に値するほど素晴らしい、と春の夜の美しさや穏やかさを詠った七言絶句です。
漢詩の内容にちなみ、各自好きな季節の話になりました。そこから、本校は留学生たちも在籍していることから、彼らの母国の話へ。タイ出身の彼女の住む地域は、夏は50度近く、冬でも30度は超えると聞き、ざわつく教室内。「えー! 30度で冬なんだ」「冬なのに暑い...」などなど。私にとっても、「冬」の言葉の持つイメージとは、あまりにかけ離れていました。そもそも「冬」ってなんだろう。
「世界大百科事典」(平凡社)によると、冬の定義は「中・高緯度地方で、一年の中で最も低温な季節」とあります。冬は相対的なものであることは、頭では理解しているつもりでも、日本で生まれ育つと、「冬=寒い」という感覚は根強く存在します。
言葉は風土や文化、習慣と密接に関わっていること。それゆえ、同じ言葉であっても、その言葉が指す事象は地域や文化によって変わってくること。当たり前のことですが、異文化との接触がないと、なかなか知ることはできません。そのようなことを考えさせてくれた場面でした。
先月、文部科学省が、「チャットGPT」などの生成AIの小中高校向けの指針を公表したことが大きく報じられました。指針では、それらを使いこなす力を育てる重要性に触れていました。
私たちは、AIによって生成された文章が適切であるか、判断していかなくてはなりません。授業のみならず、さまざまなモノ・コトに出合う中で、視点を地球全体に広げたり、20年、30年後の社会を想像したりして、思考力・表現力を発揮し、AIとも共存していくことが求められているのではないでしょうか。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(73)古い新聞を「2次活用」
本年度のNIE実践指定校の先生方と意見交換した際、児童生徒に新聞に関心を持ってもらう方法や新聞の入手手段について話題があがりました。一人一人が新聞を手に取って自由に読み、興味を持った記事をスクラップし、意見を書く。この活動が難しくなっています。新聞の購読家庭が減り、家から新聞を持ってくることが難しくなったことが背景にあります。
そこで提案です。学校図書館にある新聞の2次活用です。文部科学省は図書館整備計画で学校図書館に新聞を置くよう通知しています。本校では4紙を購読し、3カ月たつと不要になるので、もらい受けてクラスで配布し、スクラップさせています。
3カ月もたった古い記事でいいのかと思われるかもしれません。しかし、この時、こんなことが話題になったと振り返ることができますし、特集など色あせることなく読む価値のある記事もたくさんあり、生徒にじっくり読ませたいと思います。私はスクラップした記事もコピーして渡しています。
古くても活用できるのが新聞。まず、新聞を手に取る機会をつくってみましょう。
(塚本学教諭・常葉大常葉中・高)