「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。
「一緒にNIE」は静岡新聞の「教育」欄で2011年4月にスタートし、2015年4月から「月刊 一緒にNIE」で連載しています。 日本新聞協会認定の県内のNIEアドバイザーたちが教諭や保護者に NIEをやさしく解説し、授業活用のヒントを示しています。NIEへの理解を広げるため、ご活用ください。
2023年03月04日(土)付 朝刊
■授業に朝活動 紙面を活用 浜松学芸中 新聞コンクール 学校奨励賞 関心広がり 表現力向上も
浜松学芸中・高(浜松市中区)の中学が昨年末、日本新聞協会の「第13回いっしょに読もう!新聞コンクール」で、学校奨励賞に選ばれた。朝活動での発表や新聞作りを通じ、新聞に親しみながら表現力を高める取り組みを強化している。
気になった記事について発表する生徒=浜松市中区の浜松学芸中
1月中旬、3年のクラス。昨年12月29日付の本紙朝刊に掲載された「2022年県内十大ニュース」を教材に、社会科の授業が進められた。黒板には各項目を空欄で表示。生徒は班ごとに「2位は保育園の事件かな?」「観光バスの事故じゃない?」などと記憶を頼りに予想し合った。
さらに、十大ニュースに取り上げられた事件や事故を振り返り、再発防止策なども探った。5位の裾野市の不適切保育に関しては、「保育士は給料が少なく、人手も足りない。事件はストレスが原因ではないか。給料を上げるべき」といった意見が聞かれた。
2022年県内十大ニュースを使った社会科の授業
スポーツニュースも話題となった。サッカーが好きという磯部翔さん(15)は「エスパルスとジュビロのJ2降格が印象的だった。残念だけど、新聞からは選手の頑張る姿が伝わる」と受け止めた。
新聞の活用は、会話や文章の表現力向上も重要な目的の一つ。3年生は毎朝、その日の朝刊で気になった記事をクラスで発表する。企業の賃上げについて紹介した鈴木杏望さん(15)は「家族とも賃上げの記事について話した。新聞を通して、今の出来事を学びたい」と意欲的だ。
長期休みには、学年ごとに都道府県の特徴や歴史などの課題が割り振られ、生徒が調べたことをまとめて「新聞」を作る。社会科の大場裕幸教諭(45)は「自分の意見をきちんと表現できるようになってほしい。いろいろなテーマでNIEに取り組みたい」と話す。
(浜松総局・日比野都麦)
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■紙面授業 地歴公民 生き方考える金融教育 星陵高 間宮健先生
2022年度、高校公民科はこれまでの「現代社会」が廃止され、「公共」が必履修科目として新設されました。その目的は、「公共的な空間の中で、他者や社会と関わり、課題を発見し議論することで、望ましい社会を創造できる人間を育成すること」とうたわれています。
本校の1年生の公共の授業は「2分間スピーチ」から始まります。ニュースや、今自分が気になっていることなど、生徒個々が準備をして発表を行います。新聞でも度々取り上げられているSDGs(持続可能な開発目標)などの国際的な問題から、飲食店での迷惑行為などの身近な問題まで、さまざまな内容が取り上げられます。中には、アイシングについて詳細に調べる野球部の生徒、パートナーと長続きするための秘訣[ひけつ]を調べる恋愛真っ最中の生徒もいます。どれも、生徒が主体的に考え、調べ、発表を行っています。
発表の中で、私の目を引いたのは、「投資」に興味を持っている生徒が多数いたことです。本年度から高校の家庭科で「金融教育」が始まったことが大きな要因と言えます。私が高校生の頃は、「投資」という言葉すら頭になかったことを考えると、時代は変わってきていると感じます。
生涯賃金を逆算し、お金をどう「投資」し「運用」していくか。それは、人生をどう生きていくのかにもつながっています。「堅実に長期的な投資をして、将来に備える」「若いうちに資産形成し早期にリタイアして自由な生き方を望む」など、考え方は人それぞれです。
大切なことは、高校生の段階で、「お金」を含めた将来を真剣に考えること。「お金」と「時間」を、自ら考え「投資」することで、物心ともに豊かな生活を送ることができるように、生徒たちと一緒に考えていきたいです。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(68)共通テスト攻略へ「読む」(塚本学/常葉大常葉中・高)
大学入試共通テストは、質、量ともに増加した複数の資料から必要な情報を適切に読み取る問題が増えました。受験生を取り巻く社会や実生活にかかわる設問もありました。
読解力、情報処理力や時事問題へ関心を持つことが求められ、新聞を読むことの有効性を改めて感じました。新聞を読んでいれば、真実を知り、知識を増やすことになります。「そういえば、この前読んだ記事にあったな」と思えれば、しめたものです。
また、知らない言葉を調べる習慣を身に付けておきましょう。読解を支えるものは知識だからです。長文を読んでいると、内容が入り組んで混乱してしまい、分からなくなることがありますが、記事には見出しがあるので、参考になります。一番大切なこと、伝えたいことが見出しになっているので、分からなくなったら見出しを見ればいいのです。
もう一つは、硬い文章に慣れ親しむことができることです。インターネットの記事は、クリックしてもらうために軟らかい文章にしていることが多いので、やはり新聞がお薦めです。堅苦しくやるのではなく、気楽に新聞を読むことから始めてみましょう。
2023年02月04日(土)付 朝刊
■読んだ記事数で「合戦」 テーマ決めクラス対抗 社会知る機会に 御殿場南高
NIE実践指定校の御殿場南高(御殿場市新橋)は昨年、1年生が毎週所定のテーマに関連した新聞記事を読んだ数を競う「新聞合戦」に取り組んだ。教室に配布される新聞を活用しようと生徒が発案し、必ず文章に目を通すルールも設けた。社会の動向や課題を理解するきっかけになっているという。
テーマに関連した新聞記事を探し、見つけた数を競った新聞トーク=2022年11月、御殿場市新橋の御殿場南高
休み時間や放課後、昇降口に掲示された模造紙に生徒が次々と新聞記事を貼り付ける。防災をテーマにした初回は、県内を襲った台風15号の被害を伝える記事や行政対応の検証記事が並んだ。
新聞合戦は4クラスの対抗戦。毎週各クラス5人が教室にある新聞を切り抜いたり、インターネット上の記事を印刷したりして貼り付け、その数に応じてポイントが付与される。10~12月の7週間の合計ポイントで順位を決めた。
新聞記事が貼られた模造紙
各クラスの代表者が集う会議でシステムを決めた。メンバーの杉山未都さん(16)は「クラス対抗にすれば楽しみながら取り組める」と話す。担当の芹沢光教諭(45)は「毎週びっしり貼ってくれる。予想以上に意欲的」と目を細める。
記事の要点に線を引いてから貼るのがルール。「しっかり読み、内容を理解してもらう」ためだ。普段はテレビニュースで情報を得ているという池谷桃歌さん(16)は「たくさんの記事からほしい情報を選べる」と多分野の情報を網羅する新聞の利点に気付いた。
新聞合戦で優勝したクラス
11月には生徒が一堂に会した特別版「新聞トーク」を行った。床に並ぶ新聞から「責任」などのテーマに関連する記事を探した。生徒の一人は政治家の不祥事を伝える記事を見つけ「責任感がない」と鋭く指摘した。
御殿場南高はキャリア教育「Cプロジェクト」に力を入れる。新聞合戦は1年生の課題「社会を知る」に合致する。芹沢教諭は「社会事象に関心を持ち、読解力を身に付ける機会になっている」と手応えを語る。
(御殿場支局・矢嶋宏行)
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■紙面授業 理科 考えたい原発の安全性 東海大静岡翔洋中 込山典寿先生
昨年2月に始まったロシア軍によるウクライナ軍事侵攻は、連日大きく報道されてきました。3月5日の新聞は、ロシア軍がウクライナ南部のサポロジエ原発を攻撃しているという見出しであふれていました。
私は子どもの頃、1986年にチェルノブイリ原発事故のニュースを見て初めて放射線の恐ろしさを学びました。2011年の福島第一原発事故の際は、教員としてニュースを見て、放射線がもれ続けている恐ろしさを再確認しました。
そして、先日、中学2年生の理科の時間に、誘導コイルの実験で放射線が出る危険性を生徒らに説明する機会がありました。誘導コイルとクルックス管を用いた真空放電での被ばく量は無視できないことを注意喚起しながら実験を進めました。私たちは適切な距離を保ち、注意深く実験を行いましたが、この実験の安全に関するガイドラインはいまだに曖昧です。
残念ながら、人類は原発を稼働し始めた1954年から2011年の約60年間に2カ所で起きた事故により、現在の技術では返済できない大きな負債を抱えてしまいました。
放射性物質の中には、半減期が万年~100万年単位のものもあります。日本がユーラシア大陸から離れて1万年くらいしかたっていないことから、もう1万年後の日本が現在と全く違う地図の形になっていることは簡単に想像できます。しかしながら、それでも放射線量にはほとんど変わりはありません。
