今、なぜ新聞なのか

注目される新聞の活用

 「学習に効果がある」と注目されている新聞を学校や家庭などで学習に活用する活動をNIE(エヌ・アイ・イー)といいます。「Newspaper in Education」の略です。アメリカで始まり、世界60カ国以上で取り入れられている活動です。日本では、1985年に静岡で開かれた新聞大会で提唱されて広まり、現在は全国の多くの学校で実践されています。

 NIEの学習効果はさまざまなところに表れています。例えば、全国学力学習状況調査では、「新聞などのニュースに関心のある子どもは正答率が高い」という結果が出ていますし、その問題自体に新聞記事が使われています。OECD(経済協力開発機構)が行っているPISAという世界的な学習到達度調査においても、「NIEのさかんなフィンランドや韓国などの子どもたちの読解力が優れている」という結果が出ています。

 また、NIEを実践している多くの学校や家庭では、子どもたちに今求められている活用型の学力(情報を活用し、自分の問題として考え、その考えを発信する力)は着実に伸びていると実感しています。子どもたちの社会への関心がたいへん高まったという報告も数多く見られます。

 今、学力で重視されているのは、「知識よりも考える力」です。新聞を活用して、学習指導要領の柱となっている「言語活動の充実」を図りながら、「考える力」を伸ばすことが可能です。実際に、小学校でスタートした新学習指導要領には新聞が数多く登場しています。家庭と連携して、主体的に学習に取り組む意欲と学習習慣の確立を図っていくためにも、新聞は優れた教材になると期待され、新しい教科書にも新聞を活用した学習が数多く載せられているのです。

新聞の特徴と学習効果

 それでは、なぜNIEが学習に効果があるのでしょうか。 そのわけは新聞の特徴にあります。新聞には、「一覧性、俯瞰性、網羅性、即時性、詳報性、解説性、地域性、国際性、分析性、携帯性、保持性、記録性、保存性、再読性、啓発性、相互性、加工性、吟味性、信頼性、同時閲覧性…」など、実に多くの特徴があります。これらの特徴から、次のような効果が考えられるのです。

新たな学びのきっかけづくり

 新聞はあらゆる分野にわたる最新・最先端の吟味された情報がわかりやすい形で載っている情報の宝箱ですから、あらゆる教育活動の場で活用が可能です。リアリティある情報は、子どもの学ぶ意欲をかき立てます。しかも、記事は「見出し→リード文→本文・資料」の「逆三角形」の構造で書かれていますので、見出しを見ただけで、記事のおよその内容やニュースの大小・重要度などを知ることができます。

 新聞では、これらの多種多様な情報を一覧し、俯瞰することができます。ですから、新聞を見れば、今まで自分の関心がなかった分野の記事も目に飛び込んできて、新たな学びのチャンスを与えられることになります。自分の視野や可能性を広げることにもつながるのです。

社会を学ぶ窓口

 新聞は自分と社会との接点を感じる窓口です。新聞から、「授業で学習していることは、自分の身近な社会で、実際におきているんだ」「自分にもかかわるんだ」「自分と世界はつながっているんだ」ということに気づき、「自分と社会とのかかわり」を感じていくのです。

 また、社会に生きる人々のさまざまな生き様に出会うこともできます。しかも、とてもタイムリーなのです。コラムなども、社会には多様な見方・考え方があることを知り、今までとは違った視点から物事を見たり考えたりして自分の考えを深めるヒントになります。

活用型読解力の向上

 新聞には、さまざまな種類の文章が載っています。その中には、学習や日常生活に直接役立つ文章が多くあります。記事には、「5W1H」が的確に表現されていますので、最低限必要な情報を整理したり、人に伝えたりするためのよい教材となります。また、記事の「逆三角形」の構造からは、自分の考え(結論とその根拠)をわかりやすく人に伝える学習が可能です。さらに、コラムや4コマ漫画は、「起承転結」の構造をしており、人を引きつける魅力的な文章を書く参考になります。新聞を活用することで、言葉に敏感になり、文章を吟味しながら、日常の中で生きて働く言語力を身につけるのです。

 もちろん、新聞には、文章だけでなく、写真や図・表などの資料、工夫された見出しなどが豊富に含まれています。そのため、文章の読解力が十分でない小学校低学年からも活用が可能で、発達段階に応じて、子どもたちが関心を高めながら、楽しく学ぶことができます。

 このように、新聞の特徴を生かすことでさまざまな学習効果が期待できます。情報があふれ、安易に情報に流されやすい現代の子どもたちにとって、情報にじっくりと向き合い、主体的に読み解く力をつけるためには、新聞の活用が効果的なのです。

NIEの活動と留意点

 現在、実に多くの工夫されたNIEの実践が行われています。その活動は、「新聞に親しむ」「新聞(自体)を学ぶ」「新聞から(に)学ぶ」「新聞づくり(表現・発信)」の4つが中心です。これらの基盤となるのが「新聞スクラップ」です。考えながら、比べながら、新聞を切り抜き、貼る活動はそれだけで楽しく、新聞記事を自分だけのものにしていく実感があります。このスクラップを活用してさまざまな活動に結びつけていくのです。

 NIEは「楽しく、長続きさせる」ことが何より大切です。まず新聞ありきでなく、子どもの目線に立ち、子どもの関心や必要感、学習での必然性を重視し楽しく新聞を活用します。そのためにも、日頃から、「利用できそうな記事はないかな」とアンテナを張っておくといいでしょう。

 また、家庭での理解や協力を得ることも重要な視点です。ファミリーフォーカスと言いますが、新聞記事について家族で話し合うなど、家族でできる活動を工夫すると、コミュニケーションの場ができ、子どもの自己肯定感が得られ、継続しやすくなります。もちろん、新聞を購読していない家庭への配慮を忘れてはいけません。

 また、新聞の情報はよく吟味されていますが、記者が意図を持って記事を書き、新聞社が目的を持って編集していますので、その伝え方は違ってきます。ですから、1つの記事の情報を鵜呑みにするのでなく、「比較読み」することが大切です。「比較読み」によって情報を取捨選択・整理し、批判的・批評的に読み取ることが可能になるのです。情報リテラシーを身に付けるためには、さらに新聞とテレビ、インターネットなど他のメディアとの比較も必要です。