科学的に考えて、このまま原発を人類が使用するのなら、2011年から60年後の71年までの追加事故件数は2件と予想されます。
中学生は比例のグラフを学び、実験していないデータを予測することが得意ですが、原発事故においては、ぜひとも反比例のグラフに事故件数が収束されていくことを願います。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(67)大学情報収集のヒント(吉川契子/静岡城北高)
進学希望の高校生が進学先を選ぶ際、教科の得手不得手や模擬試験の成績を基にするだけでなく、新聞情報の中にヒントを探してみましょう。
大学で行われている難解な研究が、高校生でも分かる平易な文章で適切な写真や図とともに紹介されています。例えば静岡新聞の記事を読み込むと、熱海土石流災害やリニア中央新幹線、サクラエビ漁の抱える課題等について、さまざまな大学研究者に取材して情報提供しています。これらの課題に限って見ても、大学研究の多様性を発見することができます。
コラムや、ニュースを深く掘り下げて考察した提言、地域の課題解決に向けての新たな視点など大学教授らの寄稿が掲載されることがあります。それらをヒントに高校生に話し合いをさせると別のユニークな発想が出る場合もあります。
他に、新大学の開学予定、大学の新学部・学科の増設・学科再編などの情報の他、大学間の協力体制などの情報も提供されています。大学生が、地域に飛び出して、商店街とのコラボレーションによる商品開発などユニークな活動を展開している例もあります。
新聞記事は大学研究に非常に役立ちます。最初は教師がピックアップして例を示し、生徒にも類似の記事を探すように促してみましょう。
2022年12月03日(土)付 朝刊
■英字記事 世界を身近に 作文や読解力の向上期待 静岡大成中 公開授業
NIE実践指定校の静岡大成中(静岡市葵区)で10月に行われた英語と理科の公開授業。このうち英語の授業は、日本語訳が併記された英字記事を使って行われた。同校としては初の取り組み。記事に対する生徒の意見も発表された授業に、参観した教員らは「新聞に親しみを持ってもらうための参考になる」「異文化理解にもつながる」などと熱心にメモを取った。
記事に対する意見を発表する生徒=静岡市葵区の静岡大成中
授業は3年生約20人を対象に行われた。事前の授業で、生徒には「パキスタン豪雨で大洪水」「米大統領、銃規制強化訴え」など、世界のニュースを伝える複数の英字記事が提示され、その中から一つ選択。生徒は二人一組で「パキスタンの国土面積はどのぐらいあるか」「アメリカの銃規制の現状はどうなっているか」など、疑問に浮かんだことをタブレット端末で調べたり、外国語指導助手(ALT)に質問したりした。
タブレット端末で英字記事を読み込む生徒
一通り調べた後は、記事に関心を持った理由や、ニュースに対する意見などをまとめ、英作文に挑戦した。「エリザベス女王国葬」を選択したペアは授業で既に習っていた英単語を用い、「みんなに愛されたエリザベス女王が亡くなってびっくりした」などと発表した。
公開授業後、意見交換の場が設けられ、参観した教員から「なぜ、日本語訳付きの記事にしたのか」などの質問があった。担当した吉永光希教諭(49)は「英作文を重視した。生徒が興味を持ち、意見を言いやすい記事を選んだ」と意図を説明した。
同校はほとんどの生徒が卒業時には英検3級を取得しているなど、英語教育に力を入れている。吉永教諭は「時事英語に親しむことで、ニュースに関心を持つきっかけになる」と記事活用の意義を話し、「一生懸命、自分の意見を長い文章で書こうとする姿勢を見て、生徒の成長を実感した。より長文の英字記事にも触れさせ、読解力を伸ばしていきたい」と述べた。
(社会部・島田莉菜)
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■紙面授業 社会 君主制、民主主義の共存 静清高 加藤匠吾先生
9月8日に英国女王エリザベス2世が崩御なされました。日本時間で言えば9月9日のことですが、私はまずスマートフォンに入るニュースで知り、翌日の静岡新聞に掲載された記事を見て改めて実感しました。
新聞の紙面を読むと、チャールズ皇太子が王位を継ぎ、新国王となられました。その後、さまざまなメディアを見ると、「チャールズ3世」と呼ばれるようになっていました。
チャールズ3世ということは、1世、2世の同名の国王がいたことが想像できると思います。改めて山川出版の「詳説世界史」をひもといてみると、チャールズ1世とチャールズ2世の記述があります。チャールズ1世は、父ジェームズ1世と同じく、王権神授説(王の権利は神から授かったもの)を唱え、専制政治を行いました。議会はそれに反発し、1628年に権利の請願を可決しました。チャールズ1世は議会を解散し、以後11年間、議会を閉ざしたのです。やがて議会が再開すると、1649年、ピューリタンのクロムウェルが議会で力をつけて、チャールズ1世は処刑されてしまいました。
チャールズ2世は、クロムウェルが亡くなるとイングランドに戻ってきて国王に即位しました(王政復古)。当初チャールズ2世は、議会を尊重すると約束しましたが、やがて専制的な姿勢をとってカトリックの擁護を試みて議会と対立しました。
両チャールズは、議会と対立したことで民主主義の歴史の観点からみると、良い君主とは言えません。現チャールズ3世は、どんな国王になるでしょうか、見守ることにしましょう。また日本も君主制と民主主義が共存する国です。君主制と民主主義の共存ができる理由を歴史から学ぶのもよいかもしれません。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(66)紙とデジタルの使い分け(中村都/静岡麻機小)
小中学校への学習用端末の配備で、インターネットによる調べ学習が簡単にできるようになりました。うまく使えば大きな味方となる半面、安易に検索に走って答えを導き出すことが、考える力を低下させる原因になるのではないかと懸念しています。
アナログ時代に育った私の調べ学習は、たくさんの蔵書や新聞、資料などの紙媒体に目を通すところから始まりました。当然自分の疑問にズバリ答えてくれるものなどあるわけがなく、「どうやったら答えにたどり着くのだろう」と試行錯誤することこそが、考えることだと捉えていました。
ウエブサービスやスマートフォンの普及で人が接する情報は膨大な量になりました。その中から自分の必要としているものをストレスなく短時間に入手する必要に迫られる現代人は、考える暇がないのかもしれません。
紙媒体は線を引いたり書き込みをしたりすることができます。手を使って得た情報は頭の中でしっかりと整理・記憶され、それが考えるための素材になっていきます。デジタル機器と紙媒体との使い分けが、今後の課題ですね。
2022年11月05日(土)付 朝刊
■HRで手軽にワークシート 読解力や発信力を養う 富士宮・井之頭中
富士宮市立井之頭中は、新聞記事の狙いや記事から読み取れることを問題形式にした「新聞ワークシート」活動に力を入れている。好きな本をプレゼンする「ビブリオバトル」の活動と合わせて文章の読解力や発信力を養っている。
「次は誰に答えてもらおうか」「記事を読んで、防災訓練での心構えは何か答えて」という教員の呼びかけに、「中学生は助けられるだけでなく助ける立場にあるという心構えです」と発表する生徒。10月上旬、2年生が9月に行われた総合防災訓練に関する本紙記事を題材にしたワークシートに取り組んだ。
使用するのは、静岡新聞のNIEサイトから入手できるワークシート。毎月2回、全教室で帰りのホームルーム(HR)を使い、教職員が見守る中、設問に答え、クラス全員で答えの確認をする。
加藤春羽さん(2年)は「文章を要約する力がついてきた」と手応えを感じている。山崎草生さん(2年)は「文章を理解して自分の考えをまとめる力になっている」とし、新聞の印象を「難しいイメージがあったけど身近な内容も多い」と話した。
同校は、読解力やプレゼン力を高めるため、校内の配架図書から本を選んで紹介し合い、どの本が一番読みたくなったかを投票するビブリオバトル活動を続けてきた。本年度はさらに国語力の向上を目指し、NIE活動を加えた。2年生担任で国語科の尾島良輔教諭はワークシートの良さを手軽にできることとし、「新聞と読書によって語彙(ごい)力や文章を読み取る力が伸びている。ワークシートで扱う新聞記事を通じて、生徒が社会を知るきっかけにもなっている」と成果を語る。
全校生徒17人の小規模校。山崎匡史校長は、意見をまとめ発信する力をつけることで「高校進学前に誰とでもコミュニケーションが取れるようになってほしい」と相乗効果に期待した。
(富士宮支局・吉田史弥)
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■紙面授業 理科 海洋プラごみ 自分事に 飛龍高・広瀬智子先生
2016年にスイスで開催されたダボス会議で、世界では年間800万トンのプラスチックごみが海に流出しており、50年にはこれらの重量が地球上に生存する魚の重量を超えてしまうとの試算が発表され、新聞でも大きく報じられました。
中でも、5ミリ以下のマイクロプラスチックが生態系に及ぼす影響が懸念されています。海洋生物が誤飲してしまうと、炎症反応や摂食障害を起こす危険性が報告されています。
マイクロプラスチックは世界各地の海岸に漂着し、日本各地の海岸でもプラスチックごみを観察することができます。沼津市にある飛龍高校では昨年度から、授業の一環として自然と環境をテーマに千本浜海岸と島郷海水浴場でマイクロプラスチックの現地調査を行っています。どちらの海岸でも多くの海洋ごみを観察できましたが、特に島郷海水浴場では、砂浜に色とりどりのマイクロプラスチックがあることを確認することができました。
実は海岸に漂着したプラスチックごみは、海外のものだけではなく国内のものも含まれています。日本で製造・廃棄されたものも世界の海岸に流れ着いていることを私たちは忘れてはいけません。SDGs(持続可能な開発目標)にも海の保全は掲げられており、世界各地でごみの削減に向けての取り組みがなされています。私たちの生活も脱プラスチックが習慣化してきましたが、一人一人の小さな取り組みが、多くの生き物の命を支えているのです。
本校が取り組んでいる現地調査が、現状の把握にとどまることなく、「生徒がこの環境問題を自分のこととして捉え何ができるか」を考える契機となり、30年後には私たちの取り組みが成果として結実することを期待していきたいと思います。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(65) 政治を多角的に考える(伊藤大介/静岡聖光学院中・高)
高校生と教育現場で関わっていく中で近年大きな話題になっていることは、選挙権と成人年齢引き下げの問題です。18歳という年齢を基準にした大人としての考え方をどのように生徒が学んでいくのか。筆者が最近取り組んだ例の一つに、時事問題の新聞の読み比べがあります。
用意したのは全国紙2紙と地方紙1紙の合計3紙。いずれも安倍晋三元首相の国葬に関する1面の記事で、生徒たちは関心の高さから丁寧に文章を読み込んでいました。それぞれの見出しや記事内容の違いを発表する場面では、国葬の内容を元首相の功績を踏まえて記述している記事や国葬への賛否を強調している記事、国葬の前の状況から国葬の内容を含めた事実を丁寧に伝えている記事といった各新聞社の特徴を、客観的な視点で捉えている生徒の発言が多かったです。
政治の話題を複数の新聞記事を使うことでさらに多角的に考えさせていくこと。こうした地道な取り組みの繰り返しが、若年層で投票率が伸び悩む原因の一つである大人たちの魅力のない政治を、自ら主体的な意識や行動で変えていくきっかけになるのではないでしょうか。
大人の一人として魅力ある政治を、新聞を活用しながら伝えていければと思います。
2022年10月01日(土)付 朝刊
■クイズ形式で新聞活用 学びを深める教材に 牧之原・萩間小
NIE実践指定校の牧之原市立萩間小の6年生が、新聞を活用したクイズ形式のユニークな授業に取り組んだ。新聞に親しみ、情報を取得する力や表現力を養い、今後の自主学習につなげていくことが狙いだ。
9月下旬、床一面に並べられた子ども新聞を1㌻ずつ丁寧に読み込む児童の姿があった。「安倍元首相がどうして表紙になっているんだろう」「このページに答えが載ってるのかな」-。児童は2人一組のチームを組み、他のチームが出題したクイズのヒントを紙面から探し出した。答えを見つけた児童は、解答用紙に記入した。
新聞を読みクイズの答えを探す児童=9月下旬、牧之原市の萩間小
クイズの答えを解答用紙に記入する児童
授業を担当したのは同校NIE担当の絹村雅昭教諭。文章や図表から必要な情報を導き出す力を養う教材として、新聞の有効性を見いだした。クイズというゲーム性を持たせることで児童自身に情報を必要とする状況を意図的に生み出し、新聞に対して「面白い」「有益だ」という気持ちを芽生えさせようと考えた。
「ウクライナの輸出で盛んなものは何」「喪章の意味は」など、今回の授業で出題されたクイズは全て児童自身が考案。問題を作るという目的意識を持つことで、文章の理解力向上にもつなげたい考えだ。授業に取り組んだ長野咲空さん(12)は「細かな部分にまで目を通して、新聞にはたくさんの情報が詳しく書いてあるのだと知ることができた」と笑顔で話した。
国のGIGA(ギガ)スクール構想に伴い、教育現場は近年急速にデジタル化が進む。絹村教諭は「新聞のような保存性のある媒体に触れてこそデジタル媒体から得る情報の長所、短所が分かる。こうした側面からも児童の学びに生かしていけたら」と語った。
(榛原支局・足立健太郎)
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■紙面授業 地理歴史 受験の始まり「科挙」 富士見中・高 植村一海先生
秋も深くなるこの時期、高校3年生の皆さんは、受験勉強に打ち込んでいることと思います。大学入学共通テストの導入に際しては、記述式問題、英語の民間試験の導入が見送りになるなど、受験生にとって重要な変更があり、新聞紙面でも大きく取り上げられました。ところで、この「受験」の風景は、一体いつからあったのでしょう。
千年以上も前、中国に隋という王朝があったときには既に存在していました。
「昔日 齷齪[あくせく]として 誇るに足らず/今朝 放蕩[ほうとう]として 思い涯[はて]なし/春風 意を得て 馬蹄[てい]疾[はや]く/一日に看[み]尽くす 長安の花」(一海知義「漢詩一日一首春」)
この漢詩は「登科の後」という題で、孟郊という詩人が46歳まで何度も挑戦した試験に合格した際の、晴れ晴れとした気持ちを素直に詠んだものです。
彼が挑んだ試験は、中国の国家公務員登用試験「科挙」です。
隋以降の中国では、より優秀で「君子」の資質をもつ官僚を選出するため、候補者へさまざまな学科試験を実施しました。合格率も異様なまでに低く、受験生全体の0・03%しか合格できない年もありました。しかし、この試験に合格さえすれば、その人物の将来は保証されたのです。
彼らの受験勉強は、3歳頃、初めて文字が書けた瞬間から始まります。現在の小学生程度の年齢になれば、受験専門の塾に通って、「君子」になるための猛勉強をしたのです。その競争に次ぐ競争を突破した瞬間は、人生をかけた努力が実った瞬間そのものです。紹介した詩のように、世界全てが美しく見えるほどのすがすがしさを味わったことでしょう。
多くの若者たちが、大きな夢を描いて青春を費やし、ごく一握りだけがその夢をかなえる。熾烈[しれつ]な受験の始まりは、こんなところにあったのです。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(64)思考力対策に読み比べ(実石克巳/静岡高)
夏休みも終わり、3年生はそろそろ受験モードに突入する時期であろう。共通テストが複数資料を比較・検討し、思考力を問う出題に移行している現在、古典的なNIEの手法である「新聞読み比べ」が再び脚光を浴びる時が来た。小論文対策でも該当するので、先行報告書を精読されたい。
とにかく、新聞を読む習慣付けから始めよう。筆者の現任校では、どうしているか。生徒が記事を切り抜き、コメント執筆・教員の意見記入&調査内容の指示という方法だ。出勤すると、約30冊のノートが机上に山積みされている光景が目に入る。添削後に帰りのショートホームルームで返却すると、誰が指導を受けているのかが自然に分かるのだ。友人同士でお互いに批評し合い、文章と発話によるインプットとアウトプットの相乗効果を狙わなければならない。
生徒同士は意外に情報交換をしないので、あらゆる機会を捉えて、自然に話し合える状況を醸成する必要があるだろう。これがいわゆる「受験は団体戦」と称される体制であり、集団で取り組むところにNIEの教育効果も表れるに違いないのである。
(静岡高・実石克巳)
2022年09月03日(土)付 朝刊
■紙面授業 英語 国際交流で知る世界 加藤学園暁秀中・高 宮地峻英先生
7月1日、各国に対する感染症危険情報レベルが更新され、多くの国が「レベル1(十分注意してください)」、または「レベル2(不要不急の渡航はやめてください)」に引き下げられました。このニュースは「感染症危険度引き下げ」などの見出しで新聞でも報じられました。新型コロナ流行以降、ほとんどの国に対して「海外への渡航中止勧告(レベル3)」が発令されていましたが、各国・地域の実情を総合的に勘案した上でレベルを見直したとのことです。
こうした中、本校でも3年ぶりに海外への短期・中期留学を再開する予定です。説明会には多くの家庭が参加され、生徒の海外留学に対する関心の高さを感じました。昔の私もそんな子どもの一人でした。
私が初めて海外留学を経験したのは小学6年生の夏休みのアメリカホームステイプログラムでした。もちろん当時の私は英語をほとんどしゃべることができず、言いたいことは「This!」と言いながら辞書の該当ページを指さして伝えるほどでした。それでもホストファミリーは親切に接してくれて、ロデオを見せて文化に触れさせてくれたり、キャンプでアメリカの歌を歌ったりしました。ホームステイの最後にはそれまでの思い出をまとめたアルバムをサプライズでプレゼントされ、うれしさのあまり泣いてしまったのを覚えています。
留学をきっかけにその国の文化を知り、歴史を知り、人を知ることで、広い視野で物事を捉える力を養うことができる、と私は信じています。さまざまな国際情報があふれる社会ですが、物事の一面を捉えた情報だけで判断するのではなく、国際交流を通じてその国の人たちと触れ合って、理解しようと努力を続けていきませんか。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(63)「楽しみながら継続」が鍵
宮崎県で開催されたNIE全国大会に参加し、新聞スクラップが基本活動の一つであると改めて感じました。効果としては、①新聞に触れる習慣を身に付けさせる②新聞を通じて興味・関心の幅を広げさせる③(中学生や高校生ならば)進路決定の一助にさせる―ことが挙げられます。
私も、主に地歴公民の授業内で、週1回のペースで、新聞記事スクラップに取り組みました。約束事は、新聞名と日付を記入させ、感想を書かせる(字数は自由)だけです。ふと目にとまった話題を取り上げている者、好きなスポーツを一貫して選ぶ者もいました。記事をきっかけにさらに調べたりする者もいました。学期の終了ごとに、どのようなテーマの記事を選んだか集計させます。そうすることで自分の興味・関心が確認できます。よく書けた感想の記事は、みんなでも話し合い、違う視点からの感想を聞き、考えを深めます。
スクラップ活動に継続的に取り組むのは大変かもしれません。学校現場では、NIEの他にもやらなくてはならない日常の業務が山積だからです。しかし、宮崎大会で、生き生きと活動する生徒たちを見て、実践にあたってのポイントは、「楽しく長続きさせる」ことだと再認識しました。
(常葉大常葉中・高・塚本学)
2022年08月06日(土)付 朝刊
■新規実践6校が抱負
日本新聞協会は2022年度のNIE実践指定校を全国で534校決定した。県内では新規6校、継続8校が決まり、指定の2年間のうちの一定期間、県内で発行される7紙が提供され活用される。新規6校に抱負を寄せてもらった。
<2022年度NIE実践指定校>
【新規】伊豆土肥小中一貫校、富士見中、静岡清水飯田中、藤枝広幡中、浜松春野中、静岡北特別支援学校南の丘分校
【2年目】河津南小、静岡中島小、牧之原萩間小、浜松上島小、静岡大成中、浜松学芸中・高、御殿場南高、藤枝東高
NIE活動の抱負を語る22年度新規実践校の教員ら=6月、静岡市
伊豆土肥小中一貫校 増田弦己教諭 文章を正しく理解、表現
本校の子どもは、文章を正確に理解したり、自分の言葉で正しく表現したり、筋道立てて考えることが苦手です。今回NIEの指定を受け次のことを全校で取り組んでいきます。
まず、新聞の視写です。視写を通じて、集中力を磨き、文章を書くスピードが向上することを期待します。また、書くことで言葉やその意味を覚え、文書構成力が身に付いていきます。次に、新聞記事を基とした条件作文です。新聞記事を読み、分かったことを一段落目に、自分で考えたことを二段落目に書いていきます。新聞記事を正しく読み取ったり、記事の要点を捉えたりする力の向上を目指します。
その他、新聞クイズ(フェイクニュースを見破れ!)や新聞の内容を自分でアレンジした4コマ漫画作りなど、子どもの発達段階に応じて、楽しみながら取り組んでいける活動を行っていきます。
静岡清水飯田中 八木圭一教諭 正確に読み取る力育む
調べ学習の課題が出されると、生徒は「インターネットを使って調べていいですか」と尋ねてきます。現在、一人一台のパソコンが用意されている学校現場では当たり前の様子です。とても忙しい毎日を過ごす生徒には、検索エンジンに調べたいキーワードを入れるだけで膨大な情報を手に入れることができるインターネットは非常に便利なツールです。
しかし、それ故に、その情報が本当に正確なのか、公正なのかを判断するメディア・リテラシーを身に付けることが求められていると感じています。
NIEの活動を通して、「必要な情報(記事)を選択し、正確に読み取り、内容を要約する」を繰り返すことで、その力を身に付けさせたいと考えています。そこから、記事について自分の考えをもち、他者に伝え合う生徒が増えることを期待します。
浜松春野中 武井千幸教諭 伝える相手意識し発信
「GIGAスクール構想」の下、浜松市では現在、生徒一人一人にタブレット端末が貸与されています。生徒は、それを用いて「なぜ?」「どうして?」といった疑問を授業中や休み時間に調べ、解決することができる学習環境にあります。
そんな恵まれた環境の中で、本校では「情報を分析し、それを的確に表現する力の育成」という観点でNIE教育を進めていきます。地域、県内、国内、はたまた世界で起こっている出来事について、「新聞」から情報を収集、分析し、それらを更に深化させるために端末も有効的に活用していきます。
また、得た情報を整理してアウトプットするために、ポスターにまとめたり、新聞にまとめたりする活動を通して、伝える相手を意識した情報発信ができるようにしていきたいと考えています。
富士見中 渡辺貴之教諭 6年間で活用力高める
本校は中学校と高等学校が接続する私立学校です。新規実践校として、中学部に関わる教員が、各教科で工夫しアイデアを出し合い、この機会を生かしていきたいと考えています。
中・高6年間、NIEを継続して取り組むことで、新たな学力の3観点である「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体的に学習に取り組む態度」の育成につながる次の三つの新聞活用力を身に付けさせたいと思います。①長文を読解し要約する力②根拠を持って自分の意見を表現する力③幅広い分野の情報に興味・関心を持ち、主体的に学習を発展させていく力です。
新聞活用力を高めることで、子どもの学力に関する課題解決への糸口になると期待し、楽しみながら実践を進めていきたいと思います。
藤枝広幡中石橋直明教諭 情報リテラシーを向上
予想の難しい、変化の激しい世の中にあって、生徒たちは、ネット、SNS、テレビ、新聞など多様なメディアからさまざまな情報に囲まれて生活しています。
そのような生徒たちが、さまざまな事象への関心を広げ、課題を追求し、解決していく探究的な学びを実現するために、新聞を学習や日常の中で楽しく、上手に活用するNIEを目指します。
NIEの実践により、生徒たちが文章の意味を正確に理解する読解力を高め、自分の考えを持ち、言葉や文章で表現できるようにしていきたいと思っています。そして、生徒の「情報リテラシー」と「情報活用能力」の向上につなげていきます。
生徒の学びがより充実し、一人一人のより良いキャリア形成に生かされることを願っています。
静岡北特別支援学校南の丘分校 鈴木雅義教諭 共生共育の実現が目標
本校は、駿河総合高等学校と併置の特別支援学校高等部の分校です。共生共育の実現と働くために必要な力を身に付けることを目標に掲げています。卒業後は社会人として会社で働き活躍するため、社会のことを知る必要があります。新聞を教材として活用することは、卒業後の生活を豊かにするものであると考えています。
そのため、以下三つの目標を立て取り組むこととしました。①生徒が「新聞を見ること」「開くこと」「読むこと」に慣れることのできる環境を整備する②生徒が生活の中で新聞を読む習慣を身に付け、興味や関心を広げ、膨大な記事から必要な情報を取捨選択し活用することを目指す③社会の出来事へ関心を高め、自分の言葉で話すことができる素養を育てる。
これらの目標を達成できるよう、生徒と教員が一緒に楽しく、優しく新聞と関わることができればと考えています。
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■紙面授業 地歴公民 知識の連続性楽しむ 常葉大菊川中・高 三宅秀幸先生
観測史上最速の梅雨明けとなった今年。その発表は新聞紙面でも大きく取り上げられました。毎年のような猛暑が続く中、私が思いをはせるのは、動物園・水族館のアイドル、ペンギンたちです。
日本でよく目にするのは「フンボルトペンギン」という種類です。日本に千羽以上いると言われる、おなじみのペンギンです。南米チリ沿岸、南緯20度前後のサボテンの荒野に生息し、北緯34度前後の静岡でも生活は可能というわけです。ところがこのフンボルトペンギン、野生は絶滅危惧2類に属する希少なペンギンです。日本は、そのほかにもたくさんの種類を目にすることができる「ペンギン王国」。なぜこれほどまでにペンギンが飼育されているのでしょう。
きっかけの一つは、遠洋漁業です。戦後食料不足に苦しむ中、南洋捕鯨を中心に数多くの漁船が南太平洋へと出かけていきました。好奇心旺盛なペンギンたちは、漁船に飛び乗り、漁師たちはかわいさのあまり連れて帰ってきたそうです。
こうした中で起きた悲劇が第五福竜丸事件(1954年)です。焼津港を出港した船は、米国によるビキニ環礁での水爆実験に巻き込まれ、船員は被ばくし、水揚げされたマグロは原子マグロなどと呼ばれ廃棄されました。この事件に着想を得て、半年後に誕生したのが「ゴジラ」です。多くの日本人はゴジラの姿に、いまだ残る戦争の影を重ね合わせたのではないでしょうか。
さて、今日は「ペンギン」に始まり「ゴジラ」にたどり着きました。一見無関係な二者が結びつくように、知識は断片的なものでなく、連続性のあるものです。皆さんの「好き」が広がり、「世界」が広がっていく、そんなイメージで学んでみては。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(62)新聞記事と現実つなぐ(小川訓靖/静岡清水三保第二小)
5年生理科、「台風と防災」の学習で、新聞記事をきっかけに授業を始めた。「あす台風4号九州に上陸か」という見出しの記事を授業の始めに配付し、まずは各自で読む時間を設けた。
記事を読む際に子どもたちに伝えることはたった二つ。
一つ目は、大体をつかむということ。「大人でも読めない漢字や、意味の分からない言葉はたくさんあるよ。完璧に読もうとしないで、分からないところはとばし、分かるところを読んで、大体をつかもう」。二つ目は、「なるほど!」に線を引いて読もうということ。「驚いたことや、初めて知ったことには、線を引きながら読んでいこう」。そのような言葉がけをします。子どもたちは、赤ペンなどを片手に、線を引きながら読み進めていきます。
「どんなことが分かった?」。クラス全体で、大体の内容を共有した上で、学校から5分の海岸へ...。「波がいつもより高い」「海の色が濁っている」「雲が厚い」「海岸がけずられているのは前の台風の影響?」...。
一つの記事から知った事実が目の前の景色とつながっていく瞬間です。
九州上陸前の東シナ海にある台風の影響が、遠く離れた駿河湾にもう出始めていることを子どもたちは実感し、教室に戻りました。
2022年07月02日(土)付 朝刊
■紙面授業 国語 読み比べのススメ 藤枝順心中・高 増田春一先生
ロシア軍によるウクライナ侵攻のニュースには、世界中で多くの人々が、憤りや悲しみを感じているでしょう。しかし、ロシア側からは「ロシア軍が一般市民を攻撃したというのは、ウクライナのフェイクニュースである」と発信され、ロシア国内では、その情報を事実だと思っている人が多いということです。また、新型コロナ禍の初期には「コロナは空気感染する」と恐れられるなど、本当かどうか分からない情報も流れました。
現代の中高生にはスマートフォンを通して、多くの情報が入ってきます。何が本当で何がうそか分からない、と感じる人もあることでしょう。その際に、オススメするのが、新聞など活字の文章と読み比べることです。入力したままのSNS(交流サイト)上の文章(よく誤字が見つかりますよね?)と、多くの人の目と手を経て活字化された新聞とでは信頼性が違います。
気になるネット上のニュースは、活字の新聞と読み比べましょう。また、語句を検索する際も、複数のサイトを見比べましょう。それによって、あなたなりの「本当」が見えてくるはずです。このような、情報を読み比べる力の必要性は、大学入学共通テストで二つの文章を比較・総合する問題が頻出していることからも分かります。
面倒に思うかもしれませんが、読み比べることは楽しいものです。例えば、歴史上のヒーロー、源義経。彼は「平家物語」「義経記」などの古文から近現代の小説まで、多くの作品に描かれています。それらを読み比べていくうちに、あなたの心の中に、生き生きとした「義経」ができあがるのです。
「本当」の情報を知り、「本物」の人物があなたの中に生まれることは、とても楽しいことではないでしょうか。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(61)最新の学問成果に注目(吉川契子/静岡城北高)
今年、宇宙に関する大きなニュースがいくつか新聞紙面に掲載されました。
5月、天文学の国際研究グループが、銀河系の中心部にあるブラックホールの「輪郭」の撮影に成功したと発表しました。
6月、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の探査機はやぶさ2が2020年に持ち帰った小惑星りゅうぐうの砂からアミノ酸が検出された、と報じられました。
記事を気軽に紹介するため、よく利用しているのが教材提示装置です。教室に新聞を持参し、装置でスクリーンに拡大表示すると、教師が解説する前から、見出しや写真を見て「これ、知っているよ」などと会話する生徒もいます。
見出しと写真とリード文の拾い読みだけで、生徒がニュースの概要を理解することができます。教科書のどこに関連しているかも併せて説明します。学習段階に応じて、さらにかみ砕いた分かりやすい表現で補足説明を行うといいでしょう。記事を回覧して教室に提示し、自宅の新聞でも記事を探してみるよう声を掛けます。
新しい学問上の成果が、生徒が理解しやすい文章と、写真や図・解説で紹介されている新聞記事を利用して、話題のニュースを取り上げることは、学習に興味を持たせる上で極めて有効です。
2022年06月04日(土)付 朝刊
■「読まないのはもったいない」 興味、関心の身近な情報源 新聞感想文最優秀 常葉大橘高 増田さん 常葉大常葉高 石橋さん
「新聞を読まないのはもったいない」。若者の新聞離れが進む中、高校生2人は顔を見合わせうなずいた。2021年度しずおか新聞感想文コンクールで最優秀賞を受賞した常葉大橘高2年の増田彩月さん=受賞時は同校1年(高校生の部)=と常葉大常葉高1年の石橋茉心(まこ)さん=受賞時は常葉大常葉中3年(中学生の部)=。2人の生活には新聞が身近な存在になっている。
本紙を読む増田彩月さん(左)と石橋茉心さん=5月下旬、静岡市葵区の常葉大常葉高
増田さんが新聞に親しむようになったのは小学2年の時。朝、配達された新聞を玄関から取ってくる役目がきっかけだった。石橋さんは小学生のころから朝食時に新聞をめくる習慣があったという。2人は静岡新聞の日曜別刷り「週刊YOMOっと静岡」などに目を通し、「より多くの知識を知ることができる」と徐々に新聞を読むようになった。
学校の課題としてではなく、個人的に新聞感想文コンクールに応募した2人。吹奏楽部に所属する増田さんは、米国の水爆実験で被ばくした焼津市のマグロ漁船「第五福竜丸」を題材にした曲「ラッキードラゴン」を昨夏演奏した。乗組員だった大石又七さんの話を聞いた経験もある増田さんは「この事実から目を背けてはいけない」と作文をまとめた。
石橋さんが作文を書いたきっかけは、当時いじめに関する本を読んでいたことと、たまたま目にした1本の新聞記事だった。過去に行ったいじめが原因で東京五輪の楽曲制作担当だったミュージシャンが辞任した記事を読み、「過去の失敗を反省し、謝罪しても、活躍の場を奪われる社会はおかしい」との違和感を作文につづった。
コンクールを通して記事に対する「自分の考えを発信することができた」と石橋さん。増田さんは今後大学生になり1人暮らしを始めても新聞を取り続けたいという。2人にとって新聞は興味や関心のきっかけをつくる「価値ある情報源」だ。
(社会部・天羽桜子)
「しずおか新聞感想文コンクール」作品募る
静岡新聞社は「しずおか新聞感想文コンクール」の作品を募集している。読解力や思考力、表現力を養い、地域への関心を高めることが狙い。対象は県内の小学4年生以上で、募集は小学生、中学生、高校生の3部門。2022年1月1日から8月31日までの新聞記事を読んだ感想を送る。締め切りは9月5日必着。詳細は静岡新聞社読者部内、同コンクール事務局<電054(284)8984>へ。
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■紙面授業 生物 安全性担う実験動物 浜松日体中・高 山本基枝先生
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、治療薬やワクチンの開発が行われています。国産のワクチンについても、最終段階の治験が進み、開発が大詰めとなっていることが新聞紙面で大きく扱われました。新型コロナの治療薬をはじめ、安全な医薬品を開発するためには、実験動物による臨床試験が不可欠です。
過去に薬害として問題となったサリドマイドは睡眠薬として開発され、妊娠初期に服用した女性から奇形児が生まれて社会問題となりました。この薬を服用させたマウスやラットでは胎児に奇形が見られませんでしたが、ウサギではヒトと同様な奇形が発症しました。これを機に、幅広い動物種を用いて安全評価を行うことの必要性が明らかになりました。現在、サリドマイドは多発性骨髄腫などの治療薬として用いられています。
実験動物として一般的なマウスやラットはネズミの仲間ですが、スンクス(ジャコウネズミ)はモグラの仲間に分類されます。モグラの仲間は進化・系統の視点から、ネズミに比べて、よりヒトに近い存在と考えられています。
2002年、沖縄県でスンクスのアルビノ(白毛赤眼)が捕獲されました。マウスやラットで最も一般的なアルビノは、メラニン合成に関与する酵素遺伝子の変異に起因しています。しかし、スンクスではメラニン色素の運搬に関わるタンパク質を合成する遺伝子に変異が見つかりました。この遺伝子変異によって生じるアルビノは、ヒトでも近年発見されています。
このように、臨床的に同様の症状を示す場合でも、原因遺伝子が同じとは限りません。さまざまな特性をもった実験動物を用いて、病気の実態を把握したり、医薬品の有効性や安全性を評価したりすることで安全安心な医薬品開発を行うことができるのです。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(60)家庭科と新聞でSDGs(中村都/静岡麻機小)
小学生でSDGs(持続可能な開発目標)を学ぶのは難しいと思われがちですが、そんなことはありません。
家庭科は、衣食住における生活の知恵を習得する教科だと捉えられていますが、実際にはSDGsの考え方そのものを学んでいる教科なのです。例えば「食」は、目標12「つくる責任 つかう責任」につながります。
「持続可能な社会を生きる」(6年)の単元で、新聞を使ったSDGsの授業を行いました。話題が給食の残飯から食品ロスに発展したところでいったん教科書から離れ、新聞記事から他の地球の問題を探すことにしました。
全都道府県から取り寄せた地方紙の見出しに注目していくと、地域限定の問題に直面することがありました。海底火山噴火の影響で、膨大な量の軽石が海岸に漂着して漁業ができなくなった沖縄の漁師の嘆きが、目標14「海の豊かさを守ろう」に結びついたのです。
家庭科を窓口にして新聞で間口を広げていけば、子どもたちなりに継続して考えていくことができる身近な問題にたどり着けるはずです。
2022年05月07日(土)付 朝刊
■実践校 成果と課題(下)
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■紙面授業 理科 地質知り 地域を理解 誠恵高 松村道宏先生
私が住んでいる沼津市は伊豆半島の付け根に位置しています。伊豆は言わずと知れた観光地であり、私もその豊かな自然や、起伏に富んだ地形、海岸線などの景色を楽しんだり地のものを口にしたりするのは週末の楽しみだったりします。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(59)ワークシートの効果(伊藤大介/静岡聖光学院中・高)
先日、NIEの公開授業を行いました。今回の授業は筆者自身も改めて学ぶことが多い現場でした。どのような記事を扱うのか、授業デザインを考えていく中で再認識した点は、一般紙の文章は必ずしも中高生にとって読みやすくは書かれていないということです。だからこそ、教師側がいかに生徒目線に立って興味を持たせる記事を選択してくるかという観点の大切さを感じました。
今回活用したのは、静岡新聞に自身も作成し提供しているワークシートでした。作成担当者が校種を考慮して作成しているので、戦争遺跡のワークシートは生徒が積極的に取り組むきっかけになりました。また、戦前や戦後の歴史に関係する複数の記事を使って独自に作成したワークシートも、新聞を読み込むのに効果的でした。
生徒が意見表明をする前に、まず一歩ずつ事実を確認していく過程を重視すること。今回高校3年生が意見を表明する姿は、彼らが中学1年生の時に新聞を読んで意見を表明した授業の時から大きく成長していることを実感させてくれました。
新聞は、人を成長させます。
2022年04月02日(土)付 朝刊
■実践校 成果と課題(上)
教育に新聞を活用する取り組みを展開する県NIE推進協議会(安倍徹会長)はこのほど、2021年度NIE実践報告を静岡市で行い、実践指定校として2、3年間活動してきた6校の教諭らが取り組みや成果を発表した。本年度は新型コロナウイルス感染対策で動画での配信となった。各校の実施概要を2回に分けて紹介する。前半は小山中、静岡大河内小中、浜松城北小(所属校は3月時点)。
(社会部・中川琳)
SDGsへの理解深める 小山中 鳥越諒教諭
教育目標の一つに位置付けられている持続可能な開発目標(SDGs)への理解を深めるために新聞を活用した。記事をスクラップし、感想を記す「NIEタイム」を設けた。当初は興味がある分野が多かったが、環境やエネルギー問題のスクラップが増えた。
総合的な学習では、スクラップノートを使って、他の学年と意見交換した。SDGsの17の目標を達成するためにできることについても話し合った。他の生徒の意見を読むことで、自分では気付かない多様な情報に触れることができた。
実践を通じ、地域社会や国内外の出来事に対して生徒の関心が高まった。SDGsに関連した、さらに深めた学習をしようとする様子が見られ、新聞は効果的だった。
鳥越諒教諭
「新聞の一生」題材に展開 浜松城北小 稲田晴彦教諭
新聞は読むだけでなく、生活の中でさまざまな活用の仕方がある。新聞の魅力を知るため、4年生の総合的な学習の時間に「新聞の一生」をテーマに学習を展開した。
新聞が完成するまでに焦点を当て、記事の書き方や見方、配達方法などを学んだ。記者を講師に招き、ネット情報と新聞の違いを学習したり、見出しを考えたりする学習をした。新聞は学校では図工の材料、家庭では野菜の保存など、日常で有効に活用されていることへの理解も深めた。
児童が「5W1H」を意識して記事を読むようになり、新聞を身近に感じられたのは成果。教材として多様な活用ができたのも良かった。一方で、自ら新聞を手に取って読むまでの「意欲付け」はできなかった。
稲田晴彦教諭
社会の出来事 自分ごとに 静岡大河内小中 山内俊治教諭
学校の研修テーマ「『人・もの・こと』とかかわり深まる授業」のうち、「もの」との関わりの一つを「新聞」と位置付けて実践した。
中学部は興味のある記事を読んで感想を書く取り組みを継続した。知事選や衆院選の記事の見出しに注目し、見出しから受ける印象や投票行動に影響を与えるかを意見交換した。小学部は新聞への抵抗をなくすのが大事。興味のある話題だけでなく、関連する別の記事も読むようにした。社会科見学の内容をまとめた新聞の作成では、内容だけでなく見出しや写真の位置など、紙面の構成も工夫した。
児童や生徒は活字に親しみ、社会の出来事を自分ごとに置き換えて考えられるようになった。ただ、教材として使える記事をどう探すのか教員側の課題が残った。
山内俊治教諭
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■紙面授業 福祉 認知症を知り考える 知徳高 佐野智哉先生
新型コロナウイルスの関連のニュースが連日報道されています。ワクチンや治療薬の開発について、関心が高いのではないでしょうか。そんな中、昨年12月、「アデュカヌマブ」と呼ばれる、「認知症」の進行抑制薬の国内承認の可否が新聞等で取り上げられていたことを知っていますか。
既に日本では四つの薬が認可されており、今回は五つ目の新薬誕生かと、注目されていました。しかし、残念ながら承認は見送られました。100年以上も前から世界中で研究されている認知症ですが、今なお根本的な治療薬はなく開発が待たれています。
認知症とは、身に付けた認知機能に障害が出た状態を言います。私たちは、日時、状況、記憶などを正しく認識した上で、その後の言動を判断しています。相手や場面によって言葉遣いを変えられるのも認知機能のおかげなのです。ですが、認知症の方は、そこに障害が生じるため、日常生活に支障が出てしまいます。
2025年には高齢者の5人に1人の約700万人が認知症を発症すると言われ、その後も増加する傾向です。今後身近な人が、そして自分が認知症を発症する可能性は十分にあるのです。
来る社会を目前に、ただ薬を待つだけではなく、私たちにできることは何でしょうか。一つ提案するとしたら、「知ること」がお勧めです。認知症を自分のこととしてとらえ、自分ならどのように過ごしたいか、どのように対応してほしいかを考えることが大切なのです。理解が深まると、認知症の方の言動の表面的な部分だけでなく、その背景に目が行くようになり、受け入れられるようになれます。
認知症でも安心して自分らしく生活できる社会-地域共生社会-を作っていくのは私たち自身なのです。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(58)図書委員とICT活用(実石克巳/静岡高)
いよいよ新年度が始まる。担任になった先生は、学級経営の端緒として、クラス役員を決めなければならない。その際、今年度は図書委員という人的資源とICT(情報通信技術)という情報資源を組み合わせて、NIEに応用するという目標を立ててみたらいかがであろうか。
GIGAスクール構想を、教科面だけではなく生徒のキャリア形成と自己実現の場として捉えるのなら、図書委員に多様な視点が獲得できそうな記事を選ばせ、教員はそれを全員に配信・他の人の見解の回覧・初発意見の深化という過程を踏ませよう。ただし、初発の意見提出はアナログの紙と鉛筆にすべき。なぜならば、大学入試の小論文は今のところ手書きだからだ。思考して手を動かすという訓練は、いつの世でも避けて通ることはできない。書いた原稿は写真に撮って配信すればよい。
このシステムの構築は、初期指導が肝心であり、図書委員も生徒も習慣化するまでは教員の指導が必要である。各学校で導入しているアプリの特徴をよく踏まえ、教員の負担にならぬよう新しいカタチのNIEを実践しよう。
2022年03月05日(土)付 朝刊
■記事に反響 活動手応え 清水東高新聞部「清高新聞」 企画から編集 伝え方に知恵
清水東高新聞部(静岡市清水区)が2021年度県高校新聞コンクールで最優秀賞を受賞した。紙面の総合的な完成度の高さや速報性が評価された。背景には2年生と1年生の部員計5人がネタ集めから取材、原稿執筆、整理作業までを担当し、伝え方にも工夫を凝らす新聞部の取り組みがある。
一般紙や学校新聞を並べて紙面構成をチェックする清水東高新聞部の部員=静岡市清水区の同高
紙面を彩る記事の内容は幅広い。受賞した2021年9月発行の第293号(全16ページ)の中には、1年生の参考になればと文理選択を経験した上級生へのアンケートから、自然科学部化学班の全国大会での活躍を伝える速報性の高いニュース、コラム、4こま漫画まで、「新聞」に求められる硬派と軟派、両方のコンテンツを網羅した。
完成度の高さを評価された清高新聞
新聞部の活動は週4回。紙面制作の第一歩となる「ネタ会議」では1人当たり五つほど原稿のアイデアを持ち寄って構成を話し合い、案がまとまると2人一組になって取材に取り掛かる。コロナ禍で校外取材が難しくなる中でも、取材先選びを工夫し自分たちでアポイントを取って原稿を日々集めている。
紙面組みにも工夫を凝らす。手でちぎったように各部活動の写真を並べるスクラップ風の紙面レイアウトを試したり、記事を目立たせる円形の「箱組」を作ったりと、生徒自らが整理記者の役割も実践する同部の特色を生かして組み上げる。
近年、コンクールで活躍を続ける同部だが、5年ほど前までは「廃部寸前。幽霊部員が宿題をやる広場だった」と顧問の井口知佐子教諭(60)は振り返る。部員数減少も深刻だった。試験前も取材や紙面組みに奔走する必要があるなど、入部先を迷う新入生に受けが良い部活動ではない。
活動を支えるのはやはり読者の反応だ。蓬田正義部長(17)は「クラスで新聞を手に取る級友を見て、自分の書いた記事について話し合う声を聞く。影響力がある活動だと感じることができる」と高校新聞の魅力を語った。
(蒲原支局・マコーリー碧水)
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■紙面授業 国語 古典は現代を知る教材 清水国際高 深沢満美先生
「古典はオワコン 終わったコンテンツ」。1年ほど前、そんな衝撃的な言葉がネットを騒がせました。しばらくの間、ネット上に賛否さまざまな意見があふれ、私は複雑な気持ちでこれを眺めていました。
私と古典との〝出会い〟は、小学生時代。私の読み物は七つ上の姉の影響を受けていて、特に平安貴族をモデルにした少女小説「なんて素敵にジャパネスク」(氷室冴子作)には、胸を躍らせました。そこから、古文、漢文、歴史、宗教、思想へと関心の幅を広げ、今に至ります。
オワコン論争の軸は、実生活に役立たないという「不要論」でした。しかし、古語が日本語の源流であること、日本人に大きな影響を与えたのが古代中国や漢文であること、言葉は文化から生まれ思考の軸になることを思えば、必要かどうかに論点をおくこと自体、危険なことだと思います。
何より、これまで何千何万もの文学作品が紡がれてきた中で、数百年、数千年読み継がれ後世に伝わる作品を「古典」と呼ぶわけですから、古典は「生きているコンテンツ」に他なりません。
4月から、高校でも新学習指導要領の下、新しい教育が始まります。必修科目「言語文化」は、古文、漢文、現代文の全てを扱い、古代から連綿と続いてきた文学を一続きのものとして学びます。新たな高校教科書の検定結果が公表された際にも、「言語文化」の特徴が新聞紙面で大きく紹介されました。
国語は、単に日本語を勉強する時間ではありません。さまざまな時代や作家の文学を広く学ぶことで、日本文化や考え方を知り、言語力や思考力、人間性の涵養[かんよう]を目指すのだと思います。高校生が「思考のヒントとしての国語」に関心を寄せ、主体的に学ぶ姿勢を持てるよう、私自身が研さんを積むべきだと強く感じています。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(57)考えて書く力をつける(塚本学/常葉大常葉中・高)
しっかり考えて書く生徒を育てたいと思っています。その一環として本校では、「しずおか新聞感想文コンクール」に毎年応募しています。対象は中学3年生から高校2年生、夏休みの課題として取り組ませています。
その際に使っているA3判ワークシートは、3項目からなります。
1、記事で中心となるテーマを記し、記事の要旨のまとめをさせる。2、生徒が気になった点を書かせる。生徒には、「ここが勝負!」と励まします。気になるところは考える糸口、それを押し広げることで、自分の考えを作るからです。3、上記を踏まえて、気になった点について理由や考えを箇条書きでもいいから書かせます。
1から3を順番にやることで感想文の〝骨格〟が出来上がります。新聞記事を読むことにより、社会の現実と向き合い、それについての考えを書く作業は小論文に近いと思います。審査員長の赤石達彦県立中央図書館長は、「新聞を読んで、自分が社会とどう関わっていくのか、どう生きていくのかを考える際の道標にしてほしいと思います」と講評で述べていました。皆さんもぜひ書いてみてください。
(常葉大常葉中・高・塚本学)
2022年02月05日(土)付 朝刊
■静岡中央高 本紙読者欄を活用 「新聞投稿」授業 自分の視点発信 客観性意識 自己肯定感高く
静岡市葵区の静岡中央高の3年生15人が、「小論文」の授業で気になる記事を選んで意見をつづり、静岡新聞の読者欄に投稿する活動に取り組んでいる。本年度は延べ20本が掲載された。生徒たちはニュースを的確にとらえる大切さや、客観的な検証をしながら自分の視点を発信する意義を実感している。
記事を読み、投稿する文章を考える生徒たち=1月中旬、静岡市葵区の静岡中央高
1月中旬には「ジェンダーレス制服、全国で拡大」などの記事をテーマとした。生徒は制服の多様化を「選択の自由」と結び付けて賛成し、さらに「制服を着ない日があってもいい」と付け加えた。記事は教科担当の青木伸也教諭(63)が参考に用意したが、記事を独自に選び持参する生徒もいる。年末年始の交通事故のニュースを通じて自らを戒めたり、地域活性化への期待感を表したりと、多彩な原稿がそろった。
3年の村松玲旺さん(19)は「掲載されれば多くの人の目に触れるので、客観的にどう受け止められるか意識して言葉を選ぶようになった」と振り返る。昨年は3回掲載され、親戚から連絡が来て「うれしかった」という。
村松玲旺さんのノート。まず意見をノートに整理してから文章を書き上げる
青木教諭は2019年度から、投稿用に原稿を書く授業を実施している。本年度の生徒たちは「親ガチャ」「成人年齢引き下げ」、県知事選に合わせた「知事への期待感」など、一人一人が関心事を選び、原稿を書いた。ほとんどの生徒が採用されている。
「生徒たちは確かな視点を持っている」という青木教諭。「選ぶ言葉に、経験に裏打ちされた優しさや説得力がある。新聞に掲載され第三者に認められることで、自己肯定感を高めたい」と期待する。
生徒は読まれる前提で文章を書くことで事実確認や調べ学習にも力が入るといい、「ネタ探しとして、社会の事象に自然に目が向くようにもなった」と手応えを語る。
(社会部・大須賀伸江)
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■紙面授業 情報 現代に必要な新課程 桐陽高 米村友裕先生
2022年度より、高校の各科目で新課程が施行されます。その中で、大きな変化を迎える科目の一つが「情報科」です。これまで2種類の科目の中で高校の課程に合わせた選択がなされていましたが、来年度からは全国統一で「情報1」という科目に変わります。
内容としては、デジタルとアナログの違いに始まり、コンピューターの仕組みやネットワークの仕組みなど高度情報化が進んだ現代において必要となってくる知識を幅広く学んでいくことになります。
中でも、とりわけ目新しい要素として「プログラミング」が正式に学習内容に追加されたことが挙げられます。ここでいうプログラミングは、言語の仕組みを理解し、日常の中でプログラミングを用いて解決可能な課題を提案し、実際にシミュレーションすることで問題解決の方法を理解するといった流れになっていきます。難しく考えずに、まずは、なんとなく自分たちはこんなことやるんだなぁと思っていてもらえるといいでしょう。
情報科についてもう1点挙げるとすれば「大学入試共通テスト」です。というのも、同じく22年度に高校に入学する生徒が3年生になる年から、共通テストの受験科目の一つとして「情報」が追加される方針となったのです。このニュースは新聞紙面でも報じられました。
ここで重要になってくるのは、1年生の時にどれだけ授業の内容を「知識」として定着できるか、ということです。もちろん高校、ひいては指導する先生によって授業展開の仕方は大きく変わってくるでしょう。
この記事を読んで、これから高校にあがってくる皆さんが、入学してくる前から少しでも情報という科目に興味をもち、積極的に学ぶ姿勢を示してもらえたなら幸いです。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(56)学びがつながる楽しさ
今の学びが、過去の学びとつながることは、楽しいものです。学ぶ楽しみをもたらすすてきなツールとして、新聞記事を活用しています。
新聞を眺めるのが私の朝の大切なルーティン。「この記事を授業の始めやまとめに」「この記事や写真から思考が深まっていきそうだ」。考えが頭の中を巡りながら一日が始まります。
ある日、「レタス工場起工」という記事が目に留まり、6年生の子たちと読みました。「なぜ野菜を工場で?」。見出しから疑問が生まれます。その瞬間、5年時の学びとつながる子がいます。「水と空気と適切な温度があれば発芽できるから畑でなくてもいいのでは?」
さらに、次なる疑問。「日光や養分がなければ、成長しないよね。室内でどうやって日光を?」。数カ月前に学んだ内容です。その疑問にも、記事の写真から人工的な明かりに気付く子がいます。
一つの記事をきっかけに、植物の発芽と成長という2年間の理科の学びがつながり整理されていきます。
新聞のすごさは、幅広いジャンルと信憑性(しんぴょうせい)です。つながる楽しさを体感してみませんか。
(静岡清水三保第二小・小川訓靖)
2021年12月04日(土)付 朝刊
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■紙面授業 社会 教科越えた学び 力に 浜松修学舎中・高 上田千尋先生
先日、先輩の先生の生物基礎の授業を見学しました。「無人島に何を持っていく?」という話から、生徒たちは植生について楽しそうに勉強していました。実は地理の授業でも世界の植生について学ぶので、私にとっては他の教科とのつながりについて改めて考えさせられた授業でした。
このように、高校で学ぶさまざまな科目にはたくさんの共通点があります。私は世界史と日本史と地理を教えていますが、生徒たちが他の科目の授業で学んだことを意識しながら授業をするようにしています。
例えば、世界史の授業で前漢の劉邦の話をするときは、生徒たちに漢文の教科書を用意してもらいます。漢文の教科書には司馬遷の『史記』の「鴻門之会」や「四面楚歌」の部分が載っているからです。戦の天才であった項羽が、周囲の人に慕われた劉邦に敗れていく姿を読んで「なぜ項羽ではなく劉邦が勝ったのか」と考えてもらいます。
そうすると、劉邦が中国を統一した後に、中央の土地は集権的な郡県制、地方の土地は功臣たちに与える封建制を組み合わせた「郡国制」で統治した理由が自然と浮かび上がってきませんか。
他にも、英語の教科書で環境問題を学んでいたり、数学の先生が公式を発見した人の逸話を話してくれていたり、改めて高校生が学ぶ内容の幅広さと奥深さに驚かされる日々です。
一つの専門分野を極めることも大切ですが、さまざまな知識や考え方を幅広く身に付けることも、社会で生きていく上で大切だと思います。例えば、最近新聞で報道されている原油高騰のニュースを理解するには、経済の知識だけでなく産油国の歴史なども必要です。高校生の皆さんは今がまさに幅広い知識を身に付ける時です。大人の皆さんも苦手だった教科書をもう一度開いてみませんか。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(55)温暖化知る最適な資料集
今年は、地球温暖化に関する記事が多く登場した1年でした。
8月、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第1作業部会の報告書が公表され、人間の活動が温暖化を引き起こしていることは「疑いの余地がない」と初めて明記しました。
10月、地球温暖化の予測研究を世界に先駆けて行った、米プリンストン大上席研究員真鍋淑郎さんらが、今年のノーベル物理学賞に決まりました。
11月、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)が、産業革命前からの気温上昇を1・5度未満に抑える努力を追求する、とした「グラスゴー気候合意」を採択して閉幕しました。
いずれも、生徒が知っておくべき大切なニュースであり、新聞記事をスクラップすると、地球温暖化に関する最新情報の最適な資料集ができます。地球温暖化や温室効果の仕組みなどを分かりやすくまとめた記事も各紙が掲載しているので、児童生徒の発達段階などに応じて利用することができます。記事を読んで地球温暖化防止のために今できること、将来どんな行動をすべきか発表させたりするとよいでしょう。
(静岡城北高・吉川契子)
2021年11月06日(土)付 朝刊
■「オリパラ教育」に記事を活用 学習の総まとめ 話題切り抜き展示 浜松・城北小
NIE実践指定校の浜松市立城北小(同市中区)の校舎の一角にこの秋、新聞記事を活用して東京五輪・パラリンピックを振り返る目的で児童が制作したパネルが設置された。同校は大会前から、多彩な「オリパラ教育」に取り組んできた。パネル制作や展示を通じて、これまでの学習の意義を児童に再認識してもらうのが狙いだ。
制作を担当したのは「両大会の面白さを学校中にもっと知ってもらいたい」と集まった6年生の有志約20人。休み時間を使って大会の様子を伝える記事を読み、それぞれが興味関心のある話題を切り抜いた。パネルごとのテーマを分かりやすく伝える工夫として「県勢大活躍」「多様な個性」といった見出しも添えた。
山岸珠代さんは「大変な作業だったけど、記事を読むたび、いろいろな振り返りができた」と語った。竹内碧さんは「新聞の伝える内容の多さに驚いた」と笑顔を見せた。
同校は東京五輪・パラリンピックを機にスポーツの価値や効果を再認識し、国際的な視野を養う「オリパラ教育」を2019年度から実施している。障害者福祉についての授業をはじめ、ボッチャやブラインドサッカーといったパラスポーツを実際に体験するなど、多角的な視点から学びを深めてきた。
NIE担当の稲田晴彦教諭は「新聞はまとめ学習には最適の教材。文章力向上や情報の取捨選択についても学ぶことができた」と意義を強調する。
パネルを掲示したすぐ横には新聞各紙が置かれ、新聞をより身近に感じてもらう取り組みも実践中という。山田真代子校長は「社会の出来事に多く触れ、今後の成長につながるように視野を広げてほしい」と話した。
(浜松総局・足立健太郎)
東京五輪・パラリンピックを振り返るパネルに見入る児童=10月下旬、浜松市中区の城北小
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■紙面授業 国語 今も昔も災厄恐れて 静岡学園中・高 猪又恵理先生
季節は秋。全国に猛威を振るった新型コロナウイルスの感染者数も減少し、少しずつ人出も戻りつつあります。コロナ禍では、妖怪のアマビエが災厄を予言した存在として取り上げられ、新型コロナ感染拡大防止のシンボルとして新聞紙面でも度々紹介されました。
アマビエは人に益をもたらす妖怪でしたが、そもそも今から千年ほど前の日本では、病気は悪霊のたたりによって引き起こされると考えられていました。そのため、陰陽師[おんみょうじ]らによって病気を引き起こした悪霊、生き霊を払う加持祈祷[きとう]が行われ、病気を鎮めようとしたのです。
死後、たたりとして疫病を起こしたとされる一人に、菅原道真がいます。中学校の社会科においては、遣唐使の廃止を提案した人物として覚えられているのではないでしょうか。彼は、平安時代に右大臣の地位にまで昇りつめましたが、左大臣藤原時平によって謀反を起こそうとしていると告げ口をされ、無実の罪で福岡県の太宰府に左遷され、そこで一生を終えました。
その後、藤原時平の病死や疫病の流行、天皇の住居であり政治の中心でもあった清涼殿の落雷事件などが起こります。こうした一連の出来事について、人々は怨霊となった菅原道真のたたりであろうと恐れ、京都の北野と福岡の太宰府に天満宮を作って天神様として祭り、魂を鎮めようとしたのでした。菅原道真は、3代続く文章博士でもあったため、現在では学問の神様として、受験生にお参りされる存在でもあります。
菅原道真が愛した花は梅の花と菊の花。重陽の節句である9月9日を過ぎた後の菊の花を、めでる漢詩を残しています。木々の紅葉が進み、菊の花の香る秋の夜長に、読書に勉強にいそしむのもよいのではないでしょうか。
※県内の中学・高校の先生が、時事のニュースや話題を切り口にした授業を紙面で展開します。
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■NIEアドバイザーのワンポイント講座(54)広告の情報 考える素材に
広告は、企業などの広告主から消費者への一方的な情報伝達であると捉えてはいませんか。
新聞広告に目を向けてみると、お互いがコミュニケーションをとることで成り立っているものがあることに気付きます。これを広告コミュニケーションと言います。広告主は、発信した情報を消費者がどのように受け止めてくれるのか、反応を期待していますが、コロナ禍ではその意味合いがより強くなったように感じます。
商品の良さや特徴を全面に押し出すものが商品広告ですが、コロナ禍を健やかに生き抜く知恵やSDGs(持続可能な開発目標)に関連付けて商品を紹介するという形にシフトしているものも多く見掛けるようになりました。
さらに、商品広告ではなく意見広告として、紙面1面を使って読者に直接意見を問うものもあります。
ポスターのような色合い、レイアウト、キャッチコピーで構成されている新聞広告。記事のような詳しい説明がないからこそ、見えない情報を自分なりに受け止め考える場を提供してくれる新聞広告を、授業などで活用しない手はありません。
(静岡井宮小・中村都